Technodonの憂鬱

なんともうしましょうか

【ファミマ入店音】戦場のファミリーマート【ノルマンディー店】[青コメ]

2017年05月06日 15時58分03秒 | YMO


“このメロディを、この過酷な戦場の最中

そのすべてを愛想とした、一人の勇敢な兵士に捧げる”

 

 

 

壁に刻みつけたその文字を見つめながら、ふと思い出していたのは

長らく鳴り響くこともなかった無線機から、声若い男の声が聞えてきたからななのろうか。

 

『・・・なにか食い物をくれ』

 

思わず笑ってしまった。

なるほど、注文らしい。それにしても・・・

男の言葉は敵国のものだった。

 

なんて馬鹿な男だろう。

まったく、最近の若いもんは・・・。

 

 

そう思いながらも、私はなぜか笑みを崩すことが出来ない。やれやれ。

そして私は

もう擦り切れて穴だらけになった作業着に袖を通しながら、もうこの世にはいない

ある一人の男の姿を思い返す。


 



 







【ファミマ入店音】戦場のファミリーマート【ノルマンディー店】














 ーー20年前。

 

 

 

 

友人に頼まれて(いや、騙されてか?)、この場所に店を構えて一週間、だが

未だにこの店にはほとんど客が来ない。

 

そもそも

誰がこんな場所で呑気に買い物などするというのだ。

 

『ちっ』

思い返すと腹が立つ。悪態もつきたくなるというものだ。

 

俺はいつものようにタバコを吹かしながら、ぼんやりテレビを眺めていたのだが

『おい、誰かいるかっ!?』

そんな大声とともに、一人の青年兵士が飛び込んできた。

 

『おいおい、店汚すなよっ!!』

男は負傷していたが、そんなことはどうでもいい。ここは戦場だ。

死なんてどこにでも転がっている。そんなことより明日の我が身だ。

 

『ーああ、すまない・・・

それより!お前に頼みたいことがあるんだ』

 

そう言って男はポケットから、一枚の手紙を取り出した。

馬鹿丁寧に綴られた、白い便箋だった。

 

 

『この手紙を届けてくれないか?』

『はぁ?なんで俺が・・・』

 

 

何を馬鹿げたことを・・・。そう思い、さっさと追い返そうとしたのだが

 

『頼むっ!仲間はみんな死んだんだっ!!

もうお前しか頼ゴホッ・・・頼めないんだ!!』

 

 

その男のあまりの剣幕に、俺は口を閉じるしかなかった。

 

血の気のない、死人のような顔。

この男はもう長くないだろう。それくらいは俺にもわかった。

 

『・・・分かった。届けてやる』それは安っぽい同情だった。それでも

『ありがとう』

男は安心したのか、目にうっすら涙まで浮かべていた。

照れくさくなった俺は、男の手から手紙をひったくると、店を飛び出したのだった。

 

 

 

 

 

結果から言って、俺は手紙を届けることが出来なかった。

 

町へと続く道は戦闘が起こっていて、まともに通行できるような状態ではなかったからだ。

仕方なく俺は男に謝るため、大急ぎで車を走らせたのだが・・・

店に着くなり、俺はそのあまりの異様さに言葉を失った。

 

 

俺の店はぐちゃぐちゃにされていた。

目眩がして、視界がぐにゃりと歪む。

 

店の中はさらに地獄だった。

柱が崩れかかっていて、いつ倒壊してもおかしくなかった。

そんな時、店の奥で僅かにうめき声がした。俺は慌てて声のするほうへ走った。

 

 

瓦礫をかき分けて進むと、あの男が血まみれの状態で壁に背をついて倒れていた。

 

 

『おいっ、大丈夫か!?』

呼びかけるが、男から反応はない。

『殺られたのかっ!?
くそっ!あいつら・・・殺してやる!殺してやる!』
 
怒りが理性を塗りつぶす。

頭が底冷えして、なのに身体は火のように熱い。

 

だが

男の手に握られた銃を取り、敵地へ走り出そうとした俺の手を

『待ってくれ』

死に体の男が必死の表情で掴んでいた。

 

『生きてたのかっ!よかった・・・

聞いてくれ、俺今からお前のために』

『頼む、やめてくれ』

『・・・なんでだっ!?』
『・・・誰も悪くないからだ』

 

『はぁ!?意味わかんねえよ!』

男の手を振り払い叫ぶ。だが男は話を続けた。

 

 

『俺は死にたくなかった

怖かった、死ぬのが怖かった。死にたくないから殺した。

男も・・・女も、子供も老人も。

何十人何百人という人を殺した。殺して・・・殺して殺して殺し尽くして・・・

それでも生きたい!!俺はそれで正しいと思う。だからこそ・・・

俺は

生きるために俺を殺す誰かを許すことができる・・・わかるか?』

 

『・・・分かんねえよ』

『いずれわかるさ』男は震える俺の手を再び握り締めた。

 

『頼みがある・・・いいか?』頷くと、男の苦しげな表情に一瞬光が戻る。

 

『俺は兵士だ。俺は・・・壊すことしか出来ない。

でも、お前は違うだろ?

お前は人を幸せにできる。お前はみんなを幸せにするんだ、頼めるか』

 

『あぁ!!絶対幸せにしてやる』

『ありがとう』男の手から力が消える。

そして、穏やかな表情で目を閉じた男は、消え入りそうな声で突然、歌を歌いはじめた。

歌詞もなく、ただ、同じ旋律を繰り返す、不思議なメロディだった。

 

怒りも、苦しみも、哀しみもなかった。残ったものは・・・。

 

 

それから俺は、戦地からまだ使えそうな無線機を持ち帰って

あるメロディを流し始めた。

 

 

同じ旋律を繰り返す、人を少しだけ幸せにするそのメロディ。あの男の歌。

 

死なんてどこにでもある。そこが戦場ならなおさらだ。

だが

あの男の死は・・・特別だ。

 

 

そう思いたい・・・。

 

 

 

 

 

 

ーー私は、みんなを幸せにできたのだろうか。

昔を思い返し、ふと考える。

 

手にしたファミチキの袋を確かめ、そして、それをポケットから“それ”を取り出す。

馬鹿丁寧な字で綴られた、少し色褪せた白い便箋。

 

今度こそ、届けてみせる。

さぁ、名も知らない誰かを幸せにするために、今日も私は歩き出すのだ。

 

 

 

 

   了。

 

読んでくださってありがとうございます。




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