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気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

Inside Your Head 6 最終話

2020-02-13 14:35:00 | ストーリー
Inside Your Head 6 最終話




その日からの俺は

たまにくる莉桜からのメールに返事はしていたけれど 誰とも会う気持ちにはなれず

ずっと自宅でふさぎこんでいた


あんな一方的な都合で理奈ちゃんを酷く傷つけといて都合良く俺だけ他の女と幸せになるとか

そんなの 人として間違ってるよな ーー



修司から電話がかってきた
『海人ー!今週末の情報交換会 来るだろ?』

「今回は… やめとく…」

『どうしたー?元気ないな。まさか病気か??』


そんな俺を心配した修司は訪ねてきた


「なんだよ、そのツラ!お前引きこもりでもやってんのかっ!?」

窓を開けて片付けを始めた

服は脱ぎっぱなしだし
空のペットボトルや使ったコップもそのまま…


俺は部屋が荒れてることも気にもならないほど
自己嫌悪に陥っていた



「お前ヒゲ伸ばしてんの?似合わねーし(笑)」
俺の無精ヒゲを見て修司は笑った

ゴミを分別しながら掃除をしている修司を眺めるしかできなかった

俺に何があったのか 一切聞いてこない
理奈ちゃんから別れたことを聞いたのだろうか



「その様子じゃ飯もまともに食ってねーだろ。病的に顔がやつれてるぞ。今からなんか買ってくっから待ってろ。」


あー … そうか …


まともな食事をしたのって
理奈ちゃんの手料理が最後だったかも …

だからこんなに身体に力が入らないのか …


小さくため息をついた


部屋のチャイムが鳴った


修司 もう帰ってきたのか?




ドアのロックを解除すると

「海人!? どうしたの その顔!」



莉桜だった


俺の顔を見るなり驚き、険しい表情に変わった


「あれ… 莉桜 なんで… 」



「なんだか声がおかしかったからよ!
なに!? 寝込んでたの!?」


「病気じゃない… 大丈夫」


「その顔はどう見ても病人よ!」



押し入るように部屋に入ってきた莉桜も
部屋の荒れように驚いた



「なんで言ってくれないの!そこに座ってて!」
彼女がイライラしている


あぁ…
こんな感情的に怒る莉桜 久しぶりに見た …

修司がやっていた掃除の続きを莉桜がやってる …


そんな事をぼんやり思っていたら修司が帰ってきた


「おーい、食いもん買ってきてやったぞー! … あれ?」


莉桜と修司は そこで初めて顔を合わせた


まるで流動食みたいな食事を済ませ
俺は強制的に布団に寝かされた


修司と莉桜は話をしながら
手分けして掃除を始めていた


「莉桜さん、たまにココ(この部屋)に来るんっすか?」


「そうね … 一年は来てなかったわね…」
台所に溜まった食器を洗いながら莉桜が答えている


「 一年… ってことは もしかして、あいつと付き合ってました?」

「ええ(笑)」 軽い声で答えてる

「ははーっ!なるほどね~♪だからか~(笑)」
修司は上機嫌な声を出した

「えっ?なるほどって??」

「いやね? あいつ ずっと莉桜さんのこと
ひた隠ししてたんっすよ!

良い女だから隠してたんだろう、
盗られると思って隠してたんだろうって、

俺ら連れ周りみんなが聞き出そうとしてもあいつごまかしてなかなか口割らなくて!

俺らの読みは当たってたなって!(笑)」




修司の明るいキャラに莉桜は楽しげにクスクス笑ってる


修司のあの誰にでも気さくに話せる性格
全く尊敬に価するよ…




「海人の友達って、みんなあなたみたいな人達?」

「んー、変わった連中ばかりっすよ(笑)
大学の時からの奴らが多いかな?」

「へぇ! 気になるなぁ~ (笑)」
楽しそうに話す莉桜の声に俺はちょっと妬けた


俺にはあんなに直ぐから心から笑わなかったのに
あんなに直ぐに心を開かなかったのに



修司は顔も悪くないし あのキャラだから昔から女にモテてた

でも当の本人はその自覚はなさそうだった


「海人は秘密主義な所があって、なかなか自分のこと喋らないんすよね。

こんななっても俺らに頼りもしない。

だから みんな海人のことはなんかほっとけないっつーか。」



「彼にあなた達みたいな友達がいて良かった」

莉桜の穏やかな声


「 ところで、莉桜さんはあいつとヨリ戻したんすか?」


あ… やっぱ聞いたな


「んー。どうかしら…」


ど、どうかしらって!

俺は突然目が覚めたように思わず布団から起き上がった



「彼に私は本当に必要なのかしらって思うこともあるわ」


どんな時にそう思うんだーー


「えーっ! そりゃ必要っすよ!あいつには莉桜さんが必要ですから!

だからそんな寂しいこと言わないでやってくださいよ。

あいつが幾ら秘密主義でもあなたにマジなことくらいは伝わります。

別れてからも本当は莉桜さんのことずっと忘れてなかったんじゃないかなって …

こんな風に一人で抱えこんでしまうところもあるヤツだし

あいつの心の支えになってやってくださいよ。

俺からの頼みです。」



修司…
なんだよ お前やっぱ良いヤツ…



「で、あいつに愛想尽きた時は是非、俺んとこ来てくださいっ!(笑)」



な、なんだよっ!
今 俺めちゃくちゃ感動したのに!(笑)


莉桜はすげー爆笑してるし!
俺だってあんなに爆笑させたことないのに!



少しすると 俺は眠りに落ちたようで
目が覚めた頃には二人は帰っていた

莉桜と修司が洗濯や掃除をしてくれたおかげで前以上に綺麗な部屋になっていた


空っぽだった冷蔵庫には
修司が買ってきた日持ちする物や飲み物

胃に優しい手料理を莉桜が作り置きしたパックなどがぎっしりと詰められていた


俺の事を想いながら用意してくれたのがわかる…


それは

俺の心にいっぱい思いやり詰められたように思えて

俺は一人じゃない
幸せ者だったんだなと実感した



ーーー



『あれ、まだ寝てたの?』
俺は莉桜の電話で起こされた



「今 何時だと思ってんだよ…」

『昼前… ぐらいじゃなかった?』

「真夜中の2時ぃ…」

『あぁ、そうだったわね!ごめんなさい(笑)』



莉桜がフランスに行って半年 ーー

また 一からランジェリーのことを学びたいと彼女は躊躇なくフランスへと飛び立った

彼女は何事も迷いが無い

「もうそっちに行ってから半年だぞ… 一体いつ帰ってくるんだ」

『決まったら連絡するわよ』

「待ってる俺の気持ち、考えたことある? 」

『毎日 考えてるわよ?何してるかなー?って(笑)』
あっけらかんと話す彼女に想いの差を感じる


「君の顔が見たいよー。ビデオ通話にしてい?」


『それはまた今度よ(笑)』


なんだよ
顔ぐらい見せてくれてもいいじゃないか …



「人を夜中に起こしておいて冷たいヤツだな …」


彼女は拗ねる俺を気にする風もなく


『ところでね、カフェで知り合った男がいてさ』


「お、男!?」
焦る俺をスルーして話す彼女


『デートに行かないかって誘われちゃって(笑)』

「ちょ、ちょっと待て!!」

『そしたら奥さんがそこに来て、喧嘩始めちゃって(笑)』


なんだ… ホッとした



「焦らすなよ… ビックリした…」

『目が覚めた?(笑)』

「完全に覚めたっ。もう寝らんないよっ!」

『じゃあ窓開けて空気でも入れ換えて掃除でもしたら?』


「だからー。こっちは午前2時回ってるんだぞ?」


『わかってるわよ(笑)また汚部屋の掃除はしたくないからね(笑)』


「もうあんな事になってないよっ(笑)」


『とにかく窓開けなよ』
なんだよ 窓開けろ、開けろって



ーー え? もしかして!?

慌てて窓を開けてベランダから目を凝らして下を見る

街灯は転々と点いてるけど
夜中だから人がいる気配はない


なんだ…
いるわけないか

もしかして莉桜が帰ってきてるんじゃと期待したからちょっとガッカリした



「ちゃんと窓開けたよー」

『明後日、時間ある?』

「明後日… うん。大丈夫。なに?」

『今からメール送るから、そこに行ってきてくれない?』

「いいけど何?」

『受け取ってきて欲しいものがあるから』

「了解。で? 受け取った後はどうすれば良い?」

『それ、海人へのプレゼントだから』

「俺の??」



莉桜が指定した日に店に行くと

店員から綺麗なリボンがかけられている大きな箱を受け取った


箱を持って車に乗り込む

早く開けてみたい気持ちを抑えながら家に持ち帰った


莉桜にメールをしてみる

『大きな箱だね!受け取ってきたよ。』

『まだ開けてないなら開けてみて。』

リボンをほどいて箱を開けてみた


「これって…」



初めて作った俺と莉桜のフォトブックの新品が入っていた


開いてみる



ーー あぁ … 懐かしい



写真に写る二人が輝いて見える



このフォトブックを捨ててしまうあの瞬間

悲しくて 寂しくて 虚しくて
最後に見たこの写真が


同じものなのに 違って見える

心次第で見るものがこんなにも違って見えることを知った


一目惚れの出会いから今日まで色々あった


別れて 再会して
そしてこうして今はお互い離れて暮らしてる

でも 距離は離れていても心は傍にいる


それでもやっぱり… 君に会いたいよ…




他には服や靴が入っていた

そういや莉桜から貰った服も靴も捨てたもんな

箱の中に入っている莉桜が選んだ服を出して広げてみた



綺麗な深いブルーのパンツに襟に黒のラインが入った白シャツ

紺のジャケットにプレーントゥの明るい茶系の革靴



彼女が選んだっぽい…


大きな箱の片隅に小さい箱が入ってる
その箱も開けてみる

中にはブレスレットが入っていた
手に取ると内側に刻印がしてあった


この日付って…
俺達が出会った日付と明日の日付

なんで日付が明日に …


彼女に電話をかける

『見てくれた?』


「ありがとう… 嬉しい… 感動してる!

