チョコレートの健康上の利点については、どこかで耳にしたことがあるでしょう。バレンタインデーもあり、また一段と喧伝されていますね。「チョコレートには抗酸化物質が豊富」とか、「チョコレートには健康上の利点がたくさんあって、研究で実証されている」とか。でも、チョコレートが本当に体に良いかと聞かれたら、実はそうとも言い切れないのです。この記事で詳しく説明しましょう。
「スーパーフード」は聞こえの良い宣伝文句であって、栄養学用語ではない
米国ではチョコレートは「スーパーフード」と称されることが多いのですが、栄養学の観点から言えば、「スーパーフード」は意味のある用語ではありません。マーケターやメディアの狙いは、特定の食べものに含まれる1つか2つの栄養素だけに光をあてて、その食べものに「スーパーフード」のラベルを貼りつけ、消費者の熱狂を煽ることにあります。非営利ニュースメディア「Mother Jones」の記事にもあるように、食品業界は、健康上の利点を宣伝してブームをつくるサイクルに、あえて乗っているのです。というのも、そうでもしなければ、食品の販売は経済的につまらない事業になってしまうからです。毎年、3億人の人が、ちょうど3億人分の食べものを必要としているだけなら、商売のおもしろみなんてありません。
たしかに、これまでの研究では、ココア抽出物や、一部のダークチョコレートについて、健康上の小さな利点が実証されています。にもかかわらず、マーケターはそうした研究結果を利用して、ミルクチョコレートや、スムージーミックス、ナッツチョコ、高級チョコレートなどの商品を宣伝しています。健康に良いと言われると、私たちは特定の商品をたくさん食べるようになり、パッケージの表示以上にヘルシーなものと見なすようになります。研究者のあいだでは、この現象は「ヘルスハロー効果」と呼ばれています。
欧州では、なんらかの科学的証拠に裏づけられていないかぎり、「スーパーフード」という言葉を食品表示に記載することはできません。ところが米国には、そうした規則はないのです。
チョコレート研究はなぜ、さかんに行われているのか
ココアの健康上の利点を調べる研究はさかんに行われていますが、その資金はどこから出ていると思いますか? チョコレートを売っているNestleやMarsなどの企業や、米国チョコレート製造者協会(CMA)の研究部門などです。…もっとも、そうした組織から資金が出ているからといって、必ずしも研究結果がまちがっているとか、バイアスがかかっているというわけではありません。実際に研究を行っているのが大学の研究者なら、まず問題はありません。分野は違いますが、原文筆者は、あるカンファレンスで、遺伝子組み換え作物を研究する科学者のこんな発言を聞きました。「業界関係者による資金提供があっても、研究結果にバイアスがかかるわけではありません。ただし、研究で設定されるテーマについては、資金提供に影響されると言えるでしょう」。
抗酸化物質を含む身近な食品はほかにもたくさんあるのに、毎年毎年、チョコレートにこれほど多くの注目が集まる理由は、これで説明がつくはずです。
あなたが今チョコレートに関する記事を読んでいるのにも、理由があります。チョコレートの健康上の利点をめぐる関心は、毎年2月前後にピークを迎える傾向があります。バレンタインデーは、メディアでチョコレートの話題をとりあげるのにぴったりのタイミングです。1年のこの時期になると、企業の多くは躍起になって、消費者がチョコレートを食べる気になるように仕向けます。特に宣伝をしなくても、お店でチョコレートを目にすれば、消費者は思わず買いたくなるでしょう。さらに、その直前にメディアで、「チョコレートは健康に良い」と聞かされていたなら? チョコレートを食べることが正当化されますね。チョコレートは健康食品も同然なのだから、安心してたくさん買える、というわけです。
研究結果の本当の意味を探る
チョコレートとココアに関しては、あまりにもたくさんの研究が実施されているので、その内容をすべて説明することはできません。ここでは、いくつかの主要な説に注目してみましょう。
「チョコレートには抗酸化物質がたくさん含まれている」。体内ではなく試験管内で測定した場合、ダークチョコレートの酸素ラジカル吸収能(ORAC)は、20,816です。この値は、モロコシ、アサイー、ローズヒップ、各種のスパイスよりは低いものの、ラズベリー、ペカンナッツ、ショウガをわずかに上回っています。でも、ひとつ問題があります。米国農務省(USDA)は、2012年にORAC表の公開をやめています。その理由は、「ORAC値には生物学的活性との相関性がない」というもの。つまり、ORACは無意味なトリビアというわけです。「ココアは心臓に良い」。…たしかに、ある意味ではそうです。医療情報の収集と分析を行うコクラン・ライブラリーのサマリーでは、ココア製品(一部の研究では、通常サイズのダークチョコレートを含む)により、血圧が2~3ポイント低下するケースが見られたと報告されています。ただし、実施された無作為化比較試験は、いずれも長期的なものではなく、心臓発作の発生率や死亡率といった重要な数字に関するココア製品の影響も測定されていません。もっとも、血圧が2ポイントでも下がるなら、まったく下がらないよりは良いと思う人はいるでしょう。そのほかの主張...いろいろありますが。減量、運動能力の向上、抑うつ状態の改善など、あちらこちらでさまざまなチョコレートの効果が喧伝されていますが、誰もが納得する質の高い証拠は得られていません。たしかに、個々の研究では、特定の病気に対する効果が示されています。この記事を斜め読みした人が、コメント欄でそうした研究の結果を書きこむかもしれませんが、それはいわば、不確実な情報にもとづく反論です(まともな反論があるなら、むしろ大歓迎です)。現在の暫定的な研究結果が、今後の研究によって裏づけられる可能性はあるのでしょうか? もしかしたら、そうなるかもしれません。もっと多くの結果が出そろった時に、もういちどチェックしてみると良いでしょう。
