ミセスローゼンの道後日記

冬の蚊も来よベートーヴェンを聴きに



上海市南部にある奉贤(フォンシェン)での演奏会は面白かった。土砂降りの雨の中を来てくれた満員のお客さん、立ち見のお客さんに大感謝。会場入りするとすぐに、プログラムを変更してくれと言われる。その理由がびっくりで、「休憩を挟むと皆帰ってしまうから」と言うのだ。「休憩のアナウンス入れるでしょう?」と聞き返すと、「アナウンスは誰も聞かない」と言い返された。舞台上で誰か何かやってないと終わったとみなされるらしい。しかし休憩後の曲が無伴奏バッハ五番なんで、スコルダトゥーラの(A線をGに調弦する)時間が必要だし、休憩無しで五曲弾けというのは殺生だ。「退屈な演奏なら客が帰っても仕方ないが、きっと帰らないよ。」とニックは自信満々だが、「いやそういう問題じゃ無くて、この辺りの住民は舞台が空になると自動的に帰ってしまう習性がある、クラシックコンサートに馴染みが無いので、長時間のコンサートに耐えられない、出来るだけ短くしてくれ。」と言う話になった。

たまたま譜めくりに来ていた女の子が、ニックのマスタークラスでカサドを弾く予定だと話してたので、なんとなく皆から「じゃお前がカサド弾いて繋げ」と言われ、半泣きで練習始めるのを見かねてニックが、「舞台上でスコルダトゥーラを見せて、バッハを全部弾かず、プレリュードとサラバンドとブーレだけにする、繰り返しなしで。」という案を出し、しかもベートーヴェンとシューベルトのリピートも全部止す事となった。ニックは曲を知り尽くしてるからいいが、災難はピアニストだ。急に色々言われ半泣き、多少落ちつつもやり遂げてくれた。
ニックは、舞台上でかつて無いほど喋った!
喋ってる間指を休められるから仕方なく喋り出したら乗って来て、「ハイドンはベートーヴェンの先生で、ベートーヴェンは脅威的な弟子でした。さてベートーヴェンがどんなによく学んだか聞いてみましょう。」「シューベルトは31歳で亡くなりました。今日私達がポッパーのレクイエムを弾いたのは彼の霊を慰める為です。(笑)」などと、普段のニックを知ってる人が聞いたら信じられないレクチャートークが飛び出し、観客は大喜び。舞台上に張り出した看板が音を差し止め、演奏台も無く、ひどい音響の上、大雨がガット弦を鉛に変え、ニックは重労働を強いられたが、それ故にいつにも増して魂の揺さぶられる演奏が聴けた。私が感激したのは、家族連れが多い中、最前列の少年達が固唾を飲んでニックを見守り、ニックの動きに合わせて自分達もチェロを弾いていた事。ベートーヴェンの最終楽章の夢のようなアダージオで、下手脇に立っていた少女が小さくバレエを踊ってた事。私だっていつも心の中で踊ってる曲なのだ。ニックは薄目をして微笑んで子供達と一緒に弾いた。観客は携帯に触りもせず、静かに熱く食い入るように聴いてた。こんなアットホームな演奏会になるとは思ってもみなかった最初にあれこれ注文を聞いた時には。最後に女の知事さんが挨拶に来て、「子供達にこのようなよい音楽教育をして下さり感謝します」と言われた。
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