書評 BOOKREVIEW
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日本のコアな保守論客よりもっと強硬保守の“モーガン砲”が炸裂
洗脳史観をトランプが転覆。だが、日本は洗脳から解けることを懼れている
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馬淵睦夫 v ジェイソン・モーガン『プロパガンダの終焉』(徳間書店)
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発売前からアマゾンのベストセラーとなった。
副題は「トランプ政権指導で露呈した洗脳と欺瞞」。全編これ、猛烈な激言が鳴り響くうえ、一切の忖度がない。エプスタインの顧客リスト公開に怯える有名人が多いように、“モーガン砲”の炸裂に怯えている人が多いのではないか、これまで隠されてきた現実が暴かれるのだから。
モーガン教授の速射砲が撃ちこまれる。
SDGなる謳い文句はグローバリストの洗脳用語でしかなく、「社会主義導入のためのカラクリ』であって、「具体的には国家の主権、私有財産、言論の自由などをなくしていく教育であり、まさに社会主義者がずっと狙ってきた目標です。」
わかりやすい説明である。
「かれら」は、グローバリズムという魔法のような概念を広め、皇統廃絶、夫婦別称、LGBTQ、家庭破壊を狙う。それがSDGの隠れ蓑の中身だとする(89p)
馬淵大使が口を挟む。
「グローバリズムとは世界統一思想だということです」(92p)
モーガンが応える。
「不法移民とは侵略者のこと」。「LGBTとはニヒリズムだ」。
本書に屡々登場するニヒリズムをモーガン教授は西部邁と評者(宮崎)との共著『アクティブ・ニヒリズムを超えて』(文芸社文庫)を援用されつつ、「アクティブ・ニヒリズム」と「パッシブ・ニヒリズム」との区分けし、前者は暴力を用いてでも世界を破壊する思想。ボルシェビキ、ヒトラーがそうであったとする。パッシブ・ニヒリズムは現状維持の、穏健派保守を意味する。
サンフランシスコの街角に蝟集するホームレスは、経済的困窮者ではなく、精神の居場所を失った、ニヒリストのアメリカ人があつまってLGBTQ運動を起こした。かつてジェーン・フォンダは、アクティブ・ニヒリズムに取り憑かれてベトナム反戦運動という過激左翼のヒロインとなった。いまは健康エクササイズの伝道者、つまりはニヒリズムが基本だと分析される。カリフォルニアに限られずNYCにも常時、6万人以上のホームレスがいるし、ラスベガスのトンネル(洪水がおこるときの暗渠)には1100名ほどのホームレスがいる。いちど、かれらへのインタビュー番組をみたことがあるが、多くが常識人、ニヒリズムである。
この世に真実はない、という真実は真実だが、それでは回答になっていない。
『答えがない。意味が無い。ただ漂っている感じ。おそらく三島由紀夫先生が直面したのはこの問題ではないでしょうか』(179p)とモーガンは指摘する。
『豊饒の海』のラストシーン。「何もないところに来てしまった。夏の日をあびて庭は静寂を極めている」を思い出す読者も多いだろう。
さてトランプは就任演説で「常識の革命」と言った。
コモンセンス・リボルーションというトランプ語彙が意味する「常識」(コモンセンス)と、トーマス・ペインの『コモンセンス』は意味が違う。
モーガン教授によれば、
「ペインはアメリカの独立は当然の権利であり必然であるとした『コモンセンス』という挑発的な反君主パンフレットを発表し、当局から要注意人物と目されました。既存の体制を真っ正面から倒そうとするペインの特徴は後世にも引き継がれ過激化しています」(58p)
すなわちペインはコモンセンスの先導者というより、革命の過激派であり、フランス革命を使嗾し、ジャコバン党の教祖であり、しかし挙げ句に獄中にあってギロチンに消えるところだった。ナポレオンが一度、ペインに近づいたこともあるが、過激で振幅が激しい思想に愛想をつかせて離れ、晩年は誰からも相手にされず孤独に死んだ。
後世の知識人がペインを誤解したのは、かれのいうコモンセンスとは『独立する権利』のことであり、現代人が知覚するコモンセンスではない。
現実にトーマス・ペインを革命の思想家と仰ぐアメリカ左翼は過激派と穏健派に分裂した。アメリカはキリスト教の国ではなくニヒリズムの国であり、革命を起こしたいブランキストがネオコンである。つまり「連合赤軍がF35で武装したのがネオコンのおそろしさだ」とアメリカ左翼の本質をえぐる。(176p)
「復讐する権利を忘れるな」という。つまり南北戦争で、こんどは南が勝つことを目標としている。日本のコアな保守論客より遙かに右寄りの“モーガン砲”に馬淵大使は全面的な同意をしていない。モーガン教授には名状しがたい怒気が漂っている。であるとすれば、本書は、日本の保守層にどこまで受け入れられるか?
洗脳史観をトランプが転覆中なのだが、日本の多数派はむしろ洗脳から解けることを懼れている。
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「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和七年(2025年)2月28日(金曜日)
通巻第8673号 より
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