goo blog サービス終了のお知らせ 

「第18回NHK全国短歌大会」を観て

2017-03-31 22:02:03 | 日記

 

  こんにちは

  肌寒く、桜が咲こうか咲くまいか思案している三月最終日です。

  最近、初めてこんな番組を観ました。

  「第18回NHK全国短歌大会」という、短歌の全国コンクールを収録した番組です。

  わたしは短歌や俳句を作る趣味はありませんし、学校の授業で作ったことがあるといった程度な

  のですけど、どんな短歌が賞を取るのか興味があって覗いてみたのです。

  登場したのは、胸に響くいい短歌ばかり。

  さすがに、全国の47232首の中から最終的に残った受賞作です。

  また、テレビ番組としても優れた番組だと思いました。

 

  この大会は、去る1月21日に東京渋谷のNHKホールで開催されました。

 

             

  ↑司会の森田美由紀アナウンサーと選者の一人、歌人の俵万智(まち)さん。

  俵万智さんはご存知のかたもいらっしゃると思うのですけど、広告コピーのような軽い口語体の

  短歌を発表して、それまでの硬いイメージから短歌を開放した人です。

      「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

  30年ほど前に、この歌の入った俵万智さんの歌集「サラダ記念日」がミリオンセラーになり、

  若者たちの間に短歌ブームが起こりました。わたしも買って読んだ一人で、いま手元に懐かしい

  その本があります。

 

  大会は、一般の部とジュニアの部と近藤芳美賞の3グループに大きく分かれており、一般の部

  はさらに題詠(今年の題は「風」)と自由題に分かれ、この一般の部が大会の中心でした。

  一般の部は題詠と自由題合わせた21928首の中から44首がこの会場で作者と共に紹介され、

  さらに最終的に44首の中から5首が大会大賞に選ばれました。すさまじい倍率ですね。

  短歌ファンのブログで読みましたけど、最初の第一次予選を通過するのさえ大変なことのようです。

  

                       

  ↑ステージの上に並んでいるのは、一般の部で選ばれてきた44首の受賞者と選者の先生がた(現

  代歌壇の歌人)。

  受賞作が、元NHKアナウンサーの加賀美幸子さんの格調高い朗読によって読み上げられ、さらに、

  その歌を作った動機や状況などを作者が綴った短文も紹介されました。

  短歌は文字で読むよりも朗読で聞くほうがずっと生きてくるような気がします。

             

 

            

 

  加えて、司会者が作品にまつわる作者のエピソードなどを紹介し、ご本人や会場のご家族にも

  インタビューするのを聞いていますと、見ず知らずの作者の生活が分かってきて、一首の歌の

  背後には人間のドラマがあることに初めて気づかされました。

  今までそんな風に短歌を読んだことはなかったのです。

 

  一首を例にとってご紹介します。下は、一般の部の題詠「風」の受賞作です。

             

 

  歌に添えられた作者の言葉「母の介護で実家に通っています。三か月に一度は髪を切ってもらう母。

  夏を迎え、窓を開けるととてもいい風が通ります」。

 

  選者の小島なおさんの選評「まず上の句の~青葉風ぬけゆく居間に椅子ひとつ~で、まず読者に

  情景をぱっと見せてくださるんですよね。どんな場面なんだろうと想像して下の句を読んでいくと

  事情が分かってゆくんですね。下の句を読んではじめて、この椅子に座るのは高齢者で外出がなか 

  なかむずかしい、そういうかたなんだなということを想像できる。介護あるいは看護の歌であり

  ながら、まさに一首の中に青葉風がぬけてゆくような、みずみずしく爽やかな一首だと思いました。

  誰かを待つ時間というのは人生の中でとても豊かな時間なんだな、ということを教えてくれた一首

  でした」。             

             

  ↑ステージのパネルに作者が持参されたお母さんとご本人の写真が映し出されました。

  わたしの周りにもいそうなお二人です。この受賞作がぐっと身近に感じられました。

  でも、作者を知り親しみを感じることでマジックが掛かり、作品への見方が甘くなったりより素

  晴らしく感じたりすることがあればそれはいいことではない、あくまでも作品は作品、人は人

  なんだからと警戒しながら。

  そのうちに、ああ、そうじゃないんだとだんだん分かってきました。

  

