気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

Stay With Me 10

2019-01-13 10:06:00 | ストーリー
Stay With Me 10













半年ぶりに僕は大学の頃からの友人の斎藤と会った



僕と理奈ちゃんが付き合うようになるまで

僕は随分と斎藤には世話になった





ーーー




理奈ちゃんと出逢った頃を思い出した



毎朝マンションのエレベーターで顔を合わせる名も知らない若い女性

きっと一回りは年下だろう


彼女は知人でもない僕にも笑顔で挨拶をしてくれる



気付けば僕は毎朝彼女に会えることが楽しみになり

次第に僕の中で彼女に対する想いは好意から淡い恋心にも似た感情が芽生えていた



そんな感情を自覚しても実際の現実の何かが変わる訳ではなかった





彼女の笑顔はとてもチャーミングで

冴えない中年の僕とは住む世界が違うように感じて

彼女に話しかける勇気は当然なく

ただ僕は彼女に少し会釈するぐらいが精一杯だった




野暮ったい風貌の中年の僕が若い女の子に話しかけて気味悪がられるのは... 

やっぱり辛い、、















ーー そんなある日


その彼女が偶然 街で僕を見かけて声をかけてきてくれた



それはあまりにも突然で
僕の頭の中は一瞬 真っ白になり

そして現実に彼女が僕に話しかけてきた事を自覚すると

急に心臓の音が突然大きくバクバクと音を立て始めた


『 あっ 、こんにちは 』


その時の僕はどんな表情をしていただろう



親切な彼女は僕が店に入ることをためらっているのを見て一緒に入ってくれることになった

それがきっかけで彼女と会話をし
僕は勇気を出し連絡先を教えてもらった  

それから僕らはたまに会うようになった




僕は彼女に好かれたい一心で
自分を変えようと一念発起した


誰かのために自分自身を変えようと思ったことは初めてだった


その時から僕は斎藤に色々と相談に乗ってもらった


ファッション雑誌のカメラマンをしている斎藤は

もちろんセンスも良いし 顔も良い


ユーモアもあるイイ奴だから当然女性からモテているように僕は見えた






数年前 ーー


僕は当時付き合っていた彼女と別れ

長く塞ぎこんでいた僕のことを
斎藤はずっと気にかけていた



“彼女を作れよ”


そんな斎藤の言葉も
ただ言葉が流れていくだけで

当時の僕は恋愛をする気持ちにはなれなかった




そんな僕が

“今、気になる女性がいるんだ” と斎藤に打ち明けた時


まるで自分のことのように喜んでくれた



それまでの僕は自分はどんな髪型が似合うのかとか

似合う服はどんなものだとか興味を持ったことさえなく

誰がどう見ても野暮ったい僕は斎藤が教えてくれた店で服を揃えた





“そのダッサい髪型もどうにかしろよ (笑)” と

勧められたヘアサロンに行くことにした




そのヘアサロンのドアは

まるで未知の世界へと繋がる扉のように見え

僕の手は緊張で汗ばんでいた





“いい歳の男の僕が今更こんなことしても…”

なんてことも一瞬は思ったけれど

やっぱり僕は彼女に好意を抱いてもらいたい!という気持ちが大きかった



女性が喜ぶような店や話題に疎い僕は斎藤から聞いたり

僕なりにもいろんな雑誌で情報収集もした




自分にはどんなスタイルが似合うのかも少しはわかってきた



「お前、ほんと変わったな(笑)センスゼロのダサ男だったのにな(笑)」


「ほんと斎藤には感謝してる(笑)」


「お前をそこまで激変させた彼女に早く会わせろ(笑)」


僕達は昼飯を終えて店を出た


「で?今から何を買いに行くんだ?」


「チョコレート。」と僕が答えると
斎藤は呆れた顔をした


「お前、ほんと昔から甘いもの好きだな(笑)」


「彼女に買って帰るんだよ(笑)」


「それってお前自身のためじゃないの?(笑)
他にもあるだろ?彼女が喜ぶものが(笑)」


「他?」 

そういえば僕が買って帰るものってスイーツばかりだったな…

「そうだなぁ、例えばヒマラヤロックソルトとか?」


「なんだそれは!塩?そんなの甘くない。」


斎藤はまた笑いだした


「ちなみに、入浴剤の方な!(笑)」


わからん…

岩塩?入浴剤?
それは女性が喜ぶものなのか?



「寺崎さん!」



誰かに名前を呼ばれ声がして周囲を見渡した

振り向くと原さんがいた



「誰?彼女?」

「違う。彼女の友達。」

「ふぅん。」


原さんが僕達の方に駆け寄ってきた



「まさか、こんなところで寺崎さんと会えるなんて、、」


「こんにちは(笑)あれ?原さん一人?」

理奈ちゃんがいない…?



