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笹子トンネル事故5年 トンネルや橋の補修進まず

2017-12-02 19:12:35 | 日記
笹子トンネル事故5年 トンネルや橋の補修進まず
Sasako Tunnel accident 5 years repair of tunnels and bridges will not proceed

5年前の笹子トンネルの事故を受けて、国が橋やトンネルの定期点検を自治体に義務づけた結果、点検は進んだものの、安全確保に必要な補修は十分に進んでいないことがわかりました。義務化によって点検する箇所が増えた結果、補修の予算の確保が難しくなっていることが背景にあると見られ、専門家は「予算の確保に努める一方、統廃合も検討すべきだ」と指摘しています。
笹子トンネルの事故を受けて、国土交通省は、3年前、道路を管理する自治体などに、橋やトンネルを5年ごとに点検するよう義務づけました。

国土交通省によりますと、この義務化を受けて、ことし3月末までに点検が行われたのは、橋がおよそ40万、トンネルが5000余りといずれも対象のおよそ半数に達し、ほぼ計画どおりに進んでいるということです。

この結果、去年3月末までに、およそ2万4000の橋とおよそ1400のトンネルが「早期の補修が必要」と判定されましたが、このうち実際に補修工事に着手できたのは、橋は3085と13%、トンネルは409と28%にとどまり、安全確保に必要な補修は十分に進んでいないことがわかりました。

これについて、NHKが、補修が必要と判定された橋やトンネルを抱える自治体に取材したところ、その多くから予算の確保が難しいといった声が出ていて、中には義務化によって点検する箇所が増えた結果、補修に予算を回しにくいと答えた自治体もありました。
補修前に崩落危険の橋も
点検で「早期に措置が必要」と評価されたあと、補修を行う前に崩落につながりかねない危険な状態になった橋もあります。

高知県北川村の県道にかかる犬吠橋は、長さ41メートルの橋で、去年9月、橋の中ほどの路面が15メートル余りにわたっておよそ50センチ陥没しているのが見つかりました。

橋を支える鋼の部材の4か所が破断したのが原因で、高知県は崩落の危険があるとして、仮設の「う回路」を設置して通行止めを続けています。

この橋がある県道は、山あいの地区をつなぐ生活道路として1日に延べ600台の車が通行しているということで、毎日のように橋を通っていたという40歳代の男性は「たまたまタイミング悪く通っていたら、ひどい事故になっていたので、怖いです」と話していました。

管理する高知県は、老朽化が進んだ橋に想定を超える重さの荷物を積んだ車両が通ったことで、部材が破断し、陥没が発生したと見ています。

この橋では、路面が陥没するおよそ半年前に県が点検を行っていて、部材の腐食が見つかったことから「早期に措置が必要」と評価し、補修に向けた準備を進めていたということです。

犬吠橋と同じように「早期に措置が必要」と評価された橋の数は、去年3月末までに全国でおよそ2万4000に上っています。高知県道路課の小松真二課長補佐は「この状態で車が通り続けたら、落橋して人命に関わるような事故につながるおそれもあった。同じような事故が起きないようにしっかり維持管理に努めたい」と話しています。
異例の提言「最後の警告」
笹子トンネルの事故を受けて、国土交通省の審議会は、平成26年4月、「最後の警告」と題した、異例の提言をまとめました。

この中では、「今すぐ本格的なメンテナンスに舵を切らなければ、橋の崩落など人命や社会システムに関わる致命的な事態を招くであろう」と強い言葉で危機感を訴え、国や自治体に対し、橋やトンネルなどを5年に1度、点検するとともに計画的に補修を行うことなどを求めました。

この提言を受けて、国土交通省は、自治体などの道路管理者に対し、管理するすべてのトンネルや▽2メートル以上の橋などについて5年ごとの定期点検を初めて義務づけたうえで、緊急性に応じて4段階で判定する基準を設けました。

基準では、損傷が最も深刻な「緊急に措置が必要」と判定された場合、直ちに通行止めにするなどの対応が求められるほか、その次の「早期に措置が必要」と判定された場合は、次の点検までのおおむね5年以内に補修することが望ましいとしています。

