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気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

Your Love 3

2020-03-06 13:31:11 | ストーリー
Your Love 3





彼は何に悩んでいるのか
最近ずっと目の下にくまができている

先月 エレベーターで話しをしていた事で
まだ悩んでるのかもしれない

私が優秀な彼の力になれることなんて何も無いんだろうけど

彼の家にお泊まりした頃から二人きりで会えていない

寂しいな…


でも今の彼に私の個人的なわがままは言えない
会社で顔が見られるのがまだ救い


平日の日中も彼に内線が鳴っては
長時間 席を外すことが多くなった

退勤時間になっても席に戻って来ないまま… とか
休日も外せない用があるとか



でも今夜は久しぶりに

“19時には帰宅できると思う。久しぶりに二人きりで会いたいな!”

と彼から嬉しそうなメールが来た



18時半 ーー
晴樹の部屋を見上げると灯りが点いていた

早く着きすぎたけどもう帰ってた♪

ワクワクしながらチャイムを鳴らすとドアが開いた


「 えっ… 」


あなたは…




ーーー


19時には帰ると彼女には伝えてはあったが
予定より退勤が遅くなり19時帰宅はできそうもなくなった

彼女に電話をかけた

おかしい
出ないな …

自宅前に着き鍵を開けると
部屋に灯りが点いていた

なんで灯りが…


そこにいたのは百合だった
「なっ、なんでお前がここにいるんだ!」

「晴樹がなかなか時間を作ってくれないからよ。ここで待ってたら必ず会えるでしょ?」


なんで勝手に俺の部屋に!!


「もうお前とは何の関係でもないだろう!なんで勝手に入ってんだ!俺の鍵を早く返せ!!」


すると

「もしかして女のことを心配してるの?ならもう帰ったわよ。」


ーー なに!?


「ねぇ(笑) “アレ”があなたの言ってた彼女?
じゃないわよねぇ? だとしたらあり得ないんだけど(笑)」

その言葉に怒りが汲み上げ

百合から強引に俺の鍵を奪い
抵抗する百合を強引に部屋から追い出した



ーーー


百合とは合鍵を返してもらう間もなく別れてしまっていた

俺が部屋の鍵を変えなかったのは
当時の俺は百合にまだ未練が残っていたからだった

でももう彼女でもない百合に
希を追い返えされたことに腹が立った


希に電話をかけても出てくれないし
メールを送っても返事が来ない

俺は不安でそのまま部屋を飛び出した




百合の傲慢な性格を考え、もしかしたらこういう事態が起きるかもしれない、希を傷つけるかもしれない、と恐れ

俺達が交際関係であることは会社では伏せておいて欲しいと希に頼んだのに

それが こんな事になってしまうなんて

先に百合のことを希に伝えておけば良かった



ーーー


百合が突然社内で俺に声をかけてきたあの日 ーー
あいつは“またやり直したい”と言ってきた

きっとあいつは“あのこと”をどこかから聞きつけたからだろう

だからやり直そうなんて言ってきたんだ


百合は“好きな男ができたから”と一方的に別れを告げてきた

当時の俺は混乱した

今の俺にはもう付き合ってる女性がいると話したけれど 百合はひるまなかった

“どんな女か知らないけど、私ほどの良い女はいないでしょう?” と自信ありげに言い切った

あんな女でも付き合い始めは可愛い女だったんだが 百合は次第に変わっていった

いや、若かった俺には気付けなかっただけで
元々そういう女だったのかもしれない

でも今となってはそんなことはどうでもいい



ーーーー



希の部屋に向かう途中
俺は何度も何度も電話をかけ続けた

電車の中からメールも送った

でも 返答が無い
当然だろう

怒っているならまだ良い

恐いのは深く傷つき泣いていること…

百合が希にどう言ったのかは具体的にはわからないが

あの百合の性格を考えると
相当 酷い言葉を希に浴びせたに違いない

そして希が誤解したのも間違いない ーー



電車を降りて全力で走る
30も半ばでこんな学生のように全力疾走をすることなんてなかった

息が上がって苦しい


希の部屋に灯りが点いていて少しだけ安心した

チャイムを押しても返答がない
電話をかけるともう電源は切られていた

ドアの外から話しかけても
なんの言葉も返ってこない


どうしたら誤解が解けるのか ーー

どうすればいいか分からずドアの前で立ち尽くし


俺は
このドアが開くのを祈った



ーーー

彼の部屋から私はどうやって帰ってきたのか
記憶がない ーー

携帯に着信ランプが何度も光って
携帯の電源をオフにした

部屋のチャイムが鳴り
ドアの向こうから声がした

やっぱり彼だった

何度も何度も部屋のチャイムが鳴って
ドアをノックしてくる


「どうか… 頼む 開けてくれ… 」
声が震えてる



胸が痛い ーー



しばらくすると
静かになった

もう諦めて帰ったのかもしれない

胸が張り裂けそうに痛くて苦しいーー



やっぱり彼と付き合うんじゃなかった

わかってた
わかってたはずなのに

私と彼が吊り合わないことなんて始めから…



そもそも私は晴樹の彼女だったのかな

ただの遊び程度としか思われてなかったから
だからからかわれてたのかな


ーー 本当はずっとあの綺麗な彼女と続いていたのかもしれない

最近なかなか会えなかったのは彼女と会っていたのかもしれない

そんなネガティブな考えに囚われ
怒りより 悲しくて 情けなくて


夜通し泣いた



ーーー



翌朝
晴樹からの着信は100件を越えていた
メールも50通近く来ているけど

見たらもっと辛くなりそうで恐くて開けずにいた

彼はまだ彼女と繋がっていた…
だから彼の部屋にいたんだ

あれだけ泣いたのにまた涙が出てくる
どうして涙は枯れないんだろう


まぶたが腫れてるーー
ずっと冷やしてるのに腫れが引かない


こんなひどい顔じゃ会社に行けない

… それに今は晴樹の顔も見たくない



会社には欠勤の連絡を入れた
でも 明日はちゃんと仕事に行かなくちゃ…



ーーー



昨日から希と連絡が取れなくなり
朝 出勤するとやはり希から欠勤連絡が入っていた


退勤後 俺は真っ直ぐ希の部屋に向かった

部屋の灯りは点いていた


ドアの前から電話をかけても
部屋の中からは俺の着信音は聞こえてこない


音を消しているのだろうか

チャイムを押そうとした時
突然部屋のドアが開きお互い目が合って驚いた

偶然 出かける所だったようだ


ーー 目が赤い


「希、誤解を解きたくて来たんだ。話しをさせて欲しい。」

俺とは目を合わそうとせず うつむき少し微笑んだ

「そんな、私 誤解なんてしてないですよ(笑) 」

ーーえ?

「 明日は必ず出勤しますので。今日は帰ってもらえますか、」

「あっ、待っ、」

彼女はまた部屋に入り


ガチャッ ーー


部屋の鍵がかかった


その音で
俺は彼女の心から閉め出されたことを悟った


ーーーー


翌朝 言っていた通り希は出勤してきた

「おはよう、、中野さん… 」
いけない、つい ぎこちない笑顔になってしまった

「おはよう、ございます(笑)」

一瞬 目が合った
でも それだけだった


まるで今までの事がなにもかも無かったかのように俺達の視線が合うことは無くなった

メッセージを書き 彼女が席を外した隙に
そっと彼女の引き出しに忍ばせた

“誤解してる。だからその誤解を解きたい。頼むからちゃんと話をさせて欲しい。”

彼女が退勤し 彼女の引き出しを開くと
そのメッセージのメモはもう無かった

見てくれたんだろうか ーー

それでも彼女からメールは来なかった



会社を出ると 百合が俺を待っていた

なんて奴!! 信じられない!!


