危機に対する日米「議会力」の差 福井県立大学教授・島田洋一

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【正論】年頭にあたり 危機に対する日米「議会力」の差 福井県立大学教授・島田洋一

日米の対中国政策を見ていると「議会力」の差を強く感じざるを得ない。かつてレーガン大統領(当時)が「純粋なデマゴーグ」と評したバイデン氏は、指導力や決断力で知られたタイプではない。しかも脇を固めるのが、今や「逃げ隠れ以外能がない」との評価が定着したハリス副大統領であり、脱炭素で何とか中国の「口約束」を得ようと汲々(きゅうきゅう)たる全面宥和(ゆうわ)派のケリー気候変動特使である。

福井県立大学教授、島田洋一氏
福井県立大学教授、島田洋一氏

恥ずべき差はなぜ生まれる

翻って岸田文雄政権では、首相の両脇にいずれも親中派の林芳正外相と野田聖子少子化担当相が座る。すなわち目下、政権中枢部の識見、力量において日米ほぼ同等だろう。あるいは日本の方が悪さ加減では若干マシかもしれない。

では米国が昨年末に、中国新疆からの輸入を事実上全面禁止する「ウイグル強制労働防止法」を成立させた一方、日本はその数ハードル手前の「人権決議案」すら乗り越えられずにいる、この恥ずべき差はどこから生まれるのか。

まずは人権決議案挫折の最大責任者たる茂木敏充自民党幹事長の説明を聞こう。氏の記者会見を動画で見たが、驚くべき内容である(昨年12月21日)。茂木氏は「対中」人権決議に関する質問を神経質に遮り、「中国だけじゃなかったでしょ」とミャンマーも入っていることなど盛んに中国色を薄めようと努める中で、あろうことか「モンゴルも入ってました」と付け加えている。言葉を失う、とはこの事である。

2大強権国家、中露に挟まれながら独立と自由を維持するモンゴルは、世界がその秘(ひ)訣(けつ)を尋ぬべき国ではあっても、人権抑圧が問われるような存在ではない。脱北者保護の実績もあり日本人拉致問題でも協力を惜しまぬ国である。

茂木氏が一瞥(いちべつ)はしたらしい人権決議案には、弾圧が強まる地域として「南モンゴル」(モンゴル国ではなく中国の施政権下にある)が挙げられている。

いいかげんな言動ではクビに

茂木氏が示唆するように、加害政権として中国、ミャンマー、モンゴルが列挙されているのではない。被害地域としてウイグル、チベット、香港と並んで言及されているのである。仮にも外相を務めた人間が「誤認しました」で済む話ではない。その「南モンゴル議連」会長も務める高市早苗自民党政調会長は、公明党が骨抜きにした案にすら茂木氏は署名を拒んだと悔しさを吐露してきた。

しかし保守派の輿望(よぼう)を集める高市氏ですら「悔しい」以上に出ないところに問題の根深さがある。

アメリカの、ほぼ全ての対中制裁法案で斬り込み隊長的役割を果たしてきたルビオ上院議員(共和党)が「悔しい」という言葉を発するのを私は聞いたことがない。

彼の闘争手段は常に、妨害者の実名を挙げての猛攻撃である。

仮に米民主、共和いずれかの院内総務が、茂木氏同様の混乱した論理で「対中人権決議案」をつぶしたなら、即刻対立政党から全面的に叩(たた)かれ、自党内からも解任要求が沸き上がり、翌日辞任に追い込まれるだろう。だから執行部クラスは対中国でいいかげんな言動を取れないのである。日本は経済界が非常に中国に気を使うため政治も動きにくい、は言い訳にならない。アメリカも同じである。

実は「ウイグル強制労働防止法」でもシャーマン国務副長官らが企業に立証責任を負わさない骨抜き案を作って根回ししたが、リークされて叩かれ、かえって強硬派主導の流れを固めた。そうなれば一転、米企業は自分たちのみ不利にならないよう、他国への圧力行使を米政府に求め始める

日本は対中最前線の位置に

現在、ルビオ議員らは、北京五輪公式スポンサーへの非難を強めつつある。日本企業にも影響が及んでこよう。台湾情勢も風雲急を告げてきた。鳩山由紀夫元首相も鼻息が荒い。「安倍前総理の台湾有事は日本有事で日米同盟有事発言は中国を怒らせただけでなく米国を困惑させた。米国は台湾有事でも台湾を防衛する義務はないと言っているからだ」(原文まま、昨年12月)。

ところがバイデン大統領は、2度にわたりアメリカの台湾防衛義務に言及している。1度目は、米国はNATO同盟の枠組みで「聖なる公約」をしている、「台湾についても同じ」としたもの(8月)。2度目は、台湾が攻撃されればアメリカは助けに行くのかと問われ「イエス。我々はそう公約している」と答えたもの(10月)。

米台間に同盟条約はない。役所の法務部的立場に立てばバイデン発言は明らかに勇み足である

しかし、危険度を増す習近平氏を強く、明確に牽制(けんせい)せねばならないという認識は、米側において、益々(ますます)党派を超えて固まりつつある。バイデン発言はその流れに沿うもので、従って野党側も「失言」として追及しなかった。

重要なのはこの発言を実体あるものにしていく努力だろう。日本は否応(いやおう)なく最前線の位置にある。(しまだ よういち)

 

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