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表示主体問題に初の判断

2006-05-18 | 公正取引委員会
以前、当ブログで、「不当表示があったとき誰が罰せられるのか」という記事を書きました。公取委の審判で争われている表示主体の問題を紹介する内容です。

公取委の審判とは、景品表示法違反で排除命令を受けたとき、その処分に不服がある場合に申し立てて審議する手続きで、この件では、輸入卸売業者1社と販売業者5社の計6社が排除命令をうけ、そのうち販売業者5社がこの処分を不服として審判に入りました。

そして、5月15日にそのうちの1社、ユナイテッドアローズについて、審判審決が下されました。この事例は景品表示法上の表示を行った者(表示主体)の範囲がどこまでかという問題を提起し、表示作成に関与していれば、製造業者が違法な表示を行っていたものを仕入れて、結果的に不当な表示を付した商品を販売した小売業者にも、処分が下される可能性があることを示した形となりました。

     ◇    ◇    ◇

●ことの発端~当初の排除命令~
平成16年11月24日の排除命令
内容は、ルーマニア製のズボンを「イタリア製」と表示して販売していたとする原産国の不当表示。
【輸入卸売業者】
・八木通商
【販売会社】八木通商から商品を購入して販売していた会社
・ビームス
・トゥモローランド
・ベイクルーズ
・ワールド
・ユナイテッドアローズ

●不服申し立て~審判開始決定~
八木通商は排除命令に同意したが、販売5社は不服として公取委に審判開始の請求をし、17年1月27日に審判開始決定。

●本件の審判審決
販売会社5社のうち、ユナイテッドアローズについて、5月15日に公取委から審決が出された。

●争点
(1)ユナイテッドアローズが景品表示法上の表示を行った者(表示の主体)に該当するか
(2)ユナイテッドアローズに排除措置を命じる必要性
(3)ユナイテッドアローズに排除措置を命じることが裁量権の逸脱に当たるか

特に(1)は、今後の景表法上の解釈に影響を及ぼすことになりそうで、注目点です。

●審判での判断
(1)ユナイテッドアローズが景品表示法上の表示を行った者(表示の主体)に該当するか
【景品表示法の一般的な解釈】
▽景品表示法の趣旨に照らせば、不当な表示についてその内容の決定に関与した事業者は、規制対象となる事業者に当たると解すべき。
決定に関与とは、自らもしくは他の者と共同して積極的に当該表示の内容を決定した場合のみならず、他の者の説明に基づき内容を定めた場合や、他の者に決定を委ねた場合も含まれるものと解すべき。
▽当該決定関与者に故意または過失があることを要しない

【それに照らして本件は】
▽ユナイテッドアローズは、平成12年に当該商品の購入を始めるに当たり、八木通商の説明に基づきイタリア製だと認識し、その認識のもとに、「イタリア製」と記載した下げ札を自ら作成し、品質表示タッグを八木通商に作成を委託して、その表示を付した商品を販売した。(※下記の画像参照)
▽したがって、ユナイテッドアローズが表示内容の決定に関与した者に該当することは明らかである。
▽その際には、八木通商の説明を信じて、商品がイタリア製であると誤認したことは、その判断を左右しない



  
※画像は公取委プレスリリースより


(2)ユナイテッドアローズに排除措置を命じる必要性
ユナイテッドアローズは自主的にすでに十分な排除措置を採っているのだから、公取委が排除措置を命じる必要性はないと主張していることについて。
【ユナイテッドアローズが採った措置】
▽本件のようなセレクトショップで販売される商品は、顧客はユナイテッドアローズが販売する商品として、商品選択をしていると考えられ、そのような購買行動を踏まえると、輸入業者だけでなく、小売業者においても誤認排除のための措置を講ずることが必要である。
▽公取委が本件調査を開始したあと、ユナイテッドアローズは、以下の措置を採った。
・平成16年7月4日 八木通商から原産国はルーマニアであるとの連絡を受けた
・平成16年9月10日 自社ウェブサイトおよび店頭において、「イタリア国GTA MODA社の製造による商品は、実際の生産国がルーマニア国生産であるにもかかわらず、当該輸入代理店の事実誤認によるイタリア国生産との報告をもとにイタリア国の原産国表示にて販売していたことが判明致しました」と記載。返金に応じる旨を記載。

