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超火山〈槍・穂高〉 地質探偵ハラヤマ/北アルプス誕生の謎を解く

2021年05月22日 05時07分27秒 | 読書・地理地震


原山智/著 山本明/著

北アルプスを徹底踏査。いままでの学説を根本から覆した驚くべき真実が明らかになる!
地質の謎を解明した待望の書。

槍・穂高の山々が「巨大なカルデラの底のの三千メートルに生まれた火山灰の固まり」という正体を実際にルート登攀しながら実例を示し、今までの学説を根本から覆して解明。

第1部 地質探偵事件簿―「天空にそびえる巨大カルデラ伝説」を追う槍・穂高連峰(厚さ1500mも堆積した謎の火山岩
「厄災の山」の戦慄のプロフィール
世界記録が密かに眠る山)

第2部 地質探偵事件簿―北アルプス地質迷宮紀行(「デコレーションケーキ」のできるまで―雲ノ平と黒部川・高天原
大陸生まれの巨峰の誕生秘話―薬師岳・笠ガ岳
火山もないのに湧く神秘―中房温泉、黒部峡谷温泉郷ほか ほか)

第3部 地質探偵事件簿―名山たちの「出生の秘密」(雪倉岳・朝日岳
白馬三山
不帰ノ嶮・唐松岳 ほか)
SPECIAL 地質探偵ハラヤマ特別講義―我が愛しの山、笠ガ岳ストーリー

北穂高小屋は、食事の際にクラシック音楽を流すことで有名だ。

侵食の強さは高さのほぼ2倍に比例する。
標高が高ければ高いほど、侵食エネルギーがかかる。
さらに、重力の影響もあり山が高さを維持するのは相当なストレスで、単純にそこにドカッとそびえているのではなく、下から押し上げる力が働いているから盛り上がる。そして、押し上げる力と侵食作用がバランスをとりあって、下からのパワーに見合った高さが決まるという力学。

穂高を造ったマグマは地下7km以深でまだ500℃以上もあり、さらに深部では冷えきらず溶けた状態で残っている。そんなマグマから噴出したガスが地震の正体。ないしは、それのもっと地下深くにあるマグマ溜まりからだったかもしれない。いずれにせよ、噴き出たガスが地中を上昇する過程で山体のバランスを崩し、それで穂高が揺れた。いわばマグマのゲップ。

176万年前に起きた灼熱の悪夢
「槍・穂高火山は火砕流がその特徴だ」
カルデラのサイズは東西6km、南北は16km。
南の縁は上高地を越えて釜トンネルの先まであった。
北の縁は北鎌尾根の先。
槍ヶ岳と穂高岳を構成する岩石は、ほとんどがカルデラ火山の噴出物。

176万年前、地球全体が急に冷え込む現象が起きている。
猛烈に噴き上げられた火山灰が空を覆い、地球に寒冷期をもたらしたのではないか。
同時期に噴火した大きな火山は知られておらず、犯人は槍・穂高に違いない。

槍・穂高火山が放出した火山灰は、400km3。
ちょうど富士山の円錐1個分の体積に相当する。
6300年前に噴火した喜界カルデラ火山でも、灰の総量は100km3に過ぎない。
頭抜けた槍・穂高火山の破壊力。

「常念岳や双六岳から、つまり東西方向から見るとわからないが、北鎌尾根や南岳、中岳の稜線からの南北方向で観察すると、槍ヶ岳の東側の倒れこみが目立つ。このテーマは地質学の世界でも論議を呼んでいた」
東に20度も傾けるパワー。
槍・穂高の西側部分を20度も押し上げた。正確にいえば西のほうが持ち上がった。

緑色片岩
溶結凝灰岩

槍の穂先は凝灰角礫岩という岩で造られている。

ジャンダルムの岩壁に発達する垂直方向の節理(クラック)
「閃緑斑岩(せんりょくはんがん)という岩で、マグマが地中で冷えて固まったもの。冷えたときに急に体積が縮んで、垂直方向に収縮による節理を造った。それが縦方向に走るクラックの正体」ジャンダルムの垂直方向にできた無数の割れ目は、マグマの高熱の記憶ってことか。

「深さ3,000mの巨大カルデラが形成され、その中に溶結凝灰岩が1,500mも埋積し、槍・穂高の山体ができたのも、もとはといえばそのマグマが活動を開始して大暴れしたから」

