いまのひとには想像もつかないだろーが、旧漢字体を読み書きしていた昔の人たちは、大変だったでしょー
今現在使っている漢字は、略式表記であり(中国の簡体字みたいなものである)……
昭和30年代後半―東京オリンピックの頃、日本中の印刷物で現在の漢字体が使われるよーになったのであり、それまでは画数の多い旧漢字体(真漢字)を使用していたと記憶する
[ ex.舊→旧、寶→宝、壽→寿 ]
★ 豆知識「寿」の旧字の「壽」は字形から
「さむらい(士)のフエは一インチ(吋)」と覚える
(*『漢字源』より)
私の若かった時分には、まだ旧漢字を使った本がわずかだが店頭に並んであった
忘れられないのが…私が初めて読んだ旧漢字の本…… 五味康祐『柳生武藝帳』全三巻・新潮文庫-である
剣豪小説の白眉とも謳われる、この未完の傑作をどーしても読んでみたかったのである
現在では、家光公の剣術指南役だった一大名(大目付)柳生但馬守が、影の組織「裏柳生」をつかって幕府の汚れ役をしていたたゆー歴史的視点は珍しくもないが……
一連の「柳生もの」で、精緻な剣豪小説を純文学的なミステリー小説へと昇華させた五味康祐を嚆矢とする
五味の芥川賞受賞作は『喪神』、幻の無住心剣術を想わせるよーな純粋なる剣豪小説である
当時の『柳生武藝帳』文庫本はたしか、旧漢字をつかった古い版しかなかった
聖書も昔の文語訳は格調高いが読みにくいものだが…… この、日本浪漫派(保田與重郎)の流れを汲む作家の、雅やかで詞藻豊かな文章(手相は観るはクラシック音楽評は玄人はだしの風流人であった)には、読みにくいにも拘らず一字一句に魅了されたのである
しかし、最初はまったく読めなかった
そこで、漢和辞典・古語辞典・国語辞典を傍らに控えて、一行ずつ読み解いていった
時間が掛かった
が…… 、それは、美しい日本語に触れる至福の時間でもあった♪
徐々に馴れて、すらすら読めるよーになった頃には最終巻になっていた
いままで、この未完の剣豪小説は5回くらい読んでいるが…… 、2~3回目が一番面白かったと感じる
長々と読書談義を書き綴ったが…… 東京オリンピック頃までのサラリーマンは、この旧漢字を読みこなし、柴錬の『眠狂四郎無頼控』や五味の『柳生武藝帳』連載で売上を伸ばした『週刊新潮』片手に、通勤電車に揺られていたのである(この二作は、「洛陽の紙価を高からしめた名著」と謳われた大ヒット連載小説である)
たかだか50年位前の話だが、和漢の素養の質が段違いだったのはお分かり頂けよー
_________玉の海草
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