覚書あれこれ

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『やさしい悪魔』シリーズ

2009年02月22日 | コミック詳細

『やさしい悪魔』全13巻 『やさしい悪魔の物語』全10巻 『黒い夢白い夢君の夢』(後日談)

 

●ワンポイントあらすじ

願いの叶う扉の事を知っていますか?お金と引き換えに、望みを叶えてくれる悪魔のことを―

金と引き換えに魔法を売ってくれるやさしい悪魔の元を訪れる、様々な人間の願いとその顛末を一話完結で。その裏で、どうして悪魔がこんな商売をしているのか、彼らがどうして「やさしい悪魔」と呼ばれるのか、などが徐々に判明していきます。『物語』の10巻で完全フィナーレ。

 

●お薦めポイント

世界観が独特で引き込まれます。悪魔の世界の毒々しい魅力、依頼に来る人々の人間臭さ、生活感など、一度嵌ると病み付きになること請け合い。この作者の描く悪魔はあくまで強く、残忍で、力があるゆえに美しく、一方人間は弱くてずるくてでも憎めない優しい所もあって、そのあたりのバランスは絶妙です。

なんというか、手放しで好き、人にお薦めできる!という本ではないのに、どうも心の中に残ってしまうというか、私の中で「光車よ、回れ!」「クラバート」セドナ神話などと同じカテゴリーに入れられているシリーズです。


一回一回読みきりなのも良い。一見ばかでどうしようもない人間たちが最後に見せる強さには毎回瞠目させられます。同時進行で語られるやさしい悪魔の恋愛状況、ライバルの活躍も、これがまた面白い。


 

●難点

最初の3巻ほどは、ほんとうに絵が…。

そのあたりを我慢して読み進められるかがまず第1の関門となると思います。次の関門はこの作者の持つ独特の雰囲気を許容できるかどうかではないかと。これまた好みの問題なのでなんともかんとも…。


 

●キャラ語り

やさしい悪魔(兄)…多分この物語の主人公、お金と引き換えに願いをかなえる魔法をくれる眼鏡の悪魔です。多分、彼はむっつり助平タイプだと思う。常に冷静で対応が大人、悪魔とは思えない良く出来た人です。(だからやさしい悪魔などと呼ばれてるんですが)

やさしい悪魔(弟)…諸般の事情により中盤までは出てこない双子の弟。ポニーテールです。兄に比べて天真爛漫で明るい。可愛いですよ。

ナナイロ…やさしい悪魔兄弟の幼馴染みの女悪魔。気が強くて鉄火で竹を割ったような性格の女性です。悪魔だから優しくはないけどな。やさしい悪魔(兄)に対するツッコミがいつも素晴らしい。

ベンベラ…ナナイロの兄。
多分、ベンベラがいなければわたしはこのシリーズを最後まで買いつづけたりしなかったろうし、ベンベラの後日譚である『黒い夢白い夢君の夢』がなければこのレビューも書かんかったじゃろうと思います(赤面)。
ものすごい残忍で冷酷でずるがしこく、恐ろしく強い、力のある悪魔(悪魔なんだから当然なんだけど)。なのに時々人間に対して心が揺れたり、ナナイロに片思いしてたりするあたりが、かわいげというか、ワタクシの心を鷲掴みにした所以ではないかと思われます(さらに赤面)。
けしてエロ方面での活躍が激しいからじゃありませんよ!(彼が出てくる回は悪魔にしろ人間にしろ必ず女性が絡むんですよ)
これから読む方は、まず『やさしい悪魔』7巻の「悪魔の花嫁」でガツンとやられ、最終巻の『黒い夢』で切なさに身悶えてください。

 

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『バジル氏の優雅な生活』

2008年05月13日 | コミック詳細

『バジル氏の優雅な生活』坂田 靖子 コミック全?巻/愛蔵版全3巻/文庫版全5巻


●ワンポイントあらすじ

時はヴィクトリア朝、所は英国、社交界一のプレイボーイ、主人公バジル・ウォーレン卿の周囲には、常になにかしら事件が起こっています。(意外と巻き込まれ型主人公なのです)。
バジル氏がそれらの事件を捌く鮮やかな手腕の数々を四季折々の英国情緒と一緒にお楽しみ下さい。全話一話完結。


