みのる日記

サッカー観戦記のブログです。国内外で注目となる試合を主に取り扱い、勉強とその記録も兼ねて、試合内容をレポートしています。

セビージャ × Rマドリード

2006年12月11日 | サッカー: リーガ
06/07 リーガ・エスパニョーラ 第14節: セビージャFC 2-1 レアル・マドリード

■ バルサとレアルに続く今季の主役
スペインリーグでは、やはりと言うか、王者バルセロナが勝ちまくっています。エトー、メッシといった前線の中核の選手を欠きながらもリーグトップの得点数を誇り、守備や中盤でのタレントたちも存分に働いて、ここまでわずかに1敗です。13節を終えて、勝ち点30というのは相当なペースと言っていいでしょう。
しかしそのバルセロナが、首位を独走するまでには至らず、依然として混沌とした優勝争いのレースを強いられているのです。そのすぐ後方にレアル・マドリードが、そしてセビージャが、わずかな勝ち点差で食らいついてきているためです。
レアルは例え、再編成が行われた新体制の1年目であっても、そのチームの顔ぶれを見れば、これは納得はできそうなものです。ただ、もう一つのセビージャというチームに関しての、今シーズンの躍進ぶりには、スペイン国内でも大きな注目が集まっています。

例年リーグ戦において、UEFAカップ出場圏内の順位を最終成績としてきたセビージャは、昨年にそのUEFAカップで見事に優勝し、チームとして初の国際タイトルの獲得を成し遂げました。そして、「自分たちはやれるんだ」という大きな励みが弾みとなって、今シーズン飛躍することになります。リーグ開幕前のUEFAスーパーカップで、チャンピオンズリーグ優勝のバルセロナを3-0と「一蹴」。開始されたリーグ戦でも勝利を積み重ね、1位から3位を行ったり来たりする上位争いの常連として存在し続け、この自信は確信へと変わっていきました。
決してスターと呼ばれる選手は在籍していません。しかし一定以上のレベルを備えた全選手が機能的に動いて、攻守に抜群のバランスを見せて、チームの完成度自体は極めて高いという評価を与えられています。さらに、昨季は32試合でわずか6得点のFWカヌーテが、現在得点王を走り、エースストライカーとして目覚めるというおまけつきです。
前節は下位のエスパニョールにまさかの逆転負けを喫して通算3敗目とし、2位の座をレアルに明け渡しましたが、まだ首位のバルセロナとの勝ち点差はたった2点です。優勝も非現実的なものではなくなってきたセビージャ。今日はそのレアルと、バルセロナとの首位争いをめぐる、非常に大事な2位・3位の直接対決です。

セビージャは、オーソドックスな4-4-2を布陣としています。ツートップは、前述のカヌーテと、ブラジル出身の豪快なストライカーであるルイス・ファビアーノとのコンビです。センターハーフには、同じくブラジルのレナトが、優秀なマーキングとパスセンスで攻守に君臨。そして大成功の補強であった、巧みなゲームコントロール力を有する、新加入のデンマーク代表ポールセンも中央でそびえ立ちます。センターバックのエスキュデ、主将のハビ・ナバーロもまた、それぞれ堅実な働きで最後尾を締めます。このように攻守にわたって中心ラインがどっしりとしたところに、右サイドバックのアウヴェスの猛然なオーバーラップなどもアクセントとなって、ここまで勝ち上がる陣容としてきました。
そして今日、セビージャにとって朗報だったのが、スペインの期待の若手であるMFヘスス・ナバスが、驚異の回復力で先発復帰してきたことでしょう。そしてこの彼らによる、ほとんどベストメンバーと言っていい体制で臨みます。

アウェーのレアルのカペッロ監督は、よほどここ2試合で見せたFWロナウドの得点力に期待したのでしょう。FWファン・ニステルローイとともに、彼を先発出場させました。MFディアラが出場停止という影響もあったのかも知れませんが、基本形の4-5-1ではなく、4-4-2とツートップを選択しました。中盤にはロビーニョでなく、ベッカムが登場。ベッカムは、リーグ戦においては実に8試合ぶりの先発でのスタートです。

■ 緊迫の展開を打ち破る個人技の応酬
試合は序盤から緊迫した展開で進みます。タレント軍団であるレアルに、セビージャは中盤で全くひけをとりません。むしろ、少し押していた情勢ではなかったでしょうか。両チームともプレスはかかっていましたが、より活発にボールホルダーへ仕掛けていたのは、どちらかと言えばセビージャの方でありました。また、MFレナトの絶妙なスルーパス、同じくMFポールセンのキープが光ります。
ただしセビージャもレアル同様に、崩すどころか、なかなかシュートにまでも至らず、両者攻めきることのできない立ち上がりです。

