気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

恋 (1)

2020-02-20 21:14:00 | ストーリー
恋 (1)






僕はどこにでもいる45歳で普通の男

趣味と言えるものも特になく

自慢できることと言えば
高校野球で甲子園に行った事ぐらいで

それも遠い昔の話




彼女は 千里 38歳 イラストレーター

芸術には全く疎い僕と 機械関係は弱い彼女は
真逆といっていい


行きつけだった小さな居酒屋の客として
たまに彼女が訪れるようになった


人見知りのしない彼女が
“ また会いましたね~ ”

と声をかけてきたのがきっかけで
話をするようになった


僕と違ってセオリーに囚われない考え方に興味が湧いた

決してしおらしい女という訳ではなく
サバサバとした元気な彼女に

仕事で疲れていてもその疲れを忘れられた


いつしか僕は
彼女が居るかなと居酒屋に通うようになっていた


彼女がいないと残念な気持ちになり
その残念な気持ちで

僕が彼女に恋をしたのを自覚した




「 ねぇねぇ、梶原さんはパソコンとか得意? 」

PCに疎い彼女の部屋に招かれ
購入したばかりだというPCの設定を確認してあげることになった


僕は危険人物じゃないと信用されたことは嬉しいが
男として見られているのだろうかが気になる


「 仲谷さんは (男の)僕を部屋に入れても平気なんだ? 」


彼女の部屋で二人きりの状況が照れくさくて
設定を確認しながらディスプレイを見る


「 梶原さんだからお願いしたんだけど 」

それは僕はPCが得意そうだったから?
男として意識してないから、ということなのか?


その疑問を素直に聞くことができず
画面から視線を外さない僕に


「 あれ? わからない? 私、梶原さんが好きだからよ。」


好き!?


驚いて彼女の方を向いた
その時の僕の表情がよほど可笑しかったのか

彼女は笑った




そうして僕達は付き合うようになった

その翌月に戸建てに住む僕の家に彼女は越してきた


バツイチ同士

前の結婚でお互いに痛い経験をしているため入籍にはこだわっていなかった


それから5年の月日が経った ーーー



僕が53歳
彼女は45歳になっていた


お互い全く違うタイプだけれど
それでも僕らは夫婦のようなそれなりに良好な関係を築いていた


付き合い始めのようなラブラブな空気は当然ない

まぁ5年も一緒に暮らせばどこもそんなもんだろう



「 たーちゃーん!ちょっと来てー! 」

彼女の仕事部屋と化した
かつての僕の趣味だったプラモデル部屋から声をかけてきた


「 なんだ? 」

「 またフリーズした!もう、ほんとおかしかいよ 」


最近 彼女のPCの具合が悪い
どうも要領だけの問題だけじゃない


「 もう買い換え時期だな。 」

「 じゃあまた出費!? 」頭を抱えた

「 仕方ないさ。5年間も毎日使ってるんだから。 」

「 5年 … 私達の関係も5年経つってことだよね。」

このPCも彼女と一緒に家にやって来たヤツ



「 そりゃそうなるな 」

「 ねぇ。たーちゃん。どうする? 」真顔で尋ねてきた

「 もう古いし買い換えだろ? 」

「 そうじゃないってば 」

「 晩飯のこと? そうだなぁ … 」

「 5年毎に更新する約束よ。」

更新 …?


「 私がここに来た時に二人で決めたでしょ? 5年毎に これからも付き合いを続けるか別れるかを話し合うって約束よ。忘れた? 」


あぁ そういえば …

「 思い出したけど、あれは冗談だろ? 」

「 冗談じゃないよ。」

「 え? ははっ!(笑) なら更新だろ?(笑) 」

この時まで まだ冗談だと思っていたし
一緒に暮らすこの日常が当たり前と思っていた


「 私は更新しないつもりなんだけど。」

は!?

思ってもみなかった言葉に動揺した
「 なっ、なんでだよ! 」

「 私、また恋がしたいよ 」

はぁ?


「 恋って(笑) 」

「 そういう感情、私達にはもう無いよね。」

「 そんなこと、、 」

僕は好きだ、と言おうとした瞬間 違和感を感じた

でも今はそんなことを冷静に考える余裕がない


「 でも、でも、5年だぞ!? 5年も一緒に暮らしてるんだぞ!? そんなに簡単に別れられるような時間じゃないだろ?

それに恋がしたいってなんだよっ!
僕とじゃもう、その、、恋愛はできないってのか!? 」

「 たーちゃんだってもう私の事、女として見てないじゃん?」


ズキンと胸が痛んだ


ーー 確かに

僕らがキスしたのはいつが最後だったのかも
もう …



「 だから籍を入れなかったんだよ? 」

「 もう僕のこと男として見られないってこと… か? 」

「 それはお互いに、でしょ? 別に嫌いになって別れるんじゃないんだし(笑) 」

またPCに向かってキーボードを叩いてみる彼女

僕を見ない ーー


「 ねぇ… たーちゃんは私に “ 嫁 ” という役割を求めてた?

