プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

アルバム

2012-02-28 23:52:52 | SS






「よっ、お帰り」
「………ただいま」

 当然のように部屋にいる訪問者にレイは顔をしかめた。
 さらに当然のように言われるお帰りという言葉に強烈な違和感を覚えたが、お帰りと言われたらただいまと答えるしかない。ただ、そのあとは無論文句を言うのだが。

「…まこと。なんで私より先に部屋にいるの?」
「というよりレイが遅かったんじゃないか?あたしは普通に放課後そのまま来たつもりだけど…早く来たらまずかった?」
「私が帰って来るより先に来たこと自体は別にいいけど…なんで部屋にいるのよ」
「おじいちゃんが外寒いから中入って待ってなさいって言ってくれたんだけど……ああ、そっちのがまずいのか」

 そして、ここで今更殊勝な態度を取ってこられても困惑するしかない。
 実のところ、レイは未だにまことの扱い方を掴めないでいる。

「……おじいちゃんが知ってるならいいけど。勝手に入ってたら私はともかくおじいちゃんがびっくりするから」
「へぇ、レイとしてはあたしは勝手に部屋に入ってもいいってことか」
「そういうことじゃないわよ!」
「冗談だよそこまで図々しくないって。家族思いなんだな、レイは」
「別に…当たり前でしょ」

 一応、理由が分かれば文句は必要ない。
 外で待たせたらこちらとしても気を遣うもの、とレイは結論付け改めてまことに目線をやる。美奈子やうさぎなら若干警戒してしまうものだが、まことがそのあたり誰よりも良識的だ。別に部屋を荒らすような真似もしないだろうと思っていた。

 だが、まことの目線の先にレイは思わず目を瞬かせる。

「……ちょ、何見てるの」
「んー、レイの幼少のころのアルバム?いやあ昔からかわいいなぁレイは」
「何勝手に見てるのよ!」
「勝手にじゃないって!おじいちゃんが待ってる間見たらいいよって…!ちょっ…返せ!まだ見てるんだ!」
「見なくていい!」

 まことが当然のように見ていた分厚いアルバムをレイは大慌てでひったくるが、まことはその場から大して動くこともなくすんなり奪い返した。その鮮やかさは持ち前の器用さももちろんだが、悲しいかなリーチの差がものを言った結果になる。

「…もう。いきなり人が見てるものひったくるなんて非常識だぞ」

 まことはこの一連のやり取りを経てさも意外そうな目でレイを見たが、その目線がレイとしては非常に気に障る。

「私が悪いみたいに言ってるんじゃないわよ!人のアルバム勝手に見る方が非常識でしょう!返しなさい!」
「おじいちゃんがいいって言ったんだもん!」
「私はいいって言ってない!今まで勝手に見た分のことは許すからおとなしく返しなさい!」
「なんだよその上から目線は!許してくれなくていいから見るよ!蒙古斑ついてるちびレイかわいいから続き見る」
「もうこは…そ、そんな古いやつ…?」
「まだちょっとしか見てないけど、ほんと生まれたてほやほやのころから……ああもう暴れるなって。そういうのを無駄な抵抗って言うんだぞ」

 未だばたばたとまことにまとわりつくレイを尻目に、まことはレイの届かない高さまで腕を伸ばしてアルバムを見る。どう考えても見やすそうな姿勢には見えないのだが、そこまでしてでも見たいものらしい。

「わーほんと生まれた時から目つき悪くてやる気なさそうで顔だったんだなーかわいいかわいい」
「よっ…余計なお世話よ!しかもそう思ってるなら無理にかわいいとか言わなくていいし!」
「いや本当にかわいいんだってー。あたしが育てたいくらいだよ」
「この時生まれてもなかったくせに何言ってるのよ!」
「いやそれくらいかわいいってことだよ。まあ今もかわいいけどさ、赤ちゃんの写真のあと現状を見ると結構ふてぶてしくてひねくれた方面に育っちゃっ…こらっ足技はやめろっ!危ないから!」

 レイの最後の悪あがきに、さすがにまことも適当なあしらいをやめレイに向き合う。しかしアルバムを離す気はないらしく、しっかり腕に抱いたままであったのだが。
 逆にここまでしてアルバムを離す気のないまことを見、レイは大きなため息を吐いた。
 いつも大体のことはあっさり譲歩してもらえるので、逆にここまで問答しても駄目ということはこの先何を言っても駄目だろう。ほかの仲間ならまだしも、そもそも腕力で勝てる相手ではないのに、足技まで放っている自分が急にばかばかしくなった。

