
今日から遡ること10日前、ニックと私は、成田からエアロフロートで10時間飛び、モスクワへ着いた。なぜモスクワかというと、それが最安の飛行機チケットだから。最初の目的地はアムステルダム。モスクワはただ乗り換えるのみ。
免税店で見つけた可愛いマトリョシカ二つ土産に買う。待つこと数時間。ニックは、せっせと本を読む。漱石の三四郎を読み終え、ken Follettの「Winter of the World」を読み出した。私は、R・ChandlerのThe Long Goodbye。春樹訳。
チャンドラーのタフさと優しさと寂しさとおかしさは、春樹のそれらとよく似て異なる。
傾向を表すダイヤモンドチャートに、上がタフさ、下が優しさ、右が寂しさ、左がおかしさとして線で結ぶと、突き出たり、へこんだりする部分が微妙に違うだけで、(チャンドラーはよりタフで、春樹はより優しい。チャンドラーは寂しさが増し、春樹はおかしさが増す。)本質は同じ。2人の間に生まれた子供みたいなこの本を、私は非常に愛する。何度読んでも微笑みが止まらない。子供も同じだ。両親の特質を少しずつ受けつぎながら、兄弟に素晴らしい個性がある。
さて、ニックが空港内のカフェのウェイトレス(真っ白いブロンドに真っ黒いルージュ、早朝勤務か夜番明けか疲れきった髪型のロシア娘)相手に、「モスクワの街へ立ち寄らないのを後悔させるね君の瞳は…」みたいな口説き文句で暇つぶししてる間に、搭乗時刻となる。あと3時間。アムステルダムへ飛ぶ。
(続く)