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NOVA精算規定は無効、高裁でも受講者勝訴

2006-03-12 | 裁判
※中途解約希望の方はこちらへ → NOVA中途解約訴訟の判決は妥当か
 (記事に下に多くの方がコメントを残してくれています)


2月28日に東京高裁でNOVAの裁判がありました。今回もNOVAが敗訴しています。
原判決は昨年9月26日に東京地裁で行われましたが、NOVA側が17人の弁護士を立てたのに対し、原告の受講者は1人の弁護士も立てずに全面勝訴しました。
今回のNOVAの弁護士は3人です。
(原判決はこちら→またまたNOVAの中途解約訴訟

     ◇  ◇  ◇

【本件の概要】
●当事者
控訴人・・・NOVA(東京地裁での被告)
被控訴人・・・東京・田町校の生徒(東京地裁での原告)
   ※H14年5月に登録、H16年3月に中途解約申し出

●NOVAのシステム
▽契約時にレッスンポイント数をあらかじめ登録させ、そのポイントを購入させるシステム
▽購入ポイント数が多ければ多いほど、ポイント単価が安くなる制度(数量割引制度
▽中途解約時の精算ルールは、すでに受講したポイントを金額換算して支払った額から控除する際、「消費済み受講料のポイント単価」は購入時単価ではなく、受講済みポイント数以下で最も近いコースの単価とする規定をもとにする(消費済み受講料精算規定

●受講者の契約内容
▽レッスンポイント――600ポイント×1,200円=718,200円(※5%割引キャンペーン+消費税)
▽VOICEチケット――10枚=21,000円
▽その他の発生金額――7,150円(※何の代金なのか不明)
→合計746,350円

●中途解約時の受講者の消化ポイント数
▽レッスンポイント――57ポイント(購入600ポイントの約1割)
▽VOICEチケット――4枚
※単価をそれぞれ1,200円と2,100円で計算し、違約金5万円を加えた金額を控除
受講者の返金請求額 → 612,400円+遅延損害金 年5%


【裁判所の判断】
●契約時と異なる単価を用いることは49条2項、7項に反する
▽NOVAは、原判決(東京地裁)が「精算にあたっては契約時の単価で計算しなければならず、合理的な理由なくこれと異なる単価で計算することは許されない」と判示したことについて、「特商法49条2項の立法趣旨についての誤解に基づくもので、49条2項1号イの解釈を誤っている」と主張している。
▽しかしながら、49条2項の趣旨は、違約金の上限を設けることにより、受講者が中途解約権の行使をためらうことのないよう、実質的に行使可能なものとすることにあると解するのが相当である。
▽たしかに49条2項1号イは、事業者が「既提供サービスの対価」を正当に受け取ることができることを、確認的に規定しているものと解されるが、事業者がサービスの対価を前払金として受領しており、中途解約時に、その前払金の中から「既提供サービスの対価」相当額を控除して返還する場合、前払金の収受に際してサービスの対価に単価が定められているときは、その単価にしたがって対価を計算するのが精算の原則となるものと解すべきであり、合理的な理由なく、これと異なる単価を用いて受講者の中途解約権行使を必要以上に制限するのは、49条2項、同条7項に反し許されない

(参考)―特商法49条2項
役務提供事業者は、前項の規定により特定継続的役務提供契約が解除されたときは、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を特定継続的役務の提供を受ける者に対して請求することができない。
1 当該特定継続的役務提供契約の解除が特定継続的役務の提供開始後である場合 次の額を合算した額
(イ)提供された特定継続的役務の対価に相当する額
(ロ)当該特定継続的役務提供契約の解除によつて通常生ずる損害の額として第41条第2項の政令で定める役務ごとに政令で定める額
2 当該特定継続的役務提供契約の解除が特定継続的役務の提供開始前である場合 契約の締結及び履行のために通常要する費用の額として第41条第2項の政令で定める役務ごとに政令で定める額


●49条7項で無効となる当事者間の合意とは
▽NOVAは、49条7項で無効とされるのは、「既提供サービスの対価」という名目で、多額の違約金や、まだサービスを提供していない部分の対価(すなわち懲罰的意味合いを有する料金)を支払わせるものに限定されるべきで、NOVAの「消費済み受講料精算規定」はこれに該当しないと主張する。
▽しかしながら、この主張はNOVA独自の見解に基づくものであって、49条7項により無効とされる、49条2項の規定に反する受講者に不利なものというのが、NOVAの主張する多額の違約金などに限定されると解することはできない。

