__お公家さんの 「 〇〇でおじゃる 」 とゆー話し振りは、映画『柳生一族の陰謀』(1978)において、初めて登場した
深作欣二監督と、千葉真一ががっぷり四つに組んだ本格派時代劇は、いま観ても豪華すぎる布陣で、サニー千葉ちゃんの初めての時代劇挑戦であった
【 RIP. JJ.Sonny Chiba ちゃん、あなたほど天下の剣豪・柳生十兵衛を知り尽くした人はおられますまい、優雅にして力強い剣戟で時代劇の品位を高めた功績は測り知れない、つつしんで哀悼の気持ちを捧げいたします 】
「裏柳生」 とタイトルに書かれた原案を千葉ちゃんが持ち込むと、オリジナリティに富む深作監督が間髪入れず「面白い」と応じたそーだ
秘密裡に「倒幕」を悲願とし、天皇親政をもくろむ公家衆と、圧倒的な武力を持つ徳川幕府との暗闘……
朝廷側の交渉役は、烏丸少将文麿や三条大納言、主上(天皇)へ奏上できる職権をいいことに、のらりくらりと和歌を吟じるよーに、間のびしたやり取りで、幕府方の使者を苛立たせる
朝廷vs幕府の火花散る、そんな緊迫した場面で…… 簡潔果断な武家言葉に対抗して、のんびりとのびやかに柔らかい公家言葉「おじゃる言葉」が、殿上人の法外な誇りと独特な宮廷の雅びを感じさせた
ー 高校の頃、たしか日曜の午後二時ころでしたか…… テレビ版『柳生一族の陰謀』が放映されていました
柳生十兵衛は小さな時分より大好きで、サニー千葉ちゃんの十兵衛は出色の出来です
他には、若林豪 や 近衛十四郎 なんかいいですね
このテレビ版には、いい役者が剣豪として出ておられました
忘れられないのは、「八寸の延金」の真新陰流・小笠原玄信斎には 南原宏治 さん、柳生連也には 石橋蓮司 さんとか……
[※ 映画🎞の小笠原玄信斎は、丹羽哲郎がやったおられた
徳川家康の剣術指南をした奥山休賀斎(上泉伊勢守の弟子)の弟子で、中国に渡り「八寸の延金」を会得、帰朝して、真新陰流の道場を開いて、無敵を誇る
神谷伝心斎(直心影流)や針谷夕雲(無住心剣)など、名人と謳われる弟子を輩出した]
そーした大看板を向こうにまわして極めて異彩を放ったのは……
映画版から引き続き同じ役を演じられた烏丸少将文麿の 成田三樹夫 と、映画では三条大納言でTVでは中院通村を演じた 梅津栄 さんでした
当時、進学高に通っていた私は、数学の章末テストとゆーものが二週にいっぺん位あるのですが、合格点とるまで何度でも追試を行うのです
追試受けているうちに、次の章末テストが来たりして ♪、まさに自転車操業の忙しさでした
心も追い詰められて荒んでいたものです
そんな状況下で、画面いっぱいに繰り広げられた狩衣装束のお公家さん同士の珍妙なおしゃべり…… 鮮烈なインパクトがありました
御所の控えの間みたいな処で「おじゃる言葉」を駆使して優雅に武家の悪口を言い合っては「オホホホ」と笑い合う烏丸少将との遣り取りには、腹の筋肉(ブルースリーを信奉してた私は当時シックスパックに割れていました)がよじれるほど笑わせてもらいました ♪
[※ おそらく第六回、池広一夫監督「根来忍者は死なず」でのことでは(?)と思う]
🌿__ 追加(20230103)
時代劇チャンネルでやっていたので、第6回を観てみたら、梅津栄の演っていた役は中院通村卿で、テレビ版『柳生一族の陰謀』には、この一回しか出ておられない。私が感動したのは映画版で、「和歌を詠める」と歌うように朗々と語り出す三条大納言バージョンかも知れない。訂正してお詫び申し上げます。
暗く苦しい高校生活で、腹の底から笑いが込み上げてきたのは、この「おじゃる言葉」の掛け合いだけだったかも知れません
[※ この 公家の口語「〇〇でおじゃる」は、俳優・梅津栄さんの発案創始されたものです。
【画像:東映映画 深作欣二監督『柳生一族の陰謀』より、三条大納言】
室町時代の公家は実際このよーに遣ったよーですが、江戸時代の公家に「おじゃる」と喋らせたのは、梅津さん夫妻の図書館通いの成果と飛び抜けた言語センスであったのです]
