気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

beautiful world 2

2021-07-14 21:53:00 | ストーリー
beautiful world  2





「もしかして… 」

まさか私のこと 覚えてくれてた!?
心臓がバクバクしてきた



「そのカメラ、故障ですか??」


ーー え?


私のこと…
わかってない…?


カメラをいじっているフリをしていた私がカメラが故障して困っている人のように見えたようだった


「あぁ、違うなら良いんです(笑) それじゃ。」


頭を掻きながら笑って立ち去ろうとした


「こっ、故障ではないんですけど!つっ、使い方が… どう… だったかなぁと… 」


先生を引き留めたくて咄嗟にでまかせを言ってしまった


「あ〜、そうなんですね(笑) なかなか渋くて良いカメラをお持ちですね(笑)」


これは父が大事にしていたライカのフィルムカメラ


ずっとおねだりをしていてようやく最近譲ってもらった物だった



「つい先日父から譲り受けたんですけど、なんだか難しいです(苦笑)」


「そうなんですか(笑) あの、良かったら少しそれ、見せてもらってもいいですか?」


カメラを手渡すと先生は嬉しそうな表情で細部までカメラを観察した


「フィルムタイプですかぁ〜!これは良い!(笑)」


嬉しそうにレンズを覗いて景色を眺めている



先生...
あの頃と全然変わってない

まともに会話したのもこれが初めてかも…


こんなに近くに先生がいるなんて夢みたい…



「ライカ、僕も欲しいと思ってるんです。こんなに良い物は買えませんけどね(笑)」



同じ趣味だったのが嬉しい


私のことやっぱり覚えてないみたいだけど

それでも今は目の前にずっと憧れていた人がいることにずっとドキドキしてる…



「ありがとう(笑)」

私のカメラを差し出し返してくれた


「(そのカメラ)長年大事にされた物のようですね(笑) 」


「みたいです(笑) だからなかなか譲ってもらえなかったんです(苦笑)」



先生は微笑んで

「ずっと大切にしてあげてくださいね(笑)」

そう言って先生は立ち去ろうとした



「あっ、待って!」

咄嗟に引き留めてしまった
でも口実が…

そうだ!!

「あのっ、良かったら、フィルムカメラでの撮影のコツ、とか、教えて… もらえませんか… 」


「それならお父様にお聞きすれば宜しいのでは?」


確かにそうだけど...


でも!折角出会えたのに 
こんな所で引き下がれない!


「父は単身赴任なので、その、周りにもフィルムカメラはわからないみたいで、、」



先生はキョトンとした

「あぁそうか。今はデジカメやスマホで気軽に撮影ができるもんねぇ。わかりました。良いですよ(笑) あ、僕は早見って言います(笑)」


「私は田中と言います、、」


「田中さんね。僕程度の知識で良ければ構わないですよ(笑) 」


よくある名前だからやっぱり私の事は気付いてくれない、か…


「できれぱ、一緒に写真撮りながら教えて欲しいんですけど… ダメですか?」


 「なら今撮ってみますか?」


やった…!


本当はこのカメラの操作方法は父に教えてもらっていて知ってはいたけれど

先生は私にカメラの使い方を丁寧に教えてくれた


その先生の腕が触れそうな程近くにあって

緊張してしまい先生の言葉が頭に入ってこない


花を接写してみたり
広角の高原の景色を撮ってみた


どんな風に撮れたのかはフィルムカメラだから現像してみないとわからない



「撮った写真をセン… 早見さんに見てもらいたいんですけど、あの、、連絡先とか教えてもらうのって、ダメですか? 」


連絡先を聞いてしまった!

危ない危ない
もう少しで“先生”って言いそうになったよ



「あぁ、うーん。それはー … 」

先生は考え込んでしまった



やっぱり
私じゃダメ…なのかな



「会ったばかりのこんなおっさんに若い女の子が簡単に連絡先を教えるのは駄目だよ(苦笑) 」


距離を取るような言葉だった

「すみません、、会ったばかりなのに」


先生は誠実でとても真面目な人だって私は知ってる

そんな先生だからそう言うんだってことも理解できるんだけど…

でも、これっきりもう会えないなんて嫌だ...


「なんか、ごめん(苦笑)」

顔をあげて先生を見たら
困った表情になっていた


「誤解しないでね?田中さんが構わないなら僕は構わないんだけど、、うーん(苦笑)」


困ったように微笑んでいた


「お願い...したいんですけど…」


「あ、じゃあ!僕から連絡しなきゃ良いんだな(苦笑)」


「そんな、お返事は欲しいです!じゃないと日にち決められませんし(苦笑)」


「それもそうか(苦笑)」


先生はポケットからスマホを取り出しメールアドレスと電話番号を教えてくれた

半ば私の泣き落としで強引に先生にOKをさせたようなものだけれど

このチャンスを逃したらもう二度と接点が無いんだもの!



