子どもの頃に誰もが読んだことのある童話。
ネズミの被害に困り果てたハーメルンの人々に、「私がネズミを退治してあげよう。」と見知らぬ一人の男が申し出る。人々は男に報酬を約束し、男は笛を吹いてネズミを引き寄せ海へと導き、駆逐してしまった。ところが約束の報酬がきちんと払われない。怒った男は後日、再びやって来て笛を吹いて街中を練り歩く。するとすべての子どもたちが家々から出て来て男について行ってしまい、身体が不自由でついていけなかった子どもによって伝えられた。子どもたちが帰ることは無く、人々は反省し嘆き悲しんだという。
この話しは子供の頃から大好きだった。笛吹き男の何とも言われぬ「怪しさ」、神隠しを連想させる子どもたちの消失。ホラーの原点ではないか。
この本ではそんな「笛吹き男の正体」と「子どもたちの失踪」が本当は何であったかを時代背景を通して探り、今までの様々な説を紹介して、考察したものだ。歴史を知る上で最も大切なことは、その時代の背景、つまり人々がどんな価値観を持っていてどんな社会だったのかのかを知ることだと再認識させられた。記録にはこの事件は1284年に起こったとあるそうだ。当時の社会の特権階級ではない普通の人々の暮らしや弱者という立場がどんなに過酷だったかが詳しく書かれている。また面白いのが、男の正体への足がかりとして記録にある、「まだら色の服を着た男」から推測する点、なぜ報酬ははらわれなかったのか?というところ。そして「130人の子どもの消失事件」を推理するには当時の経済的背景も無視できない。
著者の、中世の市井の人々に向ける目が優しかった。
ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫) | |
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筑摩書房 |
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