ぼやきなおかんの本棚

本や映画、劇などのレビュー。
英米の古い短編怪奇小説、
日本語で入手困難なものを紹介してます。

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 / 米原万里

2013-03-30 | ブックレビュー 和書

エッセイである。著者はロシア語通訳者として長年活躍された米原万里さん。プラハのソビエト学校で送った子ども時代の思い出と大人になってからその時の三人の友人をそれぞれ訪ねた時の話し。三つの話しになっている。同時通訳者のエッセイなので言葉の使い方が巧みで絶妙。題名がちょっと残念だが、とても読み応えのあるエッセイだ。

60年代はまだ「鉄のカーテン」の時代。それに当時一般日本人も渡航が難しかっただろう共産圏の様子もわかる。印象に残ったのは、89年のチャウシェスク政権の崩壊後のルーマニアの様子。ベルリンの壁やソビエトの崩壊に続いたその出来事は、当時、陰惨なニュースにも関わらず何か明るい時代の到来のように感じたが、実のところ本当の民主化とは遥かに遠い出来事だったようだ。

また、彼女のいたソビエト学校はインターナショナルスクールだった。そこにはあらゆる理由で母国を離れた子どもたちのアイデンティティーやナショナリズムにあふれた場所でもあった。愛国心って何?そんな今こそ多くの人に読んでもらいたいと思うことが書かれている。

学生の頃ロシア語を勉強していた。ソ連にも行った。米原万里さんはあこがれの人だった。今でも、旧共産圏の国々が舞台になった本を読むのが好きだ。「同志」とか「自己批判」とか聞くと胸がきゅんとなる。これが「もえー」ということか。

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)
クリエーター情報なし
角川書店

呪い唄 長い腕II / 川崎草志

2013-03-30 | ブックレビュー 和書

「長い腕」の続編です。幕末から明治の頃に仕掛けられた名大工による復讐のための罠。因縁がいいねん。

続編ながら、前作よりさらに面白くなって一日で読んだ。「かごめかごめ」の唄に隠された秘密、そして幕末と現代が巧みに交錯し、話しはスピーディーに展開する。この過去と現在に話しを進行させているところが面白くて、作者の努力と工夫が感じられる文と構成になっている。

正直、童謡に隠された秘密とかって「またまた、ベタなことを・・・。」と思いながら読んだ。なるほど、そうきましたか。撒き散らされた伏線が一気に回収に入り、最後まで予測がつかなかった。欲を言えば、そんな都合のいいことってある?って思えるところがちらほらあるし、人物像とか人物の描き方がヒロインや重要人物以外ももう少し掘り下げて欲しいと思う。でもまた続きが読みたい。古いような新しいようなミステリーだ。

呪い唄 長い腕II (角川文庫)
クリエーター情報なし
角川書店(角川グループパブリッシング)

長い腕 / 川崎草志

2013-03-29 | ブックレビュー 和書

ホラー小説かと思っていたら、ホラーテイストのミステリーだった。横溝正史ミステリ大賞受賞作。

ゲーム業界がかいま見られ、おそらく一生知ることなかっただろう知識も得られた。読み初めはどこが横溝正史?と思ったが、大好きな「古い因縁話」が出てくるので期待通り。展開がとても早くて少々ご都合主義かと思わなくもないが、面白い。一気に読ませる。

謎の渦中にあり、それを解いていく女性主人公も魅力的。美大卒のPCデザイナーで華奢で美人。20代後半。最低限の物しか持たず、おしゃれにも無縁。プラクティカルと呼ぶのか、地に足をつけた生き方をしている。今の若者の理想の生き方の象徴ではないだろうか。

ミステリー好きの娘にもおすすめした。

長い腕 (角川文庫)
川崎 草志
角川書店

ムーミン・コミックス 黄金のしっぽ / トーベ・ヤンソン+ラルス・ヤンソン

2013-03-15 | ブックレビュー 和書

「有名人に友達はいません。かわりにマネージャーがいます。」

名言ですね。正直、ムーミンのアニメではない原作が、大人の読み物にも耐えられて、しかもこんなに面白いとは意外でした。元々、新聞の連載マンガだったとか。なるほど。アサッテ君みたいな。

一巻に二話収録されてます。

「黄金のしっぽ」

ムーミンのしっぽの先のふわふわしたところがなぜか寂しくなり、悩んだ末、彼はふさふさになるようにいろいろと試みるんですね。まるで頭髪に悩むおじさまたちの様ではないですか。この悩みには普遍性を感じます。ところが意外なことになりあっという間にムーミンは有名人になってしまう。庶民の代表であるムーミン一家がいきなりセレブ扱いとなって繰り広げられるどたばたや齟齬がおかしくて笑えます。

「ムーミンパパの灯台守」

灯台守の募集広告を見たとたん、ムーミンパパはかねてから灯台守となって海のそばに住み、壮大な海の小説を書くのが夢だったことを急に思い出して、一家で引っ越します。家にはムーミンママのお気に入りが沢山あるから、引っ越しは大変。男のロマンにつき合わされるのって大変。でもママは偉い。パパの小説のために良妻として尽くしますが、パパに暗黙の大きなプレッシャーを与えて・・・。いや、男って大変だわ。

時代を超え、文化を越えた普遍的な人の感性がすみずみに描かれていて、多くのレビューで繰り返されるように私も言いたい。

大人になって読むほど、面白いわ。

 

 

黄金のしっぽ ― ムーミン・コミックス1巻

クリエーター情報なし
筑摩書房

雪の断章 / 佐々木丸美

2013-03-09 | ブックレビュー 和書

うんと若い頃、ドラマだか映画だったかで話題だったような、でも内容がさっぱりと思い出せない。

幸い電子ブック(kobo)になっていたので読んでみた。タイトルが良かったので。

自分の若い頃の話しかと思っていたら、それからさかのぼること約10年ぐらいだろうか。舞台(北海道)といい、年代(1960頃?)といい三浦綾子さんの「氷点」を思わせた。ひょっとしたら、作者は「氷点」のオマージュとして書いたのでは?と思った。

ストーリーは、孤児の少女がいじめられた里親の家から逃げ出し、ある青年に出会い、彼に育てられる。そこで殺人事件に遭遇。恋愛、青春、ミステリといういろんな要素がある。主人公少女の語りで書かれているので、ライトノベルのようでもある。

いろんなレビューを見たが、古くさいと酷評するものもありそれはどうかと思う。小説の面白さは、その時代の世相や価値観を描いているところでもあるので、古くさいと言ってしまえば昔の小説は皆、読むに耐えられないものばかりになってしまう。

作者の佐々木丸美氏はすでにお亡くなりになっていて、著作は絶版であったらしい。復刊を望む人たちの尽力があって、今電子書籍も含め再販に至ったそうだ。

雪の断章 (創元推理文庫)
クリエーター情報なし
東京創元社