トマス・クックは好きな人にはたまらない。
全編に流れる、陰鬱な雰囲気。犯罪を取り巻く、どうしようもない事情。重い小説です。
謎が解けた後に、一層落ち込んで引きずってしまうようなミステリーばかりです。
「ジュリアン・ウェルズ」は、ミステリーではありません。クックの新境地かな?と思いましたが、最後まで鬱々とした印象を読者に与え続けているのは、変わりませんでした。
主な登場人物はわずかに5名程度です。
ジュリアンは、ノンフィクション作家。残忍な犯罪と犯罪者のみをターゲットにして本を書いていましたが、謎の言葉を残して命を絶ちます。彼の言葉の意味と、自殺の真相を探る為、親友のフィリップとジュリアンの妹、ロレッタが彼の著作とともに足跡をたどります。
章がジュリアンの一つ一つの著作になっています。取材先をたどる旅は、ヨーロッパから南米に渡ります。ある時は彼と過ごした青年時代の思い出、またある時は残虐な犯罪の描写。クックの小説は、どれもこんな風に「静」の中に「暴」があるようなイメージがあります。
闇と光、悪と良心。それがどんなものなのかを知りたい人に、おすすめです。
ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密 | |
クリエーター情報なし | |
早川書房 |