【大前研一のニュース時評】「地熱発電」加速へ規制見直しに力注げ “潜在地熱大国”日本で導入が遅れている理由
河野太郎規制改革担当相は1日の政府の規制改革推進会議で、再生可能エネルギーの拡大のため、地熱発電や風力発電施設の立地を巡る規制緩和について報告した。
昨年10月に菅義偉首相が掲げた「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」という政策転換を受けたもの。現在、約60カ所の地熱発電施設を2030年に倍増する目標も掲げた。
この報告をする際、河野さんはなぜか地熱発電と温泉発電を混同していた。地熱発電は深い地下で生成された高温の水蒸気を取り出し、タービンを回すことで電力を作るもの。二酸化炭素の発生が火力発電に比べて少なく、燃料の枯渇、高騰の心配も少ない。太陽光や風力発電などと異なり、天候や季節、昼夜によらず安定した発電量を得られる。
一方、温泉発電はその名のとおり、温泉のお湯を発電の原料に使うもの。水よりも沸点が低い代替フロンなどの媒体へ熱交換して蒸気を発生させ、その蒸気圧力によってタービンを回す発電方法。低温で発電できるから、地熱発電のような大掛かりな掘削や大規模な発電設備の必要がなく、開発費用も低く、開発期間が短くて、参入のハードルが低い。
河野さんはちょっと混乱していたが、ま、言っていることは「地熱発電をどんどん進めよう」というものだ。
地熱資源量は、世界最大級の地熱地帯を有する米国が1位で、インドネシアが第2位。火山大国の日本も3位で続く。しかし、地熱エネルギーの活用は進んでいない。
運転中の地熱発電所の容量は、トップの米国以下、インドネシア、フィリピン、トルコ、ニュージーランド、メキシコ、ケニア、イタリア、アイスランド…と続き、日本は10位前後をウロウロしている。ニュージーランドなんか、北の島のロトルア市を始め、そこここに地熱発電所がある。
潜在地熱大国の日本で地熱発電の導入が遅れているのは、環境アセスメント(環境影響評価)の手続きの長さがある。開発を申請してから認可が下りるまで10年以上かかる。地盤の強度や地熱兆候を調べるために深い掘削をしなければならず、かなりの額のコストも発生する。
さらに地熱資源が有力な場所は国立公園に多く、自然破壊や景観悪化などへの懸念から開発は厳しく制限されていた。そこで、国立公園の外の区域から地下の熱源に向けて斜めに掘り進める「斜め掘り」については、開発を認めることにした。しかし、これもとんでもなくコストがかかる。
もう1つ、開発予定地近くの温泉業者が「地熱発電のせいで温泉の量や質・温度に影響が出る」と反対するケースも多かった。それでまた、認可までに長い時間を要してしまう。
今後は、地熱発電所の稼働までにかかる期間を2年程度短縮して最短8年としたり、国立公園の制約を見直したりして、地熱発電所の建設をしやすくするという。
日本の再生可能エネルギーというと、太陽光発電に偏りすぎた面もあった。風力発電にも騒音がひどいとか低周波音がストレスになるなどの欠点がある。これを避けようとデンマークみたいに洋上風力が注目されているが、日本近海はいきなり深くなるところが多く最適地の確保が難しい。
ということで、日本に最も適している地熱発電が加速するよう規制やコストの見直しにもっと力を注ぐべきだと思う。これは河野さんの本業で、まさに行革の一丁目一番地。ぜひ成果につなげてもらいたい。
■ビジネス・ブレークスルー(BBTch)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。