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楽我喜帳

日々是遺言〜ブログは一人遊びの備忘録〜
ブログネーム啓花

ショート・ショート「中年男の夢…いつかTea for two」

2009-08-21 | 創作【アーカイブ】
「中年男の夢…いつかTea for two」



オレは女房とニ男一女を持つ平凡な中年男。絵画教室で絵の講師をしている。立場上その絵画教室が入っている事務所の職員を兼務している。息子たちは大学生、高校生となり自分勝手に行動している。娘も小学六年ともなれば、おやじをうっとおしがる。ほんの数年前までは「お父さん、お父さん」とまとわり付いてきて可愛かったのに、今じゃ「お父さんと一緒に出かけたくない」ときたもんだ。女房に至っては何も言うまい。たまの休みに家にいようものなら「片付かないからさっさと着替えてジョンを散歩に連れてってよ」なんてオレを追い出そうとする。挙げ句、娘とオシャレして外出してしまう。

「昼飯はどうすんだよ?」

「店屋物でもとるかコンビニで買って食べてよ」

そう言い残して女房と娘はいそいそと出かけて行ってしまった。

そんなオレだが誰にも言えない楽しみがある。それはパソコンだ。パソコンにはちょっとうるさい。組み立ても自分でやってしまう。自分で作ったパソコンが何台も家を占領して、女房には「この粗大ゴミをどうにかして」と言われている。だが、やめる気はさらさらない。自分のホームページも作っている。ホームページでは自分が今の自分以外の者になれるからほっとする時間なのだ。

ある日、パソコンを開いてネットサーフィンをしていたらとても可愛らしいホームページを見つけた。早速そこを訪問してみた。内容もなかなかの出来栄えだ。

「ン?! どこかで見たような写真と文だな」

そこにはオレの絵画教室に絵を習いに来ている生徒で、定期的に通信を送ってくれる子の写真と文が載っているではないか。

「そうか、これはあの子のホームページなんだ?!」 

オレはオレとはわからないふりをして彼女のホームページにカキコミをした。彼女からもオレのホームページにカキコミがあった。オレは彼女をはじめ職場の同僚にもパソコンができないと思われているから、こんなことをやっているのがオレとは彼女にはわからないだろう。何だか楽しくなってきた。

彼女は人妻だが、少女のような面影を残し、可愛い。それでいてなかなかクレバーなところもある。彼女にとってのオレは「おにいちゃん」的存在なのだが、オレは彼女のことを「妹」以上に愛しく思っている。ネット上の文字だけのつきあいなら誰にもわからないし、迷惑もかけない。彼女のことを大切に思うが故に、本気でフリンをしようなどとは思っていない。そんな勇気もこのオレには持ち合わせていない。だが、これは「心のフリン」だろうか。オレだって一応ノーマルな男だから、目の前に美味しそうなご馳走がならんでいたら戴きたくなる。それが男の本性というものだ。

いつか彼女にオレのことをばらしてしまおうかな。あのホームページ作成者がオレだってことを。

そしていつの日かふたりでお茶を…そんなことを夢見て今日もパソコンを開くオレであった。



離れていてこそ恋、別れていてこそ恋なのかもしれない。

逢ゑばこそ君への思ひ深くなり 逢ゑない夜に枕濡らして

                   

【おわり】


By 莉梨花(りりか)
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