ボリショイ劇場 & シドニ-オペラハウス観劇記

元モスクワ、現在シドニ-赴任の元商社マンによるボリショイ劇場やシドニ-オペラハウスなどのバレエ、オペラ観劇記です

英国ロイヤルバレエ団 『眠れる森の美女』 初日7月11日

2008年10月06日 | Weblog

NANAさんより寄稿頂きました。

英国ロイヤルバレエ団、日本公演『眠れる森の美女』全3幕。

初日7月11日(金)東京文化会館。

オーロラ姫:ロベルタ・マルケス フロリムント王子:ヨハン・コボー。 

プリマは代役でしたが、超絶技巧なく真っ向勝負の正統派の踊り。相対的に見て音楽、指揮・演奏が(自分の見てる公演の中では)格段にまとも。

まず、チャイコフスキーの『眠り』前奏でグワ~ンとショックを。過激にさえ感じる時もあり、改めてなんと豊かな音楽だろうと・・。今のロイヤルバレエは、お衣装が豪華。色味も趣味の良い色。特に貴族の女性のドレスは、舞台衣装でなくても通用しそうなほど本格仕様。7月のABTの方は、宮廷の女性のドレスの布地も縫製も、舞台以外では全く通用しない程度のもの(それはそれでいいのですが)で対照的でした。

今回の芸術監督のメイスン版は普通の「眠り」。2幕で少し英国的暗さがあった位。騙し絵のような装置の、前監督ダウエルの版の方が独創性があったのでは。 演劇的とされるロイヤルですが、舞台の上が演劇的というよりそれ以上に、お客様が演技を良く見ていると感じました、ロシア系の客層よりも。

でも、プリマベースでは、決してバレエが疎かになっていず、プリマの踊りは、さほど振付の難度を下げる事も無く、今のロイヤルは、古典はきちんとしているように見えました。(でも、他の日を見てないので・・)ただ、しっかり踊るのはプリマで、版やバレエ団によっては、脇役がもっと踊る箇所が、踊

りが無く、専らお芝居で見せる演出で、そこがボリショイ等とは大きく異なる所。 カラボス役が黒いロングドレスの女性で、舞台上、全く踊りが無く全てお芝居で見せるシーンもあって、客層によっては、そういう箇所で退屈を感じる人もいるはずですが、この客層は大丈夫な様子。会場が弛緩することもなく、ブラボーもなく、お行儀良く見て踊り終わると盛大な拍手を送るお客様方でした。

マルケスやロイヤルのプリマは、体形は普通。少しぽっちゃり。むしろ日本人脇役の小林さんの方が手脚長く胴細く小顔。マルケスは丸顔で若く見え、美人じゃなくても可愛いのですが、メークが酷く大損。でも笑顔、笑顔で愛嬌たっぷり。高貴な姫でなくても、現代のオーロラ姫と見ました。

ボリショイ大劇場では、オーロラが登場し階段を駆け下りてすぐ、細かい踊りが入りますが、これはボリショイ特有なのか、ロイヤルのはそこは踊ってなかった気がします。後は規定どおりきっちり踊り。その後の前半の見せ場、姫と4人の王子のローズアダージョでは、脚をとても高い位置に上げたりはしませんが、姫はにっこりしながら、トゥのままきれいに片脚を上げ下げしていきます。ところが、その背中には、汗がダラダラ~~と流れ、その汗ではじめて、ああ、大変なんだな~と思って、頑張れ~と手に汗握って見るわけです。

身体の前側の「満面の笑顔」と背面の大汗の対比。演奏がこの場面の緊張と興奮を巧く盛り上げ、見事ローズを踊り終え、「やった~」と思ったら、盛大な拍手。

「え?し、しかし、なんだか多すぎないかこの拍手?」と。(第一、新国立でザハロワがローズ決めた時より大きい拍手ってどうよ、と思いますが。

新国立のお客様は、こちら系の客層より拍手にシビアですね。こちらの方が、中間の拍手は少なくても、踊り終えると、マナーとして大げさな位拍手するみたいです。

ちなみにJA公演も、新国立より拍手多めですね。) マルケスはこの前後のシーン、脚捌きが丁寧で、技術的に手抜きの無い踊りでバレエ的には好感が持てました。(が、いつもいい踊りをする人なのかどうかは、これだけでは不明。

