贋・明月記―紅旗征戎非吾事―

中世の歌人藤原定家の日記「明月記」に倣って、身辺の瑣事をぐだぐだと綴る。

「硝子のハンマー」

2005-05-20 21:29:58 | Weblog
貴志祐介「硝子のハンマー」を読んだ。
いささか遅ればせの感があるが、やっと読む機会を得ることができた。

お話しの筋には触れない。
密室殺人物のミステリである。

少しネタバレになることを書くので、未読の人は要注意。

今時めずらしい物理的トリックである。
あれが本当に可能なのかどうか、高校時代、物理がまったくわからなかった者としては、なんとも言いようがない。
どれほど物理がわからなかったかを書き出すときりがないので、そちら方面には触れない。

読後感は、あまり良くない。
ミステリとしては上質であるが、いわゆる「後味」が悪いのである。

探偵役の2人の推理合戦はおもしろいのだが、その2人にあまり感情移入できない。
特に、セキュリティコンサルタントの探偵役。
書評類を見ると、なかなか魅力的な探偵役だというような評が多いのだが、そうした見方は疑問。
あの性格は、ちょっと屈折しすぎではなかろうか。

犯人には同情するが、やはり感情移入はできない。

正直言うと、コワイのですね。
探偵(セキュリティコンサルタントの方)も犯人も。
犯人がそうした犯罪を犯さねばならなくなる原因を作る人が、もちろん一番コワイのだが。

読んでいる途中で、自らの「小市民性」を苦く自覚させられる。

「後味」が悪いのは、考えてみれば、当然かも知れない。
貴志祐介というのは、「黒い家」「天使の囀り」「クリムゾンの迷宮」を書いた人だもの。
悪意・恐怖を本当にうまく描く作家である。
その作家が書くミステリだから、名探偵が鮮やかに事件を解決して、「さっぱり」感にあふれるなどということがあるはずはないのだ。

「後味」の悪さは、小説としてはうまくいっているということなのだろう。