アーサー・ランサムの「ツバメ号シリーズ」6作目。1936年の作品。
今年は、ウォーカー家の一番下の妹のブリジッドが百日咳にかかったため、お母さんがハリハウに来るのが遅れる。そのため、ウォーカー兄弟はナンシィたちの家であるベックフットに泊まることになった。
そこにはD兄弟もすでに来ており、総勢8人の子どもたちが集まったことになる。
そこで何をするかというと、今度の冒険は“採鉱”である。
実は、ジムおじは南米のブラジルまで金を探しに行って失敗し、今は船で帰路の途中という。
そこでナンシィは、ジムおじがまた大事な夏休みの間に、どこか外国に金を探しに出かけていかないように、丘陵地帯のここハイ・トップスで、金を見つけようと言う。
発案は、どうやらナンシィのお母さんのミセス・ブラケットらしい。
というのも、かわら屋ボブが語る、昔から伝わるこんな話があるからだ。
戦争前に若い政府の役人が昔の廃鉱を調べていて、金の鉱脈を見つけた。しかし、そのタイミングで戦争が勃発した。予備役の軍人だったその若い役人は、「金の分析もあるから」とロンドンに引き返したまま、二度ともどってはこなかった。かわらやボブは、その役人からおおまかな場所は聞いていたが、正確にどこかは聞いていなかった。
「向こうの山の上だよ。リング・スカーの向こう側さ。なんでも、掘りはじめてすぐにすてられた水平抗だったそうだ。その浅い穴の奥でみつけたんだそうだ。ハイ・トップスに登って。
あの人は言ったな。『岩の割れ目にヒースが生えているから、すぐみつかるよ』ってね。地図にはちゃんと番号がついてた。しかし、ハイ・トップスにゃあ、昔の坑道はいくらでもあるし、岩の割れ目って割れ目にゃあ、ヒースが生えている。あんたがたが、ちょうどその場所に行きあたったとしても、ここがそうだとは、わからないかもしれねぇな」
8人の子どもたちの冒険が始まる。
この『ツバメ号の伝書バト』はいくつもの流れが重なって、物語が進んでいく。
一つの謎がある。ジム伯父が「よろしくたのむ」と送ってよこしたアルマジロのティモシィが、いつになっても到着しないのだ。この謎は、張り紙のように物語の背景に張り付いている。しかし、それはそれとして、物語は進行する。
また、丘陵地帯は日照りがつづき乾燥していて、山火事が心配されている。このことは物語の通奏低音となって、流れつづける。読者は日照りに関して、8人の子どもたちと同じように歯がゆい思いをしなくてはならない。
ティティの水脈占いの話もある。作者のランサムは、ティティの心の中に入り、その揺れをとらえる。
繊細で心優しい、それでいて勇気ある女の子のティティは、先がふたまたに枝がわかれしているハシバミの枝を手に持って地面に掲げ、枝のねじれを感じることで、地から湧く泉を発見する。
ティティだけが、手に持っている枝がねじれるのを、他の子どもたちも見た。実際、その場所を掘ってみると、水が湧き出てきたのだから不思議な話である。
その時のティティの戸惑いや、恐れ、葛藤、小動物ハリネズミと心を通わすシーンなどは、物語に深みを与えている。
なぜ、水脈占いまでして泉を見つけたいのかは、本を読んでのお楽しみである。
地質学者然として活躍するのはディックである。百科事典や『フィリップスの金属学』(ジムおじの書斎にあった本)などの専門書を読み、どのように採鉱するのか、金を精製するのかといった方法を他の子どもたちに示す理論派である。
原書のタイトル『PPIGEON POST』が示すとおり、伝書バトが重要な働きをすることも、忘れてはいけない。
物語はそもそも、伝書バトを飛ばして通信するところから始まるのだ。
こうして、いくつもの流れと、子どもたちの日々の活動(冒険)が合流して、物語はとてつもなく面白く展開していく。
はたして子どもたちは、金を発見できるのか?
ユーモラスな仕掛けがある。笑っちゃうのだ。
優れたプロット、いくつかの謎、そしてスペクタクルな大団円。
8人の子どもたちがこんな夏休みを送っているのが、すごく羨ましくて、自分の置かれた環境と比較してしまい、がっかりするが、そういうことではない。
物語の中の子どもたちは、あたかもそれが現実であるかのように冒険するけれども、作家の創造した世界での出来事だ。
しかし読者は、物語を読み進むことで、現実に、ともにわくわくしたり、ドキドキしたり、泣いたり笑ったりする。そうすることで、イメージの中で冒険をさせてもらっている。
冒険しているのはまさに、読書をしている自分。
そういう意味で、物語というのは、作家からのかけがえのないプレゼントである。この本を読むと、実にそう思うのだ。
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サラ☆
ryuji
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