中国で急増している「結婚を恐れる人たち」…彼らの「バイブル」は日本人が書いていたという「衝撃の事実」 近藤 大介 『現代ビジネス』編集次長

 

中国で急増している「結婚を恐れる人たち」…彼らの「バイブル」は日本人が書いていたという「衝撃の事実」(近藤 大介)

中国は、「ふしぎな国」である。

いまほど、中国が読みにくい時代はなく、かつ、今後ますます「ふしぎな国」になっていくであろう中国。

そんな中、『ふしぎな中国』に紹介されている新語・流行語・隠語は、中国社会の本質を掴む貴重な「生情報」であり、中国を知る必読書だ。

※本記事は2022年10月に刊行された近藤大介『ふしぎな中国』から抜粋・編集したものです。

恐婚族(コンフンズー)

「恐婚族」の意味するところは、容易に察しがつくだろう。ずばり「結婚を恐れる人々」である。

私がこの新語を初めて知ったのは、2009年に北京駐在員をしている時分に読んだ『2008年 中国社会形勢分析と予測』(社会科学文献出版社刊)というお堅い本の一節でだった。曰く、

〈2006年、上海男性の平均初婚年齢は31.1歳で、女性の平均初婚年齢は28・4歳になった。北京は男性が28.2歳で、女性が26.1歳だ。
今回の調査で、回答した半数近くにあたる44.4%が、「自分は『恐婚族』」と認めている。その多くは『八〇後(バーリンホウ)』(1980年代生まれ)だ。
また過半数の51.7%の人が、「『恐婚族』は正常な現象」と認識している。不正常だという観点の人は28.4%だった〉

このくだりを読んで、二重に驚いたものだ。第一に、「恐婚族」なる新語が生まれたこと。第二に、それを正常と考える世代が登場したことである。

八〇後」は、いわゆる「一人っ子第一世代」だ。中国の「新人類」と言ってもよい。

イラスト/村上テツヤ

この本を読んでまもなく、「本物の恐婚族」に出会った。北京のアニメ・フェスティバルで司会役を務めていた「八〇後」の青年で、日本のアニメから日本語を習得した、いわゆるアニメオタクだ。

両親とも北京市政府の幹部だが、彼は親と同じ道を歩む気などなく、アルバイトで資金を蓄えては、半年に一度、「コミケ」(8月と12月に東京ビッグサイトで開催されるコミックマーケット)を見に訪日するのを生き甲斐にしていた。

彼と何度か会食しているうちに、相談を受けた。

「両親が早く結婚しろとうるさいんですが、ボクは『恐婚族』なんです。日本人でもよいので、ボクに合うような女性を紹介してもらえませんか?」

私は、どんな女性が好みか尋ねた。すると彼は、意外な言葉を口にした。

「理想を言うなら、秋葉原のメイド喫茶に勤めているウエイトレスのような女の子ですね。『お帰りなさいませ〜ご主人様!』とか言われると、『このコと結婚したい』と思っちゃうんです

彼などまだかわいい方だったが、「恐婚族」を相手にビジネスしている男もいた。ある取引先の国有出版社のイケメン社員に、「今度の春節は故郷に帰るんでしょう」と水を向けたら、こう嘯いたのだ。

春節期間中は『恐婚族』の女性相手に稼ぐんです。つまり、ボクが『疑似彼氏・婚約者』になってあげて、女性の故郷へ行き、両親を安心させる。これを1泊2日でやると、給料の2ヵ月分稼げるので、3回やって半年分稼ぐつもりです」

2010年の正月からは、「『恐婚族』を減らすためのテレビ番組」とも囁かれた『非誠勿擾(フェイチェンウーラオ)』(直訳すると「本気でないなら構わないで」)が、江蘇衛視の週末のゴールデンタイムに始まった。司会は当代きってのエンターテイナー・孟非である。

非誠勿擾』は、たちまち国民的番組に成長した。周囲の中国人たちも週末の夜は、この番組を観て過ごすようになったため、中国人との会食ができなくなった。そこで私も観たら、これは日本のかつての人気番組『プロポーズ大作戦』(1973〜’85 年まで放映されたバラエティ番組)のパクリではないか⁉