「待ってた(笑)」
なんで笑ってられるんだ!

また怒りが汲み上げてきた

俺は百合を無視し駅へと足早で向かった

「ちょっと、晴樹!待ってよ!」


ーーー こいつ!!


「いい加減にしろよ!ついて来るな!お前のせいで、、」

「あの女と別れちゃった?(笑) 」

こいつが男なら確実に殴っていた

「別れてなんかない!お前、勘違いも甚だしいぞ!彼女はお前なんかよりずっと良い女だ!
お前は自分は最高に良い女だと言ってるが 良い女ってのはお前みたいな性悪女のことじゃない!」

百合の表情が歪んだ

「あの女より私が劣ってるとでも言いたいの!? バカにしないでよ!!」

俺は百合に頬を思い切りぶたれ
百合は駅の方向に走って行った

俺の怒りはおさまらないまま携帯を開いた

携帯の中の希の写真ーー

君は今 どこにいるんだ
もう 俺の手の届かないところにいるのか…

早く君に“あのこと”を伝えなければいけないのに…


もう時間が無い



ーーー



俺は彼女に手紙を書いた

俺は 特営からの推薦で
正式に海外勤務の辞令が出ていた

それは誰が聞いても出世コースの栄転だった


俺がまだ20代の頃
出世するために必死で仕事をしていた

海外勤務は俺の夢のひとつでもあったからだ

ニューヨーク支社に移動…
以前の俺ならこんなに嬉しいことはないと喜べたはず

だけど今の俺は日本を離れることが辛い…


この辞令を断ることも考えた
でも長年の夢は捨てきれなかった

最近 ずっと多忙だったのは
海外勤務のための下準備や引き継ぎ業務が立て込んでいたからだ


この事を彼女に理解してもらってから日本を経とうと思っていた


何故なら
向こうに行けば最低5年は帰ってこられないから…

話さければいけないという思いの反面
悲しむ彼女を見たくないというそんな想いもあり 今まで言い出せずにいた

でももう日本を経つのは一週間後と迫ってきている…

百合のことなんて本当にどうでもいい事だし
そんなことは俺と希には関係ない

彼女が俺と百合の仲を誤解しているこの今の状況で日本を経ちたくはない

希の顔を見て 目を見て ちゃんと話したかった

でも それはきっと叶わないだろう…


5年もの長い時間

俺を待っていてくれなんて言えないし
待ってはくれないだろう…

結局 きっぱりと別れた方が彼女のためなのかもしれない


俺のことなんて忘れた方が…

駄目だ…


涙が止まらない






ーーーーーーーーーーーーーーーー

Your Love 2

2020-03-06 12:56:00 | ストーリー
Your Love 2




付き合い始めて2ヶ月

マネージャーの晴樹とのデートは
仕事帰りに食事をしたり
舞台を見に行ったり
TDLにも行った

映画館で映画を見てる時 ソッと手は繋いでくれたけど普段に手を繋ぐことは無い

なんだか “友達” みたいだなぁ…


「あの監督の作品はやっぱり面白かったな(笑) 」
目的地も決めず 何となく足の向くまま歩いた


休日は私と会ってくれてるし
一応… 好かれてはいるようだけど

「希、来週の連休、旅行に行かない?」

えっ!? 旅行!? あ、でも…
「日帰り、だよね(笑)」

「旅行と言えば泊まりだろう?」
お、お泊まり!!♡♡♡

「いきなりそんな… お泊まり旅行だなんて… それはちょっと…♡」
嬉しい!やっと恋人っぽいことができ…

「じゃあ日帰りで行けるところにしようか…」
えっ!!そんな、、嫌とかじゃない、、

「ぶっ!(笑) あははははっ(笑)そのスネた表情も可愛いな(笑)」

あっ、またいつものイジワルだったのね!

「くくくっ(笑)」

この人 …
「ほんとに私のこと好きなのかな。」

晴樹がキョトンとした

つい いつもの独り言の癖が出て慌てて口を抑えた

「もちろん好きだから一緒にいるんだよ。」

真面目な表情で言う彼の
こういう甘い言葉にまだ慣れない


「そう、か… 君は内心俺の気持ちを疑っていたんだな… 」
悲しそうに視線を落とした

「えっ!そんな、疑ってなんか… !」

「くくくっ…(笑) 」
また晴樹が笑いだした

「ちょっと!もう!またからかってるの!? 」

「ごめんごめん(笑) 反応が素直で可愛いからつい、、(笑) 」

「あなたはもっと優しくて誠実な人だと思ってたっ」

からかわれては 爆笑されてばかりで
手すらなかなか繋いでくれないこの関係って
本当に友達みたい

恋人なのにキスだってまだ…
そんなんで恋人同士って言えるのかな

不安になっちゃう…

「俺って優しくなくて不誠実な男なの?」
セクシーな視線で微笑みかけてきたから またドキドキしてくる

「そんな… 」そんな顔するの 卑怯!

「本当に大好きだから 大切にしたいと思ってる。」

「な、なら、イジワルはやめてっ。」

「んー。愛情表現のつもりなんだけど?(笑)」

この人がこんなに豪快に笑い“とてもイジワル” な人だとは会社の人達は誰も知らないだろう

「 愛情表現の方法がおかしい。間違ってる。」

「 困った表情もまた堪らないから見たいんだよ(笑)」

「ドSだよね。」

「さぁどうかな?それは旅行でよくわかるかも?」
旅行しなくても あなたがドSなのは十分わかりますよっ!

上げたり下げたり 私の気持ちを振り回す



気がつけば公園の中を歩いてる ーー

ここを抜けると駅があるから駅に向かってるんだね
今日はもう帰っちゃうってこと… か
もっと一緒にいたかったな…


晴樹が突然足を止め

「希、」
晴樹を見上ると唇が重なった

ーー え?

唇が離れ優しく抱き締められた
「ずっと君とキスしたかった。好きだよ…」

そして またキスをした ーー


ーーーー


とうとう彼とキスをしてしまった♡
しかも今度の連休にはお泊まり旅行♡


突然の急な進展に浮かれっぱなし
ダメダメ!今から仕事なんだから!

会社のロビーでエレベーター待ちの晴樹が見えた

あれ? 遅い…
いつもならもうとっくに出社してる時間のはず…

眠そうにあくびをしてる
可愛いな(笑)


今朝は寝坊したのかな

私みたいに昨日のことを思い出して
眠れなかったとか♡

女性社員に声をかけられ挨拶をしてる

私も同じように挨拶をすると
他の人と同じように挨拶をしてきた

エレベーターの中で晴樹を意識してしまう
昨日のことで まるで付き合い始めた直後のようなドキドキ感

「随分と眠そうですね(笑)」

ドキッとした

彼は男性社員に話しかけられていた

「 あぁ。昨夜 色々考えてたら眠れなくてね。」
やっぱり晴樹も昨日の夜のことを思い出して眠れなかったんだ♡

「もしかして例の企画が通るかどうか考えてたんですか? 」

違う違う(笑)

「まぁ、それもあるね。」
吹き出しそうになるのを堪えた

「じゃあ、田辺マネージャーから来た例の件ですか?」

田辺…? あぁ、特営(特別営業部)の…

「んー、それね。 (はぁ…) 」
今の、ため息?
ため息なんて今までついたことないのに…

後ろにいる彼の顔を振り返って見ることはできない



「気乗りしないんですか?僕は良い話だと思いますけど(笑)」

なんの話??