「理奈とはさっき別れたところです!」



原さんに斎藤を紹介し斎藤は爽やかに挨拶をした


「理奈ちゃんと別れたばかりなら … 」


電話で呼び戻そうと

僕はポケットに入れていたスマホを取り出そうとしたら

駅で別れたからもう電車に乗ったと思うからと言ったから電話をすることをやめた




原さんが僕らと話をしたいと嬉しそうに言ったから三人で近くのカフェに入った


原さんは僕の勤め先とかどんな仕事をしているのか色々と聞いてきた

そういえば 前はそんな話はしなかったなと気付いた


原さんはブティックに勤めていると話した

あぁ、どうりで… 個性的なセンス …(笑)



おとなしめの理奈ちゃんとは違って積極的で快活な性格だからか

彼女は僕と斎藤にLINEのID交換を求めてきたので僕達は彼女とLINEができるようにした





それから斎藤は原さんに興味が出たのか
彼女とずっと話をしている



斎藤は女性と親しくなるのが早い

仕事柄もあるのだろう



話題も豊富で僕にはさっぱりわからない会話が続いた


さすがだな

なんて関心してると僕のスマホに理奈ちゃんからLINEが入った



理奈ちゃん 、もう家に帰ったのか

じゃあ 僕もそろそろ ーー





「 ごめん 、僕は先に帰るよ 。斎藤 、また連絡する 。 」


「 おう 。ヒマラヤロックソルトな (笑) 」


「 あぁ 、忘れてた (笑) 今度探してみるよ (笑)
じゃ原さん 、またね (笑) 」


僕が席を立つと 原さんも立ち上がった


「あの!寺崎さん、また会いたいです!理奈も… 」



「なら、その時は俺にも声かけてる?(笑)」
斎藤が軽く手をあげた


「そうだね、了解(笑) じゃ、帰るよ。」




僕は二人と別れ
目的のチョコレートを購入しそのまま帰宅した




その夜
斎藤から電話がかかってきた



『今、傍に彼女いる?』


彼女は風呂に入っている


「風呂入ってるけど、なんだ?どうした?」


『お前は大丈夫だろうと思うから言うけど。原さんな。

彼女お前に気がある。お前、全く気付いてなかったろ。』


え?


「そんな、まさか(笑)」

『やっぱりな。そうだろうと思って電話した(笑) 一応そこんとこ気に留めて注意な。

二人きりで会わない方が彼女のためだな。』



どうも斎藤は彼女の一言目で直ぐに察したらしい

女性の気持ちに疎い僕には全くわからなかった


まさか原さんが? 
まだ信じられない ーー


今日の彼女を思い出した


表情が豊かで
素直な感じだったな

よく喋り
よく笑っていて

ジェスチャーも多くて
よく頷いていた

話上手で聞き上手

コミュニケーション能力が高いって
あんな子なんだろう





そういや、ダメな男とばかり付き合ってきたとか前に言ってたな…


その割に明るい性格でそんな過去があるようには見えない


理奈ちゃんの親友だし 良い子なのはわかる




女性から好意を寄せられることは悪い気はしないけど


たとえ本当に彼女が僕に気があるとしても
僕は理奈ちゃんを愛してるし心が揺らぐことはない





そう思っていた








ーーーーーーーーーーーーーー

Stay With Me 9

2019-01-12 09:30:00 | ストーリー
Stay With Me 9















あのプロポーズから一週間


たまに箱を開けては
あの素敵な寺崎さんが目に浮かぶ



“結婚する”

私は即答した




それから何かが変わった訳ではない
でも見える世界が変わったような気がする


言葉では表せないけれど



ーーーーー





寺崎さんを恵美に紹介するため渋谷駅のハチ公前で待ち合わせた



恵美はまだ到着はしていなかった


「理奈ちゃん、ちょっと電話がかかってたからかけ直してくるね。」


彼は少し離れた所で電話をかけ直しに離れた






その間に恵美がやってきた


「あれ? カレシは?」


「あっちで電話してる。」

少し離れた所で電話で話をしている寺崎さんの後ろ姿を指さした


恵美は目を丸くした

「なんだ(笑) やっぱイメージ通り(笑)」



私も寺崎さんの後ろ姿を見た



「それはおやじって言ってたこと?恵美のタイプではない?」


「ないよ!あ、理奈のカレシなのにゴメン (笑)
アタシはやっぱり可愛い男が好きだな!歳下がいいもん(笑)」


「そっか(笑) 」



恵美は行さんの方を見ながら
あの疲れた感が滲み出ているカレシが素敵~?と不思議そうに言った


疲れた感?
そうかなぁ…?



「でも人それぞれ好みはあるよねっ!(笑)」
と励ますように私に笑いかけた


「ごめん、お待たせ!」

寺崎さんが私達の後ろから声をかけてきた



「あ、ううん。こちら友達の原 恵美さん。
こちら私の彼で寺崎 功さん。」



「原さん、はじめまして(笑)」

寺崎さんは爽やかな笑顔で挨拶をした



恵美は寺崎さんを見て驚いた表情のまま固まった

「 は、はじめまして… ちょっと… すみません 」

恵美が私に小声で話かけてきた


「 (カレシってあっちかと思ってた!) 」



恵美がコッソリ指さした先を見たら

本当に疲れた表情で電話をしている眼鏡をかけた真面目な感じの男性がいた


確かに年齢は彼と変わらない感じだけど …



「 (違う違う) 」


「 (聞いてないよ!イケメン苦手だよっ) 」


恵美はチラッと彼を見てぎこちない笑顔を作った



「 …すみません 」




恵美のその “すみません” って

ずっとおやじおやじと言ってたことについてなのかな(笑)




「じゃあ行きましょうか(笑) 店の予約はできてますから(笑)」

爽やかな笑顔で恵美に話しかけ腕時計を見た




「 …イイ男 」

恵美のその呟きにドキッとした






恵美はまばたきするのも忘れたかのようにずっと彼を凝視している

そんな恵美を見たことがなくて可笑しくなってきた


寺崎さんもあまりにも恵美に凝視されて
ぎこちない微笑みでなんとか普通に会話をしようと頑張っている

それも可笑しかった



「えーっと 、、二人はいつから友達なんですか?」


「小学校の頃からですっ 」
ガチガチになってる



「さっきから何で緊張してるの?(笑) 」


「 だってさっきの!…」



さっきの?

