国際情勢について考えよう

日常生活に関係ないようで、実はかなり関係ある国際政治・経済の動きについて考えます。

マグロ戦争

2006-12-01 | 経済・社会問題

私は一週間に一度は、必ずマグロの刺身を食べないと落ち着かないくらいマグロが好きなのですが、そんな私がちょっと悲しくなるニュースが今週飛び込んできました。マグロの王様、クロマグロの漁獲量が大幅に削減されることが、漁業資源を管理する国際機関によって決定されたのです(関連記事水産庁プレスリリース)。

少し背景説明をしますと、日本は、マグロの大量消費国のひとつとして、地中海などでも大量のマグロを捕獲しているのですが、このたび地中海と大西洋の東側のマグロの資源管理を管轄する「大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)」という国際機関が、この海域におけるクロマグロの総漁獲枠を、現行の3万2千トンから2010年までに2万5500トンまで、段階的に削減することを決定したのです。この決定に伴い、来年1月末に開催される別の国際会議(後述)で、日本の漁獲枠も現行の2380トンから大幅に削減されることが見込まれることとなりました。

 

マグロには、クロマグロ、ミナミマグロ、メバチマグロ、キハダマグロ、ビンナガ(ビンチョウ)マグロなどがあるのですが(参考記事)、今回の規制対象となったのは、クロマグロという最高級品で、ふだんは高級料亭などにしか卸されないものです。ですから、記憶にある限り、私は食べたことはありません。しかし、だからと言って、今回の措置が私のような一般人に何の関係もないというのは見込み違いのようです。なぜなら、この問題には次のような事情が連なっているからです。

実は、今回のクロマグロの規制に先立ち、先月にはミナミマグロに関して、日本の漁獲枠をおよそ半分に削減する決定が下されたばかりでした(関連記事)。ただしこちらは、ずっと以前に合意した各国の漁獲枠を、日本が合意を破る形で超過していたことによる「自業自得」的な側面のある措置であり、ある意味では仕方のないことかもしれません。しかし、問題はこれだけにとどまらず、来月には、メバチマグロ、キハダマグロの割り当て削減も、別の会議で協議される予定であり、さらには来年1月下旬には、海域別のマグロの資源保護を管轄する5つの国際機関の合同会議が、神戸で開催される予定で(関連記事)、今後、マグロ類全体の漁獲枠がどんどん削減されることが見込まれているのです

そのようなわけで、今後は約600万トンとも言われるマグロ類の総漁獲高の全体のパイが縮小する中、「マグロ戦争」とも言うべき、各国のマグロ争奪戦のような激しい外交交渉が展開されることが予想されています。実は、日本のマグロ消費量は、世界全体の三分の一というトップ・シェアを占めており、それだけに他国からの風当たりはますます激しいものになるのではないかということが言われています。たしかに、この「マグロ戦争」が激化している背景には、中国での消費量が激増している要因や、欧米諸国でも消費量が漸増している要因もあるのですが、日本の圧倒的な消費量と乱獲がヤリ玉に上げられることも多々あり、国際交渉の場では日本が守勢に立たされることが多いと聞いています。

 

このような厳しい国際環境の中で、日本政府は、あらゆる経済交渉の中でも、漁業交渉にはかなり力を入れているようですが(参考記事)、たぐい稀な魚好きの食文化を持つ日本の魚の消費量は半端ではなく、それだけに漁業交渉では他国と国益が衝突することが珍しくないようです。日本は、軍事力の行使を憲法で禁じているためか、国際交渉で他国と激しく衝突する局面は相対的に少なく、国際裁判などでも訴訟に巻き込まれることは極めて稀なのですが、その極めて稀な判例の一つが漁業裁判だというのも(参考記事)、漁業問題における日本の置かれた立場を象徴しています。

日本政府は、このマグロ問題を当然のことながら日本の国益に関わる問題だととらえて、他国との交渉に臨んでいます。ふつう「国益」というと、政府の利益、総理大臣の利益、国会議員の利益といったイメージがありますが、民主国家における国益というのは、もともと私たち「国民の利益」を指すのではないかと思います。ふだん、このようなことはあまり実感できませんが、こうした身近なマグロのような問題から国益というものを考えると、国益というのものが国民の利益であって、それを政府が国民の代理人として他国政府と交渉しているという本来の民主主義のあり方が、より一層分かりやすく透けて見えてくるように感じます。今後、漁業資源の保護など、国際社会全体の共通利益を確保しつつ、この分野で日本の「国益」がしっかり確保されることを望みたいものです。


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