「……まったく、あなたって人は」
「お?」
「…分かったわよ。見たいなら好きにすれば」
「お、おお。なんだかわからないけどいいならよかった」
「ただし条件があるわよ」
「じょ、条件?なんだよあたしそんなにお金ないぞ」
「誰があなたからお金もらうってのよ!大体自分の写真にそんな価値があるとか自惚れてないわよ!」
「ええー、でもTAのレイのファンクラブで『今日の火野さま(はあと)』みたいな写真が出回ってるらしいし。お金出しても見たい人はきっといるよ」
「な、な…!?わっ…私のファンクラブ…?」

 そこでしれっと言われたまことの言葉にレイは衝撃を受ける。

「そんなものがあるなんて知らなっ…そもそも私が知らないのに何であなたは知ってるのよ!」
「なんでって…聞いたんだよ。女子校ってすごいよなー」
「誰から!?」
「んー、レイがブラックムーンにさらわれてる間にTA行ってそのときに更科さんって子と仲良くなって…で、あたしもたまにお菓子作ってあげる代わりに写真とか譲ってもらってるんだ」
「人の学友を買収しないで!しかもお菓子で!」

 自分の知らないところで自分に関することが動きすぎている。
 まずファンクラブがあることもだが、今までレイ本人が気づかずそんなものが平然と出回っている事実が末恐ろしかった。
 一気に色々な事が判明しレイの思考回路はショート寸前だったが、ここで自分が何をしても今更どうにもならないという諦観がレイを覆い尽くしていく。
 頭を抱え呻くレイにまことはおろおろと声をかけた。

「…おい、レイ…大丈夫か?」
「…………一気にいろんなこと知らされて頭がついて行かない…ことの部長……」
「いやあたしもまさか非公認だったなんて…学校の写真見る限り随分愛想いいんじゃないかと思ってたけど…そういや学校では猫っかぶりだったっけ。おねーさまとか呼ばれてるんだろ?」
「知らないわよ!」

 しかし何よりも驚いたのはその言葉がまことから出たことだった。
 それを平気でいられる彼女が信じられなかった。もし学校でまことのファンクラブなどが出来ていて、そのなかで写真が出回っていたりしたら、自分は間違いなく冷静ではいられないというのに。
 それどころか大喜びで写真を横流ししてもらっているなんて、しかもそれを平気で言うなんてどういう神経をしているのだとも思う。

 レイの憤りは一気にまことに向く。

「大体あなたも何当然のように…!私の知らないところで…!」
「だってあたしだってレイが気づかないはずないって思ってたから…レイがモテてたなんて昔からのことだし、あたしがこっちに引っ越してくる前からそういうのが出来上がってたのかもしれないしって思って…」
「だからって…」
「だってレイ学校の写真とか、行事のものすら全然見せてくれないし…写真ってその瞬間しか撮れないじゃないか。普段学校でどういうことしてるとかさ…あたしはレイをもっと知りたいんだよ」
「………………………………」
「でも、さっき昔のレイの写真見て思ったけど…レイが今あたしに見せてくれてる表情と、学校の表情って全然違うんだなって…」
「…それは」
「学校の方はお嬢さまって感じだけど…あたしのことそうやって見る顔、おじいちゃんが見せてくれたアルバムのほうと一緒だった。目つき悪くて、やる気なさそうで…」

 そこでまことはふっと微笑む。目を細めて、すがめて―眩しそうな、笑顔。

「ふてぶてしてくひねくれてる」
「なっ…」
「それがレイの本性だもんな。家族に向けてる顔と同じで…嬉しい」

 嬉しそうに言うその笑顔はレイにとっては眩しいものだけど、ふてぶてしくてひねくれているというのを嬉しがられて果たして手放して喜ぶべきなのか怒るべきなのか。振り上げた拳を下ろす場所もなく、やっぱりレイにはまことがどういう人なのかまだ分からない。どう扱っていいのかも分からない。

 でも向こうが喜んでいるのにここで怒るべき言葉を見つけられるほどレイは器用ではない。困惑に表情を歪ませるレイを見て、うかがうような視線を向けたまことは、少し残念そうに目線を下げた。

「…まあ、レイがそこまで嫌ってんなら行事写真譲ってもらうのはやめるよ」
「…え、行事写真?」
「え、学校の遠足とか運動会とか、行事の時に生徒の写真撮るカメラマンさんいるだろ?あれってあとで買えるじゃないか。あれのレイが映ってるやつもらってたんだけどね」