●お薦めポイント

わたくし、ほんとうにこのシリーズが大好きなのです。愛蔵版の他に文庫版も持ってるくらい(オマケに、文庫版は保存用にもう1冊ずつ買おうかとまで思ってる)。
あのモノローグの少なさ。ギリギリまで不要な言葉を省き、心理描写も省いた、淡々とした語り口。それでいながらきちんと登場人物たちの気持ちや心のうちを読者に分からせてしまう手腕たるや神業です。漫画と言うより、上質の映画を見るような感じ。一見無味乾燥であっさり風味に見えますが、読み終えたあとにクルのです。
それぞれの登場人物に向けられる暖かい視線も良い。かっこいい人や完全無欠のヒーローなど一人もいず、全ての登場人物がすべからくその辺にいそうな普通の人で、その人たちの普通の喜びや悲しみがぽつぽつとつづられます。一話読みきりがたくさん詰まっているので時には悲しい終わり方のものもありますが、たいていはほのぼのと心温まるような結末ですし、悲しい終わり方を迎える物語も、じんわり心に染み入るようなお話ばかりです。なんとも大人向けの漫画。

一度読んで面白くなくても、是非2度3度と読んで欲しい!

 

英国好き・名探偵好きのあなたにもお薦めしたい。ヴィクトリア朝に浸れます。メイドもわんさか出てきますし、社交界も執事も、馬車も、シーズンオフのカントリーハウスも、警視総監も出ますよ!『エ●』もいいけど、これも良いぞ!
言い回しもウィットに富んでて素敵です。きっと作者はヴィクトリア朝の文学が大好きに違いない!いちいちの台詞に「うまい!」とうなってしまいます。個人的に『スキャンダル・クラブ』の、明るいクラブの風景を背景に語られる

「ノーフォークのシーモア卿が18回目の家出をしたよ」
「ついにやったか!!」
「――で、今回の家出の理由は?」
「奥方に平手で打たれた。――3度」
「すばらしい」

の一連の台詞運びがお気に入り。
お話では『月の階段』『ランスロットの遺産』『夢の木馬』『夢見る頃を過ぎても』辺りが特に好きです。
BBCさん、ドラマ化してくれないかしら…


 

●難点

ただ、連載初期の頃は絵がまだ安定しなくてかなり見づらいです。見づらくても、2巻目辺りには見やすくなりますから、頑張って読み通してください。あの簡略化された絵であるにも関わらずバジルさんがかっこよく見えてきたらアナタも坂田中毒者の仲間入りです。
また、わたしはああいう自分の意見を声高に叫ばない言葉少ない作品が好きですが、もっと心理描写が書き込んであるほうが好き、という方には物足りないかもしれません。こればっかりは好みの問題なので如何ともしがたいですが…なるべく行間を読むのじゃよ、皆の衆!!

 

 

●キャラ語り

 大抵わたくし、娯楽本を読んでいるときは、その本の中でマイ・アイドルを作り、キャラ萌えもしつつ読むのですが、この作品に関しては珍しく話の流れや雰囲気でもうおなかいっぱいなのです。
あえて言うなら真面目で不器用なウォールワース議員が好きかな。
バジル氏曰く「彼はあの固いところが面白い」のだそうで(全く同感です)。
同感といえば、『ロンドン橋』の中で語られるバジル氏の学問に対する考え方も、まさしくわたくし同感でございました。
また他に、バジル氏の語る、「好きになった女性はすれ違っただけでも忘れない」の台詞も、これまたわたしの中で燦然と輝く名言です。(そのうちバジル氏名言集でも作ろうかしら…)

 

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『百鬼夜行抄』

2007年07月22日 | コミック詳細

『百鬼夜行抄』今 市子 2007年6月の時点でコミック大判で15冊、文庫版で9巻まで発売されています。

●ワンポイントあらすじ

 すべて一話完結読みきりです。
 
ただ、大きな敵がいるわけでもなく、主人公飯島律が日常生活でさまざまな妖魔と関わって何とか切り抜けたり見てるだけだったりする様子を綴っただけの話なので、とても説明しづらい…。
 
なんというか、律を核とした飯島一家を中心に、人でないものたちとのかかわりをときにしみじみと、ときに空恐ろしく描いた珠玉の短編集…?とでもいうか…。
 ちなみに、主人公の律はこんな名前ですが男の子。1巻で高校生だったのが、一度浪人して現在大学生になってます。


●お薦めポイント

  これって、妖怪を退治したりするような勧善懲悪ではないのですね。主人公にしたって、人でないものが見える、というだけでそれ以上の力を持っているわけではないし、祖父のつけてくれた強力な式神はあれど、それを積極的に使ったりしない。(そもそも、祖父だって、孫にそんな力があると分かったときの助言は開口一番「見えない振りをしろ」でしたもの)。
 
