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なかなか勝てない馬がいる。今日もその馬が走る。
がんばれ、と声が出る。
まなざしは、ゴールの先を見つめている。

黒部五郎岳

2020年09月08日 12時03分24秒 | 深田久弥
鷲羽岳から望む黒部五郎岳

黒部五郎は人名ではない。
山中の岩場のことを「ゴーロ」という。
五郎はゴーロの宛て字で、それが黒部川の源流近くにあるから、
黒部のゴーロ、即ち黒部五郎岳となったのである。
北アルプスには、ほかに野口五郎岳がある。
二つのゴーロの山を区別するため、黒部と野口を上に冠したのである。

初登頂されたのは明治43年1910年、
もちろんまだ道はもなく、人けもない、凄いほどの荒ら山だった。
「中之俣白山神社」
この荒ら山にも祭神が祀られ、参拝者の登ったことがあったのである。
この山が一名「中之俣岳」と呼ばれる。

私も黒部五郎岳は大好きな山である。
これほど独自の個性を持った山も稀である。
「雲の平」から見た姿が中でも立派で、
「特異な円錐がどっしりと高原を圧し、頂上のカールは大口を開けて、雪の白歯を光らせている」


黒部五郎岳の肩に着くと、眼の下が、巨人の手でえぐり取ったように、大きく落ち込んでいる。
三方を高い壁に囲まれて、いかにも圏谷といった感じである。
底から見上げたカールは実に立派である。
三方を岩尾根に包まれて、青天井の大伽藍の中に入ったようである。
すばらしい景色はどこにでもあるが、ここは他に類例のないすばらしさである。
圏谷の底という感じをこれほど強烈に与える場所はほかにない。

中村清太郎さんは黒部五郎岳を不遇の天才にたとえられた。
確かに、世にもてはやされている北アルプスの他の山々に比べて、
その独自性において少しも遜色のないこの見事な山が、多くの人に見落とされている。
しかしそれでいい。



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