「私にはそうでもないんだよ… 」

「僕がマネージャーなら是非!って所ですけどね(笑)」

「じゃあ君が代わってくれ(苦笑)」


エレベーターが着いてうちの課の人達と一斉に降りた

「僕は残念ながら代わりたくても代われません(笑)マネージャーじゃないですし、結婚もしてて子供もいる身ですよ?(笑)」

え? それって…
二人の表情をチラッと見ると彼は苦い表情をしていた

なんだか 嫌な予感がした

ベタなドラマだと…

“藤川くん!君、見合いしないか!”
なんて上からプレッシャーをかけられ御令嬢とお見合いをするはめになった

なんて展開が起きてるような会話じゃない?


ーー 不安だな
彼は悩みや考えを話さない人だからわからないし…


ーーーーー

業務中も朝の二人の会話が気になって彼の方をつい見てしまう

タイミング良く目が合うと微笑んでくれて少しはホッとするけど…


聞いてもいいかな…
今夜話がしたいとメールを送ったら
今夜は予定があるから明日にしようと返ってきた

翌日の夜 一緒に食事に行くことになった

なんとなく触れてはいけない話のように思えて聞きにくいまま食事は終わってしまった

「旅行なんだけど、どうしても外せない社用で行けなくなったんだ。本当にごめん。また違う連休にしてくれないか。」


その時 何故か理由もなく

二度と彼と一緒に旅行に行くことはないような
そんな胸騒ぎがした


「そっか… わかった。残念だけどまた次の機会にしよ(笑)」

「楽しみにしてくれてたんだろう。本当にごめん。」



ーーーーー


本来なら一緒に行くはずだったその連休がやってきた

彼は社用としか言わなかったけれど何なんだろう

まさか本当にお見合いが入った、とかだったら!?
「ははは… まさかね(笑)」


私は部屋の掃除や洗濯をしながら
今頃どうしてるんだろうとぼんやり彼のことを考えていた


今日を含めて休みは3日もある

3日間 全て社用なのかな…
少しの時間も会えないのかな

それぐらい聞いておけば良かった


買い物から帰宅し
今晩の晩御飯の支度を始めようとした時

晴樹からメールが入った


“明日の夜、会えない?”
ウキウキしながら会うと返事を送った


連休2日目の夜
私は彼の部屋に初めて招かれた

緊張気味の私を部屋に通してくれた



シンプルな部屋で物があまりない…
こともないわ!!


異常に本が多い!!


えーっ…
これ何の本なの

手に取って開くと英語で書かれた本だった

何コレ!!


他のを見ても洋書、洋書、洋書、、

…英語が堪能だったんだ


生粋の日本人ではない容姿だなとは以前から思ってたけど
やっぱりそうなのかな…




「 本当なら今頃旅行先だったよね。予定が変わってごめんよ。」


鍋を温めながら 冷蔵庫を開いた
「ビールでいい?」


お酒!?

「お酒はいらない(笑)」

勧め上手な晴樹に飲まされたら帰れなくなるもの

あ、もしかして帰らなくてもいいとか♡



「いらない? じゃあ俺もやめておこうかな。」

なんだ…
やっぱりそういうつもりで言ったんじゃないんだ

勘違いが恥ずかしい(笑)


「私はお茶でいい(笑) 飲んだら帰れなくなりそうだし(笑) 」

「お茶でも今夜は帰らなくてもいいよ。」

え?

「 というか。今夜は帰さないつもりなんだけど。」

それってつまり
今夜は泊まって行けってことーー ?

晴樹が吹き出した
「ぶっ(笑)やっぱり可愛いなぁ~(笑)」


もう!また!
どこまで本気で言ってるのかわかんない!


「ということで、はい(笑)」
ビールとグラスを持ってきてグラスを手渡された


グラスにビールを注ぎ
自分のグラスにもビールを注いだ


「旅行にはいけなかったけど その分今夜ぐらい一緒に過ごしたいから(笑)」
グラスを合わせ 嬉しそうにビールを飲んだ

「これで確実にお泊まり決定だよ(笑)」
ニヤッと笑った

いつもより やけにテンションが高く浮かれてるように見える


あじの南蛮漬けに筑前煮
だし巻き卵や鳥の唐揚げ
海鮮サラダに…

これは何?お餅?ポテトのそぼろ餡掛け団子的な?

なんか、、まるで居酒屋!(笑)


「これ、自分で料理したの?」

「はははっ!まさか(笑) 母の店のを分けてもらってきた(笑)」

お母さんは小料理屋を営んでいると話してくれた


「美味しい!」本当に美味しい!

「そっか(笑) 良かった(笑)」
彼は自分が誉められたように照れ笑いをした

「母さんから、なんでそんなに沢山必要なんだって聞かれたよ(笑)」

「なんて答えたの?」

「来客があるからと話したよ(笑)」

客ーー
彼女が来るとは言ってくれなかったんだ

「そうなんだ… あ、このだし巻き卵も美味しい!(笑)」

「俺、一番好きなんだよ(笑)」

そんな朗らかな会話が続いた

連休中に急な仕事と言っていたけど明日は休めるのかな

「希、今夜泊まってくだろ?」
掛け時計を見たら23時前だった

いつも晴樹にやられっぱなしだから今度は私が!

「終電までまだ時間あるからもうそろそろ帰る。」

私の隣りに座り直して私の頬を両手で包み
私の額に額をくっつけてきた


「今夜は傍にいて欲しい… 頼む 」

まるで祈るように弱々しいその声に
私は彼の傍から離れられなくなった


ーーー


朝 目が覚めると 隣には晴樹がまだ眠っていて
私は晴樹の腕にガッチリとホールドされていた

おっ… 重っ!

腕を退けようとしたら
寝ぼけて脚も乗せてきから逃げられない体制になってしまった

重いよっ!!
早く早く服を着なくちゃ!

晴樹が完全に目が覚めたら恥ずかしい!!

起こさないよう必死に腕を退けようとしても全く動かない


「なーに逃げようとしてる?」

「なっ!」起きてたの!?

「起きてるなら放して、よっ!」
腕が全く動かない


「嫌だ。もっとくっついていたい 」
余計に強く抱き締めてきた

まるで子供が母親に甘えているよう…
じゃない!!



胸を揉んできた

「あ、ここ(乳首)勃ってきた… 」

「ねぇ、ほんとに放して(笑) 」


仰向けにされ 手首を掴まれ
舌先で乳首を転がしながら私を見上げた

「ダメ。(乳首が)こんなになってるのに放って置けないだろ?」

「アッ… 待っ、、」

「こんな姿を見たら朝でも我慢できない」
切なそうな表情をして微笑んだ

「本当に君は美しいな… 」


朝からまた
晴樹に抱かれた





ーーーーーーーーーーーーー

Your Love 1

2020-03-04 20:30:00 | ストーリー
Your Love 1




私は入社社4年目の25歳 OL
ちなみに彼氏はいない

この会社の 一人の男性に憧れている

女性社員みんなの憧れと言っても過言じゃないぐらい素敵な人


藤川 晴樹 34歳
若いのにもう部長


噂では仕事もできるクールな人らしい

そんな感じする…


私は部所が違うから直接話もしたことはないし
たまに社内で見かけると気分が上がる

残念ながら同じ部署にでもならないと
会話すらするチャンスもない人



とうとう今日は異動発表の日

今の部署から移動になるのかな
入社してずっと今の部署だから慣れてるし
このままここにいたいな…


社内全体の連絡は各自のパソコンに一斉メールで届くようになっている



移動になった、とか ならなかったとか
歓喜や落胆の声が聞こえてくる


私は … メールを開けてみる


【 中野 希 : 営業企画部 1課 】
私 移動!? しかもハードと言われているな営業企画部…


うちの会社は原則、辞令が出たら2日以内に引き継ぎ業務、3日目には必ず移動と決まりになっている


「藤川マネージャーはどこになったの?」という会話が耳に入った


あっ、そうだ!藤川マネージャー!憧れの人!


