

千歳空港に足留め,機内の狭い座席に何時間もじっと座っているだけで飛行機が全く動かないのは,まさに監禁に近い状態です。
ロンドン空港に閉じ込められたバンコランとパタリロ,
千歳空港に閉じ込められたわてら機内の同乗者たち。
悪魔の嵐のストーム・オブ・センチュリーの島,
龍神様の嵐のスノー・ストームの孤立した空港。
とにかく,ここから,なんとしても,「脱出」しなければ!!
わたいの焦りは頂点に達しました。
大好きな北海道の豊かな大地が,わたいを縛りつけ監禁している,一刻も早く脱出すべき閉ざされた「島」へと変貌しているのを,ありありと感じました。
飛行機が飛び立ちさえすれば‥‥島から鳥のように,大空へ脱出できるのです。
あれほど大好きで,遠くにいても何時でも訪れたいと思っていて,
せっかく訪れたならば何日でも滞在したいと思っているくせに,
今は,一刻も早くここから飛び立って脱出することしか考えられない。
まるで北海道は,魔の島であるかのように。
その時の機内でのわては,ちょいと不思議な精神状態でした。
たいてい,こういう「追いつめられた状態」は,わては得意なんです。
ふだんはぼー

「あ,緊急事態!どうしよどうしよ!」
って時には,ワー仕事や!と起きて来て,フル回転し始めるんです。
それで何かいいことを思い付いたりして,道が開ける。
そんなことの繰り返しが,旅の醍醐味なんですけど。
けど,今回の場合は‥
完全に翼を失った鳥状態。いやまぁ,そんなええもんちゃいます。
手足も無く,考えた所で頭からは何もアイデアは出て来ない,ただ内蔵の入った寸胴。
頭はいつもの癖で,つねにポジティブに,前向きに,

と,明るい気分でいるのですが,
腹の中では,どうすれば良いか,なんて選択肢が一つもないことが,嫌と言うほど分かっているので,ひたすらに,
ずどーん

とした塊を飲み込んで押し黙っているしかないんです。
運を,天に(機長に),まかせた

この期におよんでも,そんな美しい潔さは,微塵も持てないのです。
神様~!仏様~!機長様~~!!

そんなじたばたが,脳裏にとぐろ巻いてるんです。
これは,自我のなせるわざですわ。
そんな追いつめられた自我の崖っぷち,たぶん自我が分裂し始める数歩手前くらいの時やったと思います。
札幌の龍神様に神頼みをして,わてはふと,数日前にも他の神さんに神頼みをしたことを思い出しました。
この1泊2日の北海道ツアーは,何やら非常に不安を伴うものであったのです。
わては,好むと好まざるとに関わらず,札幌に行かねばならない理由がありました。
しかし,このように外的な条件から行動をとった場合は,思いもかけない所から障害や危険に足をすくわれることがあります。
せやから,「行かなあかんのやけど,ほんまは行かん方がええんちゃうかな~。行ったら悪いことがあるんちゃうかな~。もしかしたら生きて帰られへんのちゃうかな~。」
と,少し思ってたんです。
こんな気が進まない時は,神さんに聞いてみるのが一番です。
「神の手が作動する時」で書きましたが,
自我がどんなにある望みを達したいと欲して準備万端整えて行動をとろうとしても,
ほんまに「ある行動をとらない方が良い時」というのは,たとえその行動にどのような必然性があるように見えても,ものすごい絶妙のタイミングで,神の手が行動を阻むものです。
今回も,ほんまに「行ったらあかん」のやったら,神さんがどっかで妨害しよるやろ。
そう思うのが「神さんに聞く」ことです。
ところが,今回の札幌ツアーは,微妙なタイミングで,無事に予約がとれました。
ということは,これは直前になって,何か旅行を取り消さねばならない緊急の事態が発生しない限り,旅行に行けということやな‥。
それにしても,無事に予約がとれて安心はしたんやけど,それやったら何やねん,この不安は?!
神さんはごっつ意地悪やから,「行け~。じゃんじゃん行け~。行てまえ~。行ってラッサーイ」
と,どんどん行かせといて,行ってから落とし穴に落とす,てなことも平気でやりはるんです。
せやから,もしかしたら,
札幌へはじゃんじゃん行かせといて,北海道で殺す気ちゃうか?
とも思いました。
うーむ。困った神さんや。
そんなわけで,出発する数日前に,ふとんの中でお願いしました。
誰にお願いするか,っていうのは特にないんですが,龍神さんではありません。
まあ,後ろにいる方々とか,上の方にいる方々とか,ご先祖とか,ひっくるめてです。
「今回の旅行は,どうか無事に帰って来れますように。わたいも同行者も。
特に,わては死なへんとは思うけど,同行者の身には,ケガも何もありませんように,お守りください。」
そんなことをしっかりお願いするのは,めったにないことです。
いざ出発の日。
行きの天候はバツグン。すばらしいとしか言えない朝日の光景も見ることができました。
札幌に着いたら,旅行の目的も無事に十分すぎるほど達成できました。
このような時,特に,天候がわたいの行動を応援してくれているとしか思えないときは,わては「神さんがサポートしてくれたはる」と感じます。
と,いうことは,旅行に来たのは正解やった。
ということになります。
犬井の哲学的に言うと,この旅行は必然的な行動であった。と。
出発前の不安は何やったのかは分からんけど,でも,良かった良かった!
と,
結局,往きに札幌に着いてから,帰りのスカイマーク724便に乗るまでは,すっかり安心して油断してたんですわ。
724便の中で札幌の龍神様にお願いした時,はたと気付きました。
何日か前も,こんな風に神頼みして,昨日まで無事にすばらしい旅の楽しみを味わったのに,お礼参りしてへんかったな‥
お礼参りと言っても,
わりゃ,おんどりゃー,の,河内のオッさんの世界とちゃいまっせ。
神さんへの御礼ですけど,まあ,神社とかにわざわざ行くわけでもありません。
ただ,心の中で,ありがとうございます,って感謝することでんな。
わての場合は,拝みっぱなし,頼みっぱなしやったんです。
今日まで,無事に,すばらしい旅の楽しみを味わった。やっぱりはるばる来て良かったと思った。
そして,数日前に神さんに色々と頼んだことなど忘れとったんですな。
飛行機の中で閉じ込められて,長時間同じ姿勢で座らされて,
「どうしよどうしよ,どうしたら帰れるんやー」
と,イ~~~

