●新行政って何だ?
~「行政システム改革」「地方分権・組織機構」「開かれた県政推進」~
平成10年4月に新潟県庁に新設された「新行政推進室」。前身であった人事課行政システム改革班から分離独立するという組織的な成り立ちから、それと併せて私は人事課行政システム改革班からスライド転籍してスターティングメンバーの一人となったわけだが、果たして「新行政」とは何なのか。問われた場合にどう説明したらよいのか、部署開設日を迎えてもなお明確な命題が見つからない。
役所の組織は政策そのものだと言われる。大抵の部署は、例えば道路管理課とか農産園芸課などと、標榜する名称を見れば具体のミッションが文字の如く分かるのだが、「新行政」について所与の定義は無い。行政に変革を求めて押し寄せる新たな時代の波を上手に乗り切っていけるような県庁へ転換させるという、"やることそのもの"を考えるところから始める仕事になりそうだ。
行政に変革を求める波について、当室の組織化に際しての議論が垣間見えるのが、この室を構成する「行政システム改革担当」「地方分権・組織機構担当」「開かれた県政推進担当」という3つの班だ。
仕事の進め方の効率化や効果向上は不断に行われるべきものだが、バブル経済の崩壊に加えて人口が減少へと反転していく中で、税財源やマンパワーが減少基調へ転じることを見据えて、"かんな削り"のようにでは無く、ドラスティックに施策・事務事業の見直しや支出の効率化等を講じていかねばならないとする「行政システム改革」。
国と地方の関係を上下主従から対等平等へと変えていく地方分権一括法の制定を背景として、自律的に政策を立案実践していける体制を構築していかねばならないとする「地方分権時代に適した組織機構の改革」。
そして、当部署新設の直接的引き金となった、旅費などの公金不適正支出問題を踏まえて透明性の高い仕事の進め方へと転換していかねばならないとする「開かれた県政の推進」。私はこの班に配属されたのだが、不適正支出問題の調査班員の経験を通しての痛恨の思いを改革へ反映させよということなのかもしれない。
3つの班体制による3つの大きな切り口から、新たな時代に適した県行政のあり方、つまり「新行政」を考えていこうという新部署設置の意思が読み取れる。それにしてもやりようによっては「壮大」にも「矮小」にも持って行けそうである。例えば、制度論や財政措置など国までも巻き込んで喧々諤々の議論を巻き起こして新潟流の行財政システムの構築を目指すというものから、先進事例とされる他県の行革関連の取組を参考にして構想や計画といった書類にまとめ上げて終わりにするというものまで、選択肢は幾つも考えられる。それにしても計画作りで終わりという旧態依然とした役所仕事の最たる対応で終われば"新行政"の看板の名折れとなろう。明確な指示が無くあらゆる選択肢が考えられる中で、知事から了解を得られるような取組の進め方を判断しなければならない室長というのは、考えてみれば大変なお立場である。
噂に百戦錬磨と名高くクセの強い室長もさすがに思案に明け暮れているようだ。部署全体の方針を決めるにあたり、役所流のオーソドックスな企画立案方法であれば、係とか班ごとにまとめた考えを係長や班長が持ち寄っての議論を通じて部署の長が収斂していくというものだが、4月の2週目に入るといきなり、室長は班長以下も含めた室員11人全員による直接の意見交換の時間を設けた。いわゆるブレインストーミングというやつで、何をどう進めるのかを自由闊達に議論させる中で方向感を整理していきたいとの意向のようだった。
面白かったのは、議論が10人前後ともなれば、より上位の職の者の意見が核となってそれに引きずられたり迎合したりしながら幾つかの方向感に収斂していきがちになるものだが、メンバーは異なる部署から寄り合ったほぼ初顔合わせの者同士であり、意識の高い一人一人であるので、職制の上下に気遣いなどの無い自由な言い合いは非常に多様で、予定の時間を前にしてもまとまりの兆しが見えてこない。まさにそれがブレストなのかもしれないが、課長補佐級班長による見識深い意見から私のような浅才な末席主任の突拍子もない意見まで、室長は何も言わずに聴き入り、特に取りまとめをするでもなく、最後に全てを引き取るようにしてその場を締めた。室長はどう整理を付けるのだろうか。
明くる朝、皆の前で、ゴルフ焼けと思しき浅黒い面構えの眉間にシワを寄せ、銀縁眼鏡の奥の威圧的な細い目でやや遠くを見るように顎を少し上げて、強面の室長はじんわりとした渋めの声で話し始めた「運動論だ。新たな行政を創造する運動ということだ」。
(「新行政推進室3「"新行政"って何だ?」編」終わり。「新行政推進室4「新行政の創造に向けて運動を展開する」編」に続きます。)
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