「あった!営業企画部1課に移動、だって。ウチじゃないのかぁ~ 」

えっ!?
私はもう一度メールを確認した

嘘…
私、同じ部署になった…

あの藤川マネージャーと同じ部署
さっきまでの沈んでたのに

内心大喜びした


ーーーー

とうとう新しい部署で初日の朝
本当に待ち遠しくて いつもより早く出社した

「おはようござい… 」

まだ誰も来ていなかった
一人苦笑いしながら部内を見渡すと

「早いね(笑)」

あの憧れの藤川マネージャーが出社していた

「お、おはようございます!よろしくお願い致します、、」

直接 会話するの初めて …


「よろしくね、中野さん。」
微笑んで私に握手の手を差し出してくれた

流石、藤川マネージャー
顔と名前をもう覚えてくれてる!

「こちらこそよろしくお願い致します!」
手に触ってしまった

二人きりのこの状況に緊張する
早く他の人が出社しないかと落ち着かない

まるで芸能人の推しと対面したみたいなドキドキで
心臓が飛び出そうになった

同じ部署になった女性社員さんが続々と出社しては藤川マネージャーに挨拶を始めた

嬉しそうな表情…
みんな私と同じ気持ちなんだな(笑)



ーーーー

人事異動から約三ヶ月
仕事もなんとかこなしていけてる

マネージャーの仕事ぶりは噂通りだった

卒がなくで的確
自分の仕事もあるのに部下のことも気にかけて
部の士気を下げないよう努めてる

誰よりも早く出社し 誰よりも遅く退社する

なんか…
こんな上司珍しい…

もしかしたら家でもずっと仕事しているのかもしれない

コピーとか私達部下を使わず自分のことは自分でやってる

本当に珍しいというか
仕事ができる人ってこういうことを当然のようにできる人なのかもしれないな…

とにかく 何もかも格好良いのは間違いない

冷静でクールだけど
時々微笑むと優しい表情に変わる

あのギャップ、本当に恋しちゃいそうになる
でも勘違いしちゃいけない

男性 女性に関わらず
チームのように部下を気にかけてる

そういう人なんだ


うちの会社は残業をしてはいけないという空気がありみんな定時に退社していて

私もみんなと同じく退社した


会社のビルを出たところでバッグを探った

あ、あれ!? チケットがない!

手帳に挟んでおいたはずのその手帳がない
会社の引き出し… かな

明日でも構わないけど

引き出しにその手帳があるのか、確実に手帳に挟んでおいたのかが気になって取りに戻ることにした

部署に帰る途中のエレベーターで友達からLINEが入った

“明日 仕事で行けなくなった!急でごめん!この埋め合わせは必ずするからー”

えぇっ …

久しぶりにその友達と会う約束だったから凄く楽しみにしてたのに…

部署に戻ると マネージャーが帰り支度を始めていた

「あれ? 忘れ物?」


自分の引き出しを引くとやっぱり手帳は入っていた
手帳を開くとチケットも入っていた

良かった…

私はマネージャーにライブのチケットを見せた

「これを忘れてて(笑)」

「チケット?」 ジャケットを羽織った

「ジャズのライブがあるんです。」

マネージャーは興味ありげに聞いてきた
「へぇ(笑) 中野さん、ジャズ好きなの? 僕も好きだよ。」

えっ? じゃあ …
「もし … ご都合良かったら、どうですか?」

ドキドキしながら誘ってみた

「君と一緒に?でも彼氏とか友達とかと行くんじゃないの?」

「カレシいませんからっ」
真っ赤になりながら答えた

マネージャーは少し驚いた

「このチケットは一緒に行くはずだった友達がいけなくなったもので、もしよろしければ、と… 思ったのですが、、」

私がマネージャーをお誘いするなんて
なんて無謀なことをしたの!

私ったらほんとバカ!?


「それはいつ?」

ーー えっ?


「明日の夜です… 急ですよね?」

マネージャーは鞄の中から手帳を取り出しスケジュールを確認した

「明日の夜… ん、 大丈夫。是非行きたいな(笑)」

ほんとに!?

「じゃあ、これ、、」
チケットを手渡した

「ありがとう(笑) 楽しみだ(笑)」


ーーー


あぁ… 一睡も 眠れなかった
今夜はマネージャーとデート… (?)

あの女性社員みんなの(?)憧れ
“藤川マネージャー”とデート(?)

そんなの 眠れる訳ないよ ーー

早く仕事が終わらないかと一日中
ずっと時計ばかりを見てソワソワしていた


ーーーー

退社時間になり机の整理するふりをしてみんなが帰るのを待った

ほどなくして部内には私とマネージャーと二人きりになった


「それじゃあ 行こうか(笑)」
マネージャーは仕事ではクールに見える人だけど

凄く嬉しそうな笑顔でスーツのジャケットを羽織った

そんなにジャズが好きなんだったんだ
声をかけて良かった

マネージャーの後ろを歩き
会社のビルから外に出た

勤務外時間にマネージャーと一緒に歩くーー

このシチュエーションだけでドキドキする

「あぁ、そうだ。ここからは “ マネージャー ” は抜きにしてくれない? 仕事外だから(笑)」

「では… なんとお呼びすれば 」

ニッコリ笑って
「晴樹、とか?」

思ってもみなかった事を言われ驚いた

いきなり名前の方!?
「そんなの無理ですよっ!」

「変… かなぁ? じゃあ晴樹さん、なら?」

「 だから、名前は無理ですって!(笑) 」

「じゃあ… 妥協して、藤川ね(笑) 俺は希ちゃんって呼ぶね。」


希 “ちゃん”!?
頭で湯が沸かせそうなほど全身がカーッと熱くなって汗が吹きでてきた

それに “俺” って言った!

会社では “私” と言ってるからか
そのプライベート感に緊張度が増してた

なんか色々と頭も心臓にも負担が…


「希ちゃん、彼氏はいないって言ってたけど、好きな人もいない?」

「は、はい!?」
いきなり唐突に “彼氏はいるのか?” なんて普通聞いてくる!?

「あ、これはいけない質問だな。セクハラ発言になるね。
でも、真面目にね、俺は君に興味があるから聞きたい。」
真面目な表情で質問してきた


「興味?」
上司が部下の事を把握しておきたい的な感じ?

でもプライベートの恋愛事情なんて業務とは関係ないよね

若い女は恋愛にうつつをぬかす傾向があるから事前調査的な?


