
ホテル内で初桜を見て、公魚の天麩羅を見て一句詠む。これを季語の現場に立つと言えるの? 言えるんじゃない、という内声に耳を傾ける。
「粗忽者得するの巻」
福原彰美さんとクリスティーヌ・ワレフスカさんのリサイタル(マチネ)を、今日聞きに行く。ずっと楽しみにしてたのだから、絶対に忘れる訳はないが、その後すぐ移動する段取りなどを考えつつ旅支度をした時に、コンサート用のドレスを入れるのをうっかり忘れてた。ホテルでニックのスーツケースにスーツと靴が入ってるのを見て、初めて気づいた。
「なんでお前はそう粗忽者なのだ。もうジーンズで行くしかないだらう。」と普通の夫なら言うだらう。ところがニックは、「なんでお前はそう粗忽者なのだ。これから買いに行こう。」と言った。そして「家売るオンナ」の三軒家万智みたいに目を吊り上げ、私の手をグイグイ引いて歩き、空港のショップに入り、左右に吊るされた洋服をギラリと見回し、青とオレンジのフレアスカートを棚からムシり取り、「試着してみなさい!」とわが手に押し付けた。私が黒セーターの下にスカートを穿いて試着室から出てくると、ニックの目が再び光り、「これを買います!」と、店員に叫んだ。日本語で。
黒スニーカーにも合う。黄色コートにも合う。それを一瞬で見抜くニックのqueer eyes!(*)
もしワンピを買ったらこの三倍は高くつき、しかも靴も買わなきゃならんかった。エラい出費となるとこだった。しかもこの夏色スカートすごく可愛い。粗忽者に産んでくれた母に感謝。
(*)queer eyes (クィアアイ)とは、ゲイの人々にアーティストが多い事から言われる特別なファッションセンスの事。
粗忽者 = careless person