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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

レムリアの記憶 第一章 <最終話>

2013-06-04 09:04:50 | 『日常』


結局、あさまでやってしまって。目覚ましのアラームで気がつく。
ベッドの上にある小さな机の前に座っていることを思い出した。
曲を何度も作り直し、何度も見直して。
それでもまだ完成していない。今日学校休んで作ってしまおうか。
とおもったけど、今日のグループ討議で会えるかもしれないから。
眠い目をこすりながら食堂へと出て行く。

「やれることを思いついたか?」
父親が暖炉の前に座って、火を扱いながら聞いてきた。まだ寒くはないが、父親は火をつけるのが好きらしく。よく暖炉の前に座って火を燃やしている。
「時間がないのがキツイ。」
「時間は、自分の意識でいくらでも変化する。がんばれよ。」
そう言って背中を叩いてくれた。
食事は適当に済ませて早めに学校へと出る。
流石に早くに出たのでサラッティはまだ居ないようだった。
と思ったら、
「もう、いきなり全力で走っていくから声かけられなかったじゃない!」
と言いながら追いかけてくる。どうやら、僕の集落の前で待っていたようだった。
「なんで、今日はまってるの?」
僕が聞くと
「セティファムのこと、どうなの?何かわかった?」
「3日・・・いや昨日そうだったから、あと2日後にはセティファムは別の街で生活していいる。それがわかった。」
「え、それなに?急になんで?」
そうか、サラッティたちはまだ聞かされてないのか。
それで、僕はかいつまんでセティファムのことを話した。それを聞いて
「あなたは、本当に、察しが悪いというか・・・。優柔不断としか見えないような行動をとるのね。セティファムが泣くわけだわ。」
と言ってため息をついていた。

「それじゃ、今日は討議の場で会って話すってこと?」
「そのつもりだけどね。」
「私も学校であったらちょっとこないだのこと謝っておくわ。」
「それは僕から先に言っておくよ」
「ううん。これも私のやったことだから、そっちの対応はさせてよね。」
と言ってサラッティは僕の横に並んできて
「ライバルがこれでき消える、と思って私は喜んだりしてないからね。」
と言ってくる。
「べつに、サラッティがそういうこと考えるとは思ってないよ」
「じゃあ、どういうふうに思っていると思っているの?」
「それは・・・・・。クラスメイトが減ってさみしい?」
「・・・・・バカ。本当にそう思ってんの?」
「うーん。それ以外に、僕を独り占めできると思っている?」
「うぬぼれないで。アレットは本当に女の子のことわかってないのね!」
「そう言われるとそうだけど、そんなにハッキリ言わなくてもいいじゃないか。」
「いいわ、セティファムが引っ越したあとは、私が女の子についてみっちり教えてあげる」
「それは付き合うということ?」
「貴方のそういうところ、直してあげるわ」
といって笑っている。その笑顔は、僕が歌を作ってあげた時のような、とても素敵な笑顔だった。

そして、学校について。
教室ではシェラがまたフッテロットとやり取りしているところを見かける。
「相変わらず、仲いいな。」皮肉を投げてみると
「そうなんだ、俺たち、すっごい仲いいんだぜ」
と言って素直にのろけてきた。
やれやれ。
あの旅行のあとから、このようにペアになってそのまま仲良くしている男女も結構いて。
いろいろなところで端末の前でにやけている奴らが転がっている。
まったく。そういうモノに意識を向けすぎるといろんなものを見落としてしまいそうだが。

同じクラスのメンバーは、意外と男女関係になった人たちはおらず。シェラたちのクラスはほとんどそのまま仲良くしているらしい。
これも男子側の性格にもよるのか。
うちのクラスはマニアが多いからなぁ。