「今は好きな人もいないです。」
これが無難な答えよね…


「そうなのか… 」
やっぱりマネージャーもそう思ってるんだなぁ
女は恋愛にうつつをぬかすって

マネージャーは仕事もできるし 恋愛なんて 二の次、三の次、って感じに見える


優しいんだけど
どこかクールでスマート


感情的になることも情熱的というタイプでもなさそう
そもそも恋愛に興味なんかなさそう


頭の中はずっと仕事のことばかり!って感じ(笑)


だからこそ “ジャズが好き” なんてプライベート情報を入手できたことが嬉しい


「ここだね。」
ライブが行われるジャスバーに着いた

お酒を飲みながら
本格的な生演奏のジャズが聴く

ライブが始まった

時々 目を閉じて聴き入る横顔
グラスを持つ指先
アイリッシュを飲み込む度に動く喉仏
綺麗な鼻筋


日本人としては色素の薄い瞳の色
髪も茶色っぽくて 肌の色も白い

もしかしてクォーターとか…?
とても綺麗でつい見とれてしまう

ジャズの生演奏を聴きに来たのに
私の意識はそれどころじゃなくなってる


そんな私に気づいてテーブルに片肘を立て私をじっと見つめ始めた

「な、なんでしょう、、」

「グラス空いてるけど、次はなにを頼もうか。」
いつもより低い声のトーン

あぁ、グラス、ね!
「あっ、じゃあ 同じもので」

「わかった。待ってて。」
オーダーしに立ち上がった

それでじっと見てたの!

あーもう、紛らわしいなっ!
ドキドキしちゃったよ!

持ってきたのはマネージャーがさっき飲んでいたアイリッシュだった


「あれ?」


さっき飲んでいた物と同じものをと思って言ったつもりなんだけど…



マネージャーの顔を見たら
「俺と“同じ”の、でしょ?(笑)」と頭を傾けて微笑んだ


一口飲むと凄くキツいお酒だとわかった
こんなの飲んだら直ぐに酔っぱらっちゃう!


まさか私を酔わせたいとか…
いえいえ、それは自意識過剰だよね(笑)

「この曲 …俺 好きでね。家でもたまに聴くんだ(笑)」

その光景
想像できてしまう(笑)

ゆっくりまぶたを閉じて曲を聴き入る ーー

その表情が
なんだか悲しそうでもあり 麗しい


ライブが終わっても
他のお客さんはまだ残って飲んでいた

「マネージャー… じゃなくて、藤川さん。」

「ん? 」

「藤川さん … は、交際してる人いますよね? 」

「なんでいるのが前提?(笑) 今はいないよ。」

「社内でもモテてるじゃないですか。直ぐにでも彼女できそうですけど… 」

「俺モテてるの? 仮にモテているとしてもそこは重要じゃない。
それに俺はそんな簡単に誰かを好きにはならないからね(笑) 」

「はぁ… 」
この人が好きになる人って相当な人なんだろうな


「なに? 信じられない?(笑) 」
セクシーな視線で見つめられて思わず目線を反らした

「い、いえ、そういう訳では(笑) 」

「俺はね… 」
マネージャーに視線を戻したら
真剣な表情で真っ直ぐ私の目を見つめていた


「実はずっと昔から希ちゃんのことが好きだったんだ。だから、、俺のことどう思ってるのかと気になってた。」


好き!?
あ、部下として、ね(笑)


「あっ、いえ(笑) 」

「部下としてじゃないよ。」

え? えっ!?

「いつも元気で一生懸命で、なのにたまにおっちょこちょこミスをする所とか、あぁ!反応が素直で可愛いところとかね(笑) 」

「それ、ディスってます?」

マネージャーが吹き出した

「ククッ(笑) そんなことないよ?そういう返しも好きだな(笑) 」

なんだ…
私 からかわれてるだけなんだ(苦笑)

「ハハッ… ですよね(苦笑) 」

優しい顔になる
「ちゃんと、恋愛感情の “好き” だよ(笑) 」

は!?

いやいや、あり得ないよ!
だって藤川マネージャーだよ!?

信じられないよ!


嬉しいはずなのに
なんで私なのか信じられなくて頭の中が混乱する

固く口を閉じ複雑な表情になってしまっていた私の顔を見て

「迷惑、かな… 」 不安そうな表情になった


不安そうな表情なんて初めて…
私はずっとこの人に憧れてきた

いつも会社では爽やかで頼もしくて
自信に満ちあふれているのに

今夜のマネージャーは …

爆笑したり
悲しそうに見えたり
セクシーな視線

そして こんな不安な表情もする

今夜はマネージャーの感情の動きが手に取るようにわかる

ーー 私のことが女として好き?

「やっぱりわからないです。マネージャーとじゃ吊り合わないのに。」

「吊り合わないってどういうこと?」

「言葉通りです。」

マネージャーは悲しい表情に変わった
「そっか… 」

えっ!? 待って待って!!

「やっぱりフラれてしまったな(笑) 」
残念そうに微笑んだ

あっ、違っ、違うんです!!

「私もマネージャーが好きですよ!男性としてとても素敵だと思ってます!」

驚いた表情に変わった
「いや、でも、、」

好きですよなんて咄嗟に口から出てしまったことに顔から火がでそうになった

「もし、俺への気遣いでそう返してくれたんじゃないなら… 」

「ないなら… ? 」 心臓がバクバク鳴ってる

「俺の彼女になって欲しい。」

こんなに真っ直ぐマネージャーの瞳を見るのは初めて

吸い込まれそうなほと綺麗で薄い色の瞳の瞳孔は大きく潤んでいた

仕事もできるしこんなになにもかも揃ってる人 探してもいない

そんな人が私に好きだって言ったんだよ?
あり得ないでしょう

私なんて 良い評価で何もかも平均的
なんの印象にも残らない

顔と名前もなかなか覚え貰えてもらいにくいような存在感の薄い人間なのに



「今日のチケットをくれた時、本当に嬉しかったんだ(笑) まさか君からチャンスをもらえるなんて思わなかった。」

ーー 冗談じゃなく本当に?

「 君は本当に昔から頑張り屋だったね。
そんな君を見てきて、もっと知りたくて、近づきたくて、いつの間にか好きだと思うようになった。
君は俺のことどう思ってるか、ずっと気になってた。」

昔からって… ?

「ずっとマネージャーは私の憧れの人です。」

「じゃあ、」

「あ、ありがとうございますっ、こちらこそよろしくお願い致します!」

「希ちゃん… ありがとう… 好きだよ。」








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恋 (2)

2020-02-20 21:26:00 | ストーリー
恋 (2)






彼女と別れて一年が過ぎていた


54歳の誕生日はもう直ぐという時

いつものようにワイシャツをクリーニング店に出しに行くと店主のおばちゃんが笑顔で出迎えてくれた


よく喋る気さくなおばちゃんがしばらく入院すると話だした

以前から股関節が悪いとは聞いていたが
いよいよ手術をすることに決めたという

代わりにパートさんを雇うから店はいつもと同じように開いてるからねと元気に笑った



翌週にクリーニング店に行くと
新しいパートの女性がいた


40代前半だろうか

化粧っけのない、いかにも主婦といった感じの地味な女性だったが

ここで働き始めて間もないだろうに
てきぱきと慣れた感じが頭の良さを感じた


「 梶原さん、ですね。」

専用の機械を手慣れたように打ち込み
迷いもなく1週間分のワイシャツをカウンターまで持ってきて丁寧に袋に詰め込む


店主のおばちゃんよりも手早いんじゃないか?と思うほどだった


「 どうも、ありがとう。」

ほとんど会話も交わさず僕はワイシャツを受け取り店を出た



そのパート女性のことは
全く印象すら残っておらず


いつものように会社帰りにスーパーマーケットに立ち寄り

ビールと弁当を買ってスーパーマーケットを出ようとしたら女性から声をかけられた



「 梶原さんですね? 」


「 え? はい … 」


誰だろう?


「 ふふっ(笑) クリーニング店でお会いしましたよ(笑) 」


クリーニングって … あぁ!