基本的に人でないものたちは人間とは異質の存在だ、というコンセプトに立っています。だからといって、それを悪だとはしない。善悪を読者に押し付けず、また、人でないものや自然そのものに対する敬意を払ったそうした描き方がわたしはとても好きです。良質の作品だと思います。

 また、人でないものの異質感がリアルで、とても恐ろしい。
 おそらくそれは正体がはっきりしないための怖さだと思うのです。はっきり「これはバンパイアで悪者で十字架に弱い!」と、正体来歴丸裸、言い換えれば人間化され、感情的で、人に理解しうる妖魔なんて出てきません。
 なんだか部屋の隅の暗がりにもやもやと黒いものが集まって人っぽいものに見えるけど、それが何か分からない。しかしなのにどこか首筋がひんやりするような怖さ。人の言葉を話す物の怪にしても、相手の持つ独自のルールが人間には計り知れず、感情が欠落、もしくはあり方が人間とはあまりに違い、次に何をしてくるか分からない怖さ。そんなものをひしひしと感じさせます。わたくし、物凄い怖がりなので、怖い本や映画は基本的に苦手なのですが、それでもこの漫画だけはその怖さもどこか心地よく、つい次の巻を心待ちにしてしまいます。
(怖さばっかり強調してしまいましたが、別にそればっかりではないんですよ!しみじみと心に染み入る話もあるし、ちょっとコミカルなものだって、ほのぼのと良かったね、と思うものだってあるのです。ご安心下さい!)


●難点

 わたしがへたれなせいもあると思いますが、時々、本当に耐えられないほど怖い話があって、夜中にトイレに行けなくなります…(恥)。もし皆さんがそうなってもわたしに苦情は言わないで下さいね。
 それと、時々とんでもなく複雑な話の筋のものがあって一読しただけでは理解できないことが。(わたしはそうです)(←アホ)。何度でも読んでください。
 また、全てが淡々と語られるので、熱い青春ものやスポコンものが読みたい時などにはやめておいた方が…


●キャラ語り

  • 主人公の飯島律…小さい頃は家の風習で女の子の格好をさせられていた主人公。主人公なので可もなく不可もなく…。顔がいいので救われていますが、実はかなり根暗で鬼のように冷静ではないかと…
  • 主人公の周りの妖魔たち(尾黒・尾白・青嵐)…文鳥と龍。ずっと律と一緒にいるのに人間ぽくはあまりならず、文庫版9巻の今でもやっぱり相変わらず妖魔。個人的に、尾黒・尾白と律のいとこの司ちゃんとの飲み会シーンがとても好き。
  • 飯島伶(蝸牛)…律の祖父。年老いた、律の記憶の中の祖父も好きですが、若い頃の彼がイチオシ☆この人、なんだかんだ言っていい人ですよ~(←わたくし、メガネ属性保持者ですからのう)
  • 飯島司・晶…どちらも律の従姉。特に晶ちゃんの方は、作中で恋人ができて、個人的にうまくいって欲しいと思っているのですが、只今現在大波乱中。この先二人はどうなるんですか、今市子先生!
  • 三郎さん…くだんの晶ちゃんの恋人。この人の鷹揚とした所がすきです。メネラオスっぽくて。
  • 赤間…面白いから、という理由だけで飯島家の人々にちょっかいをかけては去る変わりだねの妖魔。…ものすごい迷惑な物の怪なんですが、実はちょっと好きかも…ヘルメスみたいで…。(いや、ヘルメスは優しい神様ですが)
  • 開おじさん…律の母方のおじさん。巻数が進んでから登場した方なのですが、祖父とまた別の意味で何を考えているのか分からない人です。今のところ蝸牛の次にイチオシの人。

 

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蒼のマハラジャ

2007年05月27日 | コミック詳細

『蒼のマハラジャ』神坂智子 コミック全10巻/文庫版全5巻

 ●ワンポイントあらすじ (注意!ネタバレを含みます)

時は第二次大戦前夜、主人公のモイラは、英国大使の父に連れられ母ともどもインドのラジャスターン州ジョドプールにやってくる。彼女はそこで若い王子シルバと出会い―――インドを虎視眈々と狙うイギリスの外交姿勢を背景に、英国側に立って内乱を狙う父と、王位を狙って王子を殺そうと画策する王弟、屋上に隠された銃器と、なにかときな臭い序盤、その裏で元気なモイラと慎重なシルバの友情と愛情は着々と育まれていきます。中盤は、ジョドプールの混乱収束後、一旦英国に帰ったモイラが勃発した世界大戦のせいでなかなかシルバのもとに辿り着けず、送られてきた目付け役シバ(ヒンズー教徒)とパンディット(ムスリム)を随えて大冒険を繰り広げた挙句再開するまで。その後結婚する時にもインドの風習やら後宮問題やらいろいろと揉め、終盤はいかに藩王制廃止後のジョドプールを立て直すか。最初と最後がややシリアスですが、全体的にコミカルです。

