奴隷労働、LGBTQ差別だけじゃない…「カタールW杯」をドイツ国民が楽しめない“本当の理由

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奴隷労働、LGBTQ差別だけじゃない…「カタールW杯」をドイツ国民が楽しめない“本当の理由”(川口 マーン 惠美) @gendai_biz

 

 

奴隷労働、LGBTQ差別だけじゃない…「カタールW杯」をドイツ国民が楽しめない“本当の理由” - ライブドアニュース

立ち込める黒雲

11月20日、カタールでサッカーのW杯が始まる。

カタールは、一人当たりのGDPでは世界で一、二を争う裕福な国だ。人口30万に対して300万人の外国人労働者が働いているというから、カタール人はあまり働かずに、超優雅な生活をしている。彼らに巨万の富をもたらしたのが石油と天然ガスであることは、言うまでもない。

 

 

本来ならばサッカーのW杯は4年に一度、ドイツではまさに国中で大騒ぎをする「真夏の夜の夢」となるのだが、今年のカタール大会では開幕直前の今、凄まじくトーンダウンしている。

薄ら寒い季節なのにガスの節約が要請されていたり、インフレが止まらなかったりで、国民が皆、少し鬱状態になっているということもある。

しかし、黒雲が立ち込めている真の理由は、カタールの人権問題とFIFA(国際サッカー連盟)の腐敗が見過ごせないほど大きくなり、政治家も国民もそれらにどう対応して良いかわからず、途方に暮れているからだ。

カタール大会の「秘密事項」

カタールがW杯の開催地と決まって以来、砂漠の真ん中に、贅沢の限りを尽くした空港やスポーツ施設が造られた。

50度を超える炎天の下、過酷な条件で休みなく働いていたのは外国人の出稼ぎ労働者で、数千人の死者が出たと言われる(一説には4000人台)。しかも、これほど豊かな国なのに、賃金さえまともに支払われないケースが多かったというから、それが本当なら理解に苦しむ。これでは奴隷労働に等しい

11月8日、ZDF(第2テレビ)が、「秘密事項 カタール」という40分余りのドキュメントを放映したが、その中で、カタールがワールドカップの開催地に選ばれるまでの贈収賄の様子や、カタールの壊滅的な人権侵害が簡潔にまとめられていた。

 

特に、その番組の中で、現在、カタールのW杯大使を務めるKhalid Salman氏が、「ゲイは犯罪、あれは精神の傷害だ」と当然の如く語ったことで、視聴者は驚愕。もちろん、この発言は欧米では完全に“アウト”だ。今やドイツの法律では、婚姻は男女ではなく、2人の人間の間で成立する。

欧米とカタールでは、人権問題は完璧にすれ違っている。欧米の常識はカタールの非常識どころか、往々にして違法行為だ(もちろんその逆も同様)。

カタールでは男女は同権ではないし、「同性愛」は犯罪である。そのため今回のW杯では、観戦に訪れた同性カップルの安全は確保されるのかとか、未婚の男女は一緒にホテルに宿泊できるのかなど、いつもと違う問題が生じている。

 

10月31日、人権の視察のためとしてカタールに飛んだフェーザー独内相が、カタールの首相から、「観客がどこから来ようが、何を信じようが、誰を愛そうが安全を保証する」、「労働者の権利を尊重する」という約束を取り付けたと言っていたが、少々心もとない。

実はフェーザー氏はその数日前、あるテレビ番組のインタビューで、「あのような国は世界選手権の開催国にしないほうがよかった」と言い、カタール側を怒らせていた。そこで関係修復のため、急遽カタールに飛んだと言われるが、関係はいまだに硬直したままだ。

西側のカタール批判が止まらない

そもそもフェーザー氏の発言内容は、西側諸国の考えとしては正しいが、開催直前であったため、「人権問題は一応言いました」というアリバイ作りにも見え、少々お粗末だった。

ただ、真面目なドイツ人はそのため、「“奴隷労働”やLGBTQへの差別が行われている国で開催されるW杯を楽しんで良いものか」とジレンマに陥っているらしく、第1テレビのアンケート調査(11月11日)によると、今回のW杯は一切見ないと答えた人が56%、観戦を減らす人が15%。それに比して、いつもと同じか、いつもより多く見ると答えた人はたったの20%だった。

 

もっとも、ある雑誌のカリカチュアでは、「俺は今度のW杯は半分しか見ないぞ!」と奥さんに宣言した夫が、テレビの前に陣取って片目を瞑って見ていたので、ドイツ人の「一切見ない」は単なる目標値かもしれない。

