覚書あれこれ

かつて見た映画、かつてやったマイナーゲームなどの覚書と単発ラクガキなどなど

オデュッセウスについての真面目な話

2007年08月30日 | タワゴトと萌え語り

これは他の英雄についても多少なりともいえることとは思うのですが、
オデュッセウスは特に作者によって見事に描かれ方がばらばらな英雄です。
つまり、まずトロイア戦争に従軍した頭のいい武将に関する伝承がいくつかあって、作品ごとのオデュッセウスの印象の違いというのはその武将に対する作者の解釈の多様性なのだろうなと。

(確かに武力に優れている、という事より、頭がいい、という事に対しての方がその行動に関する説明に幅が出そうだ。)
(オデュッセウスとは明確に定義されない単なる英雄の話がオデュッセウス伝説に組み込まれたりも
したろうし、そもそもオデュッセウスという名前だって語源が良く分からんし、伝説の内訳もピンからキリまで幅広かったんでしょう、多分)

「生ける人間のうちで一番頭のいい」「その智謀神にも似た」この武将に対して一番否定的な解釈をしてるのは誰か知りませんが、確実に一番肯定的な解釈をしているのがホメロスです。
が、事態は実はもう少し複雑で、新しい叙事詩なり悲劇は、それまでの伝承の集大成に加え、
それ以前に成立した叙事詩や悲劇などの作品で創作されたエピソードをも踏まえた上で、
新たな解釈を施して作られていくわけなのです。


ちなみに、トロイア詩圏の叙事詩の大体の順番としては

色々叙事詩の伝承ストックが溜まる。
   ↓
(『イリアス』『オデュッセイア』以前にトロイア詩圏の叙事詩があったんかも知れんが残ってない)
   ↓
(『イリアス』『オデュッセイア』の原詩、並びに『キュプリア』や『イリオスの陥落』の原詩のような
ものもあったかもしれんがそれも残ってない)
   ↓
『イリアス』成立(この内容も、今残ってるものとどの程度同じか分からん)
   ↓
『キュプリア(もしくはその原詩)』成立(『イリアス』からそんなに時間たってない)

『アイティオピア(もしくはその原詩)』成立

『オデュッセイア』成立(同じく、内容が、今残ってるものとどの程度かぶるか不明)

『イーリオスの陥落』成立
   ↓
『小イーリアス』成立

『帰還』成立
   ↓
『テレゴニア』成立

程だと思います。
(が、『イーリアス』が最初にあったのはほぼ確実として、
・『キュプリア』『アイティオピア』の順序ははっきりしない
・ひょっとすると『陥落』も『オデュッセイア』の前かも
・『小イーリアス』と『帰還』もどっちが先かは知らん
なので、耳半分に聞いといてください。)

(で、その間にも、流布した叙事詩を元に新たな伝承が生まれたりしているはず)

『テレゴニア』など、「おいおい、脇役同士くっつけようとするなよ」と思わずツッコんでしまいそうな仕上がりなんですが、(現に某先生など「あれは考慮に入れなくていい」なんて斬り捨ててるし)
何割かはホメロス以外のオデュッセウス伝説を踏まえてる部分もあるのだと思う。
アカエイの毒などに関する言及
も、どうもオデュッセウスは毒薬に通じている、てな伝承もあったようなので、その辺の絡みかと。
色んな地域で断片的に伝承が生まれるわけですから、相矛盾したものも相当あったはずで、オデュッセウスを好意的に描いているホメロスなどは、意図的に矛盾する伝承は無視しているようです。
(おんなじように、どうもホメロスはディオニュソスがそんなに好きじゃなかったようで、
両叙事詩にはほっとんど彼が出てきません。当時もうディオニュソス崇拝は広まってた筈なのに)
(いや、ディオニュソス信仰が比較的最近広まった事を考慮に入れて
『トロイア戦争の時のような昔の話を語るのにこんな最近の宗教を出してはイカン』
と思っただけかもしれませんが)


(※ホメロスが一人の人間であるかのような書き方してますが、これも色々説があって、ホメロスなどという個人はいなかったという説もあります。
なんだかシェイクスピア論争と似ている…。
とりあえず、ここでは両叙事詩の作者をとりあえずホメロスと呼んどきます)

でも、一応他の伝承に配慮はしていたようで、オデュッセウスの死についても、
ホメロスは「長生きして幸せに生きた」という典型的な民話の結末(めでたしめでたしで終わる)を採用してますが、他の結末の伝承があることも考慮に入れ、そのあたりは断言せずに適当にぼかしてます。

(でも、穏やかな死、という予言があからさまに殺人とは相反するので、息子に殺されたという伝説に関しては後世に生まれたものかも、という考え方もある)