それには一つ、仕方がないと言える要素がありました。この日の両チームのセンターバックが、試合を通じてかなり健闘していたのです。
セビージャの中央DFの2人は、レアルの大砲であるツートップを決して離さず、後述するロナウドを突破させたシーン以外では、ほとんど彼らを封じ込めていました。後半開始から投入され、センターバックへ入ったDFメヒアも、カバーリングが秀逸です。レアルのロナウドとファン・ニステルローイは、中盤に下がってきたりサイドに逃げたりする以外には起点となれず、決定的なチャンスを狙うべくゴール前へ張り付いていることは相当に困難な模様でした。
また、レアルの方でもDFカンナバーロが凄いことになっています。タックル、インターセプト、カバーリング、1対1のマーキング・・・。何度、これらの力強い守りのプレーを見たことでしょうか。セビージャのラストに至るまでのプレーをことごとく寸断させ、欧州最優秀選手の地位を汚すことのない、躍動ある働きをもって輝きを放ちます。

まるで決定機を作れなかったレアルでしたが、セットプレーという最終兵器でもって、前半早々に先制していました。前半13分、ゴールから20~30度ほどの角度からの、左サイドでのフリーキックでした。通常はクロスを上げて、中の選手に合わせる場面でしょう。ですが、ベッカムの繰り出したキックは、キーパーの頭上を飛んでいって、ゴール内のサイドネットへと放り込まれるシュートでした。クロスに備えて一歩出ていたキーパーのパロップは見事に裏をかかれ、このループシュートに全く手が届きません。先発起用が当たることになった、名手ベッカムの一振りによる華麗な直接フリーキックのゴールにより、レアルが1-0としました。

しかし、このすぐ4分後、今度はセビージャ側が強烈な個人技を見せます。ポールセンからくさびのパスを受けた前線のルイス・ファビアーノは、そこから何をすると思いきや、後ろ向きだった体を反転させながら豪快なシュート!勢いよく枠内に飛ぶこのシュートに、キーパーのカシージャスは手も足も出ません。惜しくも、大きな音をたてて、これはゴールバーに弾き返されましたが、怠りなく詰めていたカヌーテがきっちりこのこぼれ球を押し込んで同点としました。ルイス・ファビアーノが途中交代するまで、ほとんど彼を自由にさせることのなかったレアルの中央守備陣。この場面でも、着実にマークにはついていたのですが、これほどの驚愕のプレーは防ぎきることができませんでした。
柔と剛の、単独のシュート技術の応酬で、両チームは得点を強奪します。

■ 耐えるレアルに放たれた圧巻のシュート
レアルはこの試合、左右中央とバランスよく攻めようとするセビージャを前に、守備陣がよく耐えていました。MF陣の中でも一番存在感を放っていたのは、貢献的なマークやカバーによる守備力を発揮するエメルソンでした。これらでもって後方からチームを支え、攻撃陣に託します。しかしながら、いかんせん予想以上にその攻撃は機能していませんでした。今日の中盤の、ベッカム、ラウル、グティの基本的なチャンスメイクと言えば、大抵がスルーパスでした。ただし、その受け手となるべきツートップの動き出しはどうも重いように感じられ、なかなかそれに合わすことができません。確かにセビージャの激しく機能的なプレスは90分間持続していて、フリーなスペースへ、出し手と受け手を一直線につなげというのはかなり難題なことではありました。それでも、ロナウドなどはここ2試合で見せ付けたあの突破力は「どこへ行ってしまったの?」と思わせるほどに、相手の最終ラインを避けるように、中盤の位置でまごまごとし続けているばかりでした。

ただ、カウンターから、一度だけこのツートップが決定機を作りました。後半14分のことです。中央から仕掛けたファン・ニステルローイは、即座に左前方へ、守備体勢の間に合っていないセビージャの裏をつくスルーパスを出します。そこに抜け出てきたのは、この日ようやく突破することのできたロナウドが!電光石火ともいえる、この2人だけによる攻撃で、ロナウドは全くのフリーでゴールへ向かうこととなったのです。しかしロナウド、シュートするタイミングを逸してしまい、好判断による素早い飛び出しを見せたキーパーのパロップに阻まれ、せっかくの千載一遇の好機を得点にすることができません。レアルにとっての、この試合では最初で最後となった流れの中からのチャンスは、残念ながら実りませんでした。

