エッセイである。著者はロシア語通訳者として長年活躍された米原万里さん。プラハのソビエト学校で送った子ども時代の思い出と大人になってからその時の三人の友人をそれぞれ訪ねた時の話し。三つの話しになっている。同時通訳者のエッセイなので言葉の使い方が巧みで絶妙。題名がちょっと残念だが、とても読み応えのあるエッセイだ。
60年代はまだ「鉄のカーテン」の時代。それに当時一般日本人も渡航が難しかっただろう共産圏の様子もわかる。印象に残ったのは、89年のチャウシェスク政権の崩壊後のルーマニアの様子。ベルリンの壁やソビエトの崩壊に続いたその出来事は、当時、陰惨なニュースにも関わらず何か明るい時代の到来のように感じたが、実のところ本当の民主化とは遥かに遠い出来事だったようだ。
また、彼女のいたソビエト学校はインターナショナルスクールだった。そこにはあらゆる理由で母国を離れた子どもたちのアイデンティティーやナショナリズムにあふれた場所でもあった。愛国心って何?そんな今こそ多くの人に読んでもらいたいと思うことが書かれている。
学生の頃ロシア語を勉強していた。ソ連にも行った。米原万里さんはあこがれの人だった。今でも、旧共産圏の国々が舞台になった本を読むのが好きだ。「同志」とか「自己批判」とか聞くと胸がきゅんとなる。これが「もえー」ということか。
嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫) | |
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