そんなことを繰り返すうち、うっすらと明るくなって来たので、
どうせ眠れない事だし行動する事にした。
まず親が避難している所へ被害状況を伝えに行く事にする。
さくらを抱いて一階へ降り、モモちゃんと留守番を言いつけて玄関に行くと、
泥の上に落ちた、パックに入ったおにぎりを見つけた。
恐らく魚屋さんが届けてくれたのだろう。
靴入れの上に置いたがパックの中まで泥が入っていて、おにぎりも汚れていた。
線路の上の道路を山の方へ向かうと、結構自動車が止まっており、
中で一晩過ごしている人が目についた。
(この時私は黄色いヘルメットをしていた。
ひと月前に工事を手伝った時借りていたもので、車の中に放置しっぱなしだったが、
いつ車から出したのか覚えていない。)
親達が避難している家の玄関を何も言わずに開けて入り、
皆がいると思われる居間の戸をそっと開けた。
寒い所から温かい所へ入った為一気に眼鏡が曇り、何も見えなくなったので、
「すいません○○ですが、うちの親いますかね?」と小さく声をかけた。
すると隣の台所からその家のお嫁さんが出て来て、「○○屋(屋号)の家に避難してますよ」
と教えてくれた。
○○屋というのはうちの親戚で、魚の加工業をしている。
本宅は津波の浸水地域にあるが、別宅はこの家よりもっと高い所にあった。
昔からこの辺の余裕がある家では、津波被害に備えて山あいに別宅を持っていたりする。
ちなみにうちの親父は戦時中の空襲のときも、この家の別宅に避難して難を逃れたそうだ。
親戚の別宅に着き玄関を開けようとすると、鍵がかかっていた。
ドンドンドンとドアを叩くと息子さんが開けてくれた。
中に入ると部屋一杯に布団を敷き、5人で雑魚寝しているようだった。
暖房は火鉢と反射式ストーブだったか。暑いくらいだ。
親に家の様子と被害状況を話し、昨夜見た街の被害状況も話した。
が、あまり伝わらなかったみたいで、親父は「透析にはタクシーで行くしかない」
みたいなことを言っていた。
津波で浸水した状況を目の当たりにしたのに、と非常にあきれたが、
水が去った後のドロドロの状況が、見ないとわからないらしい。
鉄橋が落ちた事、道路のあちこちに瓦礫や自動車があって車が通れない事、
静○先生の家は瓦礫で近づく事も出来ないことなど、もう一度説明した。
親戚が「うちはどうなってだぁべ?」と聞くので、今度来るときまでに見て来る旨と、
長靴でなければ歩けない状況なので、絶対来るなと言って引き上げて来た。
(被害状況を説明しても、見ないと理解出来ないみたいで、非常に疲れるだけだった。)
家へ帰る途中、もうすっかり明るくなっており、朝早いので人はいなかったが、
津波被害にあっていない地区は全くの別世界で、本当に平和だった。
線路の上から改めて道路を見ると、自動車が折り重なって山になっている。
そして瓦礫と泥…雪がうっすらと覆っていて、太陽の光に反射して光っていた。
変な世界だった。
何から手をつければいいのか、というか、手を付けるのも嫌になるぐらいどこもドロドロだったので、
家に帰ってしばらくこたつで横になっていた。
そのうち誰か来たので玄関にでると、見た事もない女性二人がいた。
玄関先に脱ぎ捨ててあった衣類の持ち主だった。
話を聞くと、逃げる途中津波に襲われてしまい、あたりを見回すと水面からでている登れそうなものは、うちの塀しかなかったらしい。
で、二人で塀によじ登ってやり過ごそうとしたが、だんだんと水位あがってくるし、
ズブ濡れになってしまって寒い。
塀づたいに玄関先まで来て、試しに戸を開けたら開いたので、
しばらくうちで水が引くのを待ったということだった。
女性二人は親子らしかったが、娘さんの方はホットパンツというか、
見ているこっちが寒くなるような格好だった。
「何か着るもの貸してやんが」と言っても今から行く所に着るものはある、と遠慮したので、
濡れた服を入れるビニール袋を渡した。
私が一度目に家に来た時に出くわさなかったのが、ちょっと不思議だった。
もっと被害の大きい違う地区の話だが、私の友人の奥さんも逃げ遅れてしまい、
知らないアパートの階段へ駆け上った。
やはりズブ濡れになり、寒いし赤ちゃんもいる。
躊躇したがアパートのドアを開けると開いたので、誰もいなかったが
勝手に中に入って押入から毛布を取り出し、一晩そこにお世話になったという話があった。
今回の津波では、誰もいない他人の家に避難して命拾いや寒さを凌いだ話が結構あったが、
鍵を閉めなければ人に入られる、という言い方をする人や、何かあっては責任が取れない、
と避難者を拒む人もいた。
事実、悪質で計画的な窃盗もあったので何とも言えないが、個人的な意見として、
鍵は開けておいても良いと思う。
結局津波には勝てない。
避難した時点で、家をはじめ全ての財産を津波に待って行かれる覚悟を決め、未練は残さない。