【これでは不十分】
▽誤認排除のための告知の方法は、不当表示によって誘引された顧客の範囲や購買行動におって異なるが、ウェブサイトまたは店頭の訂正告知により、不当に誘引された顧客の大部分に告知されたと認めるに足る証拠がない。
▽告知については、一般消費者にどの商品であるかが容易に認識できるように特定する必要があるが、ウェブサイトの告知では、単にジーティーアー モーダ社製の「商品」とあるだけで、一般消費者に自分の購入した商品か否か、容易に認識できるとはいえない。
▽したがって、一般消費者の誤認を排除するには不十分である。

【原産国表示をする際の注意義務】
▽イタリア製であると表示して販売する場合、小売業者には、当該商品が本当にイタリア製か確認する注意義務がある。
▽その場合、輸入業者に確認することになるが、どの国の商品であるか漫然と尋ねるのでは不十分であって、当該商品の実質的変更行為として何がどこで行われたかをただし、疑わしい場合には根拠を求める必要がある。
▽ユナイテッドアローズは、八木通商の担当者から、「GTA社の工場がイタリアに所在することを実地に確認した」との回答を得たと主張するが、その内容は具体性に欠け、さらに、八木通商の当該担当者の公取審査官に対する供述調書では、「GTA社の工場を確認したことはない」と述べている。
▽したがって、ユナイテッドアローズの陳述は直ちに採用することができない。

以上により、(2)について、誤認排除および再発防止のため措置を命じることは必要である。

(3)ユナイテッドアローズに排除措置を命じることが裁量権の逸脱に当たるか
ユナイテッドアローズが、過去の原産国不当表示事件や同様の行為を行った販売業者との比較などから、自社に排除措置を命じることは裁量権の逸脱であると主張していることについて。
【具体的事実の主張が必要】
▽景品表示法は、趣旨・目的を効果的に達成するため、公取委に広範な裁量権を付与している。
▽この裁量権の濫用や範囲の逸脱を主張する場合には、それらを裏付ける具体的事実の主張・立証を要するものと解される。(東京もち事件判決・最高裁平成12年3月14日判決・公正取引委員会審決集第46巻581頁)

【違反行為者が多数あると考えられる場合】
▽景表法に違反する表示を行う事業者が多数あると考えられる場合に、裁量権を行使して、違反行為の規模、市場に与える影響、措置の実効性などを考慮して、一部の違反者にのみ措置を命じることは当然であり、何ら公平性を欠くものではない。
▽ユナイテッドアローズの場合、平成12年8月ころから、16年7月ころまでの長期にわたり、約2,200着の本件商品を販売しており、さらにユナイテッドアローズは有力なセレクトショップであって若年層に名が知られた存在であることからして、本件違反行為の及ぼした影響は軽微とはいえない。
▽行政処分が平等原則に違背する違法なものとなるのは、他の違反事業者に行政処分をする意思がなく、処分された事業者にのみ差別的意図をもって処分をしたような場合に限られるものと解される(東京もち事件判決)が、本件にそのような事情は認められない。

     ◇    ◇    ◇

大きいのは、「故意・過失を要しない」というところだと思います。
つまり、八木通商から言われたことを信じて、「イタリア製」との表示を行って(作成に関与して)販売したら、結果的に不当表示になってしまったわけですが、この表示違反が無過失であったとしても、排除命令は免れないということになります。作成に関与せず、製造業者(または輸入業者)が表示を作成し、それを仕入れて単に販売しただけであれば、処分を免れるということになりましょうか。私の場合、食品ぐらいしか原産国・原産地を気にしませんが、やはり世間一般では、洋服で「イタリア製」というと顧客誘因性があるんでしょうね。

また、販売業者は、仕入れる際に、原産国について「漫然と尋ねる」のではなく、どこでどのような加工がされたか、もっと突っ込んで聴取しなければなりませんし、表示が間違っていたとの認識を持ったら、顧客に対して早急に、商品を特定できるような形で告知をしなければなりません。その際には告知媒体にも配慮しなければなりません。

表示の作成に、複数の事業者が絡んでいる場合、小売業者が注意すべきことが今回いくつも明らかになったと思いますが、考えてみれば当たり前のことかもしれないですね。

健康食品についても、例えばドラッグストアなどが、店頭で薬事法・景表法に抵触する表示を行っているケースが見られますが、「メーカーから聞いた」程度の根拠だったりします。販売業者には、そんな程度で安易に表示を行う事業者も割りと多いのかもしれません。

株式会社ユナイテッドアローズに対する審判審決について(輸入ズボンの原産国不当表示に係る景品表示法違反事件)

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