はまあるきの東屋

 ブログ、ホームページ、釣、畑、ハイキング、園芸、読書など趣味の多い壮年の精神科医師です。奇麗な写真をおみせします。

岩国市の医師の随筆集

2016-05-08 06:15:10 | 読書


人間は道を歩くもの
=沖井洋一随想集=

樹海社
700円+税
2013年

 この本は岩国市の沖井洋一先生の第一作の随筆集「ドン・キホーテなハムレット」と
同様もう絶版になって、購入できないのが残念です。
 

(北から来た二人)が一番印象的でした。
 若い兵士が岩国の居酒屋「最上川」に来て、
女店員のツヤちゃんが「なまり」からすぐ同じ山形出身だと解ります。
二人はすぐ親しくなります。
あるとき柱島の方の海で大爆発があったことが客の話題になり、
そのことをツヤちゃんがその若い兵士に質問します。
そのことが原因か、その青年は店に潜伏していた憲兵に引っ張られたことが人づてに解ります。
ツヤちゃんは、自分が質問したせいだと、悲しみ、鉄道自殺します。
そして、だいぶたってその青年は「最上川」にやってきて、
ツヤちゃんが亡くなったことを知り、山の松の木で自殺します。
たった10ページの文章なので、スキャンして、
私のホームページ
http://www.geocities.jp/naohaguma/kurono.htm)に載せました。

(お国ことば)
 (お産のため入院した妻と同室の)母親は痛がる娘をさすりながら、
同じように痛がる私の妻に声をかけた。
「ニガりますか」
「いいえ、ニガくはありません」

(卵を産まなくなった鶏)
「大日本帝国海軍航空隊岩国基地は昭和13年から設営が始まり
、昭和14年には訓練機が飛び始めていた。」
 「この音のため得中のおじさんの鶏があまり卵を産まなくなったと云うのである。
おじさんはたまりかねて、隣組の組長さんに
『なんとか飛行に静かに飛んでもらう事はできないだろうか』と相談にいった。
隣組の組長さんは『軍人さんは命がけでで猛訓練しているのに、
なんということを云うのだ。この非国民者。
そんな鶏は首を締めて処分してしまえ。』

(五感が覚えているもの)
 聴診器に小さな吐息を吐くと「それは岩国が終戦の前日(8月14日)に爆撃された時、
防空壕の中で聞いた爆弾が落ちている音である」
 自分の患者でもある、自分の(肺がんであることが解ったばかりの)恩師にこの音を聞かせると
「これは。大砲の弾が飛んでくる時もこんな音だったよ。
この音がだんだん強くなって弾が近くに着弾して爆発するのだよ」と大陸での実戦経験をおっしゃった。