なんで突然プレゼント? それとブレスレットの日付が明日になってるんだけど。」



『その服を着て明日19時にあの観覧車の所に向かって。』

「まさか俺一人で観覧車に乗れって?」

『私も行くから』


えっ !!


「今こっちに帰ってきてるの!?」


『明日 観覧車の乗り場で会いましょう』


「今すぐ会いたいよ!」


『ふふっ(笑) 明日ね』




一緒に乗った観覧車…

翌日俺は18時半には約束の場所で待っていた


俺からも彼女へのプレゼントを用意し
彼女からのプレゼントの服を着てブレスレットもつけている



大きく深呼吸する

「…はぁ~」


少し緊張してる

約束の時間ちょうどになり
彼女が俺に小さく手を上げて歩いてきた



半年ぶりの彼女 …
「海人、久しぶりね」

「…ん」
照れくさくて 彼女の手を握る


「莉桜 久しぶり… 変わんないね… 」

「ビデオ通話でしょっちゅう顔見てるでしょ?(笑)」


二人でまた観覧車に乗った


「この景色も久しぶりね…」


夜中に 俺に窓を開けさせたのは
俺の服を用意するためにサイズを確認したかったからと言った

あの時 彼女が傍にいたんだと知った

「このブレスレット。何で今日の日付になってるの?」

「今日で私達、付き合うのは終わりにしましょ。」


ーーー え?


「…それ、どういう意味…」

「言葉通りの意味だけど?」


血の気が引いていく感覚


「ま、待って、いやいや、言ってる意味が、、わかんないよ、、」


動揺する俺に微笑んだ


「私達 結婚しない?」


ーーー え?


別れる?

結婚する?



え!?


頭がパニックになった



「これは、私達が恋人だった証… 」
ブレスレットを撫でる

彼女がバッグから箱を取り出して開いた
「 で、こっちは… 」


少しデザインが違うブレスレットが出してきた

「夫婦の証ってことで。 私達結婚しない?」



ーーー 今 俺、プロポーズされてる?




「ちょっと待って!… それは… 」

「 イヤってこと?」 目を丸くする彼女


俺は慌てて彼女へのプレゼントを差し出した



「これ、開けてみて」


彼女のためにネックレスをプレゼントした

今夜 俺は彼女にプロポーズをしようと決めていた




「俺も実は今夜君に言いたかった。」




「ーー 俺と結婚しよう」

微笑む俺に 彼女は微笑み返した



彼女は人の肌に触れ、繊細な生地を扱う職人だから

邪魔にならないよう俺は指輪じゃなくネックレスを贈りたかった



「ありがとう… 嬉しい… 」

嬉しそうに笑う彼女の瞳は うっすらと涙ぐんでいた




「君には俺しかいないだろ?」

「それはあなたもでしょ?」


彼女はそれを伝えたくて帰ってきたのだと言った

そして彼女は数日間 日本に滞在し
その間は恋人らしいデートをした


そして またフランスへ戻った ーーー



何故 突然彼女は結婚を考え

それを伝えるためだけに予告もなく帰国して
そしてまたフランスに戻ったんだろう


彼女の行動や考えていることは今でも俺には予測がつかない


そんな枠に捕らわれない生き方をする彼女を
俺なりに支えていきたいと思う




『再来週の木曜日には日本に帰るから。これからは海人とずっと一緒にいるつもりよ。』


「完全に帰国するの!?」


『ええ(笑)』


「なんだよっ! いつも突然なんだからっ!」
拗ねた言い方で嬉しさを隠す


『なぁにぃ? その言い方(笑)
めちゃめくちゃ喜んでるくせに(笑) 』


「腹立つー! めちゃめくちゃ嬉しいわっ!(笑)」



ーーーー




そして俺達は2作目のフォトブックを作ったーー



今度はウェディングのフォトブック

美しいドレス姿の彼女と俺





「これは捨てない(笑) 大事にするからね」


「そんなの当たり前でしょ!? ウェディングブックなのよ!?もしも捨てたら私があなたを捨てるから。」


「 俺は捨てられないでしょ?
… だって君は俺じゃなきゃダメでしょ? 」


「さぁ? それはどうかしら。」


俺じゃなきゃダメだって
「相変わらず言わないなぁ(笑) 」


微笑みながら彼女の腰を引き寄せる

「必ずいつか言わせてやるからな(笑)」


好きの一言もなかなか聞かせてくれなかった彼女…


「愛してる(笑)」


「“愛してる” をやっと普通に言ってくれるようになったな(笑) ここまで長い道程だった(笑)」


胸が熱くなる


「私、また“あの”海人が見たいわ… 」

甘えるように俺の首に腕を回した



「“あの”??」

「そう、あれは海人じゃなきゃダメね(笑)」

「俺じゃなきゃダメなのってそれだけ?(笑)」

「早く早く(笑)」

「そんなに欲しいの?… 俺からの意地悪なおしおき(笑)」

「バカ!(笑) 違うわよっ(笑)」



俺は彼女のために

またあの歌を歌ったーーー







ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Inside Your Head 5

2020-02-08 22:00:09 | ストーリー
Inside Your Head 5





「昨日お店に行ったらあの雑誌に載っていた綺麗なオーナーさんがいて、直々に採寸してくれたの。」


莉桜の存在を感じる言葉に
いちいちドキッとしてしまう


「そう、なんだ… 」

「でね、雑誌どおりの綺麗な人だった。」

「そうなんだ… 」


莉桜は今頃どうしてるんだろ…


「でね、なんかショーがあるとかで招待状をもらったの。」


へぇ…

最近はショーもやってるのか

ますます忙しくしているんだろうな



「そうなんだ… 」


仕事モードの莉桜は そこら辺の男よりも
仕事のことで頭いっぱいになってたもんな


「海人くんも一緒にショー見に行く?」


莉桜が男だったら俺なんかよりずっと格好良い奴だったろうな


え?

“海人くんも一緒にショー見に行く??”


「えっ!? 俺はいかないよっ!だって女性のランジェリーショーでしょ?」




「だよね(笑) さっきから上の空で “そうなんだ~ ”しか言わないから(笑)

やっと違う言葉が聞けた(笑)」


元カノと今カノが顔を合わせたってことが
自分が思ってた以上にヒヤヒヤする

別に俺は間違ったことはしてないけどっ


彼女がもらった招待状には莉桜の顔写真が載っていた



相変わらず綺麗だな…

…莉桜



「え?」

俺、名前 口走った!?



理奈ちゃんが招待状を覗きこんできた


「海人くんは直ぐにこの(リオという)漢字読めたんだ」



「あー、珍しい漢字だよねぇ、、」

冷や汗が出てきそうだった




「…なんかね、オーナーさん独身らしい。

彼氏はいるみたいだよ。当然だよね、綺麗な人だもん。」



ーー 胸に何か鋭いものが刺さった


彼氏… いるんだ


「そっか… 」


「でもね。もう一年も連絡も取ってなくて会ってもないんだって。」


え… それって


「それは別れたのと同じじゃないのかなと私は思ったんだけど…

オーナーさんには気持ちがあるみたい… 」



恐る恐る聞いた

「 …この人がそう言ったの?」



「うん、、彼氏からの連絡を待ってるって… …」

苦笑いをした




嘘だ…

そんなの嘘だ ーー



だってあの時

莉桜はあんなに冷たく俺を突き放したのに


もう愛想が尽きたかのように吐き捨てたのに




「理奈ちゃん ごめん… 俺、帰るわ 」
立ち上がり上着を持った


「海人くん、待って、、」

「ごめん、また連絡するから!」


俺は立ち上がり
彼女の顔も見ず玄関のドアを閉めた

この時
俺は莉桜の事しか頭になかった


理奈ちゃんがこの時
どんな表情をしていたのか

どんな思いだったのか


俺には気付きもしなかった ーー


俺は車のエンジンをかけ
莉桜のサロンに向かっていた


莉桜が俺を待ってるなんて

そんなの嘘だ…!


