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金星周回軌道投入に挑んだ24時間 ~第1部~

2010-12-23 07:25:02 | あかつき関連
12月7日、日本の金星探査機「あかつき」
は金星周回軌道投入を試みましたが、失敗に終わりました。
JAXAから公式な報告書が発表され、現在分かっている当時の探査機の状況と、失敗原因究明の進捗状況が明らかにされました。
今回は3部にわたって、「あかつき」に何が起きたのか、その激動の24時間を新たに明かされた事実をもとに振り返ります。


探査機の状態の把握、探査機への指令等は全て探査機と地上局との電波でのやり取りによって行われます。
第1部では地上局から見た、24時間にわたる探査機「あかつき」との通信の経過をまとめます。


1. いざ軌道投入へ

地上から指令が届くまでには時間がかかります。そこで軌道投入のための軌道制御エンジン(OME)の噴射は自動シークエンスによって行われました。
2日前の12/5 6:10、コマンドの事前送信が行われました。
翌12/6 7:50にはOME噴射姿勢への変更が行われました。これは、通常地上との通信は最も通信速度の速い高利得アンテナ(HGA)を用いて行われるため、HGAを地球に向けた地球指向の姿勢で運用が行われますが、このままだとエンジンの噴射が正しい方向を向かないため、噴射の際にだけ姿勢を変える必要があるからです。正常に姿勢変更が行われ、通信には中利得アンテナ(MGA)が使われました。

そして運命の12/7。この日は8:49から9:01までの12分間、自動シークエンスによってOME噴射が行われる予定でした。その間、探査機は一度金星の裏側に入るため、噴射開始後の8:50に一時的に地上との通信が中断される予定になっていました。
8:47:57 姿勢制御スラスタ(RCS)による姿勢制御モードに以降し、8:48:00 OME噴射が正常に開始されたことが、探査機から送信されたテレメトリデータ(機体の状態を知らせるデータ)から確認されました。そして8:50に予定通り地上との通信が途絶え、いよいよ地球からは見えない金星の裏側で、孤独な旅が始まりました。



2. 通信が回復しない異常事態

予定では、軌道投入のための噴射を終えた「あかつき」は、9:12:03 金星の裏側から地球から見える位置に出て、直ちにMGAによる通信が再開されるはずでした。しかし、予定時刻を過ぎても電波が受信できません。5分、10分、20分、…刻々と時間ばかりが過ぎていきます。
この頃、地上では「あかつき」に起こったトラブルについてまだ何も分かっていませんでしたが、通信が取れない「あかつき」は9:15:15 自動的にMGAから低利得アンテナ(LGA)への切り替えを行っていました。
これに対し、当初のアンテナ予報値(周波数、方位角)が異なっていたため、地上局では電波を捕捉できずにいました。
予定時刻を大幅に過ぎても通信が回復しないことから、何らかの重大なトラブルがあったのではないかという不安が次第に大きくなっていました。その頃、臼田局と内之浦局での懸命な捜索が続いていました。

そしてついに10:26:17 「あかつき」からの電波をキャッチすることに成功しました。「あかつき」はまだ生きていた、その事実だけでひとまず安堵です。



3. 通信確立できず

10:26過ぎに電波が捉えられたとはいうものの、通信の確立にはまだ至っていませんでした。電波を受信しても、そこからデータを取り出すには変調という処理が必要です。さらに地上からの指令に応じなければ相互の通信が行えません。
この段階では電波が非常に弱いため、変調をかけることができませんでした。また、電波は通信速度の遅いLGAから発信されており、この点も計画とは異なっていました。しかも、せっかく発見した電波も、17分後の10:43:00には再び捕捉できない状態となり、安定して追跡することができませんでした。ここから、助けを待つ「あかつき」と、見失うまいとする地上局、双方の懸命な戦いが続きます。

11:01 「あかつき」は通信アンテナをMGAに切り替えますが、通信が取れず、12:29 自らLGAに再度戻しました。
一方、臼田、内之浦局では、13:10から非常に微弱でノイズに紛れそうな電波を、スペクトラムアナライザーを用いて、何とか目視で確認しました。しかしやはり追跡することが難しく、13:21以降検出できず、13:29には臼田局での運用が終了、14:00には内之浦局からマドリード局へと運用が引き継がれました。当初のアンテナ予報値を見直し、修正を加えた結果、マドリード局では14:04から15:06まで1時間近くにわたって無変調の電波を捕捉することに成功しました。

さらに15:46 通信速度を上げるためMGAへ切り替えられました。その直後の15:48からマドリード局でもMGAからの電波を受信しましたが、「あかつき」からの電波は約10分周期で変動し、10分に一度約40秒間だけ捕捉できるという状態が続きました。MGAはLGAに比べると、狭い範囲にしか電波を送ることができません。つまりこの変動から、10分周期でMGAを地球に向けるような動きをしていると推測されます。分析の結果、「あかつき」は10分周期の回転運動をしていることがわかりました。「あかつき」は何らかの異常が起きた際に入ることになっているセーフホールドモードという状態に入っていると考えられました。
17:08:59から17:10:07にかけて、再び無変調電波が受信されましたが、回転運動のためにMGAでの通信は安定せず、通信の確立には至りませんでした。18:37 再びLGAに切り替えられると、20:50:27から21:04:30にわたって電波の受信を行うことができました。
21:45 マドリード局からゴールドストーン局へ引き継がれました。ゴールドストーン局では、22:36から地上からの信号に同期した無変調電波を受信することに成功し、初めて双方向の通信が行える状態までこぎつけました。



4. 「あかつき」の状態が明らかに

当初の予定では、16:00頃から軌道データの取得を行い、「あかつき」の実際の軌道を計算することになっていました。ゴールドストーン局での運用でようやく追跡データを得ることができました。23:32から翌日の1:15の間に取得したデータから、最終的な軌道が決定されました。その結果、深夜3時近くに金星周回軌道投入は失敗と結論付けられました。

続いて1:34からは、「あかつき」の姿勢を戻し、セーフホールドモードから、地球との高速度通信を行うことができる地球指向モードへの切り替えが段階的に始められました。4:40からは臼田、内之浦、キャンベラ局での運用が始まり、5:50にはゴールドストーン局との通信を終えました。すぐに5:50から「あかつき」の現在の状態を示すテレメトリデータの取得が行われました。当初通信にはLGAを使っていましたが、7:17に地球指向の姿勢への変更が完了し、7:18にはMGAへ、8:08にはHGAへの切り替えが行われ、ようやく本来の速度での通信を確立することができました。
10:09から11:46にかけて、通信が途絶えていた期間のテレメトリデータの再生が行われ、トラブルに見舞われたときの状況を初めて知ることになりました。


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