ふと端末を見るとサラッティからメールだ。開いてみると学校にはセティファムが来ていないということだった。そして、
今日もこないって?そんなに引越しの用意が忙しいのだろうか?
そう書いて送ってみると、「引越しは明日だって!」と返事が帰ってきた。
そうか、2日後に別の街、ということは明日の夕方か午後には移動するってことじゃないか。
うっかりしていた、歌を作る時間は今日しかないのか。
学校にいるときに端末使ってそういうことすると直ぐに先生にバレるので。
居るあいだは作業ができない。早く学校を終わらせて家に帰らないと。

今日はグループ討議なので、アララとライレットと合流する。
そこにはいつもいたセティファムがいない。

「セティファムから、メールでデータが全部送られてきたわ。それをシェアするわね」
そう言ってライレットは僕とアララにそのデータを送ってくれる。
おや?髪の毛にはアララの買っていた髪飾りがちゃんとついているじゃないか?
アララを見ると、ちょっと笑ってうなづいた。そうか、うまく行ったのだな。
とはいえ、今の態度はいつもと変わらない。今までと何も変わってないような感じに見えるが、二人の関係は新しい段階に入っているのだろうな。

送られたデータを見ると、かなりまとめてあって。セティファム担当の部分がわかりやすく資料も整理されている。
「今回は、セティファムが急に明日には引っ越すことになったから。3人でこれまとめないといけなくなったわ。だから、今日はその担当決めが主よ。」
といってライレットは言う。そして僕を見て
「特に、アレットは頑張ってよね」
と言ってくる。
旅行中の事件は女子のあいだには広く伝わっているみたいで。
僕が「セティファムを泣かせた」ということになっているらしい。これはシェラから聞いた話なのでフッテロットのフィルターも入っているだろうけど。
ライレットの目は「責任とりなさいよ」的な力が入っている気がするけど。

グループ討議である程度まとまってきて。とりあえず終了するときにライレットに聞いてみた
「なぁ、女子はなんかするのかい?」
「何かって?」
「お別れ会みたいなの」
「するわよ」
「いつ?」
「明日、みんなでセティファムの家にいって見送るの。時間も決まっているわよ。」
と言って僕をじっと見て
「聞きたい?」
と言ってくる。聞きたいに決まっているだろうに。


そして、時間を教えてもらって。
僕は飛ぶようにデシックルに乗って家に戻った。
もうスペースシードの収穫も終わり、僕らの食べる部分の刈り取りが始まっていた、ところどころモザイクの用に刈り取られた畑のあいだを、僕は猛スピードで走っていく。
空の羊雲も、かなり高いところを流れるようになってきていた。
セティファムと一緒に並んで歩いた、そのときを思い出してしまう。
いつもの日常が変化してしまう。
そういう世界に僕らは生きているから、今の瞬間を大切にしていかないといけない。
父親はそう僕に言ってくれた。

今感じているこの感情を、歌にしてしまおう。

家に帰ると、母親に食事は適当に食べるからいい、ということを伝えて。
携帯食をもって部屋にこもった。

その時に父と母が顔を見合わせて笑っていたけど。

僕はそれから、ずっと歌を作っていた。
朝が来たのも気づかずに作っていたらしく、「今日は学校いかないのか?」というレル姉の声に「今日は調子が悪いから行かない」と適当に答えておくと
「そうか、聞かれたらそう答えておこう。セティファムの引越がショックで寝込んでいるって言ってやるよ」
と言って笑いながらレル姉は仕事に出て行ったようだった。
まさか本当にそんなことは言うまいが。

セティファムの出発する時間まではもうすぐだ。
僕の歌ももう少しで完成する。なんとかあと少し。こっからデシックルだと30分くらいかかるから、その分早くしないと。

曲の流れを作り込む、端末に流れるメロディラインがまとまっていく。
それをチップへと落とし込む。

時計を見ると予定の時間を過ぎている。メールで送るにはデータを圧縮している時間が無い。直に行ったほうが早いか。
急いで外に飛び出すと、そこには父親が待っていた。
「ほら、乗っていけ。デシックルより早いぞ」
そう言ってデシロックルの運転席に座っている。重力装置の唸りも聞こえるので直ぐに動ける、いつでも走れる状態だ。
「ありがとう」
そう言って僕が乗り込むと
「一気に飛ばずぞ。」
と言って父親がスロットルを開けた。

助手席で僕は端末を開いた。
そこにはセティファムが僕のメールを開封した知らせが入っている。
それをクリックして開くと、そこにメッセージも入っていた。セティファムからだ!