でもそれが本心なら俺は…





莉桜に確かめたかった
確かめるために会う

ただ それだけだ


俺はもう莉桜を愛してない

愛してない…



彼女のサロンの前に車を停め
ゆっくり扉を開けた


若い店員が笑顔で歩み寄ってきた

「あの… オーナーさんは… 」



「オーナーですか?呼んで来ます。お名前は ?」

名前を告げると店員が奧に呼びに行った




彼女に会うのは一年ぶりだ…

心臓の鼓動が外にも聞こえそうなほどドキドキしている



ーーー 奧から莉桜が現れた



「海人… 」


一瞬で

莉桜と過ごした時間まで
一気に巻き戻されたような錯覚がした



「…君に聞きたいことがあって… 」


彼女は優しく微笑んだ


「外に出ましょ。」




サロンの近くのカフェで
今、莉桜と向かい合わせて座っている


現実味がない

まるで幻を見ているようだった




「海人… 元気だった?」

優しく微笑む彼女



あの頃は
こんな穏やかで優しい表情はしなかった


「俺達… もう一年前に終わったんだよな… 」


悲しげな笑顔に変わった

「…そう、なのね 」



「莉桜は違うの?それが聞きたかった」

「あなたが終わったと思ってるなら終わったのよ」

「そうじゃなくて!君の本音が知りたいんだ。君の考え、君の気持ちが知りたいんだよ。」


少しの沈黙が俺の心を焦らせる


「私は… 私は… あなたを待ってた。私があなたを酷く傷つけてしまったことはわかってる。だからこそ、都合よく私から連絡して会いたいなんて言えなかった。」


「なんだよ… それ。やっぱり君は自分勝手だ。俺は君を、君を、ずっと待って…

でも もう終わったんだと自分に言い聞かせて
やっと諦められたのに…

俺、本当に君を愛してたんだよ… 」



彼女の目から大粒の涙が流れ落ちた




「ごめんなさい… 海人がいなくなって…
海人の存在の大きさが身にしみてわかった…

海人は私にとってとても大切な存在だったって 」




ーー莉桜

俺 やっぱり
君を愛してる ーー



「俺達… もう一度やり直さないか…
やっばり莉桜を愛してる」



俺は彼女の涙を初めて見た

いつも どんな時でも気丈だった彼女が


それだけで彼女の気持ちが伝わった






その夜…

俺達はお互いの愛を確かめ合うように
優しく何度も抱きあった



ーーー


理奈ちゃんという彼女がいるのに元カノとやり直した俺は

最低最悪な男だ ーー


罪悪感で理奈ちゃんに連絡しずらくなってからもう二週間は過ぎた


俺と理奈ちゃんの関係を終わりにすることをきちんと告げなければいけない…

どう伝えれば傷が少なく済むだろう



でも… どんな言葉を使ったとしても

別れを告げることは傷ついてしまうことに変りはない

何も浮かばなくてモヤモヤと過ごしている時
理奈ちゃんからメールが来た


『海人くん。どうしてる? 会いたいな♡』



胸が痛む ーー



彼女は何も悪くない
自分勝手なのは俺

なのに傷つくのは彼女



どう返事したらいいんだろう

でもこのまま先伸ばしするのは …




『明日の夜、行ってもいい?』
その返事は直ぐに来た

『うん!海人くんの大好物を作って待ってるね!』


理奈ちゃん …


理奈ちゃんへの最適な言葉はやっぱり見つからないまま

約束した夜になった



「待ってたよ(笑)」

凄く嬉しそうにドアを開けた理奈ちゃんの笑顔に また心が痛んだ

理奈ちゃんが言っていたように
俺の好物ばかりがテーブルに並んでいた


「理奈ちゃん… あの、俺」

「早く座って! 全部食べてね!」

ずっと嬉しそうな笑顔に
心がいたたまれなくなるーー


その笑顔に促され 俺は箸を持った



理奈ちゃんは本当に料理が上手くて

初めて彼女の家庭的な手料理を食べた時
心がほっこりして幸せな気持ちになったことを思い出す



俺ばかりが沢山の幸せを貰ってばかりだった

心が癒され 救われた …




理奈ちゃんの顔をチラッと見た

「美味しくない?」


「いや … 違うんだ…
今日は理奈ちゃんに話があって来たんだ。」


「ちょっと待って、、ご飯、ご飯食べてから話を聞くから。」


切なく微笑む彼女


まさか俺が言いたいこと
何となくわかってるのか?

理奈ちゃんのささやかな希望を
俺が少しでも叶えられるなら …


俺のために心を込めて作った手料理を
俺は精一杯食べた



「理奈ちゃん、あのさ… 」


「う、ん… 」


揺らいでいる声に
今にも泣きだしそうな目



あぁ… 駄目だ
俺 やっぱり言えない ーー




「別れよって、言いに来たんだよね… 」


え ーー


「なん… で… 」


どうしてそれがわかったのか

動揺した …



「莉桜さんと寄りを戻すことになった?」

「どうして… 」

「莉桜さんのサロンで莉桜さんと海人くんのフォトプックを見たの。

あれ見たら二人は恋人同士だったんだってわかった。

あのフォトブック…

莉桜さん、大切にしてた。

写真の海人くんを見つめる目はまだ海人くんに想いがあるとわかった。

だから莉桜さんに想いを聞いたの。

私と海人くんは“友達”だと言ったら話してくれた。

彼女はまだ あなたを待ってるって言ってた。」


「なんで理奈ちゃんはそれを俺に伝えたの… ?俺に言わなきゃわかんなかったのに… 」


静かに涙を流しながら
ポツリ ポツリ… とまた話し出した


「それを伝えても海人くんの心が揺らがなかったら本当に私の彼氏の海人くんでいてくれてるって自信を持って思える。

もしも… 彼女の元に戻ってしまったなら

私は彼女ほどあなたに愛されてなかったんだと諦めがつく…

海人くん、はじめに私に言ってたよね?

まだ元カノを忘れられてないって



私、ずっと恐かった …

やっぱり元カノが忘れられないから別れよって、いつ言われるのかなって

私と一緒にいた海人くんは私だけを見つめてくれてた、きっともう大丈夫、今は私が愛されてるんだと

そう 安心して思いたかった

彼女のことを話しても あなたは私から離れないって

…そう 思いたかった 」



その健気な想いに
俺は胸が張り裂けそうになった


「 …ごめん 」

「もう… わかったから」


涙でいっぱいの理奈ちゃんは
精一杯 俺に笑顔を向けた



「私たち… 別れよっか… (笑)」




俺は…

やっぱ最低だーー


理奈ちゃんは俺をあんなに幸せな気持ちにさせてくれたのに

あんなに優しい気持ちになれたのに



なのに俺は理奈ちゃんを裏切ってしまった
こんなに悲しい想いをさせてしまった


涙が出そうなのを堪え
部屋を出た ーー


俺には
泣く資格はない


ーー ごめん


理奈ちゃん…






ーーーーーーーーーーーーーーー


Inside Your Head 4

2020-02-07 14:00:00 | ストーリー
Inside Your Head 4





俺は投資のようなことをしている

それが俺の収入源みたいなものだから
出勤も無いし 時間にも自由がある

俺がやってることは悪いことでもなければ非難されるようなことでもない


でも凄く働く彼女にはなんとなく言いづらかったのもあるし

彼女は僕の仕事のこと 過去のことも聞いてはこなかった


今思えば 本当はお互いに
お互いのことを知らなかったのかもしれない



今夜は定期的に同じ投資家仲間で集まり情報交換をしている

投資家仲間といっても大学の学生の頃からの気心の知れた友人達だからただの飲み会だ



「海人。最近 女できた?」


この修司とはサークルも一緒だった

ひょうきんで一見軽そうにも見える男だが
一番の仲が良く優しい奴


「その逆。ちょっと前に別れたよ。」


「なっ、なんだよ!お前ら聞いてたか!?
俺はそんなの聞いてないぞ!」

修司はムッとした表情で口を尖らせた



「ワシも聞いとらん!良い女なんだろ。だから盗られたくなかったんだろ!」


見た目はヲタクという感じで変わり者だけど
鋭い読みをしてくるヨシ


「もう終わったことだし!もう良いだろ? はいはい、この話終わり!」


「 何で黙ってた?どんな女だったんだ。年齢は?何で別れた?」

匠は見た目はオシャレで分析力と直感力を両立させていて一番稼いでる

俺は 何とか莉桜の話から反らそうとした


「 次、彼女ができたらその時は言うから!はい、この話はおしまい!てか、ヨシが言ってるたあの会社はどうなったんだよ。」


「あれなー。あれは… てか話を反らすな!」

またヨシに話を戻された


「も~っ!言いたくないんだよ!」

「ほんとお前は秘密主義者だな。これはどうもフラれたクチだな(笑)」

キレ者の匠がニヤニヤした



「そうだよ!俺はフラれたんだよ!それでもういいだろ?」

「そうなのか… よしよし、まぁ呑め。」

やっぱ修司は優しい奴だ…


「海人。お前は熟女好きだから、熟女なら、ほら!あそこにも、あそこにもいるぞ!チャンスは幾らでもあるんだから元気だせ!(笑)」


「 なんだよそれ、誰でもいい訳じゃない!それに熟女好きでもないわっ(笑) 俺は年齢なんて気にしないだけ!」

優しい奴なんて思った俺の気持ち、返せよっ



修司が肩を組んできた
「まぁ女を忘れるには女だ。お前に紹介したい女がいるんだけど会ってみるか?ん?(笑)」



そんな気分にはなれなかったけど

修司が勝手に設定して相手の女性にはもう約束を取り付けたからと強引に話をつけてきた

気乗りしないけど会うことになった



ーーー



待ち合わせのカフェにいた女性に驚いた


「あれ?なんで?」

「海人くん!久しぶり!(笑)」

大学時代 同じサークルだった同級生の理奈ちゃんだった

「なんかさ、修司くんから呼び出されて。あれ?修司くんは?」

あいつぅ …
修司にハメられたと直ぐにわかった


学生時代 俺は理奈ちゃんに片想いをしていた
それを修司には打ち明けていた

だから理奈ちゃんに声かけたのか…


「あいつは来ないよ(苦笑)」

「え?じゃあなんで海人くんだけ来たの?」


そりゃ そう思うわな!


