「かばん」はマシューとアンが、はじめて対面したシーンに登場します。
マシューは孤児院からやってくるはずの男の子を迎えに、馬車で駅に行きます。
でも、そこにいたのは女の子。つまり、赤毛のアンです。
そして、そのときアンが片手にさげていたのは、「みすぼらしい古ぼけた手さげかばん」でした。
はにかみやで女の子が大の苦手のマシューは、「遅くなって悪かったね。さあ、おいで。あっちの庭に馬が置いてあるからね。そのかばんをよこしなさい」とアンにことばをかけます。
それに対し、アンは元気よくこう答えました。
「あら、あたし、持てますわ。この中には、あたしの全財産が入っているんですけれど、重くはないの。それに、特別のさげ方をしないと柄がはずれてしまうのよ。だからあたしが持ったほうがいいんです。そのこつを知ってますから。これ、とても古いかばんなのよ」
(『赤毛のアン』新潮文庫・村岡花子訳)
ノヴァスコシヤの孤児院から、船と汽車をのり継いでやってきたアン。その古いかばんは、「アンの過去」の象徴。とも考えられます。
特別なさげ方をしないと、柄がはずれてしまう。持つのにはコツがいるかばん。
そう元気に説明するアン。
物事に現実的にとらえて対処する、生き生きとした力が感じられませんか?
もっとも、キーワードというには、たぶんに私的な見解かも。
以前にカタログかなんかでかばんのコピーを書かなくちゃいけなくて、それでアンのこのシーンを借りて、かばんについて語ったことがありました。
でも、初対面のおじさんに、かばんの持ち方の説明をするこのシーンから、赤毛のアンの物語は動き出すと、わたしは思っています。
はじまりのシーンです。
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