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金星探査機「あかつき」いよいよ軌道制御開始

2011-11-01 00:16:39 | あかつき関連
日本の金星探査機「あかつき」は、皆さんご存知のように、昨年12月7日に金星周回軌道投入を試みましたが、まさかの失敗に終わりました。原因は推薬弁のトラブルで軌道制御用エンジン(OME)の異常燃焼が起き、エンジンが破損したことです。ミッションの継続を断念する話も持ち上がりましたが、再び金星に接近できる可能性を追求することになりました。様々な検証や検討を重ねた結果、本来は機体の姿勢を維持するために使う姿勢制御スラスタ(RCS)を軌道制御に用いる方針となり、いよいよ本日11月1日に1回目の軌道制御が行われることとなりました。
これまでの経緯を解説します。


【OME再噴射に向けた検討】

これまでの検討の結果、異常燃焼の際にOMEはノズル部で破損してしまったと推測されました。破損したとは言え、まだ使える可能性がありました。そこで、実際に試験的に短時間噴射させてみる必要がありました。しかし、地上での試験の結果、ノズルが破損したエンジンの再着火を行うと、燃焼器がさらに破損してほぼ全損してしまう場合があることが分かりました。安易に噴射を行うと、エンジンにとどめをさしてしまう可能性があるわけです。
これを防ぐために、着火の衝撃を最小限にとどめる方法が探られました。その結果、推薬(燃料と酸化剤)を予めある程度高温にしておき、酸化剤の噴射を燃料の噴射よりも少しだけ早めに開始することで、衝撃を軽減させることができることが分かりました。実際の試験結果をもとに着火衝撃緩和条件が求められました。リハーサルの結果、実際の探査機でヒータや太陽光による温度制御を行ったところ、この条件を満たすことができることが確認されました。
しかしながら、実際にはこのような条件を満たしていたとしても、エンジンの破損が進行することがありうることも、地上での試験で明らかにされました。


【OME噴射試験結果】

様々な検討結果を踏まえ、9月7日と14日、それぞれ2秒間、5秒間のOME試験噴射が行われました。

OME噴射前に行うRCSセトリング(RCSを噴射させてタンク内の推薬を出口側に集める)が行われ、正常に実施されました。RCS4基の合計推力は約70Nでした。
引き続いていよいよOMEの噴射が行われました。上の左側のグラフは機体の加速度データですが、想定された加速度の1/9程にとどまり、推力は約40Nでした。2回の噴射でほぼ同じような結果となっています。地上からの観測で機体の加速による速度の変化(視線方向)を測定することができますが、この結果は加速度データと矛盾しないものでした。


【OMEの推力が低下した原因】

エンジンの推力が低下する原因としては大きく2つが考えられます。1つ目は推薬の供給が少なかったこと、2つ目は燃焼室の構造が損なわれていたことです。

上の図は、燃料の供給が正常だった場合と、少なかった場合の、燃料配管温度の推定値と、実際の温度測定結果との比較です。この結果から、推薬の供給は正常だったと考えられます。
となると、やはり当初危惧されていたように、エンジンの破損が再着火によって進行してしまった可能性が高いと考えられました。スロート部で破損した場合でも約350N程の推力が得られますが、燃焼器が完全に消失した場合には50N程度の推力となってしまいます。今回の試験結果は後者に近く、OMEの燃焼器はもはや機能していないことが分かりました。


【RCSによる軌道制御に向けた準備】

実は「あかつき」運用チームでは、OMEが使えない場合の次の手についても予め検討を重ねていました。その次の手とは、姿勢制御スラスタ(RCS)の噴射によって軌道制御を行おうというものです。RCSは本来機体の姿勢を保つためのものなので、小さな推力しかありません。一方、機体の軌道を変更するためには大きな推力が必要です。検討の結果、小さな推力でも長時間噴射すればRCSでも軌道制御ができることが分かりました。
OMEは燃料と酸化剤を混和して燃焼させる仕組みでしたが、RCSは燃料しか使いません。すると、酸化剤はもはや不要となります。同じ推力で噴射しても、機体が重ければ重い程加速は得られませんから、より大きな加速を得るには機体を軽くした方が有利です。そのため酸化剤を捨ててしまうことになりました。
とは言え、酸化剤を捨てるのも慎重に行わなければなりません。液体の酸化剤を宇宙空間に噴射すると、気化して膨張する際に熱が奪われ、急激に温度が低下します。その結果インジェクタが凍結する恐れがあります。さらに、推薬を流す際に弁に通電をするのですが、実際に流すのは酸化剤のみで燃料は流しませんので、燃料側の弁は逆に高温になる恐れがあります。これらの温度変化を最小限にするための方法も検討されました。

3回に分けて投棄を行うことで、温度の変化を最小限にしようという方針になり、10月6日、12日、13日に、それぞれ6分、9分、9分の酸化剤投棄が行われました。その結果、上図のように許容温度条件の範囲内で、計画通りに酸化剤を投棄することに成功しました。


【今後の運用予定】

かくしてRCSによる軌道制御に向けた準備は整いました。11月は「あかつき」が太陽に最も接近する時期であり、この時期に噴射を行うことで、効率的に軌道制御を行うことができます。今後の具体的な運用は次の通りです。

11月1日 軌道制御1回目 速度変化分90m/s
11月10日 軌道制御2回目 速度変化分90m/s
11月21日 軌道制御3回目 速度変化分約70m/s

3回目の「約」とは、2回目終了後に精密な軌道を決定した上で、最終的に必要な加速度を計算し、修正することを意味しています。
これが成功すれば、2015年以降の金星周回軌道投入に向けて一歩前進します。成功を祈りましょう。


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