「あ、いや、なんか急用ができたとかで… 懐かしい人がいるから行ってみ?って修司に言われて(笑)」


俺は咄嗟にごまかした


「修司くんのドッキリみたいな感じなんだね(笑)」

理奈ちゃんが微笑んだ


あぁ…
学生の頃は この笑顔に惹かれたんだったけなぁ

懐かしい


ーー でも

今はもうあの頃と同じ想いにはなれそうもない

理奈ちゃんは 今は彼氏はいなくて
都内で一人暮らしをしているらしい

あの頃より随分 綺麗になったなと思った

それから俺と理奈ちゃんはたまにメールをする仲になった

それはあくまでも“友達”として



たまに修司から お前らどうなった?と聞かれるけど

女として恋愛感情を抱くことは無いと思うと答えた

多分 だけど…



理奈ちゃんは俺に心が傾いてるような
そんな内容のメールが来るようになった



このまま連絡を取り合うのはやっぱり…

どうしたらいいんだろうと考えるようになった


莉桜と別れてから半年…
今頃どうしてるだろう

あれだけ莉桜のことを片時も忘れることのできなかった俺を

時間は少しずつ変えていった


思い出さない時間
思い出さない日が増えてきた頃



『海人くん。今から会えない?』
理奈ちゃんからメールが届いた


その短い文面に

莉桜から夜中に呼び出されていたあの頃のことを思い出す


『いいよ。どこに行けばいい?』


あの頃の癖なのか
つい、俺は会う返事をしていた

もう夜も遅い時間だしファミレスで会うとこにした

「遅くに誘ったからまさかOKが出るとは思わなかった(笑)」

彼女は照れながらはにかんだ


莉桜はこんな可愛らしい表情はしなかったな …

理奈ちゃんの今日の仕事の話とか俺の近況とか
性急に夜中に呼び出すほどの話ではなかった


ただ彼女は俺の顔が見たかっただけなのだろう


「もう遅いし、俺 車で来てるから送るよ」
彼女をマンションの前まで送り届けた


停車しても理奈ちゃんは直ぐには降りなかった

何か言いたげに無言になって俺は戸惑った



すると ーー

「か…海人くん、、私 海人くんが好き… なの」


唐突に彼女が告白してきた


きっと
この言葉を言おうとして呼び出したんだろう

「ありがと… 理奈ちゃん。でも俺は… 」

「大学の頃からずっと海人くんのことが好きだったの。」


ーー 知らなかった



俺もこの子に片想いをしてたあの頃
俺が告白をしていれば俺達は付き合ってただろう

「なんであの時私、ちゃんと告白しなかったんだろうってずっと後悔した。 だからもう後悔したくなくて… 」


「… 俺、まだ元カノが忘れられてないんだ。ごめん。」



その言葉に
彼女は悲しそうな表情をして車を降りたから

俺もとっさに車を降りた


振り返った彼女は精一杯の笑顔を作って俺に向けた


「 告白のこと、忘れて!ごめんね。もう呼び出したりしないから。おやすみなさい(笑)」


そう言うと彼女はマンションに向かって歩きだした


ーー いじらしい彼女の精一杯の笑顔に心が痛んだ



俺はとっさに
「ちょっと待って、理奈ちゃん!」

彼女を呼び止めて彼女の元に駆け寄った


「俺、理奈ちゃんのこと嫌いとかじゃないからね?

俺まだ元カノのこと完全に忘れられてないし、理奈ちゃんにまだ恋愛感情とか持ててないけど…

こんな俺でも構わないの?」


“構わないの?” って 、、
俺 どういうつもりで何言ってんだ

彼女は驚いた表情で両手を口元にあてて
そして嬉しそうに微笑んだ


「うん、うん…」

嬉しくて今にも泣き出しそうに喜ぶ理奈ちゃんと俺は付き合うことにした

俺はフリーだし 妥協したのか?
夜だったから?

誰かに想われ 求められたことが嬉しかったから?

理由は自分でもよくわからなかった


それでも彼女とデートを重ねる度に
彼女がより一層 可愛く魅力的に見えてくる

ふいにする仕草や口癖



声や笑い方
感動屋な所とか
猫舌で冷たいのも苦手とか

大学の頃は知らなかったことが見えてきて
付き合って初めてわかった沢山のことを

ひとつ ひとつ
彼女の魅力を知る度

心が彼女に傾いていくのを感じていた


嬉しそうに笑う彼女と過ごす時間は楽しくて
時々ドキドキしたり 癒されもする

幸福感で満たされていく心 ーー




俺…
理奈ちゃんのこと

好きだーー



また恋をしている自分に気づいた



彼女とはまだキスもしていない

わゆるプラトニックな付き合い


莉桜の時とは真逆だ




「海人くーん!」



理奈ちゃんが俺を見つけて手を振った

俺も笑顔で手を上げる



彼女とは駅の外で待ち合わせしていた



「ごめんね!待たせちゃった?」
時間ピッタリに彼女は到着した

「今さっき着いたところだから待ってないよ(笑)」


駅から少し歩いた所に最近できた創作料理のお店があり

俺達はそこに向かって歩きだした


少しドキドキしながら俺は初めて彼女の手を握った

そしたら彼女も優しく握り返してきた


、、なんかめちゃくちゃ照れくさい


チラッと彼女を横目で見ると
彼女の頬が赤く染まっていた


あぁ、可愛い!