点検の対象となるのは、全国で、橋がおよそ72万6000、トンネルがおよそ1万1000となっていて、このうち全国の自治体が管理する分は、橋がおよそ66万4000と全体の90%、トンネルがおよそ7600と68%を占めています。
点検義務化で自治体の負担増加
笹子トンネルの事故を受けて、国土交通省は、3年前、都道府県や市町村などに管理する橋の点検を義務づけ、対象を「2メートル以上」としました。それまで点検が必要とされていた橋は、「長さ15メートル以上」だっため、各自治体が点検しなければならない橋の数が大幅に増えました。

このうち、愛知県豊田市では、点検が必要な橋の数が従来のおよそ200からおよそ1200と6倍に増えました。このすべての橋を5年に1度、点検しなければなりませんが、数が多いため、市が年間に点検できる橋の数は、200から最大で300程度。さらに1つの橋の点検には、複数の作業員が当たり、橋をハンマーでたたいて異常を見つける検査を行うなど、地道な作業が必要で、年間にかかる費用は、1億円程度に上っているということです。

市は、義務化から5年が経過する来年度までに、すべての橋の点検をいったん終える計画ですが、次の年度には、再び点検が始まり、コストがかかり続けるうえ、さらに補修の予算も加わるため、維持管理の財政的な負担が大きいとしています。

このため、市は国に対し、すべての橋を5年に1度必ず点検するのではなく、点検の結果、いったん「健全」と評価された橋については、次に点検するまでの間隔を伸ばすなど、点検のやり方を、一定程度、自治体の裁量で決めることを提案しています。この提案には、全国38の自治体も賛同しているということです。

豊田市道路予防保全課の佐々木貴宏担当長は「市の財政が厳しい中、点検に必要な1億円の費用を確保するのは大変で、ほかの事業も圧迫している。ほかの業務もしながら、数多くの点検をこなすのも大変だ」と話しています。
補修避け撤去の動きも
多額の費用がかかる点検や補修を避けようと、自治体の中には、橋やトンネルを撤去や廃止する動きも出ています。

このうち、長崎県佐世保市にある長さおよそ185メートルのトンネル 尼潟隧道は、コンクリートの壁に亀裂が入ったり、つなぎ目がずれたりしているほか、雨漏りもひどく、点検の結果、国が設けた4段階の基準のうち、最も深刻な「緊急に措置が必要」と評価されました。

このトンネルは、昭和18年に作られ、長く地元の人たちに利用されてきましたが、補修には1億円程度の費用が必要と見込まれることや、近くにう回路があることから、市は地元の住民などに説明したうえで、トンネルを補修せず、廃止することを決めました。

現在は、トンネルの入り口にフェンスを設置して通行止めにしています。国土交通省によりますと、昨年度末までに、この尼潟隧道を含む4つのトンネルと92の橋について、撤去や廃止が決まったということです。

佐世保市道路維持課の森山謙一主幹は「市の財源にも限りがあり、なんとかやりくりしているが、すべてを維持するのは厳しいのが正直なところだ。言い方は悪いが、何かを犠牲にして、予算を維持や補修に当てることも必要で、住民の理解を得られれば、当然、撤去や廃止も考えていく必要がある」と話しています。
専門家「しっかりと議論して仕分けを」
橋やトンネルの補修が進んでいない現状について、インフラの維持管理に詳しい東洋大学の根本祐二教授は「橋やトンネルは住民の生活に密接に関係するため、簡単には減らせないので、まずは維持を前提に予算の確保に努める必要がある。そのためには、従来の橋やトンネルのための予算だけでは足りないので、ほかの事業の予算を削るなど自治体内での予算配分を見直さないと追いつかないと思う」と話しています。

そのうえで、「自治体の財政が厳しいことを踏まえれば、すべてのインフラを維持することはできないので、重要性や利用頻度に応じて、統合や廃止、撤去も必要になる。絶対に維持しなければならないところは維持する一方、管理のレベルを下げてもいいところや、使用をやめて廃止するところをしっかりと議論して仕分けることが必要だ」と指摘しています。

さらに、「すべてのインフラを維持することが難しいと国民も理解する必要がある。また、自治体は、交通量やう回路の有無など、統合や廃止をするうえでの明確な基準を用意し、人口の少ない山間部ばかりで廃止が進むような不公平が起きないようにすべきだ。今後は、国も一定の目安を示す必要がある」と述べました。

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