成田三樹夫は声が重低音で、すこぶる響くのですが、滑舌のよい甲高い裏声もまたよいのです
真面目半分、冗談半分のよーなお公家さんの、朗々と和歌を吟ずるかの様な言葉の遣り取りには、正味衝撃を賜りました
笑い過ぎて、肉離れ起こすんじゃないかと本気で心配したほどです
『柳生一族の陰謀』は藩のお取り潰しや忍者の使い捨てなど、裏工作のリアルも描かれていたので、成田さんらの「マロ」の滑稽みは一際耀きを放ち、奥行きのある時代物語に成ってゆきました
‥‥ 梅津栄と茂子夫人が、幾日も図書館に通いつめて二人三脚で創案された「おじゃる言葉」を、実際に撮影現場で試したところが、
梅津さんの、あの神妙な面持ちと大真面目な口調で「マロは、〇〇でおじゃる」と発するものだから、スタッフ一同堪らずに大爆笑だったと聞きます
撮り直しても、梅津さんの三条大納言のセリフに差し掛かるや、またぞろ皆が笑いを堪え切れず撮影にならなかったほど、ウケたそーです
梅津栄とゆー役者は、狂気を孕みながらも、フツーも出来て、突き抜けたよーな大胆さと人懐っこさのある御仁でした
ドラマ『必殺仕事人Ⅳ』で、ひかる一平演じる順之助を「順ちゃ〜ん」と追いかけ回して、抱きついては接吻を迫るオカマのおじさん「広目屋の玉助」にも、ほのぼのと奇天烈な魅力がありました
【画像:朝日放送 『必殺仕事人Ⅳ』より、広目屋の玉助】
あの滑舌と知性あふるる冷徹な眼差し(頭が切れすぎて、いっそ阿呆な印象)は、滑稽みのある温かな風貌とあいまって、主役を喰らう脇役でした
書も能筆なんですね、「海人」のいきいきと躍動する隷書が素晴らしい、境涯の書ですね
【画像:梅津栄さんの書】
むかしは、凝って練れた唯一無二の演技をする面白い役者がよくいらっしゃった
『子連れ狼』の「虎落笛(もがりぶえ)の回、黒鍬者の強敵「弁天来」の長兄で冷静沈着な弁馬や、特撮ヒーロー『レインボーマン』の師匠ダイバダッタ、それに江戸川乱歩の『人間椅子』の演技も不気味だが人間味あふるる眼差しに温もりがある名優・井上昭文
【画像:フジテレビ『座頭市物語』より】
おなじく『子連れ狼』で、原作を上回る出来映えの「阿部頼母(怪異)」を演じて、時代劇ファンを心底唸らせた、高貴な御方から下卑た悪党まで、なんでもござれの名優・金田龍之介
【画像:NHK大河ドラマ『葵徳川三代』より、天海大僧正】
【画像:日本テレビ『子連れ狼』より、ご公儀御口唇役(毒見)・阿部頼母】
そして、NHK大河『新平家物語』(1972)で、左大臣藤原頼長を演じて、かの白洲正子をして、その品のいい立居振舞と衣冠束帯のいかにも似合う佇まいに瞠目させた名悪役、成田三樹夫 ……
【画像二枚共:NHK大河ドラマ『新平家物語』より、悪左府・藤原頼長卿】
実は、私の母校の先輩なのである、成田三樹夫の姪子さんと同級生だったのが私の密かな自慢だ ♪、つつましく穏やかな美人で小さい頃は悪役の親戚だからとよく虐められたそーだ、成田三樹夫は東大中退して山形大に入り直してまた中退…… 地のままで「インテリ・893」の出来そーな教養を兼ね備えていらした
烏丸少将文麿は、彼のもっとも高潔な風雅があらわれた役だったと思う(文武両道で、筋骨隆々な京流の剣豪である)
【画像:東映映画『柳生一族の陰謀』より、烏丸少将】
千葉ちゃん、『柳生一族の陰謀』を率先して引っ張ってくださり、まことに有り難う御座います
時代劇の世界は、武家の「不自由さ」ゆえに傑出した物語が生まれる土壌があるんですね
ちゃんと、刃筋を立てて打ち込む美しい太刀遣いをみせる 佐藤健 や、本物の武術家の体捌きをみせる 岡田准一 のよーに 「 一行三昧 」 な時代劇役者も育ってきています、どーなることやら、武士道とチャンバラ時代劇とは一蓮托生のよーな気がするなあ
時代劇は案外、日本文化の牙城であるのかも知れん
_________玉の海草