__ 人類って、狩猟生活から農耕生活への大転換を始めとして、幾多の変遷をへて、余剰な財産が貯まったことで、いわゆる「文化生活」に入るわけなんだけども、
いまに繋がる「豊かな市民生活」の原点は、古代ギリシアにあるように思うんだよね。
エジプト文明やメソポタミア・インダス・黄河もあるのだが、現代世界に直接つづいているかと言えば、そうではない。
日本最後の碩学といわれる井筒俊彦博士🎓は、ギリシアも広くアジア圏に含めておられる。
となると、アジア・ユーラシアが世界を席巻したということになる。
世界の各地で、賢者がいてそれぞれの文明を押し上げたわけだけども、それらをかき混ぜて、色々な画期的な化学反応を引き起こした人物がいる。
アレキサンダー大王(アレクサンドロス3世)である。
大王の故国マケドニアは、ギリシアのすぐ北の隣国であった。大王の父君は、愛息のためにわざわざこい願ってギリシアから賢者アリストテレスを呼び寄せて、息子の家庭教師に任命した。
アレキサンダー大王は、つまりアリストテレス(BC384〜BC322)の直弟子である。
そして大王は、マケドニアの版図を拡げるにあたり、アリストテレス学も一緒に伝播させた。
アジア方面の東征はインドまで及んでいる。
アリストテレスの論理学は、間違いなくナーガルジュナ(龍樹)の仏教(大乗哲学)に影響を及ぼしている。
仏教界は、アリストテレス論理学を受け入れる際に、それを「因明」という形に整えた。
大乗仏教にしても、ガンダーラ美術(古代ギリシア彫刻由来)にしても、アレキサンダー大王のもたらしたアリストテレス学を取り込むことによって生まれたといっても過言ではない。
【ヘレニズム文化(ギリシア文化とオリエント文化との融合)の結実、西洋的な風貌をしたガンダーラ仏像】
そして、その龍樹の論理学を、ヴェーダーンタの始祖・シャンカラが借用して、現在もっとも精緻と思われるアドヴァイタ(非二元)へと結晶化して……
現代の聖者といわれる聖ラマナ・マハリシやニサルガダッタ・マハラジを輩出するに至る。
古代ギリシアは、人文系では「ギリシャ神話」や「ギリシャ悲劇」を産んだ国である。
古代ギリシア系の哲学・論理学が、インドのヒンドゥー哲学の礎となったばかりか、西洋に伝播してはキリスト教系の神学となって花開いた。
キリスト教の原始教典は、ギリシア語やラテン語で綴られている。
同様の文化的な攪拌は、シルクロードを通って、インドにも中国にも波及したのである。
アリストテレス学は、アレキサンダー大王の征服にともなって、世界中に移植され育苗されたといえるのではないかな。
おおきな思想的建築を作ろうと思ったら、「構造」をもたない、ただの信仰だけではできない(森敦説)。
カルチャーが、カウンターカルチャーを取り込んで完成形に近づける…… この複雑さが構造をもたらすのです。
仏教建築の大伽藍は、そうした「構造」の集積を象徴しているのかも知れない。
例として、
仏教とキリスト教とのコレスポンデンスを対比してみると…… (以下、瀬戸内寂聴の説)
・密教の灌頂<キリスト教の洗礼
・坊さんの「七条の袈裟(糞掃衣由来なのだが、豪華な拵え)」<カソリックのミサで神父の着るガウン
・仏教の柄香炉(えごろ)<カソリック・ミサで香炉を振る
・仏教の「声明(しょうみょう)」<グレゴリオ聖歌
日本の声明は、中国で大成されたものを受け容れた。そのためインド由来のチベット声明とは全く異なっている。この日本の声明の呂律(ろれつ)から、能ー謡ー浪花節ー子守唄ー民謡等々の節回しが生まれる。
アリストテレスの学問(数字・ファクト・ロジック)は、上記でみてきた人文系だけに留まらない。
NASAは、アリストテレスを源流としたニュートンの科学を採用している。(つまりプラトンは認められていない)
アリストテレスの、数学・天文学・科学を発展させた最終形が、NASAという組織に結実する。
つまり、驚くべきことに人文系も科学系も、その礎となった人物は古代ギリシアのアリストテレスだということだ。
またヨーロッパ思想の地下水脈を辿れば、アリストテレスの師・プラトンのネオ・プラトニズム(新プラトン主義)にも突き当たる。
生涯に四度見神しているプラトンは、多分にオカルティックな人物だが、詩情ゆたかな処や数学(特に幾何学)を重視した処に「知の巨人」の面影を観る。
【ラファエロ『アテナイの学堂』、天を指すプラトンは当時のダヴィンチがモデルで、掌で地を指すアリストテレスは当時のミケランジェロがモデルだそうです。ソクラテスとアレクサンダー大王は、画面のもっと左側に話しかける男と右手を大きく挙げた男として描かれています】
プラトンの師・ソクラテスから、ある意味ギリシア哲学を完成させたアリストテレスにまで、色濃く浸透している或る思想がある。
ピュタゴラス教団である。
ピュタゴラスの秘教スクールは、秘密教団の魁といえるものである。
ピュタゴラス(BC582年〜BC500年頃)は、数学者として史上有名だが、実のところ宗教者といった方が適切な感じがする。
隠された秘教(=オカルトoccult)を、古代ギリシアの哲学者たちに伝えたのであろう。なかでも「輪廻転生」思想はインドから伝わったように言われているが、果してどうなのだろうか? 案外ピュタゴラスが先なのかも知れなかった。
哲学は、その秘教の一部だったろうと思われる。
ピュタゴラスは、グルジェフの大著『ベルゼバブ』にも、実名で出てくるほどの聖者である。
[※ 『ベルゼバブ』の物語は、聖なる位階にある宇宙人ベルゼバブが、惑星地球の三脳生物(つまり人類)の異常な生態を調べるために地球に滞在したときの思い出語りとなっている。古代エジプトや古代インド古代中国、古代チベットの聖者たちが出てくるが、史上知られた名前で出てくるのは、ピタゴラスと仏陀くらいであろうか。]
ピュタゴラスの天文学は、コペルニクスが地動説の拠り所としたくらいに史上重要な叡智が含まれている。
古代ギリシアの物語が、世界中で語り継がれるのは、おそらくピュタゴラスの普遍性によるものだと思う。
ピュタゴラスの思想を全面的に、市民生活に合うレベルに顕現させたのが、アリストテレスということになろうか。
ピュタゴラスの数学は、音楽🎵にまで及んでいる。世界中の音楽の父は、ピュタゴラスといってもよいだろう。
16世紀初頭に、突如として完成した形で出現した楽器「ヴァイオリン🎻」のように……
ピュタゴラスの時代に、古代ギリシアに突如として、ある程度網羅した形で、論理学→数学→科学の礎が築かれた。こうした構造的な変化は、地球由来のものではないような気がする。
ーざっと、古代ギリシアのカルチャー(文化)の流れを追ってみたが、まさに人類科学文化の原点である。
一言でいえば、「健全なる肉体に健全なる魂が宿る」
つまり、体主霊従の構図であろう。
天地照応(コレスポンデンス)の調和は、人間では霊肉の調和である。
その調和を見出すために、全世界で「修行」なるプラクティスをやるようになったかと思うと、そぞろに可笑しくなる。
内外ともに美しい、そこに人間の原型(イデア)をおいた古代ギリシアは、けっこう日本と似ている。
三島由紀夫が理想としたのも、古代ギリシアであった。
_________玉の海草