手を握るだけで頬を赤らめるような彼女が
俺に一生懸命 想いを告げたあの夜

きっと相当な勇気を振り絞って俺に会ったんだろう と思うと

ーー 彼女がとても愛おしい



あんなに心が引き裂かれるような辛い別れをしたのに

俺はまた今 別の女の子に恋をしてる



でも それが嬉しかった

その日 俺はずっと彼女の小さな手を握っていた

あてもなく何となく歩いた川沿いのベンチに座った


夕暮れが近くなり街灯が灯りはじめると
ロマンチックな雰囲気が漂ってきた


「今日は楽しかった。海人くん ありがとう。」

俺を見つめて微笑む



彼女は『ありがとう』という言葉をよく口にする

そこに彼女の人柄が出ていた


「俺も楽しかった。ありがと。」


今日はそろそろ帰るって意味なのかな

寂しいな …



「もう帰る?」 そう尋ねると

「そう、だね… 」 と、残念そうに彼女は微笑んだ

「もうちょっとだけ一緒にいたい。いい?」

頷いた彼女を初めて抱き締めた

腕の中にすっぽり隠れるくらい小さな身体の彼女

強く抱き締めると折れてしまいそうで
俺は彼女を優しく抱き締めたら

ふわっと彼女のシャンプーの優しく甘い香りがした

夕暮れ色に染まる彼女に優しく唇を重ねた



ーーー


その日から たまに彼女にキスをするようになり
次第に抱きたい願望も湧いてくるようになった

そこは男だから当然…

車で彼女を家まで送り届けたある夜



俺は意を決して彼女に言ってみた

「理奈ちゃん。朝まで一緒に過ごせない?」

「え…」 彼女は驚いた

「あっ、嫌ならいいんだ!ごめんね(笑)」



彼女は少し考えた後 黙って頷いた

嬉しくて抱き締めた



彼女の部屋はシンプルな部屋だった



「海人くん、座ってて」


紅茶を入れて彼女が俺の斜め横に座った

急に心臓の鼓動が早くなった




何か話題をーー


そう思えば思うほど何も浮かばない


「シンプルな部屋で落ち着くね」

「ふふっ(笑) さっきも同じこと言ったよ?」

「そっか(笑)」

「落ち着かない?」


うん、この状況 落ち着かない


「何かお酒でも買ってこようか(笑)」

立ち上がろうとする彼女の腕を掴んだ



「いい…」

彼女の顔に近寄り 優しくキスして
そのまま彼女をゆっくり抱き倒した



「抱いても… いい?」

「そんなこと、、聞かないで…(笑)」
少し困ったような笑顔で頬が赤くなってきた


「ごめん… (笑)」 また唇を重ねた




俺は彼女と付き合い始めて3ヶ月

初めて彼女を抱いた


それは
心が満たされるような 感じたことのない不思議な感覚だった




ーーーー



理奈ちゃんと部屋で過ごしている時

甘えてくれる理奈ちゃんに勝手に反応する下半身

そのまま強引に押し倒したくなる衝動を抑えることが辛い


強引にしないのは

理奈ちゃんにだけは嫌われたくないという想いがあるからだ

もし また嫌われたりでもしたらーー


莉桜のことがあってから
嫌われることへの恐れを強く抱くようになっていた



「海人くん 大好きだよ… 」



嬉しそうに照れて言う彼女が
本当に可愛い


穏やかな幸せって
こんなにも幸福感があるんだと

彼女から教えてもらった



そんな時
彼女の部屋にあった雑誌をたまたま開いたら

そこには あの莉桜の姿があった ーー


莉桜のランジェリーブランドが雑誌に紹介されていたのだった



ーー 莉桜 …


「そういうのが好きなの?」
彼女が雑誌を覗きこんできた

「えっ、、」

「この下着が好きなのかなぁって」

あぁ、下着の方を言ったのか

「あー、いや、わかんないな、似合ってたら何でもいいんじゃ、ないかな(笑) 」

「今 人気みたいだよ? このブランド。私もオーダーで作ってもらおうかなぁ(笑) 」


俺の鼓動は早くなり 額に汗が滲んできた


違うブランドを指さして
「あっ、こっちは?」と気を反らそうとした

「 海人くんはこっちが好み?私はこっちの方が良いと思うんだけどなぁ… 」


莉桜のブランドを指した


「そうなんだ、、」本格的に汗が流れてきた

「この人、本当に綺麗な人だよね!しかもやり手の女性経営者って格好良いね(笑) 」


莉桜を見て羨ましそうな表情をした


「そう、かな…」


俺の表情を見て

「海人くんの好みではないんだ?」

「あ、うん…そう、だよ。」

どうしたんだろう?という表情をした





莉桜と別れてもう一年近くなる


この写真の撮影時期は

あの喧嘩した夜から数ヶ月は経っているだろうか



雑誌の中の彼女は美しくて
格好良い女に写っていた


それから理奈ちゃんは莉桜のブランドで
下着のオーダーをしてもらうと楽しみにしていた



俺が莉桜のことを言わなければ
俺が莉桜の店に行ったりしなければ

理奈ちゃんに知られることはまずないと思っていたから

彼女がそこでオーダーをすることを俺は気にしないようにした






ーーーーーーーーーーーーーーーー


Inside Your Head 3

2020-02-05 09:48:00 | ストーリー
Inside Your Head 3





3度目のデートでは
彼女の部屋に行くことはできなかったけど

5回目のデートで初めて俺は彼女の部屋に招待された

やっと彼女から信頼されたと喜んだ


それからは
彼女の部屋に呼び出されることが多くなり

会うスパンが短くなってきた

突然 夜中に呼び出されることが増え
その時は必ず彼女は身体の関係を求めてきた


彼女から求められることに喜びを感じる俺は
必ず彼女の呼び出しには飛んで行った


最近は突然 夜中に呼び出されることはなくなったけど

ある日彼女が ふと俺に “好き” という言葉を口にした


俺には彼女しか目に映らなくなった

恋の盲目ってこういう事だと自覚もしてる


他人から見るとバカじゃないかって言われるだろう



ーーー



彼女と外食し、今は飲みに向かっている

彼女の手を取り繋いだ


「莉桜 、俺のこと、ほんとに好き? 」


彼女がふと、俺に “好き” と言ってくれたあの日から俺は嬉しくて何度も聞いてしまう


「何度も言わせるたがるわね(笑)」

「だって、 嬉しいから!」



背後から男の声がした


「ーーあれ? 莉桜?」



俺と彼女が振り返ると

整った顔立ちのスーツが似合う、まるで伊勢谷友介のような大人の男が声をかけてきた


年齢は彼女より5つ以上は年上じゃないか… ?

男は彼女に歩み寄り にこやかに話しかけてきた


「久しぶり。元気だった? まさかこんな所で会うとは思わなかったな(笑)」

男はまるで俺がそこにいないかのように彼女しか見ない

俺は彼女の手を強く握り締めた


彼女は笑顔もなく 表情ひとつ変えず淡々と話しだした


「久しぶりね。こっちに帰ってたのね。」

「去年からこっちで仕事してるんだ。」

「今から私達、飲みに行くの。」


俺はホッとした
これでこの男と別れて二人になれると思った


「あなたも一緒に行く?」

はぁ!? 嘘だろ!?
とっさに彼女の顔を見た



「それは彼氏に悪いよ(笑) 」

「良いわよねぇ? 海人。」
彼女は俺の顔を見た


ヤダよ! 俺はイヤだっ!!

俺の困った表情もスルーし、彼女は男を誘った





莉桜とはどういう関係なんだ?

悔しいけどこの男 渋くて超格好良い
顔もスタイルもセンスも何もかも…


彼女から誘ったことが

… ちょっと (だいぶ) 寂しい



男は常に笑顔で彼女に話しかけているが彼女に笑顔は無く

まるでビジネスの話をしているかのように
ずっとクールな表情で落ち着いて話をしている



彼女から誘ったんだから

本来ならもうちょっと楽しそうな表情に
なりそうなものなのに…


まぁ、俺としては?

彼女が楽しそうに
愛想よくしてると妬けるから今ぐらいでいい!

彼女の電話に着信が入り席を立って店の外に出た


俺と男の二人になった



「君は彼女との付き合いは長いの?」

「まだ… そんな長くはないですけど… あなたは彼女とどういう関係ですか? 」


突っ込んで聞いてみた


「僕? “友達”(笑)」


友達!? そんなの嘘だ!

今、含みをもたせて言ったのを俺は聞き逃してないぞ!!



俺は表情を変えず爽やかな笑顔をキープする

こいつ 絶対 彼女となんかあったに違いない!



「よく彼女を落とせたね 」

はぁ!?
喧嘩売ってんのか!?


「それはどういう意味ですか?」

「 彼女、なかなか恋愛感情 抱かないからさ(笑)」


まぁ、、それは確かに…


てか、何でそれ知ってんだよ!
やっぱ何かあったな!


「あなたは“元彼”なんですか?」

男は まるで “そうだ” と答えるよに
クスッと笑った


彼女が電話を終わらせ帰ってきた

「何? 楽しい話でもしてた?」


してないっ!! 逆だよっ!!



「祥、私達もう帰るわ。」

あぁ、良かった…



「そうだ、莉桜に良い話があるんだ。後日 連絡していい?」

「良い話って?」

「ビジネスの話。今度 ウチの雑誌社の企画で
オーダーメイドブランドの特集をするんだ。

そこで君の会社の商品を掲載できないかと思ってね。」

「…そう。いいわ。じゃあ連絡先ちょうだい。」


えっ
そんな…


二人は連絡先の交換をした

「じゃ、また。」


彼女が立ち上がったから俺も立ち上がった



「ねぇ… さっきの奴と仕事するの?」

「 どうなるかしら。まずは話を聞いてからね。」

経営者の顔でクールに答える



なんか …
俺は不安だよ …

彼女の気持ちが揺らいだりしないかって


「どうしたの? なんで拗ねてるの?」

「別に。拗ねてなんかない。」


彼女がクスクス笑いだした


「なんで笑うんだよっ」
ムッとした俺の表情にますます笑う彼女


「 不安にならなくていいわよ?ビジネスなんだから。」

「だったらなんで下の名前で呼びあってた?
二人はどんな関係? まさか元彼?」

「昔から彼とはそういう呼び方だったからよ。」


あ、今はぐらかした


「“彼” なんて言うなよ… 」



「なぁにぃ?そんなに凹まないでよ(笑) 飲み直しにいこ?ね?」


なんか…
拗ねた子供をあやすみたいな言い方だ …


ーー 俺は足を止めた


「俺はっ!俺は… 莉桜が心配なんだ… 」

「大丈夫だから。私を信じて。」
彼女の瞳には俺だけが映りこんでいた



「… わかってる」


やっぱり元彼なのかな…

あんな仕事ができそうな色気のある大人の男


やっぱ 凹む…


「莉桜… 今夜 君の部屋に行っていい?」

「… いいわよ」





ーーー




彼女の部屋に入るなり俺は彼女に激しくキスをし激しく彼女を抱いた




ーーー



「ごめん。俺… めちゃくちゃ嫉妬して意地悪した… 」

眠そうな彼女はそのまま静かに眠りに落ちた


俺 嫌われるんじゃ…

彼女が目覚めるのが恐くなった


でも… あの男に抱かれたなんて想像するとやっぱり辛い


あの男 結構イイ男だったから


あーっ 聞かなきゃ良かった…
知らなきゃ良かった …


そんな自己嫌悪にさいなまれた


彼女が寝てる間
起きた時に彼女が食べられるよう

野菜のスープを作り
サラダをラップして冷蔵庫に入れた


どうしよう

メモを置いて帰ろうか
彼女が目覚めるまでここに居ようか


どうしよ…

彼女の寝顔を見つめる


やっぱり
起きるまで一緒にいよう…

彼女の隣で眠る事にした



ーーーー



翌朝 目が覚めると彼女は先に起きていて
隣にはいなかった


彼女がシャワーを浴びている間にスープを温めコーヒーを淹れ

朝食の準備をしテーブルに並べた時


彼女が髪をタオルで拭きながら出てきた



俺が起きていたことに驚いたのか
びっくりした表情をした



「おはよ… 莉桜 」

気まずい…


ムッとした表情に変わった

「ちょっとそこ座って。」

「… ハ イ 」

ダイニングの椅子に座った


俺の前の席に座って脚を組んだ

コーヒーの良い香りが部屋中にたちこめている


「コッ、コーヒー、入れようか… 」


コーヒーを入れ彼女の前に差し出し
また椅子に座った

俺はまるで 今にも母親に叱られそうな子供のようだ


黙ってコーヒーを飲む彼女

「 …… 」



気まずい!むちゃくちゃ怒ってる!