上高地にあるウェストンのレリーフの岩は滝谷閃緑岩。
140万年前のこの岩は世界中の花崗岩系で世界一若い
ちなみに世界第2位はパプアニューギニアにある210万年前の花崗岩、
日本の2位は山梨県小烏地区の花崗岩で440万年前。

焼岳のまわりには、割谷山、岩坪山、白谷山、アカンダナ山といった火山があり、総称して焼岳火山群と呼んでいる。
岩坪山は10万年前、割谷山は7万年前にそれぞれ噴火し、焼岳や白谷山、アカンダナ山は3万年前から活動を始めた火山。
上高地の平らな地形を造ったのは焼岳火山群。

6,000万年前にできた有明花崗岩とその仲間の分布域
有明花崗岩で覆われている燕岳は、この岩特有のマサ化によって崩壊が進行し、ところどころに岩塔が突き出た山容となっている。

北アルプスの造山の主力を担ったのは100万年前から始まったプレート激突による大隆起。
これにより隆起運動が激化して、1,000m程度の低い場所にあった槍・穂高カルデラもしだいに標高を高めていく。その際、隆起と侵食と平行して開始された侵食によってカルデラの器を形成した岩層はほとんど失われたが、カルデラを埋積していた溶結凝灰岩が硬い岩質だったために、侵食に抵抗力があって、いまの槍・穂高の基本構造が残った。
そして最後に登場したのが北アルプスを襲った6万年前と2万年前の氷河、それが岩を削りこんでいき、山容を鋭角に富んだアルプス的な景観にデザインしていった。

大陸生まれの巨峰の誕生秘話ーー薬師岳・笠ヶ岳
雲ノ平で一番感動した風景は、黒部川対岸にそびえたつ薬師岳の雄姿だった。
その圧倒的な力感は目を惹きつけてやまない。
とにかくデカイ。それでいて大味にならず、品位と格調をほのかにたたえているのがこの山の魅力だろう。

「山体の中央部に水平方向に走る模様は、恐竜の化石が出ることで知られている有名な手取層。福井県ではこの地層帯で化石の発掘調査が続けらている。
恐竜の化石が眠る山ーーー」
ちなみに手取層は日本列島でできた地層ではない。

「薬師岳はもともと大陸で生まれた山」
薬師岳と笠ガ岳は成立時期も近いし、成因もそっくり。
「年代でいえば薬師岳が6,500万年前、笠ヶ岳もほぼ同時期に生まれた。
ともに巨大なカルデラ火山。それが日本列島の移動に伴い運ばれてきた」
6,500万年前といえば恐竜が滅びた頃。


「当時の大陸の状況は、今の南米チリの西海岸とかなり似かよっていた。
チリでは海洋プレートが大陸プレートの下に潜りこむことで、大陸の縁に沿ったアンデス山脈上に火山列が生じているが、そのころの沿海州も同じ。
大陸の縁の部分でプレートの沈み込みによって誕生した火山、薬師岳、笠ヶ岳。

手取層で全山造られている、高原のような山容の北ノ俣岳。

笠ヶ岳にもダイナミックな造山ドラマが秘められていた。
2重カルデラ火山で、少なくとも3回の大きな陥没があった。
溶岩・火砕流の放出は500km3に達し、槍・穂高の1回目の噴出量より多い。

新穂高ロープウェイから望む縞模様は、かつてのカルデラ火山の深さ1500mにも及ぶ内部を示しているのである。

カルデラは火山の花形地形
「陥没カルデラ」「爆発カルデラ」「侵食カルデラ」に分類される。
一般に陥没カルデラはマグマの噴出により生じた地下の空洞(正確には低圧化領域)に山頂部分が落ちこむことで形成される。
2つのタイプ
「多角形型カルデラ」「ピストンシリンダー型カルデラ」

火山もないのに湧く神秘
中房温泉、黒部峡谷温泉郷ほか
北アルプスの名湯、秘湯は謎だらけ


中房温泉はミステリースポットだった
上高地から入山し、蝶ヶ岳から燕岳まで縦走した。
このコースは急峻な岩稜帯も少なく、多くの人が楽しめる北アルプスでは最もポピュラーなルートだ。何より西側に併走する槍・穂高連峰の景観がすばらしい。このすべてが巨大カルデラを埋めた堆積物でできているとは驚きだ。改めて176万年前の壮大な造山のドラマに思いをはせた。

