ぼやきなおかんの本棚

本や映画、劇などのレビュー。
英米の古い短編怪奇小説、
日本語で入手困難なものを紹介してます。

重い気分に浸りたい、おすすめの本

2014-08-01 | ブックレビュー 和書

トマス・クックは好きな人にはたまらない。

全編に流れる、陰鬱な雰囲気。犯罪を取り巻く、どうしようもない事情。重い小説です。

謎が解けた後に、一層落ち込んで引きずってしまうようなミステリーばかりです。

「ジュリアン・ウェルズ」は、ミステリーではありません。クックの新境地かな?と思いましたが、最後まで鬱々とした印象を読者に与え続けているのは、変わりませんでした。

主な登場人物はわずかに5名程度です。

ジュリアンは、ノンフィクション作家。残忍な犯罪と犯罪者のみをターゲットにして本を書いていましたが、謎の言葉を残して命を絶ちます。彼の言葉の意味と、自殺の真相を探る為、親友のフィリップとジュリアンの妹、ロレッタが彼の著作とともに足跡をたどります。

章がジュリアンの一つ一つの著作になっています。取材先をたどる旅は、ヨーロッパから南米に渡ります。ある時は彼と過ごした青年時代の思い出、またある時は残虐な犯罪の描写。クックの小説は、どれもこんな風に「静」の中に「暴」があるようなイメージがあります。

闇と光、悪と良心。それがどんなものなのかを知りたい人に、おすすめです。

ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密
クリエーター情報なし
早川書房

ミステリーは本格派に限る! 歴史も楽しめるおすすめ!

2014-07-31 | ブックレビュー 和書

ずっと前から読んでみたかった、

「折れた竜骨」(米沢穂信)

やっとKindle化、バンザイ! だって小さい字がつらいんだもん。

折れた竜骨 上
クリエーター情報なし
東京創元社

ファンタジーとは知らなかった。でもミステリー小説です。

16歳の少女(アミーナ、領主の娘)の語りと視点で、話しは進みます。

読んで3ページで、この少女が好きになった。時代は12世紀。王位争いが続くイングランド領内の孤島が舞台。十字軍とか騎士が活躍した時代です。それだけでもワクワクするのに、これは論理と観察が主導する、正真正銘の本格派推理小説です。

領主である父が殺害され、敵襲に備えなければならない事態に直面します。謎解きと歴史ファンタジーが楽しめました。

読んでいて何やら心地よさを覚えるのは、そう、大好きな「修道士カドフェルシリーズ」と同じぐらいの時代背景だから。これは、作者のカドフェルへのオマージュ作品のようです。

正直、携帯やネット以降のミステリーには、あまりときめかない。(なくてはもう生きて行けないかも、の生活をしているけれど)

「観察と論理」。ミステリーってこうであって欲しいと思えるような小説が、この「折れた竜骨」や「カドフェルシリーズ」です。

ちなみに、修道士カドフェルはイギリスの作家、エリス・ピーターズの推理小説です。舞台は12世紀のウェールズの国境に近い、イングランドの修道院。王位争いにも翻弄されながら、市井の生活の中で起こる事件の謎解きを、十字軍上がりの修道士カドフェルがすぱすぱとやっていきます。

当時の生活がわかりやすく描かれていて、ヨーロッパの歴史好きには外せないシリーズです。

「折れた竜骨」は、魔術師がからむのでファンタジー小説でもあります。しかし荒唐無稽な印象はあまり受けなかったです。むしろ未知の世界の、話しの広がりにワクワクさせます。


海外ミステリーおすすめは? マイブームは北欧!

2014-05-08 | ブックレビュー 和書

海外の翻訳ミステリーが好きです。

若い頃からホームズやルパン、ポアロやミス・マープルが大好きだった。

外国の文化に浸れるのも、海外ミステリーの醍醐味。

そしてマイブームは、英米以外ヨーロッパのミステリーです。

特に北欧ミステリーは、上質。生活の様子や文化的なもの、社会問題などなど、物語の中にいろんな要素があるからです。

社会保障は充実してるし、冬は長いけれど人々は生活を楽しんでいる。

北欧の国々ってそんなイメージでした。

まあ、そうです。でも女性や子どもや若者を取り巻く社会は驚くほど日本のそれと似ています。

先進国の病でしょうか。

スエーデン・ミステリー「静かな水のなかで」は女流作家ヴィヴェカ・ステンによるシリーズものの一作目です。

他殺とも事故とも不明な一人の男の死。それに連なる彼のいとこの死によって、連続殺人の可能性が高くなる。日常生活のすぐそばにある事件。

伏線が張り巡らされていて、クリスティーの現代版のようでした。

謎を解くのは幼なじみのふたり。それぞれ、家庭や人間関係に問題を抱えています。すっかり彼らの気持ちになってしまいました。

読み応えのあるミステリーでした。

静かな水のなかで
クリエーター情報なし
早川書房

 


臨死体験を扱ったSF小説? 航路はスゴイ!