『オデュッセイア』11歌のテイレシアスの予言にある、ポセイドンに対する償いの内陸旅行も、陸のオデュッセウス伝説に対する配慮らしいですし。
(ペネロペイアが浮気していた、というビックリ異伝など、ホメロス以降にできたらしい別伝に対しては
当然ながら何の言及も配慮もない)


で、この一群の叙事詩が出来上がってから、悲劇作家やローマ時代の詩人がまた色々創作したわけですが、
後世になるにつれ、オデュッセウスに対する点数は辛口になります。
知恵の働く英雄から、卑怯で臆病な男へと。
作者個人の好みのほか、多分その時代時代の倫理観の移り変わりなんかもあったのでないでしょうか。

(あの人、確かに、中世社会じゃ理解してもらえないよな。キリスト教の倫理観とは全く合わなさそうだもん。反対に、現代人には他の英雄より分かりやすいと思う。庶民ぽいし。)


書いてるうちに良く分からなくなってきました。ふはー。
まあ、つまり、オデュッセウスに関してはワタシを含め現代の読者は全体像を俯瞰した上で自分なりの解釈を施しちゃえばいいんじゃないかと。
わたしは個人的にこのトロイア詩圏の作品の数々は同人誌みたいなもんじゃないかと思ってます。
商業作家の場合はたとえ同じ人物に対する歴史小説を書くとしても、他の作家の作品を踏まえたり引き継いだり出来ないじゃないですか、他の作家との共通部分は同じ歴史を違う視点で描いている、というところだけで。
でも叙事詩詩人たちの場合は自分の前の作家の作品も踏まえてそれのパロディとか書けるわけで、どの部分をどのくらい踏まえるかもその作家の自由裁量なわけで(←この人また適当な事を言い始めたよー)…


なので、読者の方としては、全ての神話・伝承・およびそれを基にした文学作品の価値はどれも等しいと踏まえたうえで、読書の方向性としてはもうどれが好きか、で決めちゃっていいんじゃないかと。
更にそれの二次創作をしている同人腐女子の端っこの底の底に位置するようなわたくしに関して言えば、
ホメロス作品に洗脳されまくってますんでオデュッセウスはひとまず善人寄りの頭のいい人に設定してますが、
個人的には腹黒いエピソードも大好物です。
(まだオデュッセウスに夢を見てた若い頃はあまりに酷いものに関してはさんざん心を痛めましたけど)
特にパラメデス暗殺とか。黒くて大好き!

(一言説明:パラっちに無理やり戦争に引っ張ってこられて逆恨みをしていたオデュッセウスは
パラっちがアカイア方を裏切ってトロイア方と通じている、というガセネタをでっち上げ、周到に陥れて、アカイア方の兵たちが怒ってパラっちに石を投げて殺すのをニヨニヨしながら見ていた。ひでえ話だぜ!

どっちかというと、パラっちが従軍の勧誘に来たときに、行きたくなかったから仮病(気が触れたふり)を
使ったってエピソードの方が情けなくて、ちょっととほほ…。

パラっち暗殺に関しては、
①ほんとに裏切ってたから殺されたのに、後から、やりすぎたかな、と後悔したみんなに
「あいつ、パラメデスに恨み抱いてたし、実はオデュッセウスの陰謀だったんじゃ」
などと濡れ衣着せられたとか、
②何かそれほどオデュッセウスを怒らせることをパラメデスが別にしでかしてたとか、
理由付けも出来そうなんだけど、

まー、あいつ、素で暗殺くらいやりそうだしなー(←ほんとにファン??)

このパラメデス暗殺は美味しいネタなのですよね~!
森川久美調に清廉潔白な正義の士(パラメデス)と大きな失敗の記憶のある負け犬(オデュッセウス)との対立って構図で、
ホモスキーも裸足で逃げ出す、こゆい裏話の2,3本あっという間にでっち上げれそうなイキオイです。
この場合正義の人は負け犬のことを蛇蠍のように嫌ってるんだけど、負け犬の方には反発と同時に
清いものに対する憧れなんかもあって、複雑なのよ。
同じ理由でオデュッセウスはディオメデスが気に入ってるんだけど、ディオメデスは度量が広いので、オデュッセウスのダメな部分も許容してくれてんので友人関係が続いてんの。

以上、妄想でした。大丈夫、書かないから安心してください)

ホメロス以外では今のところソポクレスとオウィディウスのオデュッセウス像が好きかしら。
どっちも黒いなりに頭が良くって大胆なので。
オウィディウスのオデュッセウスなどその周到な冷徹さに痺れますョ。
(あー、引かない引かない。現実にあんな酷い人がいたら真っ先に通報しますが、物語の中限定なら
わたしは悪役も場合によっては善人と同じく好きなのです)

…おや、真面目な話どころか、単なる萌え語りですね…。
ここまで読んだ方、お疲れ様でした!

ごめんなさいね、でも苦情は受け付けなくってよ!

目次へ

HPへ


最新の画像もっと見る