「 あっ、どうも(笑) 」



あの一回で僕の顔と名前を覚えていたことに驚いた

僕はすっかり忘れていたのに


女性も買い物を済ませて帰るところだというから並んで歩いた


店での印象は地味な主婦といった感じだったが今日はちゃんと化粧もしていて

なんか別人に見える …


「 息子が大学を卒業するんですよ(笑) 就職先も決まってホッとしてます(笑) 」

大学!?
そんな大きな子供がいるのか!



「 若いお母さんですね(笑) 」


「 そうですか? もう48ですよ(笑) 」


彼女は僕のことを聞いてこない

結婚しているのかとか
子供がいるのかとか

まぁ僕に興味はないだろうから当然だな



「 じゃあ私はこっちなので(笑) 」


「 はい。ではまた(笑) 」


姿勢の綺麗な彼女の後ろ姿は
苦労を感じさせない品のある奥様という感じだった


多分 幸せな家庭なんだろう



ーーー



次にクリーニング店で会った時の彼女は

スーパーマーケットで会ったからか
少し親しみのある笑顔で出迎えてくれた


薄化粧ながらも綺麗に見え
地味な印象はなかった


他に客も来なかったから彼女は話し始めた


一人息子さんは県外に行くこと

歳の離れたダンナとは離婚して子供の学費や養育費はきちんと支払われているからそこは助かっていると


何故そんなプライベートなことを
そんな親しくもない僕なんかに話すのか戸惑った


「 僕には悩みのない幸せな奥さんって感じに見えていましたよ(笑) 」


「 そうですか(笑) 」
一瞬少し悲しそうな笑顔に見えた



そうか
そうだな

外からは幸せそうに見えても
そうじゃない人は沢山いるもんな


「 息子さんが県外に出るのは寂しいですね。」


「 そうですね(笑) 私よりしっかりしてるから大丈夫だとは思うんですが、やっぱり心配で(笑) 」


母親の顔をした


「 梶原さんは独身ですよね? 」


何故独身だとわかったのかと聞くと
毎週ワイシャツを自分で持ってきては自分で取りに来るし

スーパーで一人分の弁当を買っていたのを見たからそうじゃないかと思っていたという


よく見てるな!(笑)


しかも初めて僕のことを聞いてきたことに
少し嬉しくなった


「 独身です。男やもめでつまんない毎日ですよ(笑) 」

「 毎日夜はお弁当ですか?身体に良くないですよ?(笑) 」


「 そうですね(笑) 何か作れたらいいんですが、何もできなくてね(笑) 」


せめて豆腐と刻みネギの冷奴とかサラダとか
調理しなくても済む物でも付け合わせた方が良いとアドバイスをくれた


女性らしいな(笑)


そこで初めて僕は
彼女を女性として意識をした



千里とは違うタイプ
母性を感じる家庭的な女性



こういう女性と暮らせたら
穏やかな生活がおくれるんだろうな


なんてチラッと思った


でもこれは恋じゃない


自分が楽になりたいがための
逃げの考えかもしれない



「 そろそろ、、帰ります。」


「 吉田です。」


「 え? 」


「 私、吉田 由美と言います(笑) 」


そうか、名前聞いてなかったな


「 吉田さん、、じゃあまた(笑) 」


僕はワイシャツの入った袋を持ちクリーニング店を出た




吉田さんとは毎週クリーニング店で顔を合わすが
僕の前後に他の客も出入りして


二人きりの瞬間はなかなか訪れず
その度 残念な気分になっていた



本当は週一じゃなく 毎日持って行ければいいけれど

最近仕事が終わる時間が遅くなりがちになって平日にはどうしても行けない


週末だけがチャンスなんだけど ーー


そんな風に考えるようになったってことは
僕は彼女に恋をしたってことかもしれない


彼女のどこに惚れたのかわからない
でも家庭的な彼女といると何故だか癒されていた


もっと彼女を笑顔にしたい
今よりもっと幸せな気持ちにしてあげたい

そう思うようになった




恋なんかしない

頭ではそう思っていても
恋とは勝手に堕ちるものだと認めせざるを得ない



恋だと自覚してしまったから
僕の気持ちは止めることができなかった



「 あの、これ。」


開店時間を少し過ぎた頃に店に行くと先客がいた

他に客がいるかもと先に想定していたから
事前にメモを書いて用意していた



僕の名前と電話番号にメールアドレス


電話番号は書かなくてもクリーニングのデータで残っているんだろうけど

ちゃんと個人的に教えたかった




やはり僕の後にも客が入ってきた

彼女はメモをチラッと見てエプロンのポケットに入れて笑顔で小さく頷いた



その瞬間
僕は彼女に受け入れられたと思った


急に鼓動が早くなってきて
早々に店を出た




帰るなり

ソワソワする気持ちで
家中を片付けて掃除を始めた



家に彼女を招くつもりはないが

ていたらくだった自分を変えて
ちゃんとしよう!と思ったからだ




恋だけで変わるなんて
僕はなんてチョロい男なんだ、と思いながらも

ワクワクする気持ちで一日中 徹底的に掃除をした



仕事が終わった頃には電話かメールがあるかもしれないと

携帯をずっとポケットに入れていたが

電話もメールも来なかった




もしかして迷惑だったか?

彼女には他に付き合っている男がいたのだろうか


そんなことも確かめもせず
先走ってメモを渡してしまった自分に少し後悔した



それから三日後
知らないメールアドレスからメールが来た


開くと彼女だった

返事が遅くなってすまないという書き出しから始まっていた


どういう理由で連絡先をくれたのかがわからないようだった


そうか

僕は彼女のことが好きだってことを伝えもせず
単に連絡先を渡しただけだったことに気付いた

気持ちを伝えるのはやっぱり会ってからが良いよな


お互いの休みが合うのは日祝だから
次の日曜に食事にでも行きませんかとメールを返信すると

OKの返信が返ってきた



日曜のためにどこに行くかをリサーチする

食べ物の好き嫌いもなく
こだわりのない自分


当然
デートで女性と行くような洒落た店なんか知らないぞ


「 困った … 」



会社の女の子に聞いてみることにした



「 は? 課長がデートですか? 」
明らかに怪訝そうな表情をされた


僕が女性とデートをするのが
変だとでも言いたいのか?
まぁ… 冴えない50代半ばのおっさんだからな



「 ( いいから、早く教えてくれ!) 」
恥ずかしいから急かすと携帯で検索して教えくれた




幾つか店を教えてもらい その店に予約を入れた


髪もちゃんと切って
身綺麗な服も買った


待ち合わせた駅の入り口に
彼女は約束の時間より15分も早く訪れた



おっ … !
ワンピースなんて初めてだ


清楚さが際立つ服に
降ろした後ろ髪


デートという実感が益々湧いて
心臓が壊れたかのように強く胸を打っている


「 もういらしてたんですね(笑) すみません、お待たせしましたか? 」


「 あぁ、いや、僕も今着いたところで … 」
本当は約束の30分前にはもう着いていた



「 梶原さん、今日は雰囲気違いますね(笑) 」



えっ!どう違う!?

何かおかしいか!?



「 変という事ではないですよ?(笑) とても素敵です(笑)
そのシャツもジャケットもよく似合ってて良い雰囲気ですね(笑) 」


「 素敵なのは、、吉田さんの方、ですよ、、」


僕は女性に誉め言葉を言う習慣がなかったから
どう伝えればいいのかわからない



「 ありがとうございます(笑) 」




あぁっ、
僕はなんてボキャブラリのない男なんだ

気の利いた言葉が出てこない



「 緊張してるんですか?(笑) いつもの梶原さんらしくないですね(笑) 」


「 えっ!そう、でしょうか … (笑) 」


年甲斐もなく
内心はしゃいでドキドキして

僕は思春期のガキか!