(参考)―特商法49条7項
前各項の規定に反する特約で特定継続的役務提供受領者等に不利なものは、無効とする。


●有利性の主張より、「規定」が不利か否かを検討せよ
▽NOVAは、次のように主張する。仮に、49条2項の趣旨が原判決のようにとらえたとしても、「消費済み受講料精算規定」は「数量割引制度」に伴うもので、この制度によって受講者は実質的に多大な利益を受けている。また、中途解約者は、もともと「数量割引制度」の適用を受けなかった受講者と同様の単価で最初から受講したのと同じ状態に戻るだけであり、他社の料金水準に照らしても、精算単価が不当に高額という事情もない。したがって、49条7項の「不利なもの」に該当しない。
▽しかしながら、「数量割引制度」が、割引制度のない場合よりも、受講者にとって利益となることは自明のことだが、「数量割引制度」を採用する以上、「消費済み受講料精算規定」を採用することが不可欠と認められないかぎりは、「数量割引制度」を利用した上で中途解約した受講者にとって、契約時の単価で計算した49条2項1号の制限よりも「消費済み受講料精算規定」が不利なものか否かで判断すべきであり、「数量割引制度」の有利性や、精算単価が他社の料金水準と比較して高額か否かを重視すべきではない
▽(「消費済み受講料精算規定」を適用しないとしたら、契約時に、はじめから中途解約する意図で高額の受講料を前払いしたあと、予定回数を受講後に中途解約する受講者が多数出て「数量割引制度」が維持できなくなるとの主張に対し)維持できなくなると認めるに足りる証拠がないことからすれば、NOVAの主張する事情を考慮しても、「消費済み受講料精算規定」は49条7項の「不利なもの」に該当するというべき。

●NOVA「精算規定」は無効
▽NOVAは、「消費済み受講料精算規定」の採用には高度の合理性があり、その一方で、この規定は中途解約権を制限する作用がほとんどないものだから、仮に、原判決がいう49条2項の趣旨を勘案しても、この規定を無効とする余地はないと主張する。
▽しかしながら、本件受講者が中途解約した当時、「消費済み受講料精算規定」が、経過日数に応じて受講済みとみなす「みなし消化規定」と一体となって定められていたことにかんがみれば、NOVAの主張を考慮しても、「消費済み受講料精算規定」が受講者の中途解約権行使を必要以上に制限する内容となっているというべきであるから無効といわざるを得ない。

【結論】
NOVAの控訴を棄却する。
つまり → 原判決(東京地裁)どおり、
746,350(原告が支払った額)-(1,200円×57pt-5%相当額)-8,400円(ボイスチケット)-50,000円(特商法の定める違約金)-7,150円(その他発生金額)=612,571円+年5分の遅延損害金

※原判決の「主文」には612,400円と書かれ、「裁判所の判断」の最後の部分には612,571円と書かれていて、なぜ微妙に異なるのかよく分かりません。

     ◇  ◇  ◇

判決文は長くて、文字だらけで、なかなか理解しにくいと思います。当ブログでご紹介するときには、個条書きにして区切り、正確さより分かりやすさを重視して書いています。用語についても、「役務」を「サービス」と置き換えたり、「特定継続的役務受領者」を「受講者」としたりしています。
そのため、判決内容を正確にお知りになりたい方は、リンク先の判決文をぜひご覧ください。

また、私はエネルギー切れにより、NOVAの主張した部分は省略しましたが、次のような主張をしています。
▽原判決は、49条2項の立法趣旨を誤解している
▽契約時の当事者間の合意(契約)は、民法90条(公序良俗違反)、消費者保護法10条(※たぶん消費者契約法のことだと思います「消費者の利益を一方的に害する条項の無効」)などに反することがない限り有効
▽「消費済み受講料精算規定」は、「数量割引制度」を採用しているNOVAの経営になくてはならない制度で、これがなくなった場合は経営の見直しを迫られるし、その分のコストは受講者に転嫁されるため、受講者全体の利益を害する結果となる
 などなど。

なお、この記事は、さい法律特許事務所の杉浦幸彦先生にお断りして、当該事務所ホームページにアップされている判決文を参考とさせていただきました。

「第3事件」の「平成18年2月28日東京高裁」が、本件です。
http://www.psylegal.com/NOVA.htm(さい法律特許事務所)