莉桜がこんなに感情を露にして
怒っているのが初めてで


恐い ーー



「あのさぁ!」

「… ハ イ 」

「いつ覚えたわけ!? 」

「えっ、、いつって、、何? 」

「年上の女でしょ!」


…え?


「何を言ってるの?」

「前々から思ってたんだけど!あなた、年上の女に “なにかと” 教わったわけ!? 」

「なにかとって、なんだ、そんなことで怒ってたの… 」

「そんな事ぉ!?」 ますます怒りだした

「あっ、ごめっ 、、」


なんだ …

昨夜 攻め倒したことを怒ってるわけじゃないんだと内心 ホッとした



「昨日は … ほんとごめん。あの男と莉桜との関係に嫉妬してあんなこと…

度が過ぎたなって… めちゃ反省してる…もうしないから… 」

「確かに ひどかった … 」

「ごめん… 」 だよなぁ…

「…私はあんな海人 見たことなかった。けど …まぁ、たまには いいわ。」



照れくさそうに視線を反らした



… え? そうなの ?


「あっ、今はその話じゃない!いつ教わったのよ!あなたまだ若いのにおかしいわよ! 」


莉桜が感情的になって俺にヤキモチを妬いてくれてる ーー


彼女の人間味を感じられることに喜びを感じる


「何笑ってるの?その女のことを思い出してるの?」

ムッとしてる彼女がさっきまで恐く見えたのに 今は凄く可愛い女に見える


「そんなことを聞いても何も変わらないし
逆に嫌な気持ちになるだけだろ?」

「でもずっと知りたかったから… 」

ムスッとする

「言いたく… ないな 」



言えば

君の俺への今の気持ちが変わってしまうかもしれない

そう思うと恐くて言いたくない


昨日の男と君との間に肉体関係があっただろう

そう気づいてしまった俺は
ただただ 辛い想いしか残ってない…


それと同じだ


俺の昔の彼女は莉桜よりもずっと年上で ひと周りも離れてた大人の女だった

彼女が要求することを叶えていたら
女の要求することを知ることができた


どうされたいとか
どう扱われたら嬉しいとか
それらを素直に俺に要求してきた女だった


セックスだけじゃない
エスコートの仕方
女性に対して配慮すべきところとか
男としてどうあって欲しいとか

女性の心理を 自然に教わった気がする


そんな元彼女は人としても魅力的な女だった …


見た目が良いという訳ではなくて

俺には 正直な想いを伝えてくれたし
人間としても尊敬できる大人だった

だから俺はそういうイイ女と思える女じゃないと物足りなくなった


でも それは莉桜に言う必要のないこと

今は莉桜しか見えないんだから…



ーーーー



あの男と仕事をすることになった彼女は自宅には滅多に帰らなくなった

心配するなと言われてもするに決まってるだろう

だって あの男と一緒に仕事してるんだから…


なかなか会えなくなって
不安で寂しい …


彼女にメールをするかどうか散々迷い
結局 送るのをやめた


しつこくすると彼女は嫌がる性格を知っているから
彼女から連絡が来るのを待つことにした



ーーー



前は一日一度はメールが返って来てたのに
次第にメールが来ない日が増えてきた


もう一週間 メールが来ない

こんなことは初めてじゃない


大きな仕事が入った時は仕事に集中してるのか
全く音沙汰が無くなった事があった



でも今回は あいつと一緒


悪い想像ばかりが浮かんでしまう

俺 どれだけ莉桜に惚れてるんだ…



一目だけでも顔が見られたら…

俺は彼女のマンションの下で待つことにした


いつ帰るのかもわからないのにもう3時間は待っている



もう帰ろうと思った時

高級外車がマンションの地下駐車場に入ろうとスピードを落とした

よく見たらその車に莉桜が乗っていた


ーー 莉桜!!


運転していたのは やはりあの男だった

ゆっくり地下駐車場に入って行く車を慌てて追いかけた

エントランスに繋がるエレベーターホールの前で車は停まっていた


彼女は車から降り

あの男に笑顔で軽く手を挙げ
裏のエレベーターホールに入っていった

彼女を追いかけたけれど
エレベーターはもう上昇し始めていた

彼女に電話をかけるが電源が入っていない…


彼女の部屋番号を押すが
まだ部屋に着いていないのか応答がない



焦る気持ちを抑えきれず
何度も何度も部屋番号を押し続けた



『はい。』 やっと彼女が出た


「莉桜、俺。開けて!」

『海人!? どうしたの?』

「早く開けて!」


ドアが開きエレベーターに乗り込む


彼女の部屋のドアの前に着いてチャイムを鳴らすと直ぐに彼女がドアを開けた



「びっくりした!どうしたの?」

「会いたくて… ずっと下で待ってたんだ 」


俺を部屋に通してくれた


「凄いタイミングね。久しぶりに落ち着いて帰ってきたところだったのよ。」

「…俺 見たんだ。さっきあの男の車で君が帰ってきたのを。」


彼女は振り返って俺の顔を見た


「だから?」





ーー だから?って…




「だから、それが何?」

表情を変えずクールに話す彼女






「何で… 」


「今は一緒に仕事してるからそんなこともあるわよ。」


そう言いながらビアスを外している



「だからって家まで送ってもらうことないだろ!?」

彼女はその言葉を聞いた途端、表情を変えた



「そういう勘繰りやめてっ。ーー 余計疲れるわ。」


溜め息混じりで
もううんざりだ!と言わんばかりの表情をした



「なんでだよ… 君から連絡するからって言ったから俺ずっと待ってた。

でも君からはメールひとつも来ない 。

ずっと気になって、心配してたけど俺からはメールも送らなかったろ?