彼女を目の前にして一緒に食事をする

箸の持ち方も所作もとても綺麗で
普段の姿勢も美しいし品もある

金持ちのお嬢さま育ちなのだろうか

彼女を見てると自分の背筋も自然と伸びる



「 吉田さんは何故、食事に付き合ってくれたんですか? 」


「 ふふっ(笑) じゃあ梶原さんは何故、私を食事に誘ってくれたんですか? 」


まさか質問返しが来ると思ってなくて戸惑った


「 それは … 落ち着いて話をしてみたかったから、です。」


「 あのお店(クリーニング店)ではなかなか落ち着いて話せないですものね(笑)

私も梶原さんの話を聞かせてもらいたかったんです(笑) 」

僕のつまんない日常を?


「 何が聞きたいですか? 何でも答えますよ。」


何故 離婚したのかを尋ねてきた
いきなり率直に深いところを聞いてきたなと思ったが

僕は素直に話した


僕の離婚理由はまさに千里の時と同じだった

一言で言えば
気持ちをわかってやれず愛想を尽かされたってこと


情けないことに
二度も同じ失敗を繰り返したってことだ


だからこそ 今度こそは!と思っている


「 そうなんですね。言葉にしないと伝わらないですからね(笑) 」


「 本当、その通りです(笑) 」


穏やかな佇まいの彼女を見つめていると
そう見つめられると恥ずかしいですと笑った


そんな彼女がとても可愛いらしくて


“ 恋がしたいの ” と言って出ていった
千里の気持ちがわかった


「 あの、すみません。吉田さんはお付き合いしている男性はいるんですか? 」


「 何故、すみません なんですか?(笑)
離婚してからは誰ともお付き合いしていません(笑) 」



ということは …

離婚して10年と言っていたから …

もう10年はいないってことか



「 それは意外ですね。
あの、僕と友達としてで構わないので付き合ってもらえませんか? 」


目をパチパチさせた


「 あっ、すみません、迷惑ですか?」


「 いえ、もうお友達ですよね?(笑) 」


「 そうか、そうですね(笑) 」

そうじゃないだろう
男と女として “ 付き合ってください ” だろう

僕は馬鹿か!



額に汗が滲んできてハンカチで額の汗を拭う

「 あの、男としてあなたとお付き合いがしたいんですが、、」


「 梶原さん、ありがとうございます。でも … 」



ーー 『 でも … 』って流れは… フラれるな



「 そのお返事はお店を出てからで構いませんか? 」



え?

まだ首の皮一枚で繋がってるのか …?



「 あっ、はいっ、もちろんっ…! 」



「 ではお店でますか? 」



「 え、ええ、、出ましょうか、、 」




恐いな …

イエスなのかノーなのか

ソワソワする



こんな気持ち
こんな年齢になってもまだあるんだな

今度は冷や汗が出てきた



「 汐入公園が近いからそちらまで歩きません? 」


季節は春の終わり
日差しだけはもう初夏を感じさせていた




歩く彼女の首筋に汗が滲んできた

彼女が暑いとカーデガンを脱ぐとノースリーブだった


男と違って
柔らかそうな白い肌が

ソワソワさせる ーー



うっ、、なんか
これ見た後にフラれたら… 相当キツイ …


「 さっきのお話なんですけど … 」


来た!
心臓が暴走したようにいきなり強く鼓動を打つ


「 は、はい!」息を飲んだ


「 よろしくお願い致します 」

僕に頭を下げた



え?
ごめんなさい… じゃない?



「 えっ!? あっ、こちらこそ、どうぞよろしくお願いします! 」

頭を下げた僕にクスクスと笑いだした




「 私が硬い挨拶しちゃったから(笑) ごめんなさい(笑) 」

彼女は葉が濃くなった桜を見上げ


「 私、もう恋愛なんてできないと思ってました。

離婚して子育てに追われ、生活も余裕がある訳ではなかったから一生懸命働いて …

親として生きてきた時間が長かったからまた誰かを好きになるなんて思わなかったです(笑) 」



僕の方に視線を移した


「 また、そういう気持ちにさせてくれて …
ありがとうございます。」


その笑顔は とても美しく眩しかった ーー



「 … 僕ももう恋なんてできないと思っていました … 」



川沿いの
涼しい風が吹いて

葉音が爽やかに鳴っていた



「 これから夏ですね(笑) 」

彼女はそう言いながら
風に揺れる髪を抑えていた




「 季節には四季があるように
人生は冬ばかりではないですね。

夏も秋も冬も一緒に楽しんでいきましょう。 」




寒い冬も 二人なら寒くはない





僕の冬は

終わったようだ










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恋 (1)

2020-02-20 21:14:00 | ストーリー
恋 (1)






僕はどこにでもいる45歳で普通の男

趣味と言えるものも特になく

自慢できることと言えば
高校野球で甲子園に行った事ぐらいで

それも遠い昔の話




彼女は 千里 38歳 イラストレーター

芸術には全く疎い僕と 機械関係は弱い彼女は
真逆といっていい


行きつけだった小さな居酒屋の客として
たまに彼女が訪れるようになった


人見知りのしない彼女が
“ また会いましたね~ ”

と声をかけてきたのがきっかけで
話をするようになった


僕と違ってセオリーに囚われない考え方に興味が湧いた

決してしおらしい女という訳ではなく
サバサバとした元気な彼女に

仕事で疲れていてもその疲れを忘れられた


いつしか僕は
彼女が居るかなと居酒屋に通うようになっていた


彼女がいないと残念な気持ちになり
その残念な気持ちで

僕が彼女に恋をしたのを自覚した




「 ねぇねぇ、梶原さんはパソコンとか得意? 」

PCに疎い彼女の部屋に招かれ
購入したばかりだというPCの設定を確認してあげることになった


僕は危険人物じゃないと信用されたことは嬉しいが
男として見られているのだろうかが気になる


「 仲谷さんは (男の)僕を部屋に入れても平気なんだ? 」


彼女の部屋で二人きりの状況が照れくさくて
設定を確認しながらディスプレイを見る


「 梶原さんだからお願いしたんだけど 」

それは僕はPCが得意そうだったから?
男として意識してないから、ということなのか?


その疑問を素直に聞くことができず
画面から視線を外さない僕に


「 あれ? わからない? 私、梶原さんが好きだからよ。」


好き!?


驚いて彼女の方を向いた
その時の僕の表情がよほど可笑しかったのか

彼女は笑った




そうして僕達は付き合うようになった

その翌月に戸建てに住む僕の家に彼女は越してきた


バツイチ同士

前の結婚でお互いに痛い経験をしているため入籍にはこだわっていなかった


それから5年の月日が経った ーーー



僕が53歳
彼女は45歳になっていた


お互い全く違うタイプだけれど
それでも僕らは夫婦のようなそれなりに良好な関係を築いていた


付き合い始めのようなラブラブな空気は当然ない

まぁ5年も一緒に暮らせばどこもそんなもんだろう



「 たーちゃーん!ちょっと来てー! 」

彼女の仕事部屋と化した
かつての僕の趣味だったプラモデル部屋から声をかけてきた


「 なんだ? 」

「 またフリーズした!もう、ほんとおかしかいよ 」


最近 彼女のPCの具合が悪い
どうも要領だけの問題だけじゃない


「 もう買い換え時期だな。 」

「 じゃあまた出費!? 」頭を抱えた

「 仕方ないさ。5年間も毎日使ってるんだから。 」

「 5年 … 私達の関係も5年経つってことだよね。」

このPCも彼女と一緒に家にやって来たヤツ



「 そりゃそうなるな 」

「 ねぇ。たーちゃん。どうする? 」真顔で尋ねてきた

「 もう古いし買い換えだろ? 」

「 そうじゃないってば 」

「 晩飯のこと? そうだなぁ … 」

「 5年毎に更新する約束よ。」

更新 …?


