サラ☆の物語な毎日とハル文庫

ムーミンと、島暮らしのトーベ・ヤンソン←「鈴木ショウの物語眼鏡」

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 ムーミンと、島暮らしのトーベ・ヤンソン

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去年はムーミンの作者トーベ・ヤンソンの生誕100周年にあたるとかで、
雑誌の特集やら、展覧会でずいぶんとにぎやかだった。

日本ではテレビのアニメで放映されてもっぱら人気となったムーミン。
僕もムーミン・アニメを子どものときに見ていた。
主題歌「ねえ、ムーミン」の歌い出しは、いまでも忘れられない。

じつはずっと、トーベ・ヤンソンというのは男とばかり思っていた。
ストーリー展開の少し乾いたところや、ナンセンスなところが女の子っぽくないこと。
さらに名前の印象からして、てっきり男性が書いた作品だと思い込んでいた。

トーベ・ヤンソンはムーミンの物語を9冊書いているが、書籍のほかに、1954年から
イギリスの新聞『イヴニング・ニュース』でムーミンのコミックを連載している。
このコミックで世界的な人気に火がついたのだとか。
へー!…である。

ということで興味を覚えて、去年ムーミン展に顔を出し、
95パーセントの女性に混じって、ヤンソンの絵をじっくり見てきた。
そのときに手に入れたのが、『ハル、孤独の島』というDVDだ。

フィンランド湾の群島地域にある孤島での、ヤンソンの夏の暮らしを
8ミリカメラに収め、編集したドキュメンタリー。

ヤンソンは、30年近くにわたり、夏はこのクルーヴ・ハル(通称ヤンソン島)で、
パートナーのグラフィック・アーティスト、トゥーリッキ・ピエティラと過ごした。
(ちなみにトゥーリッキも女性である。)
ガスも水道もない、周囲を歩いて一周するのに8分もあればいいという小さな岩の島。
自然と孤独と作品を生み出す情熱。
そのなかで、ムーミンの作品のいくつかも生まれたのだという。

そもそも、夏には何ヶ月も、不便な島を借りて、
大自然の中の生活を楽しむというのが伝統的な北欧人のやり方だそうだ。
ヤンソンは子どもの頃から、夏は島で過ごすのが習慣だった。
幼い頃は、祖父母の別荘があったスウェーデンのブリード島。
子ども時代は父母とともにフィンランドのペッリンゲ島で夏を過ごしてきた。
だから島暮らしは、ヤンソンの血管の中に流れている
血液とは別のエキスのようなものだったのだろう。

DVDのナレーションで、ヤンソンの脚本が読み上げられる。
「日本でコニカの8ミリカメラを手に入れた。
ペッリンゲ群島のグロスホルムから西に長く連なる無人の岩礁群がある。
海底が隆起してできた島だろう。
岩礁群の端に近いクルーヴ・ハルが、私たちが気に入った島だ。
私たちはおよそ25年の間に、世界各地へと旅に出たが、
夏には私たちの島に戻るという生活を続けた。…」

全長4メートルのボート、ヴィクトリア。
地下室もある1DKの小屋。
四方に窓が開いていて、それぞれの窓から違った景色が望めた。
ホンダ製の発電機があり、プロジェクターで映画をみることもできた。
場合によってはヘリコプターも飛来する。
黒猫がいっしょに生活している。
毎日釣りをして、魚が主食。
トイレは島の縁で、そのまま海の水で流してしまう。
客人も多く、ヤンソンらはテントに寝て、客人を小屋に泊めていた。
島では、だいたいはテントに寝泊りするのが習慣だったが、
それは、朝起きたらすぐに仕事や作業を始めたいから。
そのために、小屋の中をきちんとしていたかったのだ。
何しろ一部屋しかないのだから。

北欧では特別なことではないとはいえ、
これほど海という自然と向き合う生活も珍しいかもしれない。
老女2人がである。
作家であり画家でもありコミック作家でもあるヤンソンと、
グラフィック・アーティストのトゥーリッキ。
なんとも不思議な二人組。

ムーミンの向こうに、ヤンソン自身の物語世界がいくつもの顔を見せている。

ムーミンは、アンデルセンやグリム同様、普遍化されていくだろうと思う。
もっとも北極圏に近い、サンタクロースの国のフィンランドが生まれた物語。
多分、フィンランドには本当にムーミンがいるのかも、と子どもだったら思うんじゃないかな。

【見つけたこと】自然を抜きにして物語は語れない。自然は「生きること」と同義語だから。
物語の登場人物が物語の中で生きているからには、自然はそこにあるはずなのだ。
自然と物語は切っても切れない。強力なボンドか電磁石で張り付いているのだ。
作家が自然に親しむのは、当然のことかもしれない。
逆に言うと、自然を自分の中に取り込んでいなければ、物語作家にはなれない。

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レディバードが言ったこと
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「トーベ・ヤンソンは物語の島にいるわよ。
彼女自身、人と妖精のハーフみたいなものよ。
だから、あなたたちの世界でも、限りなく自然に近いところで生活する方法を選んだんだわ」
とレディ・バードは言った。

「ふうん」と僕。

「ムーミンの世界を描くために、人の世界に行ったのね」
とさらにレディバードは言う。

「ムーミンって、本当にいるの?」

「いるにきまってるじゃない。作家が描いたのよ。
物語の島にちゃんといるわよ。ムーミンパパもママもミーもスナフキンもみんなね」

「へー、楽しそうだな」

「あなただって本を読めば、そこにいけるわよ」
そう言うと、レディバードは「ほらっ」という顔をしてにっこり笑った。

 

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