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哲学者の誕生

2014年10月30日 | 研究
哲学とは何か?の問いはこれまでも様々な思索者によって問われてきたが、その問いが終ることはない。「哲学とは何か」の定義は定まらなくとも、「哲学者」は誰かということははっきりしている。プラトンが描いたソクラテスを祖とする系譜の学派の人々である。だが、プラトンの師のソクラテスは哲学者としてではなく、ソフィストと見做され死刑宣告を受けた。ソクラテスは本当に哲学者(フィロソファー)だったのか、それともソフィストだったのか。プラトンは「哲学とは何か」については最後まで定義していない。定義したのは「ソフィスト」についてであり、一連の「対話篇」は、ソクラテスがソフィストでは「ない」ことを立証しようとしたものである。

「私の見方では、ソフィストを哲学者の対概念として攻撃することが、プラトンにとって哲学を可能にする唯一の途であった」(『ソフィストと哲学者の間』/納富信留)

ソフィストを批判することによって、そしてソフィストの起源である詩人を攻撃することによって「哲学者」ソクラテスが誕生した。あるいは二つの学派、即ち「ソフィスト学派」と「ソクラテス=プラトン学派」が「哲学者」の称号を争った末に、書き残す能力に長けた後者が「哲学者」の称号を勝ち取ったのである。ソフィストは口誦文化人ゆえに、歴史支配力に劣っていた。マクルーハンは、「本は頑固で嘘であっても永遠に言い続ける」と言ったが、プラトンがソフィストに張ったレッテルはグーテンベルクの印刷技術によってさらに強固になって西洋社会に定着した。その汚名を晴らす機会は印刷文化の粘着力が弱まる20世紀後半まで待たねばならなかった。
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