2014-02-28 | ブックレビュー 和書

コニー・ウィリスの小説は、タイムトラベルをテーマにした「犬は勘定に入れません」や「ドゥームズ・ディ・ブック」でおなじみ。

この2冊のSF小説は傑作でした。

「航路」は、臨死体験をテーマに扱っています。

一度心臓が止まったとか瀕死の状態から帰ってきたという人の多くが体験したという、至福感、天国と思われる場所、亡くなった肉親との再会。それらの体験を科学的に説明しようと奮闘する心理学者と脳神経医を描いています。

アノ世の存在を証明したいエセ宗教家とのからみが絶妙で、「犬は勘定に・・」を思い出させます。

かなりの大作です。でも後半は一気に読んでしまいました。面白いです。そして、後半に衝撃が。読後、かなり引きずりました。

現実の話し、父が臨死体験しています。私が子どものとき、事故で瀕死の重傷を負いました。ちょうちょの飛ぶ花畑、川、亡くなった祖父との再会。臨死体験のコア要素が3個は入っていました。

これらのイメージは来世の証明?

それとも、ただ脳が見せた麻薬のようなもの?

現実の話しとしてもかなりの所まで明らかにはなっているようです。

航路(上) (ハヤカワ文庫SF)
クリエーター情報なし
早川書房

イデオロギーと食の関係? フード左翼ってどんな人たち?

2014-02-09 | ブックレビュー 和書

毎日毎日、なにか食べるものを買っています。

毎食の献立を考えるのは、正直苦痛じゃありませんか?

スーパー入ると野菜のコーナーが最初というのはあたりまえ。

でも私は肉、魚から先に見るのだ。(その方が買い物しやすくないですか?)

よく買うのは、豚肉と鶏肉。

豚はカナダ産、鳥は国産というのが多いかなぁ。

そんなにこだわりは無いけれど、葉物はできるだけ近郊で

採れたものと決めています。

ブロッコリーなんか高くてもあれば国産が欲しいところ。

よくよく振り返れば、口にする物はなんとなくだけど

ある決まった考えに基づいて買い物していることに気付かされた。

食とイデオロギー

「食」にはその人の主義、主張、といえば大げさだけど、

妥協できない根幹のようなものが投影されているのですね。

「住」「衣」におけるそれらはずっと見た目でわかりやすいと思うけど、

食に対するほど妥協できない深刻さを感じない。

速水健朗氏の「フード左翼」という言葉は、本当にうまく言い表しています。

フード左翼とは、産地や無農薬にこだわるオーガニック派

肉を食べないベジタリアン、乳製品も食べないビーガン

精白しない穀物中心のマクロビなどの人たちのこと。

そして私にも、左翼という言葉に感じるイデオロギーは別として

禁欲的で革新的でやっぱり貪欲なイメージが、

オーガニックやマクロビオティックという言葉の背後にプンプンと匂うのです。

しかし家族にすべてオーガニックでカラダに良いものばかりを

提供できない後ろめたさも感じないではない。

そんな私がこの本を読んだら、ちょっとすっきりした

食に自分の主張を投影させられるのは、

自由でとってもしあわせなことなのだと

思い知らされた一冊でした。

フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人 (朝日新書)
速水健朗
朝日新聞出版

山の霊異記 赤いヤッケの男 / 安曇潤平

2013-10-15 | ブックレビュー 和書

子どもの頃によくみたテレビ番組、「あなたの知らない世界。」

この番組の素晴らしさと怖さは、普通の人が普通の暮らしをする中で突然に異界と遭遇する、というところだろう。今も覚えているエピソード。旅先の田舎の旅館で真夜中、寝ていた自分の布団の周囲をぐるぐると歩き回る沢山の異形の人々。本人は当然金縛り。あるいは友引のお葬式にまつわる怪しい連鎖。