「ごめんなさい。家に戻ったら引越しの準備で忙しくて、メールに返事できなくて。
もう知っていると思うけど、私は今日引っ越します。
また詳しいことはメールするね。」

と簡単な文章が書いてあった。相変わらずのそっけない文章で、セティファムの気持ちについては一切書かれていない。
あのことについて、どう思っているのか、それを知りたかった気がする。
でも、セティファムはそれについては語りたくないのかもしれない。
僕がそう思っていると、数行あけて最後の一文が目に入った。

「歌、聞きたかったな。」

それを読んで、僕は直ぐにメールを送った

「今、運んでいる!」

ギリギリまでかかったこと、僕の想い、それをメールに書き込み、送る。

返信がくるまでの時間がやたらと長く感じる。
今は助手席で移動中に歌のデータを圧縮している。
もしも手渡しできなかった時のためにと思って。
曲のデータ圧縮が終わり、メールで送れるようになったくらいで着信音が鳴った。

来た!
フォルダを開くとそこには、

「待ってる」

それだけの返事が帰ってきた。
僕はチップを手に握りしめた。すぐにでも渡せるように。

父親の運転するデシロックルは飛ぶように走り、目的の集落に到着した。
そこにはセティファムを見送るために女子が集まってきていた。
そこをかき分けて僕は前に進む。

周りに女子がいて近づきにくい。人の輪の外から中に入ろうとすると、
「そこあけてあげて。アレットが来たから。」
とサラッティが声をかけてくれた。
それを聞いて、皆がスッと道を開けてくれる。「やっと来たわね」とはライレット。アララにもらった髪飾りは今日も身につけているようだった。
何度か同じグループになったことのある女子は、僕の肩を叩いたり、背中を叩いたりしてくれる。
「頑張って!」ひときわ強く背中を叩いたのはスレッタだ、縦ロールの髪を揺らして笑顔を向けてくれる。しかし、体格がいいので力も強いが。
僕は前のめりになりながら前に押し出された。

そして、僕はセティファムの前に立つ。

褐色の肌に白い髪。
僕は手に握りしめていたチップを差し出す。かなり汗ばんでいたのに気付いて、服で拭いてからもう一度差し出した。
「これ、僕の気持ちだから・・・・。聞いてくれると嬉しい」
そう言うと、セティファムはチップを手に取って微笑んだ。

「ちゃんと間に合ったね」

「約束していたから」

というと、セティファムは僕に抱きついてきた。周りから黄色い声がおこる。
固まっている僕の肩に顔を乗せて囁いてきた。

「もう、こんな気持ちは嫌。だから言う。」

そう言ってセティファムは体を離して僕の顔を見て。

「私はあなたが好き」

まっすぐ見つめられてそんな風に言われると、僕に返す言葉は一つしかない
「僕も、そうだよ」

そして、またしっかりと抱きついてきた。僕は、今度はそれを受け止めることができた。
女子からはめちゃくちゃ冷やかされてしまったが、そんなことは関係ない。

サラッティが横に来て。
「セティファムが居ないときは、私がアレットの面倒見るわよ」
と言うと、セティファムは僕をしっかりと捕まえて。
「勝手に取らないって約束してくれる?」
と言う。取るとかそういう話じゃない気がするが