目標値は他の国も掲げており、フランスではパブリックビューイングは無し。しかし、これは寒いからという理由が大きいだろう(通常のW杯開催は夏)。一方、オーストラリアはもう少し過激で、カタールの人権問題を非難する動画を公開した。

先日、カタールで完成した新空港のお披露目の記者会見では、記者団は超豪華な空港ではなく、人権についての質問ばかりしたため、対応していたカタール航空のCEOがぶちぎれる一幕もあった。イスラムの世界に西側の価値観を押し付けようとしても、無難な着地点はなかなか見出せないようだ。

 

その後も西側のカタール批判は止まらず、デンマークチームは抗議のため、黒いユニフォームにすると言っているし、ドイツチームでは、モラルのリーダーと言われているレオン・ゴレツカ選手がインタビューで、「違う国でやりたかった」と発言。

そうするうちに14日、ドイツのナショナルチームが、出発便のタラップに勢揃いして手を振っている映像が流れたが、なんと!シャツもジャケットもパンツも真っ黒。まるで皆でお葬式に出かけるかのようだった。

それに比して機体の方は、いろいろな肌の人たちがスクラムを組むイラストと、「Diversity Wins」というとびきりカラフルなデザイン。すごい挑発だ。ちなみにゴレツカ選手は、大会中に何らかの行動で人種差別に対する抗議の意を示したいとか。

サッカーは見たいけれど…

そんな不穏な空気を無視するように、FIFAのインファンティーノ会長はにこやかに、「さあ、これからはサッカーに集中しよう」などと言っている。しかし、実は、このFIFAという組織こそが、長年、腐敗の坩堝であったこともすでに周知の事実だから、国民の憂鬱は晴れない。

前述のドキュメントでも説明されていたが、今回のW杯開催はカタールが莫大な賄賂を積んで買ったということがほぼ確実で、売ったのはもちろんFIFAの幹部だ。選考メンバーは当初24人だったが、うち2人が事前に現金受け渡しの場をビデオで隠し撮られて退場したというから、まるで探偵小説の世界だ。

そして、残った選考委員のうち14人がカタールに投票。その多くがカタールからお金をもらっていたことが判明している。例えば、カメルーン、コートジボワール、トリニダード・トバゴの代表はそれぞれ150万ドルずつとか……。

 

さらに大物としては、フランスの元サッカー代表選手のエース、ミシェル・プラティニ。

彼は米国に投票すると公言していたのに、その10日前にパリのエリゼ宮で、当時のサルコジ仏大統領と、カタールのタミーム・ビン・ハマド・アール=サーニー氏(カタール現首長)と食事をしたら、急に気が変わったと前述のドキュメント。その後、彼の息子はカタールの要職をゲットしたという(プラティニは後にこの件でフランス当局に汚職容疑で拘束された)。

 

こんな話は、常に人権を重んじようと努力しているドイツ国民にとっては心の負担が重い。

しかも、腐敗は今に始まったことでなく、2006年のドイツ大会の招致も限りなく黒に近いグレーだったと言われて久しい。だからこそ国民は無力感に襲われ、W杯などボイコットすべきだと思いつつ、でも、サッカーは見たいし……と、ジレンマに陥るわけだ。

ダブルスタンダードと責められても

実は、今、ドイツが抱えている問題はそれだけではない。

ロシアのガスを断たれてしまっているため、カタールのガスが喉から手が出るほど欲しいという深刻な事情がある。つまりドイツは、内相や外相がカタールを人権侵害で批判している脇で、ハーベック経済・気候保護大臣が一生懸命“ガス乞い”をしているのだ。

ハーベック氏はすでに3月、イの一番でカタールに飛び、9月にはショルツ首相も飛んでいる。これではダブルスタンダードと責められても仕方がないが、ガスがなければ経済が崩壊するからどうしようもない。

オリンピックではいつも、スポーツと政治は切り離すべきだと言われるが、今回のW杯はさらに、切り離さなければならない事項がたくさんあり過ぎる。

今、ドイツ政府で力を振るっているのは緑の党で、この党は自党のイデオロギーを重視するあまり、経済を無視する傾向が強いが、今こそ与党として、産業と国民生活を守り、人道主義の旗も下ろさず、しかもダブルスタンダードに見えない方法を考えだす必要があるだろう。

 

ちなみに昨日、東京で地下鉄に乗ったら、車内に明るく楽しそうなW杯の広告がたくさん出ており、ドイツの憂鬱とはまるで月とスッポンなのが印象的だった。ただ、私の憶測では、ドイツ人も大会が始まれば、きっとそれなりに観戦を楽しむだろう。

奇しくもドイツと日本は同じグループEで、23日に初戦でぶつかる。日本チームにはぜひとも頑張ってもらいたい!

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