ぼやきなおかんの本棚

本や映画、劇などのレビュー。
英米の古い短編怪奇小説、
日本語で入手困難なものを紹介してます。

エレファントム /ライアル・ワトソン

2010-05-28 | ブックレビュー 和書
ワトソンさんがお亡くなりになったのを知らなかった。
これは彼の遺作らしく、少年期からのゾウに導かれた彼の人生を振り返る作品となった。

「ゾウのお墓」という言葉は子どもの頃に聞いた事があるような気がするが、実際知られている「ゾウの埋葬の儀式」の他にも、ゾウとはとんでもなく知能の高い動物である事がここにはたくさん書かれている。絵を描くチンパンジーどころの話ではない。
読んでいて、「ほんとう??」と思ったことが何度もあったが、信じたい。ヒト以外の動物には、まだまだ想像を絶することがいっぱいあるが、我々はたぶん認めたくないのだろう。あまりにもヒトに近く、その能力を超えることもあるのだから。

ワトソン氏のいろんな説の中には、怪しい物もあると言われるが、決してすべてではない。彼はあくまで科学者なのだから間違っても仕方がないと思う。そんなことで、彼の作品を読まないほうがもったいない。

ワトソン氏の見た、「白いゾウ」とは一体なんだったのか。現代の人々の記憶に時おり現れる、遠い昔に絶滅したゾウたちは、一体どこからきたのか?

「謎」を残したままである。


エレファントム
象はなぜ遠い記憶を語るのか



ライアル・ワトソン

木楽舎

このアイテムの詳細を見る

存在の美しい哀しみ / 小池真理子

2010-05-14 | ブックレビュー 和書
ケチケチ主婦の私が、珍しく新刊本(文庫じゃないやつ!) を買いました。
期待は裏切られませんでした。

もともと作者の小池真理子さんはどちらかというとニガテな方。これは彼女の新境地的なものか。

短編の連作で、でも続編ではなく登場人物がそれぞれつながっている。そして様々な視点からかかれている。
こういう手法のものをあまり読んだ事がないから、新鮮だった。

亡くなる直前に母親から、自分には年子の異父兄がいると告げられた28歳のOL榛名は母の死後、その兄がチェロを学んでいるプラハを訪れ、正体をかくしガイドとして彼をやとう。
話は、榛名から、母の奈緒子へ、その同僚であった青年へとまるで細い糸につながれたかのように進んで行く。彼らに共通する物は何とも言えない「喪失感」なのだ。けれど最後にその「細い糸」がまるで「輪」のようにつながったような印象が残った。
すがすがしい感じがした。

「失われた家族」とか「離れて暮らす血縁」とかのテーマがいいけど、なんといっても「プラハ」。
東欧とか、旧社会主義国がたまらない。

The House at Riverton / Kate Morton

2010-05-11 | ブックレビュー 洋書
ケイト・モートン「リヴァトン館」読みました。

90歳も越して人生の最終にさしかかる老女Graceの、若い頃の回想として話が進んで行きます。

1910年代、イギリス。Graceは14歳でRiverton Houseという、貴族のお屋敷に働きに出る。
読者である私には、彼女がこれから体験するであろう二度の大戦を知っているが、田舎町の屋敷ではまだ華やかな生活がみえる。執事、コック、メイドなどの使用人たちも生き生きと毎日を送っている。
そのRiverton Houseで起った、ある詩人の自殺事件は当時の一大スキャンダルだった。未だに真相は明らかではなく当時者もGrace一人を遺してみんな亡くなっていた。これまでもミステリアスな事件としてたびたび取り上げられていが、映画化がきっかけとなりGraceの過去への心の旅が始まったのだった。

事件の真相はもちろん話の重要な「核」ではあり、最後の最後まで読者を引っ張ります。でもそれが話の中心ではなくて、20世紀始めの頃のいろんな人々の生活とか、気持ちとか、そういう物で物語を読ませてくれます。当時の生活を再現するために、参考にした文献や小説を、作者はあとがきでたくさんあげていました。
話の中にちりばめられた小さな伏線が、なかなかはっきりと読者にそうとは言わないのに、いろんなことを教えてくれるあたりが、私のこの小説の好きな所です。

読んでいる途中、90歳代のGraceに共感して、何ともつらく感じるところもありました。

The House at Riverton


Pan Books


このアイテムの詳細を見る