しかも なんであいつと一緒に… 」



「海人。そういう話ならしたくない。もう帰ってくれない? 私 今凄く疲れてるの。」


眉間にシワを寄せ

面倒くさそうな表情で吐き捨てるようにそう言った


そんな彼女を見て俺は何も言えず
黙って彼女の部屋を後にした


涙が出そうなくらいショックだった…


完全に俺に愛想尽きたような
ウザいと言わんばかりのあの表情に



ーーー 俺の心は深く傷ついた


莉桜
まさか

このまま別れるなんてことになったりしないよな…



それから2週間が経ち…

1ヶ月経っても彼女からの連絡は来なかった


さすがに1ヶ月もの間
全く連絡がないなんてことは今までなかった


もうこのまま
関係が終わってしまうんじゃないだろうか

違う…
もう終わってるのかもしれない


そんなことを考えてしまう度に胸が痛んだ




ーー あの日から3ヶ月が経った



もう彼女の心の中に俺はいないのだろう

俺も心の整理をつけることにした


彼女が選んで買ってくれた服や靴を捨てるため袋に詰めこむ



そして
彼女と記念に撮ったフォトブックを手に取った


ゆっくり開いてみる

この頃は幸せだった…



1ページ 、 1ページ 、開けるごとに
いろんなことを思い出す



初めてクラブで彼女を見た瞬間

理由もなく心が惹かれ
彼女から目が離せなくなった


夜の観覧車で俺が歌った時の彼女の表情

好きと言われ 舞い上がったことや
感情を俺に見せるようになって嬉しかったこととか


なんか…
全てが夢だったのかな…


まさかこんなにも呆気ない終わり方になるとは思いもしなかった



ーー 涙も出ない


ただ 空しさだけが残った


そして俺は
彼女との愛が詰まったフォトブックを


ーーー 捨てた








ーーーーーーーーーーーーーーー

Inside Your Head 2

2020-02-03 18:25:00 | ストーリー
Inside Your Head 2






私と海人が知り合ったのはクラブ

あの日は一日中 いろんなトラブルが重なって
ずっとイライラしていたから

気晴らしにクラブに躍りに行った


音に合わせて無心で踊る


時々 声をかけてくる男はチャラいし
タイプの男もいなかった

カウンターでドライマンハッタンを受け取り
グラスを見つめる



やっぱりつまんないわね …
帰ろうかしら



そんな時 フロアが沸き立ってきた

フロアの方に視線を移すと
真ん中でダンスをする一人の男がいた


その男を周りが囲み盛り上げながら見ている


レベルの違う凄いダンス ーーー

へぇ、格好良いじゃない



その男が“海人”だった


彼はフロアからカウンターに向かって歩いてきた





「水とビールください。」

カウンターの男にオーダーする

グラスを持つ綺麗な手指

汗をかいている横顔
その汗が首にまで流れる


喉仏がはっきり出ていて
水を飲むと上下するのがはっきりとわかる



ーー セクシーに見えた


さっきのダンスを見ていた可愛い娘が数人
彼に話しかけてきた


「さっき凄くカッコよかった!一人なら私達と一緒に飲まない?」

「俺はもう帰るから。ごめんね?(笑)」


あら? 可愛い女の子なのに断った


「残念!じゃあ連絡先だけでも教えて~ 」

「ごめん(笑) また来るから(笑)」


爽やかな笑顔で受け流していた


ビールを飲みながらフロアを見る彼が
ふと私の方を見て歩み寄ってきた


「あの、、さっきのダンス、見てくれました ?」

「あなたのダンス?」

「ん… (笑)」

「格好良かったわ。」

「ほんとにっ!?」
嬉しそうな笑顔に変わった


笑うと可愛い


「実は君にアピールしたつもりだった(笑)」


そうなの?
なに?? 言うことも可愛い

私は久しぶりに 胸がキュンとした



「君に色んな男が声かけてるのを見てた。

俺も君に声をかけてみたかったんだけど
きっと俺もあんな風にスルーされるんだろうなって思って(笑)」


子供みたいな無邪気な笑顔で
変に格好つけたり駆け引きしたりせず

素直な想いを打ち明ける彼に好感を持った



「ねぇ、私と ここ出ない?」

それから私がたまに使う落ち着いたバーに入った



彼は若いのに意外紳士的
そして 私の気を引きたくて

一生懸命 話題を振ってくる


その一生懸命な姿が凄く可愛らしくて
眺めてるだけで癒される


随分と若いわね
まだ大学生くらいかしら?


「莉桜さんには彼氏とか… いるのかな」


ドキドキしながら聞いてるのが手に取るようにわかりやすい



付き合ってる男はいない

たまに食事をする男は みんな仕事関係者


付き合うとか
誰かの女になって男に束縛されるのが

面倒でもうイヤ



「男はいないわ。私、そういうの面倒なの。」


そういうと彼は目を丸くした



「じゃあ今は特定の男はいないってことだね?」

嬉しそうな笑顔をする



「今は誰とも付き合う気はないの。」

「 !!… そう、か」

シュンとなる所もまた可愛い(笑)



でも若い彼は諦められないのか

「でも… でも、また会えない?」



純粋に瞳をキラキラさせて真っ直ぐ私を見る



まるで仔犬を見ているみたいで
またキュンとなる



「いいわよ」



連絡先を交換した

こんな風に 仕事とは関係のない男に
連絡先を教えたことはこの数年間 全くなかった



朝と晩、一日3通

毎日 彼からメールが届くようになった



私が返信しなくても 毎日毎日欠かさず

しつこくならないよう
彼なりに気遣いをしているのか

その3通以上は来ない




気遣う内容だったり
応援?と思われる内容や

自分の近況や趣味 オススメの映画とか



きっと

明日は何を書こうかと考えているような
何度も書いては消し、を繰り返したかもしれない

そんな誠実な印象を受ける丁寧なメールと感じる



そこに彼の人柄が感じられる

まさか 本気で私のこと好きなのかしら…?



まだあの夜しか会ってないのに?


私は信じた男に裏切られた過去がある

それから懸命に仕事に打ち込んで今がある


あれから 本気で男を好きにならないと誓った





私は経営者だから

人に愚痴やプライベートの悩みとか言えないし
簡単に心の内側を見せたくないのもある



ーー でも

この彼の純粋な誠実さなら

もしかしたら…



ずっと一方的に来ていた彼からのメールが
ある日を境いに来なくなった

今まではあんなに長い文章を送ってきていたのに

最後に来たメッセージは


“莉桜さんに会いたいよ”


ただ その一言だけだった




何かあったのかしらーー



今日もメールは来なかった



昼間にメールが来たことはないけど

気付くと一日に何度もスマホをチェックするようになっていた



私が返信をしないから
迷惑なのかもしれないと思ったのかもしれない



彼は若いし 女には困らないだろう

それでいい …



それで …

今までの受信メールを読み返した


下心があって近づいてきた訳ではなく
純粋に私の事が好きなんだと

好きという言葉以外の言葉を使って伝えてきている


… なんだか

胸の奥が何かにぎゅっと掴まれているみたいに苦しい

今頃 彼は何を思っているだろうかと
考えるようになった

もう私のこと 諦めたのかしらと思うと
また胸がチクッと痛くなる

気になって 気になって

私は彼にメールを送った




すると 彼から直ぐに返事が返ってきた


“俺 君に嫌われてるのかと思ってた。返事、ありがとう。君に会いたいよ。”



その言葉に
私も無性に彼に会いたくなった




“明日の夜 会わない?”

その返信に彼は即答してきた



“ 会いたい! 今直ぐでもいいくらい。 明日どこに行けばいい?”



彼の嬉しさが文面から伝わってくる

やっぱり可愛い



気づけば…

私自身も彼に会うのが楽しみになっていた




ーーー




翌日の夜

食事をしに行った





「嬉しいな。また会えるなんて…」

ずっと微笑みながら私を見つめる彼





「ねぇ、海人くん。」

「海人でいいから。くん付けじゃ年下ってことが気になる。」


だって本当に年下じゃない
そこを気にするなんて ほんと可愛いわね(笑)



「わかったわ。じゃあ海人ね。海人はなんで私なの?

あんなにダンスも上手いし 色んな女の子から声もかけられてたじゃない? モテてるんじゃないの?」


「…そんなこと、なにも意味はない

俺が… 莉桜さんに一目惚れしたんだから、莉桜さんから想われたいよ。」

視線を外し はにかみながら告白をした



なぁに~?
もう、可愛い(笑)


ダンスをする姿や
流れる汗のセクシーな横顔を思い出した


あんなセクシーな所もあるのに…

あのセクシーな彼がまた見たくなった



「海人… 今夜一晩 私と付き合わない?」

「もちろん!どこか行きたい所あるの?」

子供みたいなウキウキした表情で聞いてくる



そういう意味じゃないんだけど(笑)

「私のこと 知りたくない?」

「莉桜さんのことなら何でも知りたいよ!(笑)」

嬉しそうに笑う



まだわかってないのね
無邪気で可愛い




ーーーーー





「莉桜さん、、、あの… 」


帝国ホテルのフロントで鍵を受け取る私に彼は戸惑っている


「部屋で飲みましょ?」

「あ、うん 、、、」


エレベーターに乗り込む



彼は一言も話さない

彼の緊張感が伝わってくる



こんな時 肩も抱いてくれないのね(笑)

その純粋さが良い



部屋のドアを押し開くと広く落ち着いた部屋で夜景が綺麗に見える


ルームサービスでワインやチーズを頼んで乾杯した

食事の時とは別人みたいに口数が少ない



そこまで分かりやすく緊張する?(笑)

もしかして… 初めて、とか?

まさかね(笑)






「莉桜さん、 その 、 、いいのかな 」

私は言ってる意味に気付かないフリをした


「何を?」


真っ赤な顔になって
「 だから、その、俺が、さ? その、君を、抱いても… いいのかなって、思って 」


言葉を詰まらせながら
真面目な顔で私を真っ直ぐ見つめた


なに!?
この可愛いさ!!

私 今まで年下と付き合ったことはなかったけど

この子
ほんと可愛い


つい笑ってしまった

「ごめん(笑)」


「 俺、からかわれてる…?」
少し拗ねた顔も可愛い

「そうじゃないわ(笑) 可愛いから… つい(笑)」



彼の傍に歩み寄り頬に触れる

彼がソファから立ち上がり私の腰を引き寄せ見下ろした


その目がキラキラと潤んでいる


「可愛いって言葉… 俺は嬉しくない。莉桜さんに男として見られてない気がする。」

「莉桜でいいわ。」

「 …莉桜」

切なそうな表情で私の名をつぶやいた


可愛いだけじゃなくて
こんな表情もするのね


「本気なんだ… 俺 」

「わかってたわ」

「振り向いて欲しかったし 俺のことも知って欲しかった。 君のことも知りたい。好きになって欲しいってずっと思ってた。」


それはあなたのメールから伝わっていた


「あなたは誠実な男ね… あなたみたいな男
久しぶりに会ったわ(笑)」


「俺はまだ君のこと全然知らない。なのに心は君ばかり思い出させる。

これが一目惚れなんだって初めて知った。」


少し顔を赤らめながら頑張って想いを伝えようとしている


ドキドキする自分に気付く


ーー私 今ときめいてる?