「あらためて、よろしくね(笑)」


握手を求め差し出された先生の大きな手が
高校の卒業式を思い出させた


あの時は “別れ” の握手
これは “出会い” の握手…


緊張しながら先生の手を軽く握った

こうして出会いの握手ができるなんて
嬉しくて涙がこみ上げてきそうになった


「写真の出来が楽しみだね(笑) ライカで撮ったからなかなか味のあるものになってると思うよ(笑)」


先生の微笑みは昔と変わらずとても温かかくて

勇気を出して先生にアドバイスを求めて本当に良かったと噛み締めた




帰りのバスの中 ーー


“早見先生”

スマホ住所録にあるその名前表記を眺めながら

私は宝物の手に入れたように感動していた



ーーー




“早見さんに写真を見てもらう日、また一緒に写真撮りに行きませんか? 是非よろしくお願いします。”


たったそれだけのメールを送るのに
何時間も考えてやっと送信を押した


やっぱり私は先生が大好きみたいです…


心がフワフワする






ーーーーーーーーーー


beautiful world 1

2021-07-07 11:44:00 | ストーリー
beautiful world  1





あれは高校一年

夏休み明けの全校集会の時だった



全校集会で暑い体育館に集まり
つまらない校長先生の長い話をぼんやり聞いていると

「はじめまして。」

校長先生とは違う若い男の人の声が体育館に響いて壇上を見ると新任教師が挨拶を始めた

新任の先生は“早見 陽太”と名乗った 


私はその新任の先生に釘付けになった

それが人生初めての恋で
一目惚れだった


友達に
“さっきの早見先生、素敵だったよね !”と言うと

目を見開いて
 “素敵!?なんかデカくてゴツくなかった!?” と驚いた


25歳と言ってたけどもっと若く見えた

遠目からだけど180センチは有に超えてるよね

柔道をしていたと言ってたな...


格闘技のガッチリな体型には似合わない人の良さそうな優しい顔立ち


単純だけどそれだけで先生はとても温かな良い人に見えた

常に私の頭の片隅に先生がいる


この感じは
やっぱり恋...


先生と廊下ですれ違う時はいつもドキドキするし

先生が見えなくなるまで目で追った

でも勇気のない私はせっかく作ったバレンタインチョコを渡すこともできず

結局三年間 先生が私の担任になることも
先生の授業を受ける機会もなかった


三年間ずっと片想いのまま

想いを打ち明けることもなく
とうとう卒業式を迎えた


卒業式が終わって
校門付近には沢山の親や記念写真を撮る人でごった返している中


私は早見先生をやっと見つけた

周囲に男子生徒が先生を囲んでいた



先生が一人になるチャンスを逃さないように伺って見ていたら

そのチャンスが来た


『先生!一緒に写真、いいですか…?』と訊ねると

先生は笑顔で快諾してくれた


私は先生が担当した生徒じゃないし、会話らしいまともな会話もしたことはなかった

接点は数回
学祭の時に挨拶みたいな会話くらいだったから当然なんだけど


私に差し出された先生のゴツっとした大きなその手を握った

それは三年間で最初で最後の握手だった



握手できた嬉しさと別れの悲しさで涙が溢れた私に先生は

“卒業おめでとう。幸多き人生になりますように。” 

そう
私に笑顔を向けてくれた



ーー 涙が止まらなかった



三年間という長い片想いが終わった


そう思ったーー




ーーー



地元の大学に進学した私は
入学してから卒業するまで写真部に在籍し

部員のみんなで夜の天体写真を撮影しに行ったり

撮影合宿として海辺の民宿に撮影旅行に出掛けたりと楽しい学生生活を送った


楽しかったけれど
結局カレシはできなかった

友達に誘われ合コンに参加してみても
ときめく人とは出会えなかった


あの“早見先生”の時みたいなときめきはもう無いのかな…



大学を卒業した私は晴れて中小企業の食品メーカー会社の経理課で働き始めた


仕事を覚えて慣れるのに3ヶ月もかかってしまった


学生生活が楽しかったから
またあの頃に戻りたいなぁ、なんてことをぼんやり思いながら

仕事を終えて家路に着く電車に乗った



でも
もし戻れるなら…

高校生の時まで戻りたいーー




ーーー


社会人になった今でも
唯一の趣味で写真を撮っている

そして今日は休日
私は一人 バスに乗り高原に向かった


一本道の山道を大きなバスは走り慣れているように登っていく

山頂にある終点でバスは停まり
乗客は降りて行く

バスを降りると
澄んだ空気に包まれて深呼吸した

高原入り口の遊歩道を少し歩くと
直ぐに見晴らしの良い緑が広がる高原の地が見えてきた


夏の後半だけれど
高原を流れる風は少し冷たくなりかけていてウインドブレーカーを羽織った

子供連れの家族やデートで来ているカップルがちらほらと見える

バッグから父から譲り受けたカメラを取り出し全体の風景を撮っていると

同じようにカメラを持って熱心に何かを撮っている男性の後ろ姿が見えた

花?それとも虫を撮ってるのかな?


声をかけてみて
どんな写真が撮れたのか見せて貰おうかなぁ(笑)

するとその男性はカメラをカメラバッグにしまい帰り支度を始めた

あーもう帰っちゃうんだ… 残念(苦笑)


その男性は立ち上がり
出口のこちらに向かって歩き始めた


あの人…

え!?
早見先生!?

ウソ… 

まさかこんな所で!?



予期せず早見先生と遭遇したことに
私の心は激しく動揺した

思わず隠れようと周囲を見たけれど
当然隠れる所なんてない


どうしよう…
どうしよう!
どうしようっ!!!

心の準備が …



ーー “想いを告げれば良かった” ーー


もうあの頃のような後悔はしたくないのに
やっぱりいざとなると勇気が出せなくて躊躇してしまう


あっ、先生が傍に来た!


私は目を合わせられず
手に持っているカメラをいじっているフリをした


ーー ああ、先生がすれ違って行く


気持ちは焦るのに振り返ることすらできない

早く声をかけないと
本当に先生が行ってしまう...



あんなに“次に会った時は必ず声をかけよう!”なんて思ってたのにこれじゃまた…


「…あのぉー?」




先生が私に声をかけてきた




「はっ!?」

慌て振り返ると
先生が私を見ながら立っていた







ーーーーーーーーーー