日本の土壌に密着した、あの世界観がまさしく再現されたと思わせる本を読んだ。山の怪異のみを厳選して書かれている短編集だ。まさに山とは異界そのものか。どの話しにも全く予測のつかない怖さと結末がある。山登りは多分一生することがないだろう私にとっては、山の魅力を伝えてくれる話しの数々でもある。

この短編集のすべてのエピソードが怖く意表をつくものだが、あえて選ぶとするなら、表題の「赤いヤッケの男」と「アタックザック」の二編が怖かった。また人の生き死にが関わる「山」の話しには、悲しいものも多い。「急行アルプス」「巻美温泉」「猿ぼぼ」など。なんとも釈然としない、怖くて不思議で印象に残るのは、「カラビナ」「鎌策婆」

遠い昔の学生時代に、ワンゲルのバイトを回してもらって一泊二日で大台ケ原に行ったことがある。ジャージとスニーカーだったのでたいした山歩きではなかったが、渓谷を望む景色が忘れられない。ここには「いっぽんだたら」が住むそうだ。

赤いヤッケの男(文庫D) (MF文庫ダ・ヴィンチ)
クリエーター情報なし
メディアファクトリー

なぜ怪談は百年ごとに流行るのか / 東雅夫

2013-10-15 | ブックレビュー 和書

怖い話が、子どもの頃から大好きだ。

子供時代の「あなたの知らない世界」の思い出。あの世界を求めて、ついに本棚は怖い話しの本ばかり。自称、怖い本のコレクター。

そんな怪談好きは多分私と、一緒に子ども時代を過ごした妹だけだと思っていたら、なんと世間は空前の怪談ブーム。最近はまっているのが、ネットラジオの怪談語り。ヤンタン聞いてた世代だし。読むのもいいけど聞くのは、家事をしながらでもできる。カレーの煮込みのお供は、いつも怪談。ネットラジオを通して、おすすめホラーを読むことも多くなった。

さて、「なぜ怪談は百年ごとに流行るのか。」とは魅力的なタイトルだ。そのことに関しては、きちんと最初の方に記されている。(多くのこういう本では、最後の最後まで種明かししてくれない。) でも主には、怪談の歴史を初心者にも愛好家にもわかるように説明してくれている、教科書のような本なのだ。

怪談好きなら、タイトルや作家名だけでもワクワクするような本が沢山紹介されている。名作の有名な一節や、一部を解説とともに読める。巷で流行の「怪談会」というのも昔からあったものとは知らなかったし、それにまつわる有名なエピソードもある。

夏目漱石の「夢十夜」の「第三夜」が大好きで最初に読んだときは衝撃だったが、その衝撃が自分だけじゃ無かったことを実感。

なぜ怪談は百年ごとに流行るのか (学研新書)
クリエーター情報なし
学研パブリッシング

ハーメルンの笛吹き男ー伝説とその世界 / 阿部謹也

2013-10-12 | ブックレビュー 和書

子どもの頃に誰もが読んだことのある童話。

ネズミの被害に困り果てたハーメルンの人々に、「私がネズミを退治してあげよう。」と見知らぬ一人の男が申し出る。人々は男に報酬を約束し、男は笛を吹いてネズミを引き寄せ海へと導き、駆逐してしまった。ところが約束の報酬がきちんと払われない。怒った男は後日、再びやって来て笛を吹いて街中を練り歩く。するとすべての子どもたちが家々から出て来て男について行ってしまい、身体が不自由でついていけなかった子どもによって伝えられた。子どもたちが帰ることは無く、人々は反省し嘆き悲しんだという。

この話しは子供の頃から大好きだった。笛吹き男の何とも言われぬ「怪しさ」、神隠しを連想させる子どもたちの消失。ホラーの原点ではないか。

この本ではそんな「笛吹き男の正体」と「子どもたちの失踪」が本当は何であったかを時代背景を通して探り、今までの様々な説を紹介して、考察したものだ。歴史を知る上で最も大切なことは、その時代の背景、つまり人々がどんな価値観を持っていてどんな社会だったのかのかを知ることだと再認識させられた。記録にはこの事件は1284年に起こったとあるそうだ。当時の社会の特権階級ではない普通の人々の暮らしや弱者という立場がどんなに過酷だったかが詳しく書かれている。また面白いのが、男の正体への足がかりとして記録にある、「まだら色の服を着た男」から推測する点、なぜ報酬ははらわれなかったのか?というところ。そして「130人の子どもの消失事件」を推理するには当時の経済的背景も無視できない。