さっきのおじさんのこと…?



「 …何でもないです… 」苦い笑顔を作った


「原さん。僕達、結婚しようと思ってるんだけど、」

優しい笑顔で私を見た



「結婚ですか!?」
恵美はビックリした


「彼女の友達として、どう思いますか?」

両肘をテーブルに乗せ今度は恵美に優しい視線を向けた





「僕、おっさんでしょ? 厳しいかな… 」



「おっさんだなんてそんな!全然… ほんとに … 全く…」

恵美はまるで自分がプロポーズされたみたいに顔を赤らめてうっとりした表情になっていた



歳下男性が好みの恵美は

以前まで
“15も歳上なんてもう完璧におやじだよぉ”
なんて言ってたのに?




食事を終え店を出て
寺崎さんが恵美に話しかけた


「まだ時間が可能なら、この後飲みに行きませんか?行きたい店はありますか?特に無ければ僕が決めても良いかな。」



私は彼のこういうところが好き

必ず先に意見を聞いてくれて
お任せしたらちゃんとリードしてくれるところ

これは 親しくなった時からずっとそうだった




一緒に行ったバーに着いた



彼との交際が始まった夜
初めてここを訪れたあの店


なんだかとても懐かしい…



彼はドアを開けて私達にテーブル席の椅子をひいてエスコートをする

彼はいつも私にそうしてくれている





メニューを恵美に差し出す

「原さんは何にしますか?」



私より恵美を優先する彼をちょっと誇らしく思えた


「え、あっ、私は理奈と同じで、 、」


「私が決めるの?」 まだ彼に緊張してる?


「寺崎さん、モデルとかやってるんですか?」


「えっ? はははっ!とんでもない!そんな格好良い仕事じゃないですよ。表に出ない地味な裏方仕事です(笑)」


「裏方って、もったいない… 格好良いのに… 」



「彼女が僕の唯一のファンでいてくれたらそれでいいんです(笑)」

そう言いながら私に微笑んだ




「はぁ… そうですか… 」

恵美はウットリした溜め息混じりで彼を見つめていた



完全に恋をしてるような
こんな恵美を見たのは初めてだった



「寺崎さんは理奈のどこが好きなんですか?」


「全て(笑) と言うか好きに理由はないよ(笑) 原さんもそうじゃない? 」


「 …確かにそうですね… でも私はダメな男ばかりでしたよ(笑)」



「ダメな男とは?」





恵美の今までの彼氏の話になった



「なるほど。なら僕もダメな男だよ(笑) 」


「どこがですか?
非の打ち所がないですよ!」

驚きながら聞き返してる


「つい悪い方に考えて勇気が出せなくて(笑)
理奈ちゃんに嫌われるのが恐くてなかなか連絡取れなかったのもそうだよ(笑)」


そこがダメなところ?


恵美は一瞬 寂しそうな表情をして直ぐに笑顔になった

「ほんとに好きなんですね、理奈のこと。」


「ん… そうだね。はははっ(笑) 」

私の顔を見ながら照れて頭を掻いた



「今までもモテてきたんでしょうね(笑)」

そりゃそう思うよね



「いやいや全く(笑)地味で冴えない男だから(笑)」


その言葉に恵美は間髪入れず

「それはないでしょ!」と返した



「理奈ちゃんと釣り合いが取れる男になろうと僕なりに密かに努力してきたよ。」




努力? そんなこと私、聞いてない

「努力ってなに?」びっくりして慌てた


「それはまた今度、、ここで言うのは恥ずかしい(笑)」



恥ずかしいこと? 余計気になる、、


「努力なんかしなくても十分なのに…

彼女のために努力って、私が付き合った男にはそんなヤツいなかったな(笑) 」



「原さんには原さんを大事にしてくれる男が現れると思うよ? ね?」

私に同意を求めるように彼が私に微笑みかけてきた



私の頭の中は
釣り合うよう “努力した” という言葉でいっぱいだった


その時
恵美は残念そうな笑顔で彼を見ていた








翌朝


気づいたら恵美からLINEが来ていた



『ちょっとー!あのイケメンの彼にビックリだよ!
なんなの!? 何で言ってくれなかったの!?

言うこともすることも全てパーフェクトじゃん!まるで王子!先に言っといてよ!びっくりしたよ!』




怒ってるの??




「誰から?」 寺崎さんが LINEを覗いてきた



LINEの文面を読んだ寺崎さんは吹き出した

「ふははっ(笑) 僕が王子?やっぱり原さんって面白い子だね(笑)」


「 …これ、私が怒られてる?」

「怒ってないよ(笑) 朝食にしよ?」

寺崎さんはキッチンに向かった





また恵美からLINEが入った


『彼となかなか会わせてくれなかった理由がわかった。

何もかもスマートで格好良くて大人で、なのに年上ぶってもないし誠実で、可愛いところもあって。

理奈のこと本当に大好きで、理奈しか眼中になくてさ。誠実で一途に大切に想われてる理奈が本当に羨ましいと思った。

私が付き合ったのって浮気男とか自己中なヤツばっかりで子供みたいな男だったんだなって思い知らされたような気になった。

本当にあんなに揃ってる人がいるんだって知って羨ましく思った。

地味で奥手で真面目なおっさんのイメージしかなかったから本当に驚いたなぁー(笑) 』




なんかこれって …




「 早く食べよ? 」爽やかな笑顔で手招きをしている



「うん… 」
LINEの文面が気になりながらもテーブルについた



朝食はいつもの日本食

食事をする寺崎さんを見つめた



確かに…
誠実で優しくて大切にしてくれている
それは出会った時からずっと変わらないし

こんな人 他にはいないと思う


全て揃ってる って言葉 確かにそうだと思う



感じたことを言葉で伝えることも増えてきて
最近は色気まで出てきたような気もするし…

私には色気がないのに?