  番組は受賞作を紹介するだけにとどまらず、短歌を作っている人たちの群像をも伝えることを目標

  (テーマ)にしているようでした。

  どういう人たちがどういう生活の中で短歌を作り続けてきたのか。その「みんな」を知る番組。

  むしろそちらに重きを置いているのかもしれません。

    

  その「みんな」とは、毎日何かしらの歌を考え表現することを心のより所にし、生きてゆく励み

  になさっている人々。精神生活が豊かでなければ生きづらいと切実に感じる人々。

  表現する人は特に強くそう感じる人が多いように思います。

  ほんとうに、「人はパンのみにて生きるにあらず」です。

 

  もう一首。

            

  作者の言葉「初めての風船が嬉しくて仕方がない1歳の娘。いつ割れるかとハラハラしましたが

  そんな経験も必要だと手を出すのをぐっとこらえていました。今は子育ての記録に歌を詠んで

  います」

 

  穂村弘さんの選評「そんな子供を見たら可愛いなとか危ないよとか思うと思いますけど、同時に

  なんかちょっと羨ましい気もする。あんなふわふわした風船を思いきり抱きしめたら気持いいだ

  うなと思う。でも怖いからできない。私だけではなくて大人はみんなできないと思うんですよね。

  この子だけがそれができて、でもこの子もやがてもう少し時間が経つと風船が割れることが分か

  って、それはできなくなる。自分がかってぎゅっと抱きしめたことも忘れてしまうと思う。だから

  これは今だけの行為であり今だけの時間なんだ。それを短歌に切り取ったことがとてもまぶしいな

  と思いました。とてもいい歌だと思います」

 

  この歌からそこまで連想できることに驚くばかりです。すごい想像の広がりに、歌よりも選評の

  ほうが気になって何度も繰り返し聞きました。この選評自身が詩のようだと思いながら。

  同じ歌でもわたしが読めば面白い歌だな~、でとどまり、選者がお読みになればこんなにも輝く

  歌になるものかと。読む人によって歌は生きたり死んだり。

  選評を聞くことで、短歌をどんな風に読むのか、少し分かったような気がしました。

  それは詩や俳句についてもも同じなのでしょうけど、今までずいぶん雑に読んでいたようです。

 

  ↓最後に、ランダムに受賞作を下に書いておきました。受賞作全部は書けないのが残念です。

  敬称は略します。一般の部から大賞が5首表彰されました。5首は歌の前に☆印を付けました。 

   

   <一般の部>

    君がゐる只それだけで吾がめぐりひねもす明るきひとひとなりぬ   (埼玉県 針ヶ谷乃里子)

  ☆ 甘やかで切ない風もあることを人工知能は知るのだろうか  (神奈川県 おのめぐみ)

  ☆ 綱かけて国来国来(くにこ)と引きよせる風土記のやうにはゆかぬ島島  (三重県 原真里子)

  ☆ 壁に貼る不動明王にキスできるまで背を伸ばすけふのリハビリ  (佐賀県 橋本妙子)

    人参スープのひと匙ひと匙をよろこびて赤児は小さき舌をそよがす  (茨城県 和田智子)

    決算書も名簿も飲み込むシュレッダーいいことだって少しはあった  (埼玉県 斎藤長光)

  ☆ ぶつかりておしのけもして白鳥はおりたいところにおりておちつく  (千葉県 宮尾清美)

    しあわせに暮らしたとさのとさとさを幼い肩にいっぱいまぶす  (静岡県 加藤京子)

  ☆ さみしい顔しないさみしさむらさきに暮れる世界の向こうから来る   (東京都 柳沢幹夫)   

  <ジュニアの部>   

    亡き母と私がクッキー食べているケータイ動画に「ゆいちゃん」の声  (小学六年 樋口 優衣)

    ちっぽけな等身大の筈の影夕陽に伸びて校舎突き刺す  (中学三年 上田 倫弘)

  <近藤芳美賞>

    やがて冬、シュプレヒコールのこゑかすれ世界はきれいな無となりゆかむ  (神奈川県 佐藤 薫)

 

 

            

 

                                            

                            

 

 

  

  

             


最新の画像もっと見る