中房温泉「日本百名湯」

二重山稜(線状凹地)のでき方

「中房温泉の西側は燕岳、そして東には有明山がそびえている。どちらも有明花崗岩で造られている山だ。有明花崗岩の生成は6,000万年前という古さだから、とっくに熱を放出して冷えている。そんな岩体のなかから温泉が湧出するって、地質学の常識では考えられない」

「ここ中房温泉だけでなく、七倉ダムのそばにある葛温泉や湯俣温泉も地質学的には有明花崗岩など古い花崗岩のなかにある。いずれも近隣に火山は存在しない」

「宇奈月温泉の源泉である黒薙温泉、さらに名剣温泉、鐘釣温泉といった黒部峡谷沿いにある温泉群、いわゆる黒部峡谷温泉郷も古い花崗岩体のなかにある。なかでも黒薙温泉は温度が95℃もあって、ほとんど沸騰状態にある」

黒部には高熱水隋道があって、トンネルを掘るときにはダイナマイトが自然発火するほどの高温のため、前例のない難工事になったという。
「もうこれはマグマそのものが熱源というしかない。名前を挙げた温泉はすべて、マグマからの熱が直接伝わってきて、温めているってことになる。温度が高いのもそのためと思えば納得」

北アルプス地下5kmにおける地震波の伝わりにくい領域
地震波の伝わりにくい領域のかなりの部分がマグマ溜まりと推定されている。
「マグマは地震波の調査によると、深い浅いの別はあっても北アルプスの広範囲な地下に広がっている。つまり、北アルプスの山々はマグマの上にポッカリと浮いている構造」

恐竜時代の岩石で造られた天下の秀峰、剣岳
剣岳だけがなぜ険しさを維持するのか
剣岳の一般登山道は早月尾根と別山尾根からのルートしかない。

爺ヶ岳にもカルデラ火山説急浮上
扇沢バスターミナル→爺ヶ岳登山口。
爺ヶ岳・鹿島槍方面に向かう登山道として、この柏原新道は人気が高い。
北アルプスでも最も整備された登山道のひとつ。

爺ヶ岳傾動カルデラの地下断面
堆積岩層が70~80度東に傾斜している。
「北アルプスの隆起プロセスのなかで、この75度という大傾運動がどう位置づけられるか。つまり、いつごろ、どの範囲で起こった運動かということだ」

太古の深海で形成された地層ーー雪倉岳・朝日岳
ともに山体は蛇紋岩と古生代の地層(付加体)で造られ、稜線はその岩片で覆われる。


石灰石の怪峰である明星(みょうじ)山
現在のハワイ周辺にあった石灰岩の塊が西に旅を続け、2億5,000万年のちに明星山として屹立。

水晶とザクロ石に彩られた山ーー水晶山
剣岳や立山などと同じ1億8,000万年前に誕生した花崗岩が構成する。
それが北アルプス地域を襲った200万年前と100万年前の2回の隆起作用で地表に押し上げられた。山頂に立つには時間のかかる山だが、裏銀座縦走の際にはこの水晶山を組み入れてはどうだろうか。

火口湖をもつ北アでは比較的新しい火山ーー鷲羽岳
黒部川は祖父岳とこの鷲羽岳を源流とする。
ボリューム感のあるゆったりした山容は裏銀座コースの重鎮。
30万年前と9万年前に大きな噴火を起こした。
鷲羽池は噴火口の跡で、1万年を切るごくごく新しいものだ。

かつては活発な火山だったーーー樅沢(もみさわ)岳
きわめて地味な山であるが、40万年前には遠方に火山灰を降らせるほどの激しい活火山だった。その火山灰は福島県でも発見され、当時の激しさが偲ばれる。

今でも水蒸気爆発を繰り返す活火山ーー硫黄岳
崩壊が激しいために縦走路はなく、硫黄岳はあくまで眺める山である。

日本でいちばん美しいカール、黒部五郎岳

「3000mの深さの巨大穴に溜まった火山灰の溶けて固まったヤツ」
が槍・穂高の正体

長野県諏訪市からは穂高岳が望める。
これほどの雄姿が直接見える都市は諏訪くらいなもので、諏訪湖に映る山容は凛として美しく、神々しい。




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