著者の、中世の市井の人々に向ける目が優しかった。

ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫)
クリエーター情報なし
筑摩書房

「のぞきめ」三津田信三

2013-10-08 | ブックレビュー 和書

夜、ひとりでいると押入れの少し開いたスキマがなんか気になる。

家に入るのは一人っきりのはずなのに、ふと視線を感じる。

それは のぞきめ

在野の民俗学研究家の残した一冊のノート。今はもう廃村となったその村には、奇妙な風習が残されていた。

 

隔離された村、奇妙な風習、おかしな人々、秘密。横溝正史風でよかった。ノートに記された回顧録と、現代につながる事件という設定がとても面白い。怪異がずっとつながっているような感じがする。

表紙の絵もいいけど、おじさんにはちょっと手を出しにくいかも。

のぞきめ

クリエーター情報なし
角川書店(角川グループパブリッシング)

霊感添乗員MoMoの幽霊の出る宿 /MoMo

2013-08-10 | ブックレビュー 和書

数年前からブックマークしてたびたび読んでいた、大好きな怖い話のホームページが本になった。表紙のコピーが「本当に出る宿100選」ってこれガイドブックなん?

そう、書いているのは、ベテランにして現役の旅行添乗員、MoMoさん。ホテルや旅館、観光地というような不特定多数の人の集まる場所は、訳ありいわくありは常識ではあるものの、いやいや怖さが半端じゃない。気配がとか、金縛りとか、黒い影が、なんてかわいい話しは無い。上からどーん、下からずりずり、鏡に映るわ、話しかけるわ、首は締めるわ、ゾロゾロ、ドーン、グチャリとこれ以上の恐怖をイメージできないほどバラエティに富んだ怪談ばかり。

一話一話が短く簡潔である。なのに読むと本当におどろおどろしい。ついでに旅行業界に携わる添乗員、運転手、ガイドの皆さんの過酷な現場エピソードにも別の怖さが。

霊感添乗員MoMoの幽霊の出る宿 (竹書房文庫)
MoMo
竹書房

残穢 / 小野不由美

2013-06-26 | ブックレビュー 和書

「この本を見えるところに置いておくのもイヤ。」

これは先にこの小説を読んだ友人の言葉。友人はホラー好きではない。

一方、実話怪談好きの私にはたまらない本だ。おなじみの作家の方々も登場される。もう、素晴らしいの一言。

怖い。最初はなんてことないが、白い和紙に一点の墨を落としたような始まりの怪異が、だんだんとにじんで広がって行くような怖さだ。実話怪談なのか、それを模したフィクションなのかはそれぞれで判断するとして、まるで記者のルポのように淡々と書かれているところが、変に怖さをあおられるより怖いのだ。

とあるマンションの一室の怪異。それはなんてことない音。しかし時間が経つにつれて、他の部屋での怪異や住人が居着かないことが明らかになっていく。マンションとその横の戸建ての数件にまで怪異は及んでいた。怪異の源泉をたどる長い長い話だ。中盤までは細く続く話が、後半一気に明らかになっていき恐怖の坂道を転がり落ちるような勢いだった。

すべての怪談好きにおすすめしたい。

 

残穢
クリエーター情報なし
新潮社

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 / 米原万里

2013-03-30 | ブックレビュー 和書

エッセイである。著者はロシア語通訳者として長年活躍された米原万里さん。プラハのソビエト学校で送った子ども時代の思い出と大人になってからその時の三人の友人をそれぞれ訪ねた時の話し。三つの話しになっている。同時通訳者のエッセイなので言葉の使い方が巧みで絶妙。題名がちょっと残念だが、とても読み応えのあるエッセイだ。

60年代はまだ「鉄のカーテン」の時代。それに当時一般日本人も渡航が難しかっただろう共産圏の様子もわかる。印象に残ったのは、89年のチャウシェスク政権の崩壊後のルーマニアの様子。ベルリンの壁やソビエトの崩壊に続いたその出来事は、当時、陰惨なニュースにも関わらず何か明るい時代の到来のように感じたが、実のところ本当の民主化とは遥かに遠い出来事だったようだ。