やっぱりこの人は誰が見ても魅力的な人なんだな

クリスマスにカフェで彼を見ていたあの女性達を思い出した


そんな寺崎さんはいつも私だけを見ていて
私も寺崎さんだけを見ていて


それが当たり前のようになっていた ーー


この人は私の何が良いんだろう




「味噌汁 薄かった?」

「うぅん、美味しくできてる」笑顔を返す


こうして朝ご飯は必ず彼が作ってくれるし家事も当たり前のように一緒にやってくれる


独り暮らしが長かったとはいえ分担してくれてる

本当に文句のつけようはない ーー





“羨ましい” って …

恵美は人を羨むような性格じゃないと勝手に思い込んでいた


なんとなくトゲを感じるあのメッセージが気になった




ーーーーーー






三人で会ってから

恵実からLINEが頻繁に来るようになった



今 カレシと一緒 ? とか
カレシは何の仕事しているの? とか

彼のことが知りたい内容ばかり …



『 今度の週末、時間ない? 』



なんだか嫌な予感




『 予定あるの 』


『 また三人で会わない? 』



え …



『 どうして? 』


『 またあの男前の顔が見たい!(笑) 』





恵美は昔から感情に正直な子だった

そして積極的

嫌な予感がする





『 彼のこと、 どう思ってるの? 』


『 めちゃくちゃ素敵な人だと思ったよ! 』

『 それだけ? 』




少し間が空いた




『 … また会いたい 』




あぁ やっぱり

でもどうしたいの?

私の彼だよ?





まさかだけど

彼とどうにかならないかとか思ってないよね




『 前に、羨ましいって書いていたのはどういう意味だったの? 』



『 言葉通りだよ(笑) ラブラブなのが伝わった(笑) 』




ほんとにそれだけ?

恵美、寺崎さんに恋しちゃったんじゃ …




でもそれを聞いて “ そうだ ” と言われても困る



『 今週末、会おうか 』


恵美と会う約束をした






ーーーーー





「 寺崎さんは? 一緒じゃないの? 」

明らかに残念そうな表情をした



「 彼は予定があって出かけてる。」



「 私も会いたかったな … 理奈はいいな …
あんな素敵な人といつも一緒にいられて 」



「 恵美。私に話があるんじゃないの? 」



「 … ごめん。 」



「 ごめんって、もしかして 」



「 うん。」




なんで … ?




「 でもね!理奈から奪ったりしないよ(笑) 」

「 じゃあなんで言うの? 」


「 だって … 心が恋しちゃったんだもん … 」



そんな …



「 彼と私、必ず結婚するから。」

恵美の表情から笑顔が消えた




「 … わかってるよ、、でも、あの日から毎日毎日思い出しちゃうんだもん … 」



涙ぐんでる

そんなに … ?