引き続き中盤を潰し合い、FWを全く自由にさせることなく封じ込め合う、緊張感ある互角のゲームが展開されていきます。そしてこの同点のまま流れる、互いに譲らない試合に決着をつけたのは、またもセビージャの驚異的な個人技でした。
後半31分、セビージャは右サイドでフリーキックを得ます。パスワークでレアルを攻略するのは難しいセビージャにとっては、またとないチャンスと言えるセットプレーです。そしてここから放たれたアウヴェスのクロスに、オーバーラップしたDFエスキュデが競り合いながらもヘッドでワンクッションを入れます。これが、途中出場のFWチェバントンの頭上へ。チェバントン、ゴールから離れていてフリーではありましたが、後ろ向きの体勢という難しい局面です。それをチェバントン、鮮やかにジャストミートするオーバーヘッドキックで直接蹴りこみ、無理やりゴールへ直結させたのです!!!!今シーズンのリーガにおいて、ベストゴールの一つとして必ずや回想されることであろうこの得点で、セビージャはついに逆転に成功しました。白熱だった90分の攻防戦を観るだけでも楽しめた上に、こんなファインゴールまで目にすることができて、レアルのファンには怒られてしまいますが、私としては大満足でした。ウルグアイ代表の経験もあるチェバントン、見事に切り札としての起用に応える一撃でした。

そしてこの息詰まる熱戦は終了。2-1でセビージャが、あのレアルを下しました。

■ 高評価・好印象のセビージャ
セビージャは今季ここまで好調であった要因を、レアルという強大な存在との対戦の中で、存分に見せてくれました。確かに得点自体は、いずれも個人技術による、やや強引なものであったかも知れません。素晴らしかったのは、中盤の4人、最終ライン4人、この8人の全選手による効率的でアグレッシブな動きでした。各選手とも、ボール保持者には勢いよくプレスを敢行し、前方へのボール運びを容易には許しません。こういったプレスが中途半端である場合などには、下手をすると簡単に抜かれたり、その裏のスペースを狙われる危険性は十分にあることでしょう。しかしセビージャのプレッシャーは、激しさを伴いながらも的確で落ち着いていて、他の選手たちも周囲の相手選手のマーク圏内へ欠かさずに存在し、穴を見せることがないのです。しかもこれを90分間、集中力を絶やさずに持続するのですから賞賛したいのです。時には数的優位を作って突破を阻止したり、攻撃失敗時におけるカバーリングが素早いなど、頻繁ではありませんが守備の連動性も披露します。これらは、卓越するキープやパスといった技術力を誇るレアルの選手たちを四苦八苦させ、結局は彼らを相手に試合の制圧率で負けることがありませんでした。世界基準の強豪を相手に、どう戦えばいいのかというヒントの一つが、このセビージャの方向性から汲み取れるような気がします。

世界を代表するプレイヤーが欠けるなどと言われてしまうとはいえ、セビージャには地味に優れた選手は多くいます。DFエスキュデとハビ・ナバーロの、無駄のない安定した守備。MFレナトのパスセンス。MFポールセンのキープ力。サイドバックのアウヴェスの豪快なキック力。そして得点王まで登りつめたFWカヌーテです。これに今日、ルイス・ファビアーノやチェバントンといった選手が、持っている個人技能を爆発させるのですから、チーム全体が秘めている潜在能力はまだ計り知ることが出来ません。
世界的には無名でも、効率的と言える選手を次々に獲得し、その全員が一体感を持っています。レジェス(現レアル・マドリード)、セルヒオ・ラモス(同じく現レアル)、ヘスス・ナバスなどといった、将来を有望視される人材を続々と世に出す実績を持つなど、若手育成のための下部組織の強化にも余念がありません。このようなチーム作りからは、非常に好印象を受けてしまいますね。個人的には応援したいと思っています。

素晴らしい戦いぶりでレアルに逆転勝利したセビージャは、そのレアルから2位を奪回。この安定する攻守による好調さは、今後どこまで続くのでしょうか。大いに期待していきたいです。


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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2006-12-18 04:20:44
トラックバックから辿ってきました。
お互いセビージャには驚かされますね。
「あのレアルを下した」
同感です。
当日のレアルは決して弱くは無かったし
予想以上に厳しい試合でした。
これからもスペインリーグの各チームが力を付けより魅力的な試合が繰り広げられると・・・・・。
逆に見逃せなくて寝不足になってしまうかも知れません(笑)
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Re: Unknown (みのる)
2006-12-18 16:51:07
こんにちは。ようこそおいでくださいました。

セビージャはその攻守における安定性に、スペイン全土からも驚きと賞賛の声が上がっているそうなのです。
この試合でも、レアルはカンナバーロを中心によく守り、決して崩されてはいませんでした。それでもセビージャは中盤で互角に渡る内容とし、結果的に勝利してしまったのです。すごいですよね。
何とセビージャは暫定ながら(バルセロナの消化試合が1つ少ない)、また首位に立ってしまいました。どこまでこの快進撃が続くのでしょうね。

>逆に見逃せなくて寝不足になってしまうかも知れません(笑)
同意します(笑)
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