また、彼女のいたソビエト学校はインターナショナルスクールだった。そこにはあらゆる理由で母国を離れた子どもたちのアイデンティティーやナショナリズムにあふれた場所でもあった。愛国心って何?そんな今こそ多くの人に読んでもらいたいと思うことが書かれている。

学生の頃ロシア語を勉強していた。ソ連にも行った。米原万里さんはあこがれの人だった。今でも、旧共産圏の国々が舞台になった本を読むのが好きだ。「同志」とか「自己批判」とか聞くと胸がきゅんとなる。これが「もえー」ということか。

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)
クリエーター情報なし
角川書店

呪い唄 長い腕II / 川崎草志

2013-03-30 | ブックレビュー 和書

「長い腕」の続編です。幕末から明治の頃に仕掛けられた名大工による復讐のための罠。因縁がいいねん。

続編ながら、前作よりさらに面白くなって一日で読んだ。「かごめかごめ」の唄に隠された秘密、そして幕末と現代が巧みに交錯し、話しはスピーディーに展開する。この過去と現在に話しを進行させているところが面白くて、作者の努力と工夫が感じられる文と構成になっている。

正直、童謡に隠された秘密とかって「またまた、ベタなことを・・・。」と思いながら読んだ。なるほど、そうきましたか。撒き散らされた伏線が一気に回収に入り、最後まで予測がつかなかった。欲を言えば、そんな都合のいいことってある?って思えるところがちらほらあるし、人物像とか人物の描き方がヒロインや重要人物以外ももう少し掘り下げて欲しいと思う。でもまた続きが読みたい。古いような新しいようなミステリーだ。

呪い唄 長い腕II (角川文庫)
クリエーター情報なし
角川書店(角川グループパブリッシング)

長い腕 / 川崎草志

2013-03-29 | ブックレビュー 和書

ホラー小説かと思っていたら、ホラーテイストのミステリーだった。横溝正史ミステリ大賞受賞作。

ゲーム業界がかいま見られ、おそらく一生知ることなかっただろう知識も得られた。読み初めはどこが横溝正史?と思ったが、大好きな「古い因縁話」が出てくるので期待通り。展開がとても早くて少々ご都合主義かと思わなくもないが、面白い。一気に読ませる。

謎の渦中にあり、それを解いていく女性主人公も魅力的。美大卒のPCデザイナーで華奢で美人。20代後半。最低限の物しか持たず、おしゃれにも無縁。プラクティカルと呼ぶのか、地に足をつけた生き方をしている。今の若者の理想の生き方の象徴ではないだろうか。

ミステリー好きの娘にもおすすめした。

長い腕 (角川文庫)
川崎 草志
角川書店

ムーミン・コミックス 黄金のしっぽ / トーベ・ヤンソン+ラルス・ヤンソン

2013-03-15 | ブックレビュー 和書

「有名人に友達はいません。かわりにマネージャーがいます。」

名言ですね。正直、ムーミンのアニメではない原作が、大人の読み物にも耐えられて、しかもこんなに面白いとは意外でした。元々、新聞の連載マンガだったとか。なるほど。アサッテ君みたいな。

一巻に二話収録されてます。

「黄金のしっぽ」

ムーミンのしっぽの先のふわふわしたところがなぜか寂しくなり、悩んだ末、彼はふさふさになるようにいろいろと試みるんですね。まるで頭髪に悩むおじさまたちの様ではないですか。この悩みには普遍性を感じます。ところが意外なことになりあっという間にムーミンは有名人になってしまう。庶民の代表であるムーミン一家がいきなりセレブ扱いとなって繰り広げられるどたばたや齟齬がおかしくて笑えます。

「ムーミンパパの灯台守」

灯台守の募集広告を見たとたん、ムーミンパパはかねてから灯台守となって海のそばに住み、壮大な海の小説を書くのが夢だったことを急に思い出して、一家で引っ越します。家にはムーミンママのお気に入りが沢山あるから、引っ越しは大変。男のロマンにつき合わされるのって大変。でもママは偉い。パパの小説のために良妻として尽くしますが、パパに暗黙の大きなプレッシャーを与えて・・・。いや、男って大変だわ。

時代を超え、文化を越えた普遍的な人の感性がすみずみに描かれていて、多くのレビューで繰り返されるように私も言いたい。

大人になって読むほど、面白いわ。

 

 

黄金のしっぽ ― ムーミン・コミックス1巻

クリエーター情報なし
筑摩書房