この感覚 何年ぶりだろう…


ずっと可愛いと思っていた彼が
セクシーな大人の男の表情に変わった


初めて唇を重ねた


ーー 上手なキス


私はキスが上手な男が好き



はじめは何度か触れるだけのキス

それがゆっくりと大人の甘いキスに変わっていく





海人 慣れてる ーー

直感的にそう感じた



それは私には良い意味のギャップだった



誠実さと私への想いも伝わるキス

キスだけでこんなに伝わるんだと知った




ーーー



「先にシャワー浴びたいわ。」

「そうだね、うん、わかった(笑)」


私がシャワーを浴びて出てくると
ワインのボトルが半分近くまで減っていた



「じゃあ俺もシャワーしてくる」

私を見ず 照れくさそうな表情をして
シャワールームに向かった


ワインを半分も飲むなんて
相当緊張してるのかしら


「かわい… ふふっ(笑)」


20分ぐらいで出てきた

急いで出てきたのかまだ髪が乾ききれていなかった


「髪 、まだ乾いてないわよ(笑)」


髪に触れる私の手首を掴んで
真剣な表情で私を見つめる


また鼓動が早くなってきた

彼は私を抱き締めてきた


広い胸
力強い腕

可愛いと思ってた彼の男らしさを感じる



私を抱き上げベッドに降ろすと
私のバスローブの紐を優しくほどいた

バスローブの前を開けることなく
ゆっくりバスローブの中に手を差し入れ

首筋から鎖骨 そして肩へと優しく指先で撫で
唇を合わせてきた


彼の柔らかな唇の感触


若いのにガツガツしていない


やっぱり“女”を知ってる …


どこが感じるのかを知りたいように
丁寧に探って確認ような愛撫



こんなに大事にされるのも
こんなに心臓が高鳴るのも
こんなに開放的になれるのも

もしかしたら初めてかもしれない


大事にされているのを感じる




「とても綺麗だね…」


耳触りの良い優しい声
心地いい言葉

男に抱かれるって
今まではこんなんじゃなかった ……




ーーー




しばらく放心していた私を
タオルで顔や身体の汗をぬぐう

枕元に水を用意して私の頭をまた撫でた


なんでこんなに慣れてるの?
なんでこんなに優しいの?


虚ろに彼を見ると
優しく微笑んで私を見つめている


「海人… 」

「うん?」 優しい笑顔の彼



こんなに 誰かに誠実に想われるの

初めてかもしれない


気持ちが入ったセックスって
本来はこんなに良いものなのね

そんなことを静かに思った



「莉桜のこと少しだけわかった(笑)」

またあの無邪気な可愛い笑顔をした




彼は私より6歳も年下だけど

彼の優しさは


独りで戦っていた私には堪らなく心地良く感じた





ーーーー




疲れた…

一瞬 眠ってた



彼の優しい声で目が覚めると
外は薄明るくなっていた

眠っていたのは一瞬ではなかった


「莉桜… シャワー浴びに行こうか」


私の身体をバスローブでくるみ支えるようにシャワールームに私を連れていくと

良い温度のシャワーを優しく肩にかけ身体を撫でた



「少し眠れたみたいで良かった。」

優しく微笑みながら身体をボディソープで撫で洗う

ここまで してくれた男なんていなかった




「海人… 本気なの…?」

「え? 何が? 」

「私への気持ちよ。」

「それは… 俺の想いが伝わらなかったってこと、かな、、 」


笑顔だったのが 一瞬でシュンとなった






「俺の気持ち… 君に伝わってるって思ってたんだけど… 想いを伝えることって難しいね(笑)」


切ない気持ちを抑え 笑顔を返す彼



私たち…
会ってまだ二度目なのに

なんでそこまで真剣に誰かを想えるのか
私には理解し難いけど


少なくとも彼の気持ちは伝わっていたし
私も好意を持ったからこそ誘った


この男を知りたくて ーー



始めは恋とかそんな感情じゃなくて

ただ興味が湧いたからで




「髪も洗ってあげるね(笑)」

微笑みながら優しく話しかけてくる



この耳障りの良い 優しい声が

心地良い…


私…
やっぱり

この若い男に 堕ちかけてるのかしら




ーーーー



三度目に彼と会った夜は
私の要望でドライブをすることになった


迎えにきた彼の車に驚いた

アウディA3のホワイトカラー


「意外といい車に乗ってるわね」

「あっ 、うん… ありがと」
微笑み返してきた



海人はなんの仕事してるのかしら

私は男の職業は気にしない方だから聞いてなかったな




「どこ行きたい?」

「 どこでもいいの。あなたが行きたい場所なら。」

「俺の行きたい場所?」

「どこかある?」

「んー。あっ、じゃあさ、観覧車に乗らない ?」


ニコニコしてチラッと私の顔を見た




夜の観覧車に乗りに行った

雨上がりの東京の街


観覧車の窓についた水滴が光を乱反射させ
東京の街をより一層ロマンティックに魅せいた



「…隣に座ってもいい?」


彼が微笑みながら聞いてきた

わざわざ伺いを立てるところも本当に可愛い



隣に座ると私の手を握り
緊張してるかのように口元をきゅっと閉じ

視線は外の景色に向けられていた



「海人…」

「ん?」

私の方に向いた瞬間 彼の唇にキスをした



「莉桜からキスしてくれるなんて…」
驚きながらも嬉しそうな表情に変わる


「ロマンティックだからかな?なんとなく… (笑)」


「何となくでも嬉しい… 少しでも俺に好意を持ってくれてるって思えるから 」



彼のこういう駆け引きのない素直な性格が
一緒にいて気が楽で心地いい



「ねぇ、何か、歌ってみて 」


綺麗な優しい声だから
どんな歌声なんだろうと思って言ってみた




「えっ? 歌!? ここで!?」

「…ダメ?」

ちょっと拗ねたフリをしてみた




「あっ!いや、わかった!」

焦りながら了承した彼が堪らなく可愛い





少し考えた後
口ずさむように静かに歌いだした


洋楽… ?




歌声は話声よりも綺麗…


優しい歌い方
そして凄く上手くて甘い…

彼の魅力がそのまま歌声から
表現されているみたい


甘いキスを思い起こさせるような
セクシーなブレス使いに


鳥肌が立った





「なんて曲?」



“Human Nature”


「 君を想いながら歌った 」
優しく微笑む




"Human Nature"


Looking out
ネオンが瞬く

Across the night-time
眠らない街を

The city winks a sleepless eye
ホテルの部屋から見下ろしていた

Hear her voice
彼女の

Shake my window
声に

Sweet seducing sighs
心が震えた

Get me out
僕をここから

Into the night-time
連れ出してよ

Four walls won't hold me tonight
今夜は部屋にいたくない

If this town
この街の名が

Is just an apple
アップルなら

Then let me take a bite
その甘さを味わってみたい

If they say, "Why? Why?"
なんでって

Tell 'em that is human nature
僕だって人間だから

Why, why does he do it that way?
孤独が定めでも


Reaching out
出会いを求めて

To touch a stranger
僕は街に出た

Electric eyes are everywhere
どこもかしこもキラキラしていた

See that girl
僕はそこで君を見つけたんだ

She knows I'm watching
君も僕に気が付いて

She likes the way I stare
僕の視線を感じていた


If they say, "Why? Why?"
なんでって

Just tell 'em that is human nature
僕だって人間だから

Why, why does he do it that way?
孤独が運命だとしても

If they say, "Why? Why?"
なんでって

(Do you really like me to be around?)
本当にそばにいてほしいの?

I like livin' this way
こうやって生きるしかないのさ

I like lovin' this way
こうやって愛するしかないのさ

Looking out Across the morning
朝を迎えて

The city's heart begins to beat
街はまた活気づく

Reaching out I touch her shoulder
手を伸ばして彼女の肩に触れた

I'm dreaming of the street
僕は夢を見ているんだろう


If they say, "Why? Why?"
なんでって

Tell 'em that is human nature
僕だって人間だから

Why, why does he do it that way?
孤独が運命だとしても

If they say, "Why? Why?"
なんでって

(Just tell me you like me to be around.)
ただそばにいてほしいって言ってよ








「俺の気持ちに近いかなって(笑)」


観覧車は下に到着した

「もう到着しちゃった 残念(笑)」


彼は私の手をひき
エスコートしてくれながら観覧車を降りた



彼の一途で真っ直ぐな優しさや
何気ない思いやりに

私は彼に少しずつ心が傾いていくようだった ーー


車に乗り込みエンジンのスタートのボタンを押す


「もし君が構わなければ 君のウチ見てみたいな」

「え?」

「ダメならいいよ」 苦笑いする

「…その内、ね」

「うん…」


“凄く残念” って顔に書いてあるわよ(笑)



「あの… さ 俺のこと… どう思ってる?」


どうって ーー
私にもわからない


「素敵な人と思ってるから こうして会ってる」

「俺のこと… 好き?」


やっぱり聞きたいわよね


「わからない… 少なくとも会いたいから会ってる。」



「…そっか 、、うん 、 今はそれだけでも嬉しい。 ありがと。」

彼は優しく微笑んだ



あなたが欲しがる言葉はわかってる

でも あなたに恋愛感情がある 、とは今は言えない


あなたは優しい

一緒にいて癒される


女として とても大切にしてくれる

それが嬉しいし
私も一人の女でいられる



あなたとキスしたり抱きあうことを
私はまた求めてしまうだろう

でもそれは割りきった 冷めた感情で
あなたにそんなことを求める訳じゃない

あなたにときめいて 心が高揚して
またあなたに触れられたいと思う



それは恋だろうか?


恋の感情がどんなものだったのか
もう思い出せないほど私は恋をしていないから




恋の確証が持てた時

“好き”という言葉をあなたに伝えようと思う


それまでは この距離感でいたい



この距離感は
私にとって居心地がいい…

あなたにはもどかしい距離感とわかってるけど…







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