それ以上 私は何も言えなくなり
結局 恵美とは話にならず帰ることになった




ーーー モヤモヤする





帰宅した時はまだ寺崎さんは帰ってなくて
ずっとモヤモヤした気分で帰りを待っていた











ーーーーーーーーーーーーーー


Stay With Me 8

2019-01-10 07:19:00 | ストーリー
Stay With Me 8









“凄く寒いから着いたら連絡をするからね。それから家を出て来るんだよ。” と彼は言った



どんな時でも彼は私を思いやり
いたわってくれていたことを思い出す


わかりにくい場所だから迷うかもしれない 、と連絡が来る前に公園に向かったけれど


ほんとは少しでも早く彼に会いたくて
はやる気持ちを抑えられなくて早く部屋を出た




まだ彼は着いてない


雪がチラホラ降ってきて
持ってきた傘をさした


こんな夜中だと5分でも外にいると身体が芯から冷えてくる


冷たい空気で耳も痛い


スマホの時計を見たらもう午前0時30分になっていた



いつもの彼ならとっくに寝ている時間帯

こんな時間なのにわざわざ私に会いに来てくれる…



ベランダから恵美が心配げに私を見ていた



空からハラハラと落ちてくる雪を傘越しに見上げた




4ヵ月って

普通に暮らしていればあっという間に過ぎ去ってしまうのに

この4ヵ月間は一日が過ぎていくのを長く感じてた


もう一年は経ったような気がする




それから15分程 待っていると
見慣れた車が街頭の下にゆっくりと停車した


そして運転している人がスマホを開き画面の光が顔を照らした




ーー 寺崎さん





胸が高鳴る



『着いたよ。気をつけて出て来てね 。』

寺崎さんからLINE届いた




車の方に歩いて行くと彼は私に気がついて慌てて車を降り駆け寄ってきた



「外でずっと待ってたの!?」



目を潤ませて彼の大きな手で私の頬を包んだ

「 こんなに冷たくなってるじゃないか、、」



彼の手の温かさで
全身が温かくなっていくようだった



「ずっと 会いたかった…」

愛おしそうに目を潤ませて私を見つめる彼




ーー 私はまだ彼に恋してることを心臓の鼓動で実感する




背の高い彼が私を包みこむように抱き締め
私は傘を落とした




… 懐かしい 寺崎さんの匂いだ



「風邪をひいてしまう、車に入ろう」

彼は落ちた傘を拾い上げ私の肩を抱き
助手席のドアを開いた



後部座席のブランケットを私の膝にかける
彼のこの優しさに懐かしさを感じる




「こんなに寒いのにどうして外で待ってたんだ。」

冷えた私の手を温かくて大きな手が包んだ



「寺崎さん。私、寺崎さんがやっぱり好きです…」

素直に言えた






「僕もずっと君が恋しかったよ。」


痩せた頬…
無造作に伸びた前髪に眼鏡をかけた彼は

今にも泣き出しそうに目を潤ませ微笑んだ




「やっぱり僕は君のことを愛してるみたいだ。」


“愛してる” という言葉を
初めて言ってくれた





「今夜、僕たちの部屋に帰らない?」

気がつくと雪が車を隠しはじめていた



「久しぶりに… 一緒に帰ろう?」

微笑みながら少し顔を覗きこむ彼に
急に照れくさくなった



「そうだね… 」

はにかむ私の表情に彼は嬉しそうな笑顔になる



雪が積もりかけているフロントガラスにワイパーで雪をかき分け

ゆっくりと車が動き始めた



「積もりそうだね(笑)」

運転している彼の綺麗な横顔を見るのも久しぶり…


彼は時々チラッと私の顔を見てはまた直ぐに前を向く


嬉しい気持ちを隠し
口をぎゅっと硬く閉じているけれど

嬉しい時に出るシワは隠せていない



本当に寺崎さんは可愛い人 …



私も嬉しくて顔がほころぶ



ーーー





時計を見ると午前1時を過ぎている


4ヵ月ぶりに帰ってきた二人の部屋は
私が出て行った時と全く変わってはいなかった


私が帰ってくるのを信じてそのままにしていたんだと微笑みながらコーヒーを入れる彼


私と会える日をずっと待ち望んでくれていたんだ…



カーテンを開けると外はもう真っ白になっていた



彼は私のマグカップを差し出した

「ねぇ… もうすぐクリスマスだよ?」


肩を抱き寄せてきた




「そうだね… 」



私の頭に頬を寄せてきた

「理奈ちゃんと一緒に過ごしたいなぁ… 」

おねだりのように聞こえた



少し曇りかけた窓ガラスに映る彼はとても幸せそうで


偶然 街で見かけた寺崎さんと一緒にいたあの綺麗な女性とどんな関係なのかとか

そんなことは今はもうどうでもよくて



こうして愛されてることを今は実感していたい




彼を見上げたら
優しく唇を重ねてきた





ーーーー






翌日の夜

恵美の元に帰ると


「おかえりー!仲直りしたんでしょー? 」

ニヤニヤしながら迎えてくれた



「カレシ、理奈と会えて相当喜んだでしょ (笑)」


そうか
あの時 ずっと見てたんだ


「まぁ、うん… 」 かなり照れくさい


「背が高い人なのね~。顔は暗くてわかんなかったけど(笑) で?どうするの? 彼のとこに帰るんでしょ?」



「帰ろうかなと… 思う…


私はいつもあまり彼のことを語らないから
逆に興味が湧くのか今度こそ彼に会ってみたいと強く言ってきた



「彼、ずっと理奈のこと待ってたんだろうね。 理奈のこと大切そうに見えた。良いカレシじゃん?(笑)

顔がわからなかったのは残念だけど(笑)」



「うん… 優しい人だよ… 申し訳ないくらい 」


「なんで申し訳ないの?(笑)」



私は彼に優しくしてあげられてない

いつも優しさを与えてくれるばかりで



そして
いつもどこか彼に引け目を感じていた





ーーー




私が彼との部屋に帰る日
彼があの公園まで迎えに来てくれた



私が出て行く前と変わったことが少しあった


「来週のクリスマス。理奈ちゃんは行きたいところはある? 特にないなら僕が決めてもいいかな。」


私にハグをする彼



料理をしている時も後ろから覗きこんできたり接触してくる事が増えた

それは以前とは別人のように変わっていた



離れていたことの反動なのかもしれない

以前 愛情表現が苦手だった彼に不満を持っていたけれど

今は少し戸惑う ーー




優しくて頭が良く 格好良い彼と平凡な私

この人は私のどこがそんなに好きなんだろう …





ーーーー




12月24日 のクリスマスイブの夜

仕事を終えて彼と待ち合わせをしていたスタバに入った




寺崎さんは…


長い脚を組んでタブレットに視線を向けているスーツ姿の彼はとても素敵で人目を引いていた











「あの人、格好良くない?」

女性二人が私の前を通りすぎながら彼を見ていた



やっぱりそうだよね …


なんとなく彼に声をかけづらくなった


私に気づいた彼がコートを持って微笑みながら歩み寄ってきた


「仕事お疲れさま、 じゃあ行こうか(笑)」


コートを羽織る彼をさっきの二人がじっと見てる


なんとなく…

彼の隣に居ることに居心地が悪い




彼はエスコートをするように私の背中に手を当て出口の方向に歩きだした



「寺崎さん、今日とても素敵だね 、 、」



「ほんとに?嬉しいな(笑) 今日は君との特別なデートだから(洋服を)新調したんだ(笑)」


爽やかで優しい笑顔を私に向けた



彼女達の顔をチラッと見たら

私達の会話が聞こえたのか少し驚いた表情をしていた




なんかヤダな…

私は彼に不釣り合いだって自覚はしてるけど…



店を出ると冷たい空気に包まれた

「あぁ、かなり寒いなぁ!(笑)」

彼は私の肩を抱き寄せた



「店はそんな遠くないからね(笑)」
嬉しそうに私に笑顔を向けた彼


「う、うん 、 、 」



私はつまらないことを気にしてるってわかってる
でもこの引け目はなかなか拭いきれない


こんな時は開き直った方がいいんだろうけど



「寺崎さんがスーツを着ると本当に大人の男性なんだなって実感する(笑)」


「それは僕が老けて見えるってこと?」


「うぅん、そうじゃないよ(笑)」


「君は実年齢より若く見えるだろう?余計僕達の年齢が離れているように見えないかなって気になる。」


ん?