雪に閉ざされた飛び立てない札幌空港で,翼を失った鳥の気分を味わって,
「どうしても,どうしても‥」と考えるばっかりで。
「どうしても,やる」「何が何でも,実現する」
‥って,ひとつの美徳みたいですけど,そうやないんですわ。何でも,美徳と悪徳は裏腹です。
実を言うと,今回札幌へ来た理由も,この「どうしても」にありました。
お金無いねーん,技術も知恵もないねーん。
反対もあんねーん,風当たりも強いねーん。
でも,どうしてもやりたいねーん。
その一念だけで,ここまで色んなことを,ごりごりと押し進めてきました。
一般に,ごり押しと言います。
無理が通れば道理が引っ込む。
これは,わてがある人から学んだ行動方針です。
わたいの行動力の源です。
せやけど,雪の機内では,こんなもの一切役に立ちまへん。
機長頼み,神頼み。
それしか無くなって,ようやく,わたいは,この「どうしても」をやめろ,と言われていることに気付きました。それが沖縄の心なのだと。
「どうしても」と引き替えに,感謝する心を置き忘れてきたんですわ。
そうか‥‥。

すんまへんすんまへん,忘れとってすんまへん,ほんますんまへん。


ありがとさんでした,ありがとさんでした~


わては,数日前にお願いした神さんや背後霊守護霊ご先祖様の皆さん,そして札幌の龍神さんに,ひたすら感謝しました。
ありがとございます,ありがとございます
大事なことに気付かせてもらって,ありがとございます~~~



そして,もうその時には,明日の仕事を休んでも,ただ謝ろう。恥ずかしいことじゃない,という気持ちになっていました。
再び,アナウンスが入りました。
「当機は,ただいま,出発が可能かどうかの協議をいたしております。滑走路の状態が非常に悪く‥当機の機体であるボーイング737型機が離陸できるかどうかのボーダーラインにある,とのことでございます。積雪の状態が変化しておりますので,協議には今しばらく時間が掛かるものと思われます。」
ふうむ。協議というのは,そういうことやったんか。
ボーイング737。
積雪が4cmから5cmに変われば,もう離陸できない,というような話なんやろう。
せやけど,ほな,ボーイング747やったら,離陸できんのかな?
ボーイング888やったら,もっとバンバン離陸できんのかな??
そんなことを考えると,千歳空港からは一機も離陸できないと思っていたけど,実はJALやANAのようなでっかい(?)飛行機は,この間にもどんどん出発してたん?もしかして??
弱小スカイマークやから,あかんかったん??
わては,さっき空港の中で見たJALの離着陸情報を思い出しました。
遅延はあったけど欠航はなかったし,空席もいっぱいあった‥‥
ほな,JALに乗り換えたら,帰れるんちゃうん?!
その時,一人の乗客の女性が,機内を静かに前方へ歩いて行き,飛行機を降りました。
わては,さっきまで何の役にも立たなかった釈迦ポンでネットを調べ始めました。
わての凍結していた脳細胞が,急に目覚め始めました。
ついさっきの反省と謝罪と感謝の言葉はどこへやら‥‥
19:25。アナウンス。
「皆様。機長からの連絡により,当機の出発が決定いたしました。当機はまもなく,燃料の補給が整い次第,離陸の準備に入ります。」
拍手こそ起きなかったが,機内には安堵の空気が流れました。
わてはもう,胸一杯で拍手したい気持ちでしたで。
そうかそうか,よかったよかった。ありがとうありがとう。スカイマークありがとう。
北海道ほんまありがとう。
それから30分後に,ボーイング737は離陸しました。
機体が傾いて,通路側のわての席からも,北海道の地面の灯りが見えました。
それはさっきまで,脱出したくて仕方がなかった北海道の閉ざされた島ではなく,やっぱり大好きな北海道の大地でした。
ただし,飛行機に乗る前とちがってわてに分かったのは,札幌の上空を龍神さんが守ってる,ってことやったんですけど。