 そこでレイはふとまことの言葉に顔を上げた。
 それはレイが思っていたような言葉ではなくて。

「それって…ことの部長から?」
「ああ、あたしがもらってるのはそれだよ。ファンクラブでも出回ってるらしいとは聞いたけどね。ああいうのって学年単位で他の学年には手が届きづらいからファンクラブ内で回してるんじゃない?」
「隠し撮り…ではないの?」
「え、それは知らないよ!だいたい、隠し撮りだったらあんた気付くだろ?気づいたうえで黙認してたらさすがにショックだよ」

 そこでまことは慌てたように首を振る。どうやら隠し撮りされていると思ったのはレイの勘違いで、さすがにそこまでちゃっかりしているわけではないようだ。
 ようやくレイは安堵した。そこまでされていたら本当に立ち直れないところだ。

「……そこまで図太くないわよ」
「そうか?いやー、じゃあレイがファンに愛想振りまいて喜んでるんじゃないって思ったら安心したよ」
「今まで平気な顔してたくせに…どの口がそんなことを」

 のんきな様子で続けるまことにレイは毒づく。安堵はしてもやはりどこか納得できない心が胸に凝る。
 しかしどうせこんなことを言ってもまたへらりと流されるのだろうと思ってまことを恨みがましく見つめると、意外なことにまことは棘のある表情をしていた。

「じゃあ怒って泣いてもう学校行くなって言ってほしいのか?」
「…それは…」
「恋する権利は誰にでもあるよ。あたしが止めることなんてできないし…たとえそんなこと聞かされても、黙って耐えるしかないじゃないか。誰のせいでもないし。あんたに怒ったってどうなるわけでもなし」
「………………」
「…平気な顔してるって言うけどな。でも…これでもあんたの負担にならないようにいっぱい我慢してるんだぞ」

 ふん、と鼻を鳴らして顔を背けるまこと。
 その姿に、レイの心の内の凝りは意外なほどすとんと落ちた。この頃の彼女にはすっかり珍しくなった、友好的でない表情を向けられるのが好きというわけではない。
 何のことはない、自分はただまことにやきもちを妬いてほしかっただけなのだ。学校に行くななんて言われても確かに困るはずなのに、物わかりが良すぎてへらへら笑われていることが不満だったのだ。

 勝手に写真を見られてたら腹立たしいのに、独占欲を見せてほしいなんて。

 我ながらめんどくさい、とレイは思った。そしてそれに付き合うまことはもっとめんどくさいのだろう。だったら写真くらいいいか、という気にもなった。

「…あなたのこと、私、ほんとに分からないわ」
「なんだよ」
「変なとこ図々しいくせに変なとこ慎ましいのね」
「図々しいってなんだよ」
「勝手に人の写真見てるとことかかなり図々しい」
「…悪いのかよ」
「悪くはないけど」

 そこでレイは髪を耳にかけるしぐさをした。できるだけ落ち着いて、余裕があるように見せようとした。まことみたいな真似はできないけど、少しでも冷静な風を装って。

「あなたの写真も見せて」
「……へ」

 そこでまことは呆けた声を出した。そんなに意外な言葉を出したとも思わないのだが、どうも彼女は自分が何かを思われていることにとかく疎い。

「さっきも言おうとしたけど。私の写真見るんならあなたのも見せなさいよ」
「あ、あたしの写真?」
「だいたい、人の知らない間に人の学校の写真見てあげく蒙古斑まで見といて、それでタダで済まそうって?そこが図々しいっていうのよ」

 レイはなおも呆けた返事しか返さないまことに顔を近づけ、下から鼻がぶつかりそうな距離で睨む。悪いと言われた目つきは意外なところで役に立ったのか、まことの目線は落ち着かないように忙しなく震えた。

「な、なんだよ。あんたまるでカツアゲするスケ番みたいだぞ…」
「カツアゲじゃないわ。正当な権利よ」
「権利って…別にあたしの写真なんて面白くもなんともないだろ」
「面白いかどうかは私が決める。いいから黙って見せろって言ってんの」
「見せろって言われても…ちょっと待てって」