脚を止めて私の顔を見た

「あ…まさか… 僕達が親子に見えてたりしないよね?」


「あははっ(笑) それはないよ~ 」



実は寺崎さんとお母さんとは5つしか違わない

もしかしたら私のお母さんと寺崎さんが付き合ってもおかしくない年齢差




「 僕 、おやじだから君が僕の若い頃にできた娘みたいに見えやしないかって 、実は時々思ってた (笑) 」


「そんなこと誰も思わないよー(笑)」




私も “寺崎さんと釣り合ってないと思ってる”
なんて事を言ったら

きっと “そんなこと気にしてるのか?” と笑うだろう




ーーー




こんな高そうなお店に入ったのは初めてで緊張する


彼は慣れた感じでワインのリストを見てワインをオーダーをしている



私が知らなかった大人の男性の顔だった



「ここは昔から何度も来てるんだ。」


「そうなんだ(笑)」


確かに慣れてる



元カノと?
あの綺麗な女性とか…

いやいや、そういうのは今は考えない、考えない、、



「今日の理奈ちゃんとても綺麗だよ、素敵だ … 」

嬉しそうに私を見つめている




実は今日のために密かに買って用意した洋服だった


私なりに少し頑張ってデコルテが見える大胆めの大人のワンピース



凄く勇気を出して着てる!

だから
そんなにまじまじと見られたらかなり恥ずかしい…




「寺崎さん、そんなこと言うタイプじゃなかったよね(苦笑)」


「思ったことは言葉にしないと伝わらないってこんな歳になって今更ながら思うようになって。

今まで言葉が少なかったせいで君に誤解させて傷つけてしまったから。」




本当に変わったな…

彼はこんな風に言葉にすることはなかった
それに愛情表情も増えた




「それでも、綺麗って… 」苦笑いした

「綺麗だよ。 ほんとに 、、 」

それを “あばたもえくぼ” って言うんだよ



「そんなセクシーな服、初めてだね… 」

探るような視線で私を眺めてる 、、



寺崎さんの方が大人の色気ダダモレで

笑顔の時との印象のギャップを感じることが多くなった




「寺崎さんの方がずっと素敵でモテるよね (笑)」


「僕が? まさか、 ないない! (笑) 」

やっぱり自覚なし、か…





「前に綺麗な女性と 、、 」


「え?」


ワインが運ばれ
グラスにワインが注がれる


優しく微笑みながらグラスを合わせた


こういう落ち着いた高級なお店で
美しくワインを飲む姿は

本当に大人の男性だなと実感させられる




そして
私はまだまだ子供だ 、ということも実感する




「で? 女性が? なに? 」



あ 、 うーん …


「 1ヵ月ぐらい前に寺崎さんが綺麗な大人の女性と会ってたのを見かけて 。

なんだかお似合いだなぁなんて思って (笑) ははっ … 」



聞いちゃった …



「1ヵ月前? 綺麗な女性? 」

真剣に思い出そうとしている




「あっ、わかった。それってもしかして…」

彼がスマホの画像を私に見せた



「これだよね?」

少しムスッとした寺崎さんと笑顔のあの綺麗な女性の画像を差し出した



胸が痛んだ



「そう、この人…」

やっぱり綺麗な人 …



「女性と言えば こいつとしか会ってないからな(笑)」


その女性に対する彼の親しげな言い方に胸がズキッとした



彼が女性を指さした

「ほら、顔をよく見て? 誰かとなんとなく似てない? 」



え?



「これ、僕の妹(笑)」


えっ!?


「妹がこっちに帰って来てた時に飯ぐらい奢れってね。僕ら兄妹 顔が似てるから友達に見せたいとかで無理矢理 写真を撮られたんだよ (笑) 」



妹さん …
だったんだ


だからこんな不機嫌そうな表情なんだ?



「そういえば前に、妹は海外にいるって言ってたね。」


「そう。僕らを見かけたなら声をかけて欲しかった。僕はずっと君と会いたがってったのに。」



背も高くて綺麗な女性だったのは兄妹だったからか


よく見ると確かに目鼻立ちは似ている
切れ長の目とか …



でも

ホッとした




私の誤解だった

あんなに悲しくて泣いたのがバカみたい



「 顔立ちは似てても性格は全く違うからね (笑)
妹は君にとても会いたがってたんだよ?