ただ、日本の本家と異なる点が二つあった。一つは、『プロポーズ大作戦』のメインコーナーの「フィーリングカップル」は、男女5人ずつだったが、中国版は女性24人に対して、男性はたった一人!すなわち女性たちが青年を取り囲んで質問攻めにし、青年のことが気に入らない女性から降りていくのだ。複数の女性が青年を気に入れば、攻守逆転して、今度は青年が女性たちを品定めしていく。

もう一つは、晴れてカップルが誕生した際に、ゲストの社会学者らが、「結婚生活の素晴らしさ」などを説くことだ。「恐婚族解消番組」と言われるゆえんである。私はその後、この番組の収録風景をスタジオで見学させてもらったが、2時間の番組を10時間もかけて撮っていて、さらに教育的要素の発言が多かった。

 

それでは「お化け番組」によって、「恐婚族」は雲散霧消したのか?コロナ禍になって自宅でヒマしていた2020年、久々にインターネットでこの番組を観て、仰天してしまった。孟非が深刻な顔つきで、こんな発言をしていたのだ。

「ある統計によれば、2008年と2016年を比較すると、『恐婚族』の割合は、22%から66%に増加。また国家統計局と民政部の統計によれば、2019年の全国の結婚登記者数は947万組で、初めて1000万組の大台を割りました。私たちは今時の若者たちの結婚問題を、考え直さねばなりません」

ゲストも、こう解説していた。

「過去には結婚というのは、一種の倫理的な関係を規範としていました。ところが新旧の観念が並立している現在では、新たな倫理規範の出現が待たれているのです。そんな中で、ますます多くの人たちが『恐婚族』になってしまうというわけです」

このように、同番組でも「恐婚族」の増加にさじを投げてしまった感があるのだ。

実際、他にも恐るべき統計が、2021年5月に発表された。中国は10年に一度、西暦で末尾がゼロの年に、全国的な人口調査を行っている。2020年秋に第7回人口調査を実施した結果が出たのだ。

この時、習近平政権は「共産党の指導によって平均寿命が10年前の74.83歳から77.93歳へと3歳以上も伸びた」と強調した。だが、私は別なデータに着目していた。それは、平均初婚年齢と初婚人数だ。それぞれ、以下の通りだった。

平均初婚年齢 2010年 24.89歳(男性25.75歳 女性24歳)
       2020年 28.67歳(男性29.38歳 女性27.95歳)
初婚人数   2010年 2200万9000人
       2020年 1288万6000人

10年で急激な変化が起こっていることが分かるだろう。北京や上海だけでなく、農村部も含めた初婚年齢は4歳近くアップし、初婚人数は4割以上も減ったのだ。世界最大の人口大国は、この先どうなっていくのだろう?

いや、救いもある。それはまたもや日本に関係するものだ。

私の知人に、東京で大手中国系企業の幹部をしている30代後半の独身中国人女性がいる。先日、彼女は自分が「元恐婚族」と告白した後、こう語った。

中国でいま、女性の『恐婚族』のバイブルと言われているのが、上野千鶴子(東京大学名誉)教授の『女ぎらい』(中国語版は『厭女(イエンニュイ)』、上海三聯書店、2015年)なんです。私もこの本を読んで感銘を受け、その後、上野教授の著作を片っ端から読破しました。

『結婚とは、「一瞬が永遠に続く」という妄想である』
『結婚の定義とは、自分の身体の性的使用権を、特定の唯一の異性に、生涯にわたって、排他的に譲渡する契約のことである』

まさに名言ではないですか。私は上野教授の本に出会って、『恐婚』を克服できました。女性が独身でいることを、誇りに思えるようになったのです。
いまでは周囲にも、『バイブル』を薦めています」

思えば日本は、中国政府から何かとお叱りを受けることが多い。だが、「恐婚族」の男性にも女性にも、そこはかとなく「癒し」や「救い」を与えているのである。

中国よ、汝の敵(日本)を愛したまえ!

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