嫁さんなら家事をしてくれる、帰ったら必ずあったかいご飯が出てくる、タンスを開ければ洗った靴下が入ってるって。

でも私、ちゃんと自分の稼ぎで自分の保険や税金払って、生活費も折半して入れてるよね? 」



僕の方に向き直し
「 私、たーちゃんの嫁でも家政婦でもないよ? 」

「 そんなこと、わかってるよ!そんな風に思ってない! 」


言われて初めて気づいた


そう
彼女の言う通りだった


確かに 無意識でそう思ってたんだ 僕は


「 でもね、部屋が決まるまではいさせてね(笑)
( PCの) 買い換えかぁー。痛い出費だなぁ。 」

サバサバと未練も何もないような彼女の口振りに
これは現実だと実感した

それと同時に 別れる恐さを感じた



「 やっぱり… 嫌だ。お前だって情ぐらいあるだろ? 」


困った表情でまた僕の方に振り返った

「 私達は男と女だよ。夫婦じゃないんだから。
一緒に住むには情だけじゃなくて愛がなきゃ。」



思い出した …
彼女はそう言っていた


“ 私はずっと恋愛をしていたい ” んだと

お互いに求めるものが違ってきていたことに気付かなかった

一晩中 話し合ったけれど
やはり彼女の気持ちは揺るがなかった


結局
翌週 彼女は家を出て行った ーー




彼女が使っていた元々の僕の部屋は
ガランとしていて

ホコリを被った僕のガンダムのプラモデル 一体だけが夕陽に照らされ白く映った


僕ですら忘れていた物

取り残されたそのホコリを被ったガンダムが
まるで僕自身のように見えた



「 はぁ … 」
溜め息をつくと 涙も一緒に込み上げてきた




彼女に …

全く愛情が無かった訳じゃない

僕にとっては傍にいるのが当たり前の
そんな無くてはならない空気のような存在になっていたことに気づいた


彼女にとって僕は
そんな無くてはならない存在ではなかったということ…か


忙しい日常を日々送ってる内に
一緒に暮らしてる内に

恋なんて感情は自然に消えてくもんじゃないのか?

代わりに残るものが信頼関係だったり愛情なんじゃないのか?


“ 私達 結婚しないんだから 恋心が消えたら別れよう ”

なんで僕はあんな提案を認めてしてしまったんだろう



もう恋なんてしない …

あぁ
そんな歌があったな


いや、違うな

あの歌の最後は
もう恋なんてしない “ なんて言わないよ絶対 ” だ

結局 恋すんのかって
心の中でツッコミを入れたのを思い出した


「 はははっ … 」


こんな心境でも
そういうどうでもいい事も考えられるんだ


きっとその内
こんな孤独な感情も消えるだろう ーーー


ーーーー


彼女が出ていってから一週間
僕はいつもと変わらず会社に出勤をしていた


同じ時刻の電車に乗り
同じ時刻に出勤し

いつもと変わらず仕事をする僕は

周囲からはいつもと何ら変わらないように見えているだろう


と言っても
誰も僕の個人的なことなんか興味すら持っていない

大勢が働く会社の中に在籍していても
みんなそれなりに孤独な存在なんだ


でも唯一
傍にいて理解してくれていると思っていたのが千里だった


でもそれも 幻想で
僕の思い込みだったんだ ーー




コーヒーを飲む瞬間
昼飯を食べる瞬間
その瞬間 瞬間で

僕は彼女のことを思い出していた


珈琲豆にこだわっていた彼女は
お気に入りの豆を遠いのにわざわざ
お気に入りの店にまで買いに行っていたこと


珈琲にこだわりの無い僕は
その店がどこにあるのか興味もなかったし聞きもしなかった


遠いのに面倒じゃないのか? と問いかけると
あなたは何もこだわりが無いね と呆れていた


そういうのがダメだったのか?


気が緩むと
何がダメだったのかと

自問自答を繰り返していた




ーーーー



一人の一軒家に帰ってくると当然部屋は真っ暗で

独りぼっち取り残されたガンダムのような自分

もっと彼女を大切にしてたらこんな結果にはならなかったのだろうか

今更どうしようもないこととわかってるけどつい考えてしまう


夜になると孤独で心が押し潰されそうになるから
酒を飲んで酔っ払って寝ることが習慣になっていた


会社に着ていくワイシャツやスーツはクリーニングに出し会社帰りに取りに寄って帰る

今までは彼女がワイシャツにアイロンをかけてくれていた


家に帰っても 何もする気が起きず
ていたらくな生活をしていた


男やもめ って
こんな感じなんだな


まさか 自分がそうなるなんてな



ーーーーー



人間には忘れるという都合のいい能力がある

そんな精神状態だった僕にも
時間というものは悲しみを消してくれた


でも もう恋はしない

面倒だ ーー


面倒という言葉で
僕は自分に言い訳をしていることも自覚している


女にモテる要素も魅力も持ち合わせていない僕が
出会いを求める行動を起こすのは無謀な挑戦で無駄なだけだ


もう昔みたいに勢いで付き合うほど若くもないしバイタリティもない



男は女のように強くはない
また誰かに心を開いて傷つくのが恐い
この年齢で傷つくと立ち直れそうもない …


それが 本音だ

もしも今
誰かにお前は幸せかと聞かれたら
今の僕なら “ 不幸ではない ” と答えるだろう

それで十分ではないか ーー






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