「勝手には取らないわ。取るときは、ちゃんと許可をもらってとっちゃう。」
そう言ってサラッティは笑っている。セティファムも微笑んで。
「じゃあ、これから毎日サラッティにメール送るわ。勝手に取られないように」
「じゃ、こっちもアレットの情報送ってあげる。ちゃんととってないこと教えてあげるから」
そう言ってふたりは笑いあった。

時間になって。セティファムは移動用の大型デシロックルへと乗り込む。
タラップを数段登ってから、その時に僕に振り返って
「そうだ、忘れ物があった。」
と言って一段降りてきて僕を呼ぶ。近づくと
「・・・!」
柔らかい感触が唇を覆い、花のようないい香りが漂う。
いきなりキスをされたのだ

僕があっけに取られて、何もできない。
次の瞬間、まわりが盛り上がっていた。
「サラッティより先に、こっちはもらったわよ。」

そう言って笑って言った。
僕の顔を見てもう一度微笑んで、白い髪を揺らして振り返り軽い足取りでタラップを登っていった。
僕の唇にはまださっきの感触が残っていた。

サラッティが横に来て僕をじっと見て。
「ま、それくらいのハンデはないとね」
と言う。

窓にセティファムの姿が見えると、皆で手を振ってその姿が見えなくなるまで見送った。
秋の収穫も終わり。空も冬の気配が広がってきていた。
薄いオレンジの光が高い空にある雲を染めて、その光を窓に反射させてデシロックルが走っていく。

ちょっととなりの街だから。いつでも会おうと思えば会いにいける。
それに、端末もあるんだし。
さっき窓越しにセティファムが見えたとき、端末にチップを差し込んでいるように見えたけど。
早速聞いてくれているのだろうか。

この穀倉地帯の風景を見ながら。空の色を見ながら。
僕の歌を聞いてくれると嬉しいと思う。

そのあとすぐに来たメールに書いてあったのは、あの旅行のあとからのこと。
旅行中に既に引越しの日を知らされていて。そのことを話そうと思っていたのにサラッティから歌の話を聞いて。それで顔を見たくなくなったから、伝えるのが遅くなってごめんなさい。
という内容だった。
その理由を作ったのは僕なんだし。謝られる必要はないんだけど。

そして、最後に

「私はあなたが好きです。鈍感なアレッシュラットにはちゃんと言わないといけないことが分かったから。これからははっきりというようにする。」

と書いてあった。
それを読んで僕が笑っていると、となりで運転している父が
「どうだった?」と聞いてきた。だから僕は
「これから。」と答えておいた。

まだこれから、
やっとセティファムとサラッティとの関係もいまからスタートなんだから。
冬も近づいてくると、空の色も急速に暗くなっていく。その様子をデシロックルの窓からぼんやりと見ていた。
遠くに集落の明かりが灯り始め、空には星の姿も現れてくる。
あの星に住む人との距離に比べれば、ほんの少しの距離なんだから。



<第一部 終 >

次は大人になった主人公たちの話になりますので。
これまでの学園ものではなくて、SFものになる予定です。星の距離程の関係を今度は持ってしまうという、ほしのこえ的な展開も期待できるところですが。どうなるかはやってみないとわかりませんね。
先にちょっと書いておきますと、主人公は宇宙船乗りになって。セティファムも母親の仕事を継いで、宇宙人関係のところで働いていて。
そこで大人になった二人が再び出会うところから始まります。
基本的にこのサイクルではまだ沈みませんので。この調子で書いていくとアトランティスの時みたいに数世代の話になるかもしれませんねぇ。

第2章では大人の世界、そして大陸と宇宙人との関わりをどのようにしているのか。
レムリアと宇宙との関わりを主人公目線でまた書いていければと思いますが。
いつになることやら。

その前に比良坂ヒーリングサロンもちょっと大人向けで書いてみたい話もあるし。
いろいろ考えだけはたくさんあります。

ちなみに、この本編はちょうど100枚で終了してしまいましたね。






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