●電子決裁、タブレット協議
市役所への出向内示が公表されると、口の悪い知人からは「市役所は規模も小さいし昔ながらののんびり仕事ができるんじゃないの…」などと軽口を叩かれていたが、旧態依然としていたのは県庁の方であった。
市庁舎を新築したばかりの燕市では、免震構造や効率的な空調システム、感じの良い採光をもたらす意匠といった施設設備のほか、執務室内のレイアウトなども最新鋭なのだが、仕事の進め方についても併せてアップデートがされていた。勤務の最初から触れる「電子決裁システム」も代表的なものの一つだった。
企画財政課長の席に座ると、横長で広い執務机の上に、デスクトップ端末のキーボードと大きめのディスプレイが"2台"並んで置かれていることに先ずは驚く。私が決裁する段階になった起案データが一覧表になっていて、一件ごとにクリックすると各々の伺う内容が一つめのディスプレイに表示される。決裁にあたっては、伺い内容と添付資料のデータと照らし合わせながら審査していくことが大抵は必要なのだが、その添付資料を横に並んだもう一つのディスプレイで開いて、両画面をスクロールさせながら審査していけるという具合なのだ。これは便利だ。もちろん一画面でデータファイルの小窓を幾つも展開できるし、必要に応じてそうするのだが、そもそも画面が二つあることで資料審査のストレスは大きく減少することか実感できる。県庁では未だ100%が紙媒体の起案でハンコをずらずらと押していくというのに。さすがに企画財政課長に回ってくる決裁案件は数が多く、一日で多い時は50件以上もあって辟易もしたのだが、新しい技術に触れられる新鮮さはそうした疲労感を軽減してくれたようにも思えた。
もう一つ、仕事の進め方で感心したのが、市長協議におけるタブレット端末の利用だ。偉い人の仕事というのは次から次へと"判断"していくことであり、実務者が協議の都度用意するような大量の資料などは、トップは手元で嵩張らせることを嫌うものだ。
目の前の一つの画面の中で判断に必要なデータを、議論の流れによっては予め想定していなかったデータも既往のホルダーから、次々と展開していけることで効率的であり、いちいち印刷して紙を浪費することも抑えられるということで、市長を囲むテーブルで参加者皆がタブレット端末を持って協議するスタイルは斬新であった。
映画やマンガでは当たり前の風景なのだが、その実践を始めているとは…。協議の内容によっては向き不向きもあるなあとということもあったが、そうした実感も実際にやってみなくては中々得られないものである。私が着任して暫くすると、キーボード付きのラップトップ端末を持ち込んで、市長の指示などにより即座に協議資料を補正するなどということにも進展していった。ペーパーレスとリアルタイム成案化が目の前で展開されている。思えばデジタルトランスフォーメーション(DX)などというワードが使われ始めた矢先の頃だったかもしれない。県庁は何事も全体構造的な"あるべき論"から入って具体には遅々としてしまいがちな取組が散見されるのであるが、大仰に構えずに日々の具体の仕事を少しずつデジタル化して積み上げていく燕市の鈴木市長の姿勢に敬服したものだ。
(「燕市企画財政課4「電子決裁、タブレット協議」編」終わり。県職員としては異例の職場となる燕市役所の企画財政課長への出向の回顧録「燕市企画財政課5「トップとの近さ、全国市長会随行(その1)」編」に続きます。)
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