もう日本にいないから次の機会になるね 。」



そういや …



「私も一緒に住んでた友達が寺崎さんと会ってみたいと言っていたの。実は随分前から 。」

彼も恵美に会ってみたいと言ったから三人で会おうという話になった



店を出ると並木道がクリスマスイルミネーションで輝いている


彼が向かったのはヴィーナスフォートイルミネーション




天井を見上げた

「…綺麗 」



「理奈ちゃん…」



「うん ?」彼の顔を見た



「あの… 僕と… 結婚してくれないかな 」



「えっ… 」


突然のプロポーズだった




「これ… 」

コートのポケットから箱を取り出し私に差し出した



「結婚… ? 」

彼は照れくさそうにはにかんで頷いた




箱を開けると指輪が入っていた







ーーーーーーーーーー

Stay With Me 7

2019-01-05 00:43:00 | ストーリー
Stay With Me 7





部屋を出てから3ヶ月が過ぎた


今日の仕事を終え、職場のデスクを片付けて挨拶をし会社を出た


スマホをチェックするのが無意識の習慣になっていた


寺崎さんからのメールはやっぱり来ていない

部屋を出てからずっとメールさえも来ないのがずっと気になっていた

私から出たんだから彼は私からの連絡を待っているのかもしれない

エレベーターに乗りこむと野村くんが走りこんできた


「セーフ!(笑)」
エレベーターのドアが閉まった

エレベーターは二人きり


並んで立っている野村くんが私にぴったりくっついてきた


「ちょっと、近い、、」
私は野村くんから少し離れた


「二人きりなんだからこれくらいいいでしょ? 」
拗ねるように少し口をとがらせた


野村くんは私と付き合ってると思ってるんだろうか

エレベーターは1階に着いて扉が開いた


先にエレベーターを降りると野村くんが私の後ろからついてきた


一緒に食事しようと何度もねだっていたから

根負けして食事に行く了承をした



あのチョコレート専門店の通りに曲がる


店の前でガラス越しに店内を見ながら入ることに躊躇するシャイな寺崎さんの姿を今でも思い出す



寺崎さん…
今頃どうしてるのかな

彼のことを思い出すたび
胸が苦しくなる


野村くんは向かい合わせに座って楽しそうに喋ってる


「前から言おうと思ってたんだけど。私をからかうのやめてくれないかな。」


真剣な表情に変わった

「俺からかってなんかないよ。どうすれば俺が本気だってわかってくれるの?」


真っ直ぐ私の目を見るその眼差しを直視できなくて目を反らした

一緒に食事することを了承したことを後悔した


「やっぱり私は野村くんのこと恋愛対象とは思えないよ… ごめん。」

「どうしても…?」


悲しそうに微笑んだ

ズキッと胸が痛んだ



ーーー




店を出て駅まで一緒に歩く

野村くんのゆっくり歩く歩調に名残惜しい気持ちが伝わってくる


「俺…やっぱフラれたのかなぁ(笑) 」

精一杯 明るく振る舞う野村くんに罪悪感を感じてしまう



「ごめん。」

それしか言えない…


視線を向けた向かいの通りに見覚えのある人が立っていた


あれは…

寺崎さん!




久しぶりに見た彼の姿



すれ違う人よりも背が高く
見覚えのあるダウンにマフラーを巻いて


無造作に伸びた前髪が
出会った頃の彼に見えた


彼は誰かを待っている様子だった


「野村くん、ごめん。私寄るところあるから…



「え?じゃあ俺も付き合う。」

「一人で行きたいから…」


彼から視線を外せない…




「…そっか。じゃあ…また月曜に、、」

野村くんは悲しそうに微笑んだ



ごめん…
やっぱり私…



遠目から彼を見つめた
彼は私に気づかずスマホを見ていた



ーー 少し痩せたように見えた



この距離が今の私達の距離を表しているようで切なくなった

また彼の優しさや温かさが恋しくて
私はスマホを取り出そうとした瞬間


スラッとした綺麗な女性が彼に親しげに声をかけた


…え?


二人は顔見知りのようで
その女性と少し言葉を交わし

彼は女性の背中に一瞬手を触れ
二人は並んで歩きだした


私は二人を追うことができなくなった


胸が締め付けられながら二人の後ろ姿を見送った


だって

二人がとてもお似合いだったから
お似合いの恋人同士に見えたから




ーー 3ヵ月

3ヵ月前までは彼の隣には私がいて
彼の微笑みは私にだけに向けられていた


この3ヵ月間で彼の心はもう完全に離れてしまったのだろうか

もう私達は本当に終わってしまったのだろうか



いつもの彼の“あの癖” …

背中に触れるあの人の癖が
私の心を傷つけた


私から部屋を出たんだ
彼から離れたのは私
彼を傷つけたのも私なのに…

私は本当に自分勝手だ ーー






帰宅したら恵美がビールを飲みながらテレビを見ていた

「おかえりー!今夜は誰とご飯行ってたのー?」


恵美の顔を見たら急に涙が溢れてきた

「なになに?どうしたの?」



ーーー



「なんで追いかけて行かなかったの… 」

私から部屋を出たのに今更…

彼が私のために心を込めて作ってくれたお茶碗を手に取った

あの部屋を出てからこのお茶碗はずっと使わずしまっていた




寺崎さん…

これを手にした時の感動や彼の照れた表情が昨日のことのように鮮明に思い出して

その思い出も私の心を辛くさせた



距離を置こうと言って部屋を出た
別れようと言った訳じゃない ーー


だけど連絡ひとつもしなかった

その結果がこれ…



切なくて胸が痛くて苦しい

私は本当に馬鹿だ…




このお茶碗 ーー

これを初めて手にした時
私は彼に愛されていた


「もぅ。そんなに辛いなら電話ぐらいしてみなよ。」


私は今までのLINEの会話を見返していた



『今夜遅くなる?』

『僕は定時で帰れそうだよ。何か買って帰ろうか? 』


そんななんでもない日常の中に幸せがあったんだ…


『今夜仕事が終わったら迎えに行くからデートしようよ。』



デート…
あの女性とはデートだったのかな


考えたところで答えの出ないことをずっと考えてしまう

悩むよりも連絡を取って会って話せばいいことだと頭ではわかってるのに

その勇気が出ない



もし
決定的な言葉を彼から言われたら…

傷つくのが恐くてLINEさえできない




「アタシが代わりに電話してあげようか?

