今年、クレイジー・リッチが流行った。
3月末の夜、向かいの家の奥さんが崩壊して2階の窓から乱れた髪で、今にも気のフレた声で落ちてきそうだった。
僕は家の前からその夜、町中の不吉な空気を感じていた。
僕の気の狂った母は、経済的にうまくいっている僕を当てにして、毎日のようにインターホンを押し、ドアを叩いた。
次の日には郵便配達の人が同じようにインターホンを押し、ドアを叩いた。
2月の上旬には、最後の犬が郵便局を語って国中に転送不要の郵便物をバラまいた。
その後1ヶ月くらいしてから、僕の住んでいる市から、謎の給付金の郵便物が届いた。
僕と僕のネコのタイは泣かなかった。家のドアを開いて一歩家を出ると空気が狂っている。政府崩壊の日が来たのかもしれない。
タイは今年、9歳になろうとしている。
白いボディのネコのタイも家の外の空気を敏感に察していた。
4月8日の朝だった。その日は晴れだった。
大阪に出張していた父が帰ってくるので、僕はタイを2階の窓際から外を眺めさせた。タイを自立させた。僕は1階に降りて外に出て道の角から、家の2階の窓際から青空の下、町を見下ろし見張っているタイに両手を挙げた。
「タイー! タイー!」
タイにはとりあえず2週間分の食事を用意しておいた。父ならこの町の異常な空気をすぐに感じとるだろう。
僕はテーブルに、父に簡単なメッセを残した。
「この町には精神科がないので、隣町の精神科にお世話になってきます」
僕が家を去る時、タイは泣かなかった。
リトル・スカイ・タイ。
今日は快晴だ。
タイは今にも大空を、青空を飛ぼうとしている。
2か月後には僕も短期入院で家に帰るだろう。
タイは人社会のギセイじゃない。
タイなら生き残るだろう。