習近平はモンゴル帝国の歴史を知らない

チベットもウイグルもモンゴルも『漢民族』にしてしまおうとしている

 

宮崎正弘の国際情勢解題」 
    令和五年(2023)10月31日(火曜日)
        通巻第7982号 
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 ウクライナ税関。「援助物資の三分の一が消えた」
  ショイグ報告は西側の戦況分析と百八十度異なっている

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  書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIEW 
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 チベットとモンゴルを支配し、ウイグル民族の抹殺をはかる中国
  ネオ・ユーラシアニズムを唱えるロシアと同様に「モンゴル帝国再現」が目標だ

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宮脇淳子『ロシアとは何か』(扶桑社)
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 いきなり度肝を抜かれる。
 日本人がイメージしたシルクロードは「月の沙漠をはるばると」と浪漫の薫り高き、夢に溢れた旅である。駱駝の隊列、キャラバンサライ、葡萄、陶磁器、異文化の交易品、鄭和とマルコポーロ。。。。。。。。。
 井上靖らが描いた西域は、行ってみると核実験の被爆地だった。中国はその事実を隠蔽して、敦煌、楼蘭などの観光ブームを作り上げた。「西遊記」の撮影に行った夏目雅子は原因不明の病で早世した
 「一帯一路はシルクローではなく、モンゴル帝国の再現がねらいだ」と宮脇さんがいう。従来の地政学の思考範囲を超えた立体的な歴史解釈である。
 もとより宮脇さんは「世界史はモンゴルからはじまった」と唱えられて、モンゴルの文献を調べ、そのためにはロシア語も学び、女真族、満州続の研究に余念のない学者だから、モンゴル史などほとんど知らない者にとっては、ボタボタと目から鱗の連続なのである。
 「習近平は『モンゴル帝国の最盛期を自分の手で再現する』というプロジェクトとして、一帯一路を進めているのです』(164ページ)

 ところが習近平はモンゴル帝国の歴史を知らない。過去の歴史の教訓など踏み込んで習ったこともない(そもそも現代中国に客観的な歴史書はない)。チベットもウイグルもモンゴルも他民族の言語、宗教、文化には寛容だった。
 しかし習近平の描く『シルクロード』構想とは 「チベットもウイグルもモンゴルも『漢民族』にしてしまおうとしている」(中略)「モンゴル帝国の広大さだけに目がくらみ、モンゴル帝国の寛容性の意味がどれだけ理解されているか心許ない限り」(172p)

 なにしろチンギスハーンも中華民族にしてしまった。評者(宮崎)は、パオトウの南、オルダスからさらに南へ一時間半ほど、タクシーを雇ってチンギスハーンの御陵に行ったことがあるが、宮脇さんに訊くと「あれも偽物」だそうな。
 さて意外なことにモンゴル研究に突如熱心に取り組み始めたのがアメリカなのである。
 発端はアフガニスタン戦争で「かつてこの地も支配したモンゴル人がいかにして少数で多数の異民族・イスラム教徒たちを支配して、帝国を隆盛させたか」に異様な興味、というよりアフガニスタン攻略を目的に研究しはじめたのだ。(190p)
 結局、ロシアもアメリカもアフガニスタンを従わせることが出来なかった。そのアフガニスタンに熱意をもって異常な接近をみせてきたのが習近平政権である。世界が批判するタリバンに平然と近づいている背景には、壮大なシルクロード(即ちモンゴル帝国の再現)があるわけだ。

 一方、ロシア(それこそ本著は「ロシアとは何か」の研究である)は、ソ連崩壊後、アイデンティティを喪失した。
「ルーシ」と「ラシアニアン」という新しい概念(『漢族』と『中華民族』の差違に似ている)に基づくナショナリズムが台頭し、思想家ドゥーギンが代弁する(ドゥーギンは娘が爆殺されたが、あれは身代わりではなく、最初からネットの女王だった彼女がターゲットだったというのは佐藤優氏だが、これは余談)
 ロシアの唱える「ネオ・ユーラシアニズム」なるものの概念も『大ロシア帝国』、すなわち「モンゴル帝国の再現」を狙っているのだとする。
 極めつきにユニークな歴史書である。

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