●お薦めポイント 

  • 古き良き藩王国の気分を満喫できる。 たぶんにわたくしもともと歴史好きではございますが、欧州以東中国以西・以南の地域の歴史ものには特に超弱いのでございます。なので、舞台がインドだというだけでもうかなり点が甘くなっていることはお察し下さい。この作家さん、アラビアのロレンスの話も書いているし、中央アジアものを描かせたら天下一品、考証がしっかりしているので安定感があります。 
  • カラーが明るい。 この方の描く作品には、シリアス一辺倒な物語とコメディタッチの物語、二種類あるのですが、この『蒼のマハラジャ』はコメディタッチの部類に入るものだと思われます。肩肘張らずに楽しんでください。ザッツエンターテイメント!
  • 一大大河ドラマ。 幼かったモイラの人生を10年ちょっとはおっかけてます。N●Kの朝ドラも真っ青!しかも、コミカルで次から次へとはらはらさせられ、ソレを鮮やかに切り抜けてスカッとし、そんな爽快な語り口ながら、時々深刻な問題や歴史的な事実を織り交ぜてくるのだから油断なりません。誰か版権を買い取って映画化すればいいのに!今流行の3部作とかでさ。絶対当たると思うんだけど…。 
  • ラブコメ。 一応この話ってモイラとシルバが出会って結ばれるまで、でもあるのですよね。そう思ってみれば、引き裂かれて離れ離れになる展開あり、恋敵が出て来る展開あり、姑(たち)に邪魔される展開あり、と、王道設定がてんこ盛り。しかも、シルバがモイラに甘いんだ。そりゃあ恥ずかしくなるようなダダ甘い台詞なんかは言わない人ですが、一言一言に込められた真情に読者はもう胸いっぱいになること請け合い。ホント、狙わずに言った告白って破壊力抜群です。

 ●難点 

けっこうくせのある絵なので、あの絵が駄目という人もいるでしょう。わたしはあのあっさり目の線とか、バランスの取れたデッサンとか、独特の独白部分なんかが好きなんですが。あと、貸した友達に「こんな展開有り得へん」と評されたことが。007シリーズみたいに娯楽だと割り切ってください。

●キャラ語り 

  • 主人公モイラ・ベル・バーンズ この作家お得意のおかっぱの明るくて前向きで元気のいい女の子。そのバイタリティたるや、並みではありません!彼女の事をシルバ王子は「こんなすごい女の子がプロポーズを受けてくれるなんて、やった!と思った」と述懐していますが、まさに!やったねシルバ! 
  • シルバ・アジット・シン モイラの相手である、ジョドプールのマハラジャ。主人公、もしくはそれに順ずる殿方には普段あまり心が動かないわたくしではありますが、このシルバは別格!最初青白いちびっ子で、我侭放題育てられたボンボンだったシルバですが、モイラと友達になったあたりから大器の片鱗を見せ始めます。即位してからの彼はもう完璧。かっこいい、というより、本当に立派な王様で、モイラと同じく彼が何かするたびに思わず尊敬の念を抱いてしまいます。あの絵なのに、読んでるうちにどんどんシルバが素敵に見えてくるのですよ(すごいだろう)!!…このときめきはパトロクロスやヘクトールにときめくのと似ている…(ぽ)。 
  • ジャイ ジョドプールと同じラジャスターン州のジャイプールのマハラジャ。おそらくシルバより5つほど年上の、ポロと美人を愛するナイスガイ。この人面白いのよね。どちらかというと、本来のわたしの好みはこの立ち位置の人。行動が鮮やかで機転が効いて、いつも人生を楽しんでそうな人です。どうもこの人にはモデルがいるらしい。 
  • シバ&パンディット 一旦モイラに付けられてからというもの、のちのちまでモイラ付きの部下として出て来る面白コンビ。特にヒゲのパンディットがカワユイ…(じゅるり)。彼の「新月は好きだ、給料日だからな」のコメントはわたくしの中でベスト10に入る名言です。 この人の話って、少女漫画なのにかわいいおじさんがてんこ盛りなのですよね。

 その他にも語りつくせぬ面白い登場人物がわんさか出てきますのでぜひぜひ御一読あれ!

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