それにそんなにモテる男?私のイメージは地味で奥手なおっさんなんだけど?(笑)」


「直ぐに彼女ができてもおかしくないもん…
あぁ、やっぱり彼女なのかなぁ」



また涙がこみ上げてきた

背が高くスタイルの良い美女


お似合いってああいう二人のことを言うんだろう


こんなに辛いなんて

私やっぱり彼が好きなんだな…




ーーーー





部屋を出てから
もうすぐ4ヵ月が経とうとしている ーー

彼が勤める店の前で立ち止まった


彼は裏方の仕事だから表に出てくることはないと言っていたから

きっと彼と会うことはないだろうと思いつつ店内に入った


やっぱり
いないよね…


私なんで来たんだろう


もし彼が現れたら…

今更会ってどうする?
何を話す?


そのまま店を出ようとした時



「寺崎を呼びますね」
寺崎という言葉にドキッとした

男性客が店員に寺崎さんを呼んで欲しいと頼んだようだった

店を出ようか迷っている内に寺崎さんが出てきて私はとっさに商品棚の影に隠れた


「お久しぶりです(笑)」
お客さんとは親しい様子だった

久しぶりに聞いた彼の声


彼はお客さんとパソコンの専門的な話をしているようで

話の内容は私には理解できなかったけれどずっと笑顔だった



4ヵ月程前まで一緒に暮らしていた人 ーー

胸がいっぱいになってきた



やっぱり痩せてる…
でも笑顔が見られて良かった


ーー 私は気付かれないようそっと店を出た


もうあの綺麗な女性と付き合ってるのかな




ーーー



その日の夜遅く
突然 彼からLINEが来た


『久しぶり。理奈ちゃん。

今日、君が店から出ていく姿を見かけたから。

このメールも送ろうか凄く悩んだけどやっぱり気になって。

もしかして僕のこと気になって店に来てくれたのかなって。

僕の自惚れかもしれないけど もしそうだったら嬉しいなと思って。』

はにかみながら頭を掻く彼の姿が目に浮かんだ


緊張しながら返事を送った



『寺崎さんこんばんは。黙って伺ってごめんなさい。』


そのメッセージを送った直後
電話の着信が来た

スマホの画面には彼の名前 ーー



心臓が高鳴る


呼吸を整え 電話に出た



『あ… 理奈ちゃん、久しぶり、、』


ああ、寺崎さんの声だ…



『いきなり電話してごめんね。やっぱり君の声が聞きたくなって、』



“君を愛してる”


私の心の中に直接
そう語りかけてきた気がして

涙がこみ上げてきたーー



『君に会いたかった… ほんとに凄く 、、』

優しい声…

言葉は少ないけれど想いが伝わってきた



「連絡もしないで店に伺ってごめんなさい。」


『いいんだ。嬉しかったよ。後ろ姿で直ぐに君だとわかった。

君から来てくれたことが本当に嬉しくて、こうしてまた声が聞けることも嬉しい。』


声もかけず帰った私に何故なのかと問うこともなく素直に心から喜んでくれている ーー



『僕から連絡をする勇気がなかった。君に完全に嫌われたのかもしれないと思ってた…

凄く寂しかったけど、この時間はお互いに冷静に色々考える時間になったと思う。』

「そうだね… 」

『それで… 理奈ちゃんの中で… 答えは出たかな。』

「答え…」

別れるのかどうかって意味?


『理奈ちゃん... 君が別れたいなら僕はいつだって別れる覚悟はできたよ。

だから君がどんな決断をしても受け入れるつもりでいる。君が幸せになれる選択をすればいいと思ってるよ。』


別れた方があなたにとって都合が良いの?


胸が… 痛い



「会って、話せませんか…」

『えっ… 会ってくれるの?ほんとに!?』



沈んでいた声が突然明るい声に変わった


『それはいつ!?今からじゃダメ!?5分でも、いや1分だけでも良い、会いたいよ!

場所を教えてくれたら今から向かうから!』


興奮気味に嬉しそうな声の彼にドキドキした



「でも…今夜はもう遅いし…」

隣にいた恵美が小声で話しかけてきた

“今からでも会ってきなよっ”



『ごめん… そうだね。今からじゃ遅いよね。つい嬉しくて…いつなら会えるかな、、』


恵美が“早く!会うと言え”とジェスチャーをしてきた


「あの、じゃあ明日休みだし…今から会いましようか、、」

『いいの!?ありがとう!!今から直ぐに向かうから!どこに行けば良い!?』


いつも落ち着いている彼が
嬉しくてはしゃいでいるなんて初めて


私も彼に会えることが嬉しい

彼の嬉しそうな声が恵美にも聞こえたのか恵美が微笑んだ

この部屋の裏にある公園で待ち合わせることになった


「明日は休みなんだし今夜はもう帰って来なくていいよっ。言いたいことや聞きたいこと、いっぱいあるでしょ?全~部素直に話してきなよ?(笑)」


恵美が笑顔で背中を押してくれた






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