「 私がここに来た時に二人で決めたでしょ? 5年毎に これからも付き合いを続けるか別れるかを話し合うって約束よ。忘れた? 」


あぁ そういえば …

「 思い出したけど、あれは冗談だろ? 」

「 冗談じゃないよ。」

「 え? ははっ!(笑) なら更新だろ?(笑) 」

この時まで まだ冗談だと思っていたし
一緒に暮らすこの日常が当たり前と思っていた


「 私は更新しないつもりなんだけど。」

は!?

思ってもみなかった言葉に動揺した
「 なっ、なんでだよ! 」

「 私、また恋がしたいよ 」

はぁ?


「 恋って(笑) 」

「 そういう感情、私達にはもう無いよね。」

「 そんなこと、、 」

僕は好きだ、と言おうとした瞬間 違和感を感じた

でも今はそんなことを冷静に考える余裕がない


「 でも、でも、5年だぞ!? 5年も一緒に暮らしてるんだぞ!? そんなに簡単に別れられるような時間じゃないだろ?

それに恋がしたいってなんだよっ!
僕とじゃもう、その、、恋愛はできないってのか!? 」

「 たーちゃんだってもう私の事、女として見てないじゃん?」


ズキンと胸が痛んだ


ーー 確かに

僕らがキスしたのはいつが最後だったのかも
もう …



「 だから籍を入れなかったんだよ? 」

「 もう僕のこと男として見られないってこと… か? 」

「 それはお互いに、でしょ? 別に嫌いになって別れるんじゃないんだし(笑) 」

またPCに向かってキーボードを叩いてみる彼女

僕を見ない ーー


「 ねぇ… たーちゃんは私に “ 嫁 ” という役割を求めてた?

嫁さんなら家事をしてくれる、帰ったら必ずあったかいご飯が出てくる、タンスを開ければ洗った靴下が入ってるって。

でも私、ちゃんと自分の稼ぎで自分の保険や税金払って、生活費も折半して入れてるよね? 」



僕の方に向き直し
「 私、たーちゃんの嫁でも家政婦でもないよ? 」

「 そんなこと、わかってるよ!そんな風に思ってない! 」


言われて初めて気づいた


そう
彼女の言う通りだった


確かに 無意識でそう思ってたんだ 僕は


「 でもね、部屋が決まるまではいさせてね(笑)
( PCの) 買い換えかぁー。痛い出費だなぁ。 」

サバサバと未練も何もないような彼女の口振りに
これは現実だと実感した

それと同時に 別れる恐さを感じた



「 やっぱり… 嫌だ。お前だって情ぐらいあるだろ? 」


困った表情でまた僕の方に振り返った

「 私達は男と女だよ。夫婦じゃないんだから。
一緒に住むには情だけじゃなくて愛がなきゃ。」



思い出した …
彼女はそう言っていた


“ 私はずっと恋愛をしていたい ” んだと

お互いに求めるものが違ってきていたことに気付かなかった

一晩中 話し合ったけれど
やはり彼女の気持ちは揺るがなかった


結局
翌週 彼女は家を出て行った ーー




彼女が使っていた元々の僕の部屋は
ガランとしていて

ホコリを被った僕のガンダムのプラモデル 一体だけが夕陽に照らされ白く映った


僕ですら忘れていた物

取り残されたそのホコリを被ったガンダムが
まるで僕自身のように見えた



「 はぁ … 」
溜め息をつくと 涙も一緒に込み上げてきた




彼女に …

全く愛情が無かった訳じゃない

僕にとっては傍にいるのが当たり前の
そんな無くてはならない空気のような存在になっていたことに気づいた


彼女にとって僕は
そんな無くてはならない存在ではなかったということ…か


忙しい日常を日々送ってる内に
一緒に暮らしてる内に

恋なんて感情は自然に消えてくもんじゃないのか?

代わりに残るものが信頼関係だったり愛情なんじゃないのか?


“ 私達 結婚しないんだから 恋心が消えたら別れよう ”

なんで僕はあんな提案を認めてしてしまったんだろう



もう恋なんてしない …

あぁ
そんな歌があったな


いや、違うな

あの歌の最後は
もう恋なんてしない “ なんて言わないよ絶対 ” だ

結局 恋すんのかって
心の中でツッコミを入れたのを思い出した


「 はははっ … 」


こんな心境でも
そういうどうでもいい事も考えられるんだ


きっとその内
こんな孤独な感情も消えるだろう ーーー


ーーーー


彼女が出ていってから一週間
僕はいつもと変わらず会社に出勤をしていた


同じ時刻の電車に乗り
同じ時刻に出勤し

いつもと変わらず仕事をする僕は

周囲からはいつもと何ら変わらないように見えているだろう


と言っても
誰も僕の個人的なことなんか興味すら持っていない

大勢が働く会社の中に在籍していても
みんなそれなりに孤独な存在なんだ


でも唯一
傍にいて理解してくれていると思っていたのが千里だった


でもそれも 幻想で
僕の思い込みだったんだ ーー




コーヒーを飲む瞬間
昼飯を食べる瞬間
その瞬間 瞬間で

僕は彼女のことを思い出していた


珈琲豆にこだわっていた彼女は
お気に入りの豆を遠いのにわざわざ
お気に入りの店にまで買いに行っていたこと


珈琲にこだわりの無い僕は
その店がどこにあるのか興味もなかったし聞きもしなかった


遠いのに面倒じゃないのか? と問いかけると
あなたは何もこだわりが無いね と呆れていた


そういうのがダメだったのか?


気が緩むと
何がダメだったのかと

自問自答を繰り返していた




ーーーー



一人の一軒家に帰ってくると当然部屋は真っ暗で

独りぼっち取り残されたガンダムのような自分

もっと彼女を大切にしてたらこんな結果にはならなかったのだろうか

今更どうしようもないこととわかってるけどつい考えてしまう


夜になると孤独で心が押し潰されそうになるから
酒を飲んで酔っ払って寝ることが習慣になっていた


会社に着ていくワイシャツやスーツはクリーニングに出し会社帰りに取りに寄って帰る

今までは彼女がワイシャツにアイロンをかけてくれていた


家に帰っても 何もする気が起きず
ていたらくな生活をしていた


男やもめ って
こんな感じなんだな


まさか 自分がそうなるなんてな



ーーーーー



人間には忘れるという都合のいい能力がある

そんな精神状態だった僕にも
時間というものは悲しみを消してくれた


でも もう恋はしない

面倒だ ーー


面倒という言葉で
僕は自分に言い訳をしていることも自覚している


女にモテる要素も魅力も持ち合わせていない僕が
出会いを求める行動を起こすのは無謀な挑戦で無駄なだけだ


もう昔みたいに勢いで付き合うほど若くもないしバイタリティもない



男は女のように強くはない
また誰かに心を開いて傷つくのが恐い
この年齢で傷つくと立ち直れそうもない …


それが 本音だ

もしも今
誰かにお前は幸せかと聞かれたら
今の僕なら “ 不幸ではない ” と答えるだろう

それで十分ではないか ーー






ーーーーーーーーーーーーーーー