バレエ団公演の初日ですからいい踊りでないといけないのかも)さくっと足あげてさくっと下ろしちゃって終るスターの大味な踊りより、個人的にはこういう方が好きです。 悪役カラボスはトウのたった美女めいた風情で、のけ者にされた恨みを表現。巧い。性格の悪い女性の演技に現実味がありすぎて、女性のやな面を見たようで、ちょっと複雑な気分に。

他の版の男性の女装のカラボスは、もっと作り事おとぎ話っぽくて、現実的な生々しさがないですね。 カラボスが、オーロラ姫を毒針で眠らせ、哄笑し去る。4人のかっこいい王子様は見掛け倒しなのか、カラボスのとろい退場にも、姫を救う事が出来ない。救世主リラの精:ヌニェスが踊りだすと観客の拍手。

他日の公演で既に評価を得た様子。オーロラのまろやかな踊りに比べ、輪郭のはっきりした硬質な印象の踊り。

 2幕。

森の場の貴婦人達のドレスの着こなしが決っている事!作り事じゃないみたい。 王子役のコボーは、デンマークロイヤル出身で元はブルノンヴィルダンサーのため、容姿も踊りも立ち居振る舞いも正統派の眠りの王子ではないですが、プリンシパルらしい自信と存在感を見せてソロを踊り、観客に受け入れられていました。

2幕、3幕とも姫とは息の合った踊り。2幕の夢の場では、男性的な情愛を見せてマルケスとの心の交流も充分。欲を言えば『眠り』の王子の年齢に見えない。30代の男性の深く重い愛のよう。ジゼルのヒラリオンの愛みたい。若く無垢で清らかな王子の内面を表しているようには見えず。(それを、いい演奏が巧く補って眠りの世界にしてました。)舞踊も、達者ながら本来は脚裁きを見せる踊りが真骨頂のダンサーに見え。

3幕GPPD。

王子の歩き方が王子風じゃないのを除けば、フィッシュダイブなど安心して見ていられるデュオ。マルケスは高め安定の踊り。でも彼女、批評では、人気ないみたいですね。(そんなに悪くないと思うけど、好みが分かれるプリマらしい)

 他、3幕のディベルテスマンでは、赤頭巾役の女性が、大きく目を見開き「あれ~」と言う様な表情が絵になり、映画に出したいような可愛さでツボり。青い鳥で佐々木陽平さんが、閉脚でジャンプし、宙に浮く中で余裕を持って脚を開く難度技を見せ、踊り全体も細部まで丁寧で私的には楽しめました。(でも、お客さん一般には若いダンサーの方が受けそうな雰囲気)ここだけ女性のブラボーがあり。 以下、他キャスト等を。カラボス:ジェネシア・ロサード リラの精:マリアネラ・ヌニェス お妃:エリザベス・マクゴリアン フロリナ王女と青い鳥:サラ・ラム、佐々木陽平、赤頭巾と狼:カロリン・ダプロット、トーマス・ホワイトヘッド他。 なお、1幕オーロラ姫の友人役と3幕フロレスタンと姉妹達に小林ひかる 指揮:ワレリー・オブジャニコフ、(指揮者が二人いて、古典演目でロシア系指揮者を使ったのは大正解!)

管弦楽:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 

モニカ・メイスン版。18:30開演、21:35終演。

(写真は1幕マルケスのオーロラ)

ロイヤルバレエは、併演のアシュトン版「シルヴィア」の方が、団の独自性が判り易かったろうと思いますが、観に行けませんでした。なお、客層では、30代~20代後半服装地味目OL風の女性が多いと感じ。ABTは、空席ももっとありましたが、お客様が明るくて、黒いドレスでおしゃれしていたりで。ABTを愛し、応援し、公演をとても楽しんでる感じで、真面目な大人しい感じのロイヤルと、客席の雰囲気が違いました。



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