さらにあなたの目を覚ますことになるでしょうが、残念な事実を指摘しなければなりません。これらの研究では、たいていの場合、本物のチョコレートが使われているわけではないのです。
記憶力とココアに含まれる抗酸化物質との関係を調べる研究を率いたある医師は、「CBC News」の特集のなかで、次のように語っています。この特集は、チョコレート神話を崩壊させる、優れたものでした。
「(私たちの研究で使った「フラボノールを豊富に含む物質」は、)チョコレートではありません。とはいえ、カカオ豆由来の物質には違いないので、混同する人がいるのは無理もありません。チョコレート自体にも、そうしたカカオ豆由来のフラボノールが多少は含まれているかもしれませんが、そうだとしてもきわめて少量です。ですから、『チョコレートを食べなさい』とすすめる見出しに、私は医師としてちょっとした懸念を抱いています。私としては、それは推奨しません」。
チョコレートの健康上の効果をめぐる記事をよく読むと、たいていの場合、「ココア」や「カカオ」や「抽出物」といった単語が見つかります。…これらの単語から読みとれるのは、研究対象になった物質が、私たちのイメージするチョコレート製品ではなく、混じり気のない化学物質であるという事実です。そうした精製物は、必ずしも普通に買えるとは限りません。
健康になりたいなら、どんなチョコレートを食べるべき?
この点については、「チョコレートには脂肪分と糖分が多いから、たくさん食べてはいけない」とする記事もたくさんあります。でも、ここではそうは言いません。チョコレートはおいしいもの。ですから、好きなだけ食べれば良いのです。チョコレートを食べるのは、おいしいからですよね? 超ヘルシーになれると思っているからではないはずです。
仮に、あなたがチョコレートを健康改善に活かしたいと思っているとしましょう。血圧を2ポイント下げようとしている人もいるでしょうし、「チョコレートはやっぱり減量の特効薬だった」と発表される日が来る可能性に賭けている人もいるかもしれません。その場合、どんなチョコが一番良いのでしょうか?
専門的に言えば、もっとも多くの抗酸化物質を含むのは、加工を最小限に抑えたココアパウダーです。とはいえ、ココアパウダーをスプーンですくって直接食べる人はいないので、「チョコレートのかわりにココアパウダーを使え」というアドバイスは、現実を無視したものと言えるでしょう。
ココアがチョコレート製品になるまでには、ココアに含まれるフラボノール(しばしば研究対象になる抗酸化物質の一種)の大半が失われてしまいます。ですから、先ほど紹介したCBC Newsの特集で研究者が語っていたように、健康上の効果が見こまれる化学物質の量は、チョコレート製品ではほとんどゼロにまで減ってしまうのです。とはいえ、血圧に関する研究のなかには、ダークチョコレートでも実質的な利点が得られることを示すものもあります。
少なくとも研究室では、チョコレートに含まれる抗酸化物質の量とカカオ含有率とのあいだには相関性が見られます。米国食品医薬品局(FDA)は、「ダーク」チョコレートと表示するためには、カカオ含有率が35%以上でなければならないと定めています。
ダークチョコレートは、ミルクチョコレートと比べると、糖分が少なく、脂肪と食物繊維が多く含まれています。Green & Black'sのミルクチョコレート(カカオ含有率は34%なので、このカテゴリーではかなり高い方です)を、カカオ含有率70%のダークチョコレートに切り替えると、脂肪分は13グラムから17グラムに増え、糖分は19グラムから11グラムに減少します。…
結論:チョコレートは体に良いの?
その答えは、チョコレートを食べる理由によって変わります。血圧が心配で、食事や運動などで可能な限りの対策をとっている人が、その努力にちょっとした活力をプラスしたいのなら、1日1かけらのチョコレートを食べて、効果が出るかどうかをたしかめてみるのも良いでしょう。
いっぽう、「スリムでヘルシーな体を保ちたい」となんとなく考えているだけの人や、記憶力や運動能力、幸福感、お肌の状態を改善したい人にとっては、チョコレートは実質的な役には立たないでしょう。
もしあなたが、ヘルスハロー効果に頼って、チョコレートをおなかいっぱい食べるのを正当化しているのなら、「スーパーフード」という呼び名は、役に立つどころか、有害なものになってしまいます。
ともあれ、チョコレートを楽しむのに、わざわざ誰かに許可をもらう必要はありません(その点は、チョコレート以外のものも同じですが)。「おいしいから」という理由でチョコレートを食べたり、食生活にとりいれたりしても、なんの問題もありません(それが失敗だったと気づいたら、うまくリカバーすれば良いのです)。チョコレートはヘルシーだから、なんて言い訳は必要ないのです。食べたい時に食べましょう。
Beth Skwarecki(原文/訳:梅田智世/ガリレオ)Photos by Martin Cooper, Mike Mozart, Jim Bauer, US Navy, Clint Budd.
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