そしてその後の事の流れは運任せでしかない。
どうせ眠れない事だし行動する事にした。
まず親が避難している所へ被害状況を伝えに行く事にする。
さくらを抱いて一階へ降り、モモちゃんと留守番を言いつけて玄関に行くと、
泥の上に落ちた、パックに入ったおにぎりを見つけた。
恐らく魚屋さんが届けてくれたのだろう。
靴入れの上に置いたがパックの中まで泥が入っていて、おにぎりも汚れていた。
線路の上の道路を山の方へ向かうと、結構自動車が止まっており、
中で一晩過ごしている人が目についた。
(この時私は黄色いヘルメットをしていた。
ひと月前に工事を手伝った時借りていたもので、車の中に放置しっぱなしだったが、
いつ車から出したのか覚えていない。)
親達が避難している家の玄関を何も言わずに開けて入り、
皆がいると思われる居間の戸をそっと開けた。
寒い所から温かい所へ入った為一気に眼鏡が曇り、何も見えなくなったので、
「すいません○○ですが、うちの親いますかね?」と小さく声をかけた。
すると隣の台所からその家のお嫁さんが出て来て、「○○屋(屋号)の家に避難してますよ」
と教えてくれた。
○○屋というのはうちの親戚で、魚の加工業をしている。
本宅は津波の浸水地域にあるが、別宅はこの家よりもっと高い所にあった。
昔からこの辺の余裕がある家では、津波被害に備えて山あいに別宅を持っていたりする。
ちなみにうちの親父は戦時中の空襲のときも、この家の別宅に避難して難を逃れたそうだ。
親戚の別宅に着き玄関を開けようとすると、鍵がかかっていた。
ドンドンドンとドアを叩くと息子さんが開けてくれた。
中に入ると部屋一杯に布団を敷き、5人で雑魚寝しているようだった。
暖房は火鉢と反射式ストーブだったか。暑いくらいだ。
親に家の様子と被害状況を話し、昨夜見た街の被害状況も話した。
が、あまり伝わらなかったみたいで、親父は「透析にはタクシーで行くしかない」
みたいなことを言っていた。
津波で浸水した状況を目の当たりにしたのに、と非常にあきれたが、
水が去った後のドロドロの状況が、見ないとわからないらしい。
鉄橋が落ちた事、道路のあちこちに瓦礫や自動車があって車が通れない事、
静○先生の家は瓦礫で近づく事も出来ないことなど、もう一度説明した。
親戚が「うちはどうなってだぁべ?」と聞くので、今度来るときまでに見て来る旨と、
長靴でなければ歩けない状況なので、絶対来るなと言って引き上げて来た。
(被害状況を説明しても、見ないと理解出来ないみたいで、非常に疲れるだけだった。)
家へ帰る途中、もうすっかり明るくなっており、朝早いので人はいなかったが、
津波被害にあっていない地区は全くの別世界で、本当に平和だった。
線路の上から改めて道路を見ると、自動車が折り重なって山になっている。
そして瓦礫と泥…雪がうっすらと覆っていて、太陽の光に反射して光っていた。
変な世界だった。
何から手をつければいいのか、というか、手を付けるのも嫌になるぐらいどこもドロドロだったので、
家に帰ってしばらくこたつで横になっていた。
そのうち誰か来たので玄関にでると、見た事もない女性二人がいた。
玄関先に脱ぎ捨ててあった衣類の持ち主だった。
話を聞くと、逃げる途中津波に襲われてしまい、あたりを見回すと水面からでている登れそうなものは、うちの塀しかなかったらしい。
で、二人で塀によじ登ってやり過ごそうとしたが、だんだんと水位あがってくるし、
ズブ濡れになってしまって寒い。
塀づたいに玄関先まで来て、試しに戸を開けたら開いたので、
しばらくうちで水が引くのを待ったということだった。
女性二人は親子らしかったが、娘さんの方はホットパンツというか、
見ているこっちが寒くなるような格好だった。
「何か着るもの貸してやんが」と言っても今から行く所に着るものはある、と遠慮したので、
濡れた服を入れるビニール袋を渡した。
私が一度目に家に来た時に出くわさなかったのが、ちょっと不思議だった。
もっと被害の大きい違う地区の話だが、私の友人の奥さんも逃げ遅れてしまい、
知らないアパートの階段へ駆け上った。
やはりズブ濡れになり、寒いし赤ちゃんもいる。
躊躇したがアパートのドアを開けると開いたので、誰もいなかったが
勝手に中に入って押入から毛布を取り出し、一晩そこにお世話になったという話があった。
今回の津波では、誰もいない他人の家に避難して命拾いや寒さを凌いだ話が結構あったが、
鍵を閉めなければ人に入られる、という言い方をする人や、何かあっては責任が取れない、
と避難者を拒む人もいた。
事実、悪質で計画的な窃盗もあったので何とも言えないが、個人的な意見として、
鍵は開けておいても良いと思う。
結局津波には勝てない。
避難した時点で、家をはじめ全ての財産を津波に待って行かれる覚悟を決め、未練は残さない。
そしてその後の事の流れは運任せでしかない。