 そこで逃れるように目を逸らすまことを、レイは追いかけようとした。ここでぼかされてたまるか、という気持ちだった。
 だが次のまことの言葉にレイの勢いは止まった。

「写真なんて、ほとんどないと思うぞ」
「……っ」

 その言葉がその場しのぎの嘘でないのくらいはレイにもわかる。案外言葉数少なく肝心なことを言わない悪癖のあるまことは、それでも嘘はつかないのをよく知っている。

 そして、その言葉の意味も。彼女には写真を撮ってくれる人はいないのだ。
 
 だが、ここで自分が動揺してはいけない、とレイは思った。さっきとは違った心持ちで、冷静な言葉を出した。

「…アルバムとか、ないの」
「さぁ…あったかな?」
「学校のはあるでしょう。小学校の卒業アルバムとか中学の行事写真とか」
「あたし十番でそんなに行事参加してないし、前の学校もその前も…まず自分の写真なんか買わないし。小学校の卒業アルバムもたぶん引っ越しの時に置いてきたと思う…こっちも転校多かったからろくに写ってないし」
「……………………」
「……あ、ごめん!」

 そこでまことは慌てたようにわたわたと手を振った。どうもレイの様子を察したらしい。
 だがそこで謝るのはまことではなく、むしろ不用意に彼女の過去に触れようとした自分ではないか、とレイは思った。さっきみたいに飄々とした態度でいるときは腹立たしいのに開き直るし、こちらが悪い時には彼女は心底申し訳なさそうに謝る。

 レイにはまだまことという人間が分からない。

 おそらくなにも隠そうとはしていない。先ほどの写真同様、聞けばなんでも答えてはくれるだろう。でも自分からは言い出してくれない。それに自分が触れていいのか分からない。

「……謝らないで。それは…あなたが悪いわけじゃないでしょ」
「……あ、うん」
「私も…ごめんなさい」
「いや…うん、でもレイの言い分ももっともだよな。あるかどうかは分からないけど…探しておくよ」

 そう言って少し遠い目をするまこと。自分の知らないところでどれだけことを乗り越えてきたのだろうと思うと、その横顔が微かに滲む。
 不用意に過去に触れて、そこでレイがまったく知らない表情のまことを見てしまったら。

「……別に、無理しなくていいわよ。それはもういいから」

 きっとかわいいと思うだけでは済まないから。

「…でも」
「これから、いっぱい撮ればいいじゃない」
「これから?」

 まだ彼女みたいに、いつも見せる表情と違う顔を見て笑顔でいられる自信はないけれど。
 でも、これから先はいくらでも変えられる。

「学校行事とか…中学卒業して、高校に入って、いろんなところに行って、いろんなことして…そのたびに写真撮っていけばいいでしょ。私はそれでアルバム作るから」
「アルバム?」
「で、さっきのあなたが赤ちゃんの時の私をどうこう言ってたみたいに、何年も何十年も経ってから、今のあなたを見て若かったって思いっきり笑ってあげるわよ」
「あ、あたしは笑ってたわけじゃ…!ていうか何を勝手に…!」
「あなたも勝手に私の写真もらってたんでしょ?自分がしたことは人にされてもいいって覚悟しなさい」

 気の長い戦いになりそうだ、なんてレイは内心で微笑む。元より長期戦は覚悟の上。
 写真が欲しかったわけじゃない。欲しいのは彼女の『過去』。出会う前の自分の知らない彼女を見ればもっと彼女のことを知れるかと思ったから。
 でも、それはいつか、彼女の口から語ってくれる日が来るのを待とうと思う。

 それよりもっと、本当に欲しいのは、これから気の遠くなるような先に彼女の隣でアルバムを見て笑う『未来』のほうだから。

「亜美ちゃんやうさぎに頼めば行事写真くらいは押さえてくれるかしらね」
「それって…」
「私、学校でのあなたを全然知らないし。愛想振りまいてファン相手にへらへらしてるんじゃないの?」
「し、してないよ!ファンとかいないし!」
「どうだか」

 そんなたあいない口論ののち、やがてまことは拗ねたようにアルバムに目線を落とす。その横顔を、レイは頬杖をついて見つめる。

 やはり写真を目の前で見られるのは落ち着かないけれど、この瞬間もまた思い出になっていつか昔話として懐かしむ日を夢見て、レイは自分のアルバムを持つまことに静かに手を添えた。







              ********************************


 「まこちゃんのユーウツ」のラストで写真を撮ってるのはレイちゃんだったらいいなぁとか。
 
 ことの部長ほか、浅沼くんとかひかるちゃんとかのサブキャラが日常の象徴って感じで好きなので、本編でもっと絡みが見たかったです。しかしそれを思